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南部編ー後半ー
1.祝福の歌
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「流石はブラッド家の情報端末。動きが早くて助かる」
淡々と機械が動く音を聴きながら、 エディスはそう呟いた。今朝がた、指先で突いている機械を作った男に電話を掛けたのだが、ものの見事にまともな答えは得られなかった。
もっと詳しい奴がいるからと呼ばれてきたシルベリアにも、幼馴染と全く同じ発言をされたのだ。しかも「なんでお前はそういうことをシュウに相談するんだよ」と笑われた後で。
「子どもに手を出す大人なんてロクな奴じゃない、か」
頭の片隅では理解ができる。真面な人間性であるはずがないと。
けれど、彼は自分を子ども扱いしなかった。貪るような口づけを思い出す度に頭のどこかが鈍く曇るような心地になり、エディスは無意識の内に指で唇をなぞる。
「エディス~、手が止まってるッスよ」
ジェネアスに声を掛けられ、手元を見下ろす。呆れたような声色に謝罪を返し、端末に向き直った。
産業を担うブラッド家、その当主――狡猾で、意地の悪い人間だと聞く。どんな物でも金になるならば作り、売る。商品の開発を自ら行うこともあるという、まさしく剛腕を発揮する人物だ。
「……あ」
そういえば、ジェネアスとは確執があるのだと思い出し、彼の顔色を窺う。すると、視線に気が付いたらしいジェネアスが片眉を下げた。なんスか、と言いながら手を差し出してくる彼に、機械から取り出したメモリーディスクを手渡す。すると、彼の手から脳の形をした金属の塊に差し込まれていった。
調子を見ているジェネアスの鼠色の目が瞬く。
「機械に良いも悪いもないッスから」
淡々とした物言いに、腹に空気が通っていくような心地になる。腰を曲げて頭部を触っているジェネアスに「そうでしょ」と笑いながら上目がちに見上げられ、そうだなと頷く。
ジェネアスが起き上り、腰に手を当ててのけ反る。ふ――――っと長い息を吐いてから「完成ッスね」と顔を向けてきた。
「感情記憶媒体を内蔵した、アンドロイド」
「の、ガワの部分な」
本来はリスティーの担当だが、彼女は授業中だ。それでジェネアスに手伝ってもらうことになったのだが、二人とも専門外の為、かなりの時間がかかってしまった。
「ごめーんっ、できたー!?」
ちょっと質問したら長くなっちゃってと、うっすらと汗を掻いたリスティーがドアを開けて入ってくる。バッチリッスよ! と言うジェネアスに合わせて親指を立てて見せると、リスティーは白い歯を見せて笑った。
「じゃあ、ホテルまで送るわ」
変質者に遭わないようにね! と拳を握るリスティーに、エディスは苦渋が滲み出た顔になる。どうも、ジェネアス以外には不評すぎる。こうも周りの反応が悪いと、応援してくれている彼の貞操感がおかしいのではないかと疑いそうになってしまう。
「ねえねえ! 名前どうする?」
帰り道、突然振られた話題にエディスは瞬きをする。名前? と訊き返すと、彼女は頬を膨らませた。
「アンドロイドのよ!」
「あー……リスティーはなにがいいと思う?」
どうせ軍に納品してしまうのにとは言わずに訊くと、リスティーは至極真面目に考えこむ。唸るリスティーを「こういうのは大事ッスよ~リっちゃん!」とジェネアスが茶化す。顔を上げたかと思えば、うるさい程の笑顔でこちらを向いて「アルフレッド!」と指を立てた。
「あの童顔でそれはねえだろ」
却下だとすげなくエディスが断ると、リスティーはなんで!? と胸の前で両手を握る。
「じゃあエディスはどんなのがいいと思うの!?」
だから納品……と目を閉じて口の端を真横に引っ張ったが、まあいいかと一考してみた。そして、口を開く。
「カロル、とか」
「”祝いの歌”ねえ。ふうん、いいんじゃない。響きも可愛いし」
名前を何度も呼びながら二人よりも先を歩いていくリスティーの背中を見て、男二人は視線を交わし合った。
「あっ、そうだ! おい、リスティー!」
呼びかけると立ち止まって、後ろ手に握りながらも半回転した彼女に「突進してくる技ってどうやるんだ?」と訊ねる。
「ちょっと、人を牛みたいに言わないでよ」
眉尻を上げて唇を尖がらせるリスティーに、エディスは「牛じゃなく猪だろ」と笑った。笑ってから、ジェネアスに肘で突かれ――しまった、と口端を引き攣らせる。
無表情になったリスティーが「こう、足の踵で地面を二回蹴るだけ」と今から走り出す暴れ馬のように地面を雄々しく蹴る。
「ゆっくりでも早くでも、蹴る速度は自分の好みはいいの。音を取ることで魔力を全身にいき渡らせるのが重要だから」
身体能力を向上させる魔法なんだよねと手の指を鳴らして、ぐるぐると手首を回す。
「自分自身を一つの魔法弾にするイメージかな。南部では一番最初に覚える魔法よ」
アンタでやってみよっか? と微笑むリスティーに、エディスは遠慮しておくよ……と首を振った。
リスティーはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向き、それから「あのね」と声を掛けてくる。
「明日、発表が終わったらあたしの家に来ない?」
祝勝会しましょ! と胸を張るリスティーに、エディスは今から勝つ気でいるのかと呆れを通り越して尊敬の念すら抱いてしまう。
「それに、父さんが会いたいって言ってるのよね」
父さんが!? という声が揃う。互いの口を手で覆った男に、リスティーはそんなにおかしい? と眉を寄せる。
「見たことないくらいの美人って言っただけなんだけど」
「それ女の人だって思ったんじゃないんスかね……」
ジェネアスが乾いた笑い声を出すと、リスティーはあっと言って「ジェーくん、そうかも」笑う。
「行きたくねえ~~~~」
「なんで!? たくさん美味しいもの作るわよ!?」
来てよと手を握って見つめてくるリスティーに、ジェネアスはリっちゃあんと肩の力を抜いて腕をだらんと垂らす。エディスが「お前が? 作れんのか」と胡乱気な顔を向けると、リスティーはそっと視線を外す。
「…………ううん、お母さんが」
蚊の鳴くような声に、エディスが「だと思ったぜ」と笑い声を立てると、リスティーはそれどういうこと? と拳を握った。
淡々と機械が動く音を聴きながら、 エディスはそう呟いた。今朝がた、指先で突いている機械を作った男に電話を掛けたのだが、ものの見事にまともな答えは得られなかった。
もっと詳しい奴がいるからと呼ばれてきたシルベリアにも、幼馴染と全く同じ発言をされたのだ。しかも「なんでお前はそういうことをシュウに相談するんだよ」と笑われた後で。
「子どもに手を出す大人なんてロクな奴じゃない、か」
頭の片隅では理解ができる。真面な人間性であるはずがないと。
けれど、彼は自分を子ども扱いしなかった。貪るような口づけを思い出す度に頭のどこかが鈍く曇るような心地になり、エディスは無意識の内に指で唇をなぞる。
「エディス~、手が止まってるッスよ」
ジェネアスに声を掛けられ、手元を見下ろす。呆れたような声色に謝罪を返し、端末に向き直った。
産業を担うブラッド家、その当主――狡猾で、意地の悪い人間だと聞く。どんな物でも金になるならば作り、売る。商品の開発を自ら行うこともあるという、まさしく剛腕を発揮する人物だ。
「……あ」
そういえば、ジェネアスとは確執があるのだと思い出し、彼の顔色を窺う。すると、視線に気が付いたらしいジェネアスが片眉を下げた。なんスか、と言いながら手を差し出してくる彼に、機械から取り出したメモリーディスクを手渡す。すると、彼の手から脳の形をした金属の塊に差し込まれていった。
調子を見ているジェネアスの鼠色の目が瞬く。
「機械に良いも悪いもないッスから」
淡々とした物言いに、腹に空気が通っていくような心地になる。腰を曲げて頭部を触っているジェネアスに「そうでしょ」と笑いながら上目がちに見上げられ、そうだなと頷く。
ジェネアスが起き上り、腰に手を当ててのけ反る。ふ――――っと長い息を吐いてから「完成ッスね」と顔を向けてきた。
「感情記憶媒体を内蔵した、アンドロイド」
「の、ガワの部分な」
本来はリスティーの担当だが、彼女は授業中だ。それでジェネアスに手伝ってもらうことになったのだが、二人とも専門外の為、かなりの時間がかかってしまった。
「ごめーんっ、できたー!?」
ちょっと質問したら長くなっちゃってと、うっすらと汗を掻いたリスティーがドアを開けて入ってくる。バッチリッスよ! と言うジェネアスに合わせて親指を立てて見せると、リスティーは白い歯を見せて笑った。
「じゃあ、ホテルまで送るわ」
変質者に遭わないようにね! と拳を握るリスティーに、エディスは苦渋が滲み出た顔になる。どうも、ジェネアス以外には不評すぎる。こうも周りの反応が悪いと、応援してくれている彼の貞操感がおかしいのではないかと疑いそうになってしまう。
「ねえねえ! 名前どうする?」
帰り道、突然振られた話題にエディスは瞬きをする。名前? と訊き返すと、彼女は頬を膨らませた。
「アンドロイドのよ!」
「あー……リスティーはなにがいいと思う?」
どうせ軍に納品してしまうのにとは言わずに訊くと、リスティーは至極真面目に考えこむ。唸るリスティーを「こういうのは大事ッスよ~リっちゃん!」とジェネアスが茶化す。顔を上げたかと思えば、うるさい程の笑顔でこちらを向いて「アルフレッド!」と指を立てた。
「あの童顔でそれはねえだろ」
却下だとすげなくエディスが断ると、リスティーはなんで!? と胸の前で両手を握る。
「じゃあエディスはどんなのがいいと思うの!?」
だから納品……と目を閉じて口の端を真横に引っ張ったが、まあいいかと一考してみた。そして、口を開く。
「カロル、とか」
「”祝いの歌”ねえ。ふうん、いいんじゃない。響きも可愛いし」
名前を何度も呼びながら二人よりも先を歩いていくリスティーの背中を見て、男二人は視線を交わし合った。
「あっ、そうだ! おい、リスティー!」
呼びかけると立ち止まって、後ろ手に握りながらも半回転した彼女に「突進してくる技ってどうやるんだ?」と訊ねる。
「ちょっと、人を牛みたいに言わないでよ」
眉尻を上げて唇を尖がらせるリスティーに、エディスは「牛じゃなく猪だろ」と笑った。笑ってから、ジェネアスに肘で突かれ――しまった、と口端を引き攣らせる。
無表情になったリスティーが「こう、足の踵で地面を二回蹴るだけ」と今から走り出す暴れ馬のように地面を雄々しく蹴る。
「ゆっくりでも早くでも、蹴る速度は自分の好みはいいの。音を取ることで魔力を全身にいき渡らせるのが重要だから」
身体能力を向上させる魔法なんだよねと手の指を鳴らして、ぐるぐると手首を回す。
「自分自身を一つの魔法弾にするイメージかな。南部では一番最初に覚える魔法よ」
アンタでやってみよっか? と微笑むリスティーに、エディスは遠慮しておくよ……と首を振った。
リスティーはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向き、それから「あのね」と声を掛けてくる。
「明日、発表が終わったらあたしの家に来ない?」
祝勝会しましょ! と胸を張るリスティーに、エディスは今から勝つ気でいるのかと呆れを通り越して尊敬の念すら抱いてしまう。
「それに、父さんが会いたいって言ってるのよね」
父さんが!? という声が揃う。互いの口を手で覆った男に、リスティーはそんなにおかしい? と眉を寄せる。
「見たことないくらいの美人って言っただけなんだけど」
「それ女の人だって思ったんじゃないんスかね……」
ジェネアスが乾いた笑い声を出すと、リスティーはあっと言って「ジェーくん、そうかも」笑う。
「行きたくねえ~~~~」
「なんで!? たくさん美味しいもの作るわよ!?」
来てよと手を握って見つめてくるリスティーに、ジェネアスはリっちゃあんと肩の力を抜いて腕をだらんと垂らす。エディスが「お前が? 作れんのか」と胡乱気な顔を向けると、リスティーはそっと視線を外す。
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