【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

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暁の舞台編

5.断罪の魔法

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 空から降ってきた断頭台に、ガイラルとキシウが拘束される。
 エディスが咎めるようにエドワードの名を呼び、この魔法はなんだと説明を求めると、彼は「勘違いしていたようだけれど」と息を吐いて右側に垂らした髪に触れた。

「これがエンパイア家に伝わる継承魔法だよ」

 分厚い本を手にしたエドワードが断頭台の前をゆったりとした足取りで歩む。

「ガイラル・エンパイア。貴様は王を麻薬を盛ったばかりか国家転覆を計った。それだけに飽き足らず、領民の搾取、未成年への淫行」

 つらつらと述べられていく罪状にエディスは目の前がくらりと揺らぎ、顔の前に手を持っていった。確かに、それだけの余罪があれば即座に首を落とされても仕方がない。

 やって来た医療部の隊員にミシアを任せると、彼は担架に乗せられていく。治癒魔法を掛けられると幾分か落ち着いた顔色になっていたので、恐らく命に別状はないだろう。

 エドワードは何度も二人の前を行き来し、やがてキシウの前に止まった。

「キシウ・ティーンス。貴女にも民衆を扇動し、国家転覆を計った罪がある」

 これまで何人もの人に惑わせの魔法を使ったと問われたキシウは唇を噛み締め、拳を握りしめる。可能な限り表情をそぎ落としたエドワードは視線を落とす。

「……ああ。市民であった頃にもレイアーラ王女を殺害しようとしたな」

 その時だった。それまで椅子に座ってぶるぶると震えていただけだったハイデが雄たけびを上げて、エドワードに向かっていったのは。その手にナイフが握られているのを視認して剣に触れたアーマーを、エドワードが手で制す。

 彼に触れる前に、ハイデが弾き飛ばされた。
 まるで見えない壁にでもぶつかったような反応で、ハイデはナイフを取り落として無様に床に転ぶ。

「一度始まれば裁判が終わるまで、僕への攻撃は全て無効化される」

 このようにと手で差してから「裁きが下されるのを黙って見ていろ」と言い渡されたハイデは床を叩き、獣のような呻き声を出した。

「や、やめっ、やめろおおぉ……っ」

 刃が落ちていく音が聞こえるのに、護衛部の者に抱きこまれて前が見えない。

「エド……!!」

 掻き分け、ようやく広がった視界。

 血で線を描きながら男の頭が転がっていき、エドワードの爪先に当たって止まる。その場景にエディスは声を上げ、崩れ落ちた。

「エドワード、どうして……っ」

 どうしてもなにも、彼が想うのは国の御為に他ならない。だが、これではあんまりではないか。彼はまだ十六の子どもなのだから。

 顔を手で覆って泣くエディスを哀れに思ってか、周りの護衛部が肩や背中を擦ってくれる。だが、その手や空気が強張ったのを感じて顔を上げて顔を乱雑に拭う。

 まず目に入ったのは、キシウの首のすぐ上で止まった刃。その次が、無惨に切り落とされた銀の髪。その次に――上から降りてくる男だった。

「……陛下」

 エドワードが胸に手を当てて礼の構えを取る。
 ならば、あの男が己の父だろうか。エディスは眉を顰めて見つめた。

「王、邪魔をされては困ります」と進言したエドワードに笑い掛ける顔は、どういうわけか昔よりも若々しく、艶めいた美丈夫だった。
 昔見た父はあのような顔ではなく、もっと病的な様をしていたというのに。

「そう怖い顔をしないでくれ。キシウは私の義姉だぞ」

 優しくしてやってくれと朗らかに笑う姿は二十そこそこに見える。
 エドワードも訝し気に見ていたが、やがて口から細く息を吐き出すと「そうでしたか」と顔を伏せた。その横顔に、伝うものがあった。

「どこまで貴様らは陛下を愚弄すれば済むんだ」

 確かな怒りを感じ、エディスはなんだ? と父らしき男を見上げる。見れば見るほど違和感が募り、言いようのない不安が襲いかかってきた。

「ハイデもエドワードも俺たちの息子だ」

 先んじて言われたエドワードは言葉を詰まらせ、陛下と声を荒らげる。

「継承戦をしようじゃないか。いつの時代もそうやって玉座を得てきたんだからな」

 両手を広げて煌々と宣言する姿を呆然として見ていたエディスと目を合わせ、にたりと笑んだ。

「九人選べ。奪い、殺し――生き残った方を王太子にしてやる」

 その悍ましさに背筋に冷たいものが走る。
 黒々と、靄へと姿を変えていった王は舞台にできた影の中に消えていく。それを目の当たりにしたエドワードは、王の名を呼びながらも追いかけようとした。だが、目の前にハイデの手下が控えていて、それ以上に進めない。

「……あなた、勝ち目がないわよ。逃げるなら今の内ね」

 ざんばらに髪を切られたキシウが立ち上がり、ハイデに指示をする。乾いた音を立てて指が鳴らされると、舞台後方の幕が引かれて斧や剣を手にした者が上がってきた。

「エディスさん、ここは引いた方がいい」

 その者たちから視線を外さずにエドワードが言い、エディスは応じた。民はと訊ねる前に、トリエランディア大将とデイヴィス中将の指示の元やって来た軍人によって避難が始まっていた。

 両手杖を手にしたギジアの攻撃を障壁を張って受け止めたエドワードの髪から、壊れた銀飾りが落ちる。それを目にしたギジアの黄金の瞳が大きく開き、「エドワード……」と強張った顔で囁いた。

「貴様ら慈悲のない下衆と、僕が馴れ合うと思ったのか!」

 民衆に惑わせの魔法を使う女の下手に付くとはなと、憤りをぶつけられたギジアは、口端をひくつかせる。

「なら君はその男に下るのか」

「君への嫌がらせくらいには、なるのかもしれないね」

 腕を組んで正面から対峙したエドワードは眉を寄せ、片方の口端を上向けて嫌味な笑みを浮かべた。

「お前、」

「僕たち、よく似ているよね」

 愛しているの一言さえ口に出せない男同士とエドワードが嗤い、指を振るう。

 舞台上部にある鷲の石飾りを切断魔法で千切った彼は、再び指を振るうことでギジアたちに向かって勢いよく投げつけた。だが、後方から出て来た小柄な人物が斧で叩き切る。

「……あなたの騎士たちは」

 その間に後退してきたエドワードと、投げつけられた飛び道具を剣で払い落としたアーマーが隣にやって来て、エディスの手を取った。短く「フィンティア家に」と返すと、彼は小さく頷く。

 それからギジアを目に留めると「トリドット公爵! 君を友と呼ぶことはもうない」と棘のある声で絶縁を告げた。

「君と過ごした日々は悪くなかったのだけれどね」

 エドワードは転移魔法を発動させる。僅かばかりの哀切の想いを残して――
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