17 / 274
軍師准尉編
6.新たな任務へ
しおりを挟む
「頑張るねー、少年少尉」
「そりゃどうも! で?」
浅黒い肌に短い黒髪。肉食動物を想像させる男に手を出すと、ん? と目を細めた笑みを向けられた。
負けじともう一度「ん!」と手を突き出す。
「なんか褒美とかないのかよ。アンタ俺に任せてサボりすぎ!」
「あー、やっぱ欲しい?」
誤魔化せないかと言うミシアに、当たり前だろ! と指を差した。
「働かせすぎなんだよ、アンタ」
「なー、苦労するよなー。だから俺はしない」
意地が悪く見えるのに、かといってあまり憎まれることもなく。
どことなく、すっと人の中に入り込んでくる笑顔をする。
エディスとて、この男の良いように手のひらで転がされて悪い気はしない。
上司と部下の垣根を越えて接してくれる彼の傍は居心地がいいとさえ思える。
こうして上司の執務室に置いてあるソファーにどっかり腰掛けて、勝手に淹れたコーヒーを飲むなんて普通はできないし、褒美だなんだとワガママを言うなど言語道断だろう。
強引で陰湿なやり方だけど、敵を陥れたり部下の使い方が上手い。
必ず自分の命令を聞かなければいけない状況にさせる技術がコイツにはある。尊敬できる上司だ。
最初に戦場で見かけた時なんて、へーっ、面白い動きをしてる奴らがいるなーなんて目で追ってしまった。
忌まわしいくらいに凄い。だからミシアの隊から声が掛かった時嬉しくて二つ返事してしまったのだ。
「面倒だなんだって言うアンタの代わりに働いてんだから、なんか少しくらいはくれたっていいんじゃねえの? 最近は単独行動させられてるけど、あれ戦歴に含めて計算してくれないんだろ!?」
撃破数と任務数とで給料は格段に上がった。
だが、軍師准尉が支えるべき”上司”がいなければ、なにをやっても昇格には結びつかない。
結局のところ軍師准尉はサポーターだという認識しかされていないからだ。
「いやあ、一人でそれだけやれんのは凄いぞ~。なんか自分に褒美でもやってやれよ」
「自分じゃ欲しい物が分からねえんだよ」
胡散臭い笑みを浮かべながら拍手をするミシアに、エディスは頬を膨らませる。
「お前には結構な額の給料やってるのになあ。別荘でも買ったらどうだ? たまには遊びに行くのもいいぞ」
「そうだな、小さな領地くらいは持てそうだな」
寮住まいなのにとエディスがむきになって言い返すと、ミシアはそりゃいいと破顔した。
「領地経営は上手くやれれば儲かるぞ~」
「冗談だ。誰がそんな貴族の真似事すっか」
足と腕を組んでそっぽを向くと、ミシアは書類がのった机に頬杖をつく。
「なら魔法書でも買ってやろうか」
横目で見て、ミシアの微笑ましげな目線を受けたエディスは口を尖らせた。
随分と年の差があるからか、この男はたまにこういう目で見てくることがある。
まるで父親がそこにいて、自分はワガママを言う息子のような感覚に陥りそうになり、自分たちは家族ではないと言い聞かせなくてはいけなくなるのだ。
「じゃあ、別の仕事やってみるか?」
息子だと思ってもらえたこともないのに、”父親”のなにが分かるんだ。
恥ずかしさと悔しさに苛まれかけたときに来たミシアからの提案に顔を上げる。
「……別の仕事?」
「そ。ちなみに俺からじゃなくて、上からのな」
細めた目は笑っているようには見えなくて。
「内容は? そんくらい教えてくれてもいいだろ」
そうじゃなければやらない、と暗に態度で示したエディスに、ミシアは信頼されてないのかねえと片手を上げてため息を吐いた。
「信頼してないわけじゃねえけど、アンタたまに変な任務も寄越してくるだろ」
普段の行いが悪いんだよと指摘すると、ミシアは「可愛くないねえ」と握った手の上に顎をのせる。
「いや可愛いだろ。自分で言うのもなんだけど、いい部下だと思うぞ俺」
自分の両頬に指を当てて見せるとミシアは「うちのカミさんのが可愛い」と返してきた。
「顔のことじゃねえよ! てか、嫁いたのかよ」
「当然。何歳だと思ってんだ」
貴族様だぞとツッコミを受け、エディスは口を引き結ぶ。
(こんな顎髭の熊みたいなの、貴族に見えねえよ)
「南部に出張に行く奴が欲しいんだとよ」
「ついに反軍を討伐するのか」
ミシアが目を軽く見開いてから両方の口角を上げた。
へえ~とでも言いたげな、わざとらしい笑顔だ。
「なんだお前、反軍なんて知ってたのか」
「逆に聞くけどよ、軍属で知らない奴いると思ってんのか」
馬鹿にしてんだろと胡乱げな目つきで見ると、ミシアは懐から煙草を取り出して口に咥える。
そのまま火を点けようとしたので、歩いて行って古びたオイルライターを奪い取った。
話が終わってからだと睨むと、ミシアは口から煙草を離す。
「反軍だって一般市民だぞ」
「その一般市民が軍も要請しないで暴れてんだよ。軍人に被害も出てきてるしな」
「それは要請するのに金をたかり始めたせいだろ」
あまりに多くの被害が出そうな場合や、商業地区、少しでも謝礼金を払うことのできる裕福な者たちが住んでいる場所になら緊急で出動する。
だけど、軍に出動を要請するのに大金が必要になったせいで、そう軽々と呼べるものではなくなってしまった。
それに半年前は巡回だってもっと多くやっていた。
市民派とよばれていたローラ元帥がいなくなってから軍が変わったせいだ。
そう、ブラッド家の親戚や支援を受けているというオッサン共がトリエランディア大将以外の将官になってしまってから……。
おかげで田舎や貧困街は放置されて、疲弊し荒れ果ててきている。
それで納得しろというのは無理があるだろう。
「だからって殺すのか」
「ああ。一部が腐っただけで、元気だった部分も腐っていっちまうからな」
だけどな、と付け加えたミシアに腕を握られる。
「やり方はお前に任せる」
人を救える軍人になるんだろ、とミシアに言われたエディスは口をもごもごと動かす。
「アンタ、なんで知ってんだよ」
「暇してたからなあ」
「盗み聞きしてんな暇人」
赤くなってきた頬を手の甲で擦って机を蹴るとミシアは哄笑した。
エディスは細く息を吐き出し、机に尻をのせてミシアの方に体を倒す。
蓋を開けたライターの横に手を添え、構えた煙草に火を点ける。
ミシアは実に美味そうに煙草を吸う。彼がくゆらす紫煙を吸い込みエディスは目を細めた。
うっすらと開けた口で返した言葉に、満足げに狐目が笑う。
「そりゃどうも! で?」
浅黒い肌に短い黒髪。肉食動物を想像させる男に手を出すと、ん? と目を細めた笑みを向けられた。
負けじともう一度「ん!」と手を突き出す。
「なんか褒美とかないのかよ。アンタ俺に任せてサボりすぎ!」
「あー、やっぱ欲しい?」
誤魔化せないかと言うミシアに、当たり前だろ! と指を差した。
「働かせすぎなんだよ、アンタ」
「なー、苦労するよなー。だから俺はしない」
意地が悪く見えるのに、かといってあまり憎まれることもなく。
どことなく、すっと人の中に入り込んでくる笑顔をする。
エディスとて、この男の良いように手のひらで転がされて悪い気はしない。
上司と部下の垣根を越えて接してくれる彼の傍は居心地がいいとさえ思える。
こうして上司の執務室に置いてあるソファーにどっかり腰掛けて、勝手に淹れたコーヒーを飲むなんて普通はできないし、褒美だなんだとワガママを言うなど言語道断だろう。
強引で陰湿なやり方だけど、敵を陥れたり部下の使い方が上手い。
必ず自分の命令を聞かなければいけない状況にさせる技術がコイツにはある。尊敬できる上司だ。
最初に戦場で見かけた時なんて、へーっ、面白い動きをしてる奴らがいるなーなんて目で追ってしまった。
忌まわしいくらいに凄い。だからミシアの隊から声が掛かった時嬉しくて二つ返事してしまったのだ。
「面倒だなんだって言うアンタの代わりに働いてんだから、なんか少しくらいはくれたっていいんじゃねえの? 最近は単独行動させられてるけど、あれ戦歴に含めて計算してくれないんだろ!?」
撃破数と任務数とで給料は格段に上がった。
だが、軍師准尉が支えるべき”上司”がいなければ、なにをやっても昇格には結びつかない。
結局のところ軍師准尉はサポーターだという認識しかされていないからだ。
「いやあ、一人でそれだけやれんのは凄いぞ~。なんか自分に褒美でもやってやれよ」
「自分じゃ欲しい物が分からねえんだよ」
胡散臭い笑みを浮かべながら拍手をするミシアに、エディスは頬を膨らませる。
「お前には結構な額の給料やってるのになあ。別荘でも買ったらどうだ? たまには遊びに行くのもいいぞ」
「そうだな、小さな領地くらいは持てそうだな」
寮住まいなのにとエディスがむきになって言い返すと、ミシアはそりゃいいと破顔した。
「領地経営は上手くやれれば儲かるぞ~」
「冗談だ。誰がそんな貴族の真似事すっか」
足と腕を組んでそっぽを向くと、ミシアは書類がのった机に頬杖をつく。
「なら魔法書でも買ってやろうか」
横目で見て、ミシアの微笑ましげな目線を受けたエディスは口を尖らせた。
随分と年の差があるからか、この男はたまにこういう目で見てくることがある。
まるで父親がそこにいて、自分はワガママを言う息子のような感覚に陥りそうになり、自分たちは家族ではないと言い聞かせなくてはいけなくなるのだ。
「じゃあ、別の仕事やってみるか?」
息子だと思ってもらえたこともないのに、”父親”のなにが分かるんだ。
恥ずかしさと悔しさに苛まれかけたときに来たミシアからの提案に顔を上げる。
「……別の仕事?」
「そ。ちなみに俺からじゃなくて、上からのな」
細めた目は笑っているようには見えなくて。
「内容は? そんくらい教えてくれてもいいだろ」
そうじゃなければやらない、と暗に態度で示したエディスに、ミシアは信頼されてないのかねえと片手を上げてため息を吐いた。
「信頼してないわけじゃねえけど、アンタたまに変な任務も寄越してくるだろ」
普段の行いが悪いんだよと指摘すると、ミシアは「可愛くないねえ」と握った手の上に顎をのせる。
「いや可愛いだろ。自分で言うのもなんだけど、いい部下だと思うぞ俺」
自分の両頬に指を当てて見せるとミシアは「うちのカミさんのが可愛い」と返してきた。
「顔のことじゃねえよ! てか、嫁いたのかよ」
「当然。何歳だと思ってんだ」
貴族様だぞとツッコミを受け、エディスは口を引き結ぶ。
(こんな顎髭の熊みたいなの、貴族に見えねえよ)
「南部に出張に行く奴が欲しいんだとよ」
「ついに反軍を討伐するのか」
ミシアが目を軽く見開いてから両方の口角を上げた。
へえ~とでも言いたげな、わざとらしい笑顔だ。
「なんだお前、反軍なんて知ってたのか」
「逆に聞くけどよ、軍属で知らない奴いると思ってんのか」
馬鹿にしてんだろと胡乱げな目つきで見ると、ミシアは懐から煙草を取り出して口に咥える。
そのまま火を点けようとしたので、歩いて行って古びたオイルライターを奪い取った。
話が終わってからだと睨むと、ミシアは口から煙草を離す。
「反軍だって一般市民だぞ」
「その一般市民が軍も要請しないで暴れてんだよ。軍人に被害も出てきてるしな」
「それは要請するのに金をたかり始めたせいだろ」
あまりに多くの被害が出そうな場合や、商業地区、少しでも謝礼金を払うことのできる裕福な者たちが住んでいる場所になら緊急で出動する。
だけど、軍に出動を要請するのに大金が必要になったせいで、そう軽々と呼べるものではなくなってしまった。
それに半年前は巡回だってもっと多くやっていた。
市民派とよばれていたローラ元帥がいなくなってから軍が変わったせいだ。
そう、ブラッド家の親戚や支援を受けているというオッサン共がトリエランディア大将以外の将官になってしまってから……。
おかげで田舎や貧困街は放置されて、疲弊し荒れ果ててきている。
それで納得しろというのは無理があるだろう。
「だからって殺すのか」
「ああ。一部が腐っただけで、元気だった部分も腐っていっちまうからな」
だけどな、と付け加えたミシアに腕を握られる。
「やり方はお前に任せる」
人を救える軍人になるんだろ、とミシアに言われたエディスは口をもごもごと動かす。
「アンタ、なんで知ってんだよ」
「暇してたからなあ」
「盗み聞きしてんな暇人」
赤くなってきた頬を手の甲で擦って机を蹴るとミシアは哄笑した。
エディスは細く息を吐き出し、机に尻をのせてミシアの方に体を倒す。
蓋を開けたライターの横に手を添え、構えた煙草に火を点ける。
ミシアは実に美味そうに煙草を吸う。彼がくゆらす紫煙を吸い込みエディスは目を細めた。
うっすらと開けた口で返した言葉に、満足げに狐目が笑う。
23
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる