【第2部完結】悪役王女の跡継ぎはバッドエンドですか?

結月てでぃ

文字の大きさ
143 / 274
幸せの鳥編

5.愛を嘆く者

しおりを挟む
【遠に笑む 号砲を鳴らせ】

 ふ、と息がひとつ落ちる。

 視界に入った黒に、エディスは腕を床について体を起こす。
 黒の手袋をはめた手が制すように差し出された。さらに顎を上向けると、黒衣を纏った男が、金の眼を細めて静かに微笑う。

 立ち上がった彼は、掌を顔の方に向けて手袋を下に引っ張った。

【愛を嘆く者、起動します】

 囁くように、なのに不思議と耳に響く声。ほとんど僅差で繰り出された魔法と能力。

 展開されていく神の雷と称された雷撃や蝙蝠のような形をした暗雲に、男が喚び出した黒い物質が食らいついていく。いや、溶かしていくんだったかとエディスは一度きりしか見たことがない物を呆けて見る。

 瞬く間に魔法が解けていく様子に、「化け物だ」という声が上がる。

 ああ、そうだ――正にそうなのだろう。エディスは瞬きをした。

 前例がある、と記憶の中のシルベリアが指を立てて誇らしげに笑う。
 軍の為に戦死した、功績も勲章も全て他の士官に奪われた化け物。長い前髪で表情の見えない写真、ミシアは友人だと苦い笑みを浮かべた。

 己の考えが正解として出てきたことを、エディスは苦く思った。

「……はあ、少しは面白いんもいるんやな」

 食われてしもたわと退屈そうに見下ろした少年は、男が放った黒い溶解玉を避ける。

 ドゥルースに呼びかけ、「遊ぶのはおしまいや」と指を差す。目を凝らすと、フェリオネルが乗ったドラゴンが近づいてきていた。
 二人掛けの鞍の後部にはもう一人騎乗しているようで、エディスは片眉を下げる。鎧に身を包んだ騎士を率いているところを見ると、恐らくはエドワードなのだろう。

「公爵家の騎士か。それは少し分が悪いな」

 俺に使ったような手段が取れないからかと言うと、ドゥルースは作戦は部下に任せているからねと涼し気な顔で返す。
 なにをしたのと言いたげな顔を向けていたリスティーが瓦礫を足の甲にのせ、蹴り飛ばした。狙い撃たれたドゥルースはうわと叫んで避け、「怖いな」と呟く。

「また機会はいくらでもあるし、今回はこれくらいで」

 そう言ったドゥルースは狼の王者――アリィードを召喚して飛び乗る。

「行くよ、ルシリア」

 他の部下が溶解玉に襲われても如何を問わないくせに、禁魔術を使う少年だけは随伴するのか。呼ばれた少年が背に飛び乗ると、走らせた。

「ドゥルース……」

 あの時、道が分かたれなければ。今アリィードの背に乗っていたのは、あの少年ではなく自分だったのかもしれない。寂しさに、背が丸まってしまいそうになる。

「エディー、迎えが来てしまったみたいだね」

 その言葉に、エディスはどうしてと見つめる。眉を下げて笑った男は、「ほら、あの子が」とフェリオネルの方を指差す。
 どうしてエドワードが迎えだというのか。迷宮入りになりそうだった疑問を素直に口にすると、家族だからと答えた。

「……家族」

 その途端、彼を少し理解した気になって胸に手を当てる。
 その下で鼓動していた、彼が譲ってくれた命はもう心臓にはない。

 逃げ惑い、命からがら去っていく群れを見る男の横顔は寂し気で。それは最初に見た彼の印象と違わず、エディスは床に拳を突いて足に力をこめる。
 声を掛けると、金が驚きに満ち溢れた。支える為に差し出された手を通り過ぎ、腕を掴んで声を発する。

「アンタ、名前は」

 目が丸くなり、ああ意外と顔つきは幼げなんだなとエディスはまじまじと見つめた。すると、相手は少し照れたように目を伏せる。

「……ギール」

 口にすると、ほんの少し首を傾いで頬を緩めた。小さな花が咲いたかのような、飾り気のない笑顔はこのような場に似合わない。
 そんな顔をするくらいなら、と想いが喉を震わす。

 驚き、制止を促す周囲を振り切って彼を掴んだ。
 幸せと安寧を欲する、孤独者を。

「そんなに見たけりゃ、お前が俺について来い!」

 最大限に努力をして、世界で一番幸せだって顔で笑ってやる。

 宣言したエディスを、彼は嬉しいなと言って抱き締めようと手を広げてきた。だが、レウが間に入って防ぐ。その背に抱き付いて擦り寄ると、レウは「まだ警戒を解かないでほしいんですが?」と睨んできた。

「レウ、足痛いから運んでくれ」

「我儘言い放題だな」

 どういう状況か理解してます? と言いながらも自分を危険視するレウに、ギールも冷ややかな顔つきになる。
 喧嘩しそうになる二人に、リスティーが諫めようか? という顔で指を鳴らしながら近づいてきた。やらなくていいと首を振ったエディスは、あのなと口を開く。

「お前はよくて協力者だろ。でもレウは愛人だ。俺が触っていいって許可出すのはコイツだけなんだよ」

 首に片腕を回してそう言い、早くと睨む。レウは「人使いの荒い……」と呆れ果てながらも腕に抱き上げる。よろしいと頷いたエディスは、ふうと息を吐いて凭れかかった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

処理中です...