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学園要塞ー前編ー
6.おしゃべりな食卓
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「どうしたんだ、ロイ」
ずっとこちらを伺うような素振りをしていた外交官に声を掛けると、「えっ!?」と大きな声を出される。
「えって……ずっと見てたろ」
パンをちぎって口に入れながら言うと、真っ赤になった顔の前で手をバタつかせた。
「べっ、そんな! な、なんでもないです!」
なにかを隠そうとするロイに怪しいな~と片眉を下げて訝しむ。
「ほんと、なんでも……その、王子って綺麗に食べるなって」
ロイはもごつきながらステーキ肉を切り分け始める。
「まあ、そう躾られてるからな」
「躾って」
またまた~とロイに笑われるが、”育てられた”ではなく”躾”や”教養を受けた”に近しいとエディスは思っている。
奴隷市でキシウや売人たちに商品として教育を受けさせられたし、外に出てからもハイデが雇った講師にしつこいまでに習った。
「んーでも、俺も変わんないし。なーんか分かっちゃうかもです」
「神殿のマナーって厳しそうだもんなあ」
「特に叔母さんがすんっごいんですよ!」
あ~……厳格そうだよなあと同意して笑いを口元に滲ませる。
「でも、最近エドやレウと飯を食うから、正直のところ助かってる」
「エンパイア公ですか」
昔は煩わしく思っていたが、今は貴族であるエドワードやレウに恥ずかしい思いをさせることがないので感謝している。そのことを口にすると、ロイは何故か視線をうろつかせた。
「エンパイア公って、怖い人だったり……しません?」
「それは噂を聞いての質問か? それとも本人見てか」
フェリオネルたちといるところに何回か出会ったよなと言うと、ロイはあ~~っと叫んでテーブルの上に顔を伏せる。
「そうですよね、ですよね! 神殿にもたくさん寄付してくれてますし、行事は必ず参加してくれるし……悪い人じゃないってのは知ってるんですよ」
でも本人を前にすると雰囲気あるなーって思っちゃってと言うロイに、エディスはデマを信じているわけではないのかと安堵する。
「お前がデマを信じてなかったのは良かった。まあ、エドは基本的に高位貴族としての立ち振る舞いを大事にしてるから近寄りがたいだろうな」
「フェリオネルさんみたいに話せるようになれればいいんですけどね」
「あの兄妹は懐く事情があったからな」
長兄とその恋人の命を助けた恩人なのだから。
エディスとしても事実を歪めず、素直にエドワードの気持ちを受け取った人物が自分の他にもいることが喜ばしい。
騎士と賢人という立場からしても、一生仲良くいてほしいと願っている。
「でも、その割にレウは怖くないんだな。エドより苦手な奴もいるのに」
「あー、アイツ……すみません、レウはなんていうか、怖くはないです」
眉間に皺を作った不機嫌そうな顔になったロイの急な反応に、エディスは戸惑った。どうにも、今朝から――いや、その前からレウに対して不審感を抱いているように思えるのだ。
「それより、昼にこ~んな小さいサンドイッチしか食べてないのに、夜ご飯も食べずに寝ようとしちゃ駄目ですよ」
露骨に話題を変えてきたロイになるべく早い内に解決した方がいいなと考えつつ、申し訳なさそうな顔を作る。
「悪かったよ、時間を空いちまって……でも、そんなに少なかったか?」
エディスは口元に手を当てたまま顎を上向ける。
「ロイも軍人じゃないんだし、レウたちよりは食べる量多くないだろ」
首を左右に傾け、ロイの方を向いて見つめと彼は片手を振った。
「えぇ~っ? 俺の五分の一くらいしか食べてなかったですよ!?」
眉尻を吊り上げて精一杯怖い顔をしたロイは、背を後ろに引いて「うわぁ、この人ほんとに心配だ」と慄く。
エディスは苦笑いをしつつ、ロールキャベツを切り分けて口元まで運ぶ。
「まるでレウが言うような言葉だな」
それを聞いたロイは表情を硬くした。
だが、こちらに小さな違和感を持たせる前に首を傾げてから「言いすぎちゃいました、ごめんなさい」と謝った。
もう気が付いているので、隠したようにしか感じられないのだが。
「それにしても、残念でしたね」
「あ~、まあ仕方ないだろ」
即座に話を切り替えてくれたロイに、エディスは間延びした声を出す。
今こうして食堂でのんびり食事を摂れているのは、アンビトン・ネージュとの面会を断られたせいだ。
「でも! こっちは予約をしたし、時間に遅れたわけでもないんですよ」
扉の前にいたドーリーは「お会いになりません」と一言告げると去って行ってしまったし、どういうことか問い合わせた事務室でも一辺倒な返事しか貰えなかった。
なんとかロイが質問を細かく変えていくと、ようやく「領主様からのお願いだそうです」という理由を貰うことができた。
「会えないなら諦めるしかないだろ」
「あんな理由で納得するんですか!?」
次にいつ会ってもらえるかも分からなくなったのに、とロイがテーブルに手を突いて前のめりになるが、エディスは首を振る。
「急がば回れ、って言うだろ。いいんだよ、先に別の用事を済ませるから」
「そんな悠長な……」
王太子候補になれるかどうかの瀬戸際なのにと、頬杖をついたロイの頬が膨らんでいるのを見たエディスは笑う。
どうであれ他の騎士がいない中、ロイのこの明るさはエディスの助けとなった。
テーブルに肘をつき、握り合わせた指先を顎に当てる。
にこりと笑いかけると、ロイは眉をキリリと引き締めた、ここで覚悟を決めなくちゃいけませんか? みたいな顔で見返してくる。
「他人に甘え切った人間が嫌いだからな」
「わー……きびっしい」
乾いた笑い声を零すロイに頷いて「だから自分でやるべきことは必ずやるさ」と明るい声を出した。
ずっとこちらを伺うような素振りをしていた外交官に声を掛けると、「えっ!?」と大きな声を出される。
「えって……ずっと見てたろ」
パンをちぎって口に入れながら言うと、真っ赤になった顔の前で手をバタつかせた。
「べっ、そんな! な、なんでもないです!」
なにかを隠そうとするロイに怪しいな~と片眉を下げて訝しむ。
「ほんと、なんでも……その、王子って綺麗に食べるなって」
ロイはもごつきながらステーキ肉を切り分け始める。
「まあ、そう躾られてるからな」
「躾って」
またまた~とロイに笑われるが、”育てられた”ではなく”躾”や”教養を受けた”に近しいとエディスは思っている。
奴隷市でキシウや売人たちに商品として教育を受けさせられたし、外に出てからもハイデが雇った講師にしつこいまでに習った。
「んーでも、俺も変わんないし。なーんか分かっちゃうかもです」
「神殿のマナーって厳しそうだもんなあ」
「特に叔母さんがすんっごいんですよ!」
あ~……厳格そうだよなあと同意して笑いを口元に滲ませる。
「でも、最近エドやレウと飯を食うから、正直のところ助かってる」
「エンパイア公ですか」
昔は煩わしく思っていたが、今は貴族であるエドワードやレウに恥ずかしい思いをさせることがないので感謝している。そのことを口にすると、ロイは何故か視線をうろつかせた。
「エンパイア公って、怖い人だったり……しません?」
「それは噂を聞いての質問か? それとも本人見てか」
フェリオネルたちといるところに何回か出会ったよなと言うと、ロイはあ~~っと叫んでテーブルの上に顔を伏せる。
「そうですよね、ですよね! 神殿にもたくさん寄付してくれてますし、行事は必ず参加してくれるし……悪い人じゃないってのは知ってるんですよ」
でも本人を前にすると雰囲気あるなーって思っちゃってと言うロイに、エディスはデマを信じているわけではないのかと安堵する。
「お前がデマを信じてなかったのは良かった。まあ、エドは基本的に高位貴族としての立ち振る舞いを大事にしてるから近寄りがたいだろうな」
「フェリオネルさんみたいに話せるようになれればいいんですけどね」
「あの兄妹は懐く事情があったからな」
長兄とその恋人の命を助けた恩人なのだから。
エディスとしても事実を歪めず、素直にエドワードの気持ちを受け取った人物が自分の他にもいることが喜ばしい。
騎士と賢人という立場からしても、一生仲良くいてほしいと願っている。
「でも、その割にレウは怖くないんだな。エドより苦手な奴もいるのに」
「あー、アイツ……すみません、レウはなんていうか、怖くはないです」
眉間に皺を作った不機嫌そうな顔になったロイの急な反応に、エディスは戸惑った。どうにも、今朝から――いや、その前からレウに対して不審感を抱いているように思えるのだ。
「それより、昼にこ~んな小さいサンドイッチしか食べてないのに、夜ご飯も食べずに寝ようとしちゃ駄目ですよ」
露骨に話題を変えてきたロイになるべく早い内に解決した方がいいなと考えつつ、申し訳なさそうな顔を作る。
「悪かったよ、時間を空いちまって……でも、そんなに少なかったか?」
エディスは口元に手を当てたまま顎を上向ける。
「ロイも軍人じゃないんだし、レウたちよりは食べる量多くないだろ」
首を左右に傾け、ロイの方を向いて見つめと彼は片手を振った。
「えぇ~っ? 俺の五分の一くらいしか食べてなかったですよ!?」
眉尻を吊り上げて精一杯怖い顔をしたロイは、背を後ろに引いて「うわぁ、この人ほんとに心配だ」と慄く。
エディスは苦笑いをしつつ、ロールキャベツを切り分けて口元まで運ぶ。
「まるでレウが言うような言葉だな」
それを聞いたロイは表情を硬くした。
だが、こちらに小さな違和感を持たせる前に首を傾げてから「言いすぎちゃいました、ごめんなさい」と謝った。
もう気が付いているので、隠したようにしか感じられないのだが。
「それにしても、残念でしたね」
「あ~、まあ仕方ないだろ」
即座に話を切り替えてくれたロイに、エディスは間延びした声を出す。
今こうして食堂でのんびり食事を摂れているのは、アンビトン・ネージュとの面会を断られたせいだ。
「でも! こっちは予約をしたし、時間に遅れたわけでもないんですよ」
扉の前にいたドーリーは「お会いになりません」と一言告げると去って行ってしまったし、どういうことか問い合わせた事務室でも一辺倒な返事しか貰えなかった。
なんとかロイが質問を細かく変えていくと、ようやく「領主様からのお願いだそうです」という理由を貰うことができた。
「会えないなら諦めるしかないだろ」
「あんな理由で納得するんですか!?」
次にいつ会ってもらえるかも分からなくなったのに、とロイがテーブルに手を突いて前のめりになるが、エディスは首を振る。
「急がば回れ、って言うだろ。いいんだよ、先に別の用事を済ませるから」
「そんな悠長な……」
王太子候補になれるかどうかの瀬戸際なのにと、頬杖をついたロイの頬が膨らんでいるのを見たエディスは笑う。
どうであれ他の騎士がいない中、ロイのこの明るさはエディスの助けとなった。
テーブルに肘をつき、握り合わせた指先を顎に当てる。
にこりと笑いかけると、ロイは眉をキリリと引き締めた、ここで覚悟を決めなくちゃいけませんか? みたいな顔で見返してくる。
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