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学園要塞ー中編ー
3.軽々しい男
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走っていたレウの目の端に、明滅する物が映り込んだ。
立ち止まると、息を弾ませたロイが「なんか見つけた?」と横に並んでくる。
「あれなんだと思う」
「え~? あー、あれ聖堂じゃない? 聖杯の軍じゃないやつ。ボステルクってアンビトン・ネージュを神様みたいに扱ってるっていうし」
聖堂が光ったように見えなかったかと訊くと、ロイはそっちは見てなかったと答える。
「行こう。なにかあったかもしれない」
「先に領主捜すんじゃないの!?」
駆け出すとと腕を振り上げてきたが、あそこにいるかもしれねえと返して急ぐ。
軍人としての経験則でしかないが、あそこでなにかが起こったという疑惑が振り切れない。
ロイを引き離さない程度の速さで駆けていき、辿り着いた聖堂の扉を引くと、ガチリと引っかかった。
「鍵かかってんじゃん!」
追いついてきたロイが荒い息のままそう叫ぶ。
「王子みたいに開錠できないの!?」
「俺は防御魔法専門だ」
しゃがみこんだロイに「つかえね――っ」と叫ばれて、仕方ないだろと頭を掴む。
ブラッド家を主体として行われた科学産業が発展して数十年。
一度は滅んだらしい文明が戻ってきて、生活魔法はほとんど廃れた。
元々国民の全員が上手く魔法を使えていたわけでもなかったのだから、楽ができる物があって使わなくていいならわざわざ使わないのが人だ。
「鍵開けなんか、今じゃ憲兵か泥擇くらいしか使わねえよ」
エドワード様は学生時代から多彩な魔法が使えた人だ。
好奇心で覚えたものも記憶に残っていて、それで魔法が大好きなエディス様を喜ばせようとしたんだろう。
(ただの攻撃魔法とかじゃ興味も引けないからな、あの人は)
「窓から様子を見てくる」
「えーっ、泥棒だと思われないっ?」
なにがそんなに気になるんだよとロイに腕を引かれるが、「勘だ」けでしかない。訊かれてもこっちだって困る。
「ドーリーが来て怒られても俺知らないからな」
置いて逃げると言うロイを無視して、塀に上ったレウは跳んで窓の縁を掴む。懸垂の要領で体を持ち上げて中を覗く。
(変な所はないか?)
余すところなく見渡していくレウの目が、訝し気に細められる。
(魔法を使ったのか、入口の前に焦げたような跡があるな)
火か、闇かと考えながら跳び下りたレウは、ドゥルース・フィンティア――ギールとは違う理由でエディスを追いかけ回してくる男の顔を思い浮かべた。
だが、リスティーが「多分アイツとは南で当たるでしょうね」と言っていたので、部下任せにでもしていない限りは来ていないはずだ。
「ロイ、お前エディス様と一緒に行動してたよな。怪しい奴見なかったか?」
領主らしき人物と交戦していた男たちは、脱走していなければ牢屋の中か外に追い出されているかのどちらかだ。ならば可能性があるならギジアくらいだろうが、他にもまだハイデの手先がいるのだろうか。
そう考えての質問だったが、ロイがあ――っと叫んでレウの胸倉を掴んできた。
「お前のせいだぞ!」
「待て、なんの話だ」
急に興奮するなと落ち着くよう求めるが、頭の隅っこではまさかと警鐘が鳴っていた。
「お前にフラれたって、ギジアさんが逆恨みして王子に襲い掛かってきたんだよ!」
「あー……の人は、本っ当に」
そこまでロクでもないことを仕出かすとは。
レウは両手を挙げて無抵抗であることを示す。期待を持たせない方がいいだろうと気持ちを伝えた方が悪い結果になるとは。
「どう言ってフったんだよ」
「どうって、普通に。エディス様が好きだから、アンタと付き合う気はないぞと」
言い方は違うけど大体そんなことを言ったなと聞いたロイは、レウの鼻先に指を突き出した。
「ばっかお前、なんでそんなこと言ったんだよ!」
遊んでそうな顔してるくせにと詰られたレウは眉間に皺を寄せて「もう遊んでねえんだよ」と口の片端を引き攣らせる。
「あの人に対して誠実でいたいんだ」
「それはお前のエゴだろ。好きだって言ってる奴は利用しないと!」
「……本当に神官なのか信じがたい発言だな」
声を絞り出し、手を下ろすとロイは顎を上げた。
「情報聞き出すとか、良いように言ってこっちに引き入れるとか色々できるだろ」
「それを俺がやったら、エディス様はどう思うんだ!」
胸倉を掴み返すとロイは焦った顔をしたが、すぐに手首を掴んできた。
こちらが殴れないとでも思っているのかと、レウは舌を打ちそうになる。
エディスは気に入ったようだが、コイツの開けっ広げな軽々しさは場合によっては人を馬鹿にしていると思われて反感を食らってもおかしくない。
事実、レウはなんでこんな奴をと苛立っているのだ。
それは仲が悪いフェリオネルにすら感じたことがない。エディスが他に誰を選ぶかまだ決まっていないが、想像では尊敬できる人だろう。
(どうせ外交官になりたいんじゃなくて、神官でいたくないだけだろ)
”こんな所”と神殿に対しての不満を言っていたしなと、口端に皮肉をこめる。
「恋人じゃない奴が二股してなんの問題があるんだよ」
「俺の兄はハイデ様側についているんだぞ、それでトリドット公と俺が繋がっていると知れたらどうなる」
「あー、そういう問題もあるのか」
家族ぐるみで裏切ってると思われるな! と明るく言い切ったロイから手を離す。
コイツにはなにを言っても無駄だという気持ちが肩に圧し掛かってきて、レウは口元だけで嗤う。
だが、周りに自分がそう見えることがないようにしなければいけないという気持ちが、より一層強まった。
「俺は領主の家に行く。お前はもう好きにしろ」
「だ~から行くって! 交渉は俺に任せろ~」
ぴょんと跳んだロイの頭を黙っていろと押さえたくなった。
(コイツの実力を確かめろっていう試験の一環じゃねえだろなあ……、エディス様)
立ち止まると、息を弾ませたロイが「なんか見つけた?」と横に並んでくる。
「あれなんだと思う」
「え~? あー、あれ聖堂じゃない? 聖杯の軍じゃないやつ。ボステルクってアンビトン・ネージュを神様みたいに扱ってるっていうし」
聖堂が光ったように見えなかったかと訊くと、ロイはそっちは見てなかったと答える。
「行こう。なにかあったかもしれない」
「先に領主捜すんじゃないの!?」
駆け出すとと腕を振り上げてきたが、あそこにいるかもしれねえと返して急ぐ。
軍人としての経験則でしかないが、あそこでなにかが起こったという疑惑が振り切れない。
ロイを引き離さない程度の速さで駆けていき、辿り着いた聖堂の扉を引くと、ガチリと引っかかった。
「鍵かかってんじゃん!」
追いついてきたロイが荒い息のままそう叫ぶ。
「王子みたいに開錠できないの!?」
「俺は防御魔法専門だ」
しゃがみこんだロイに「つかえね――っ」と叫ばれて、仕方ないだろと頭を掴む。
ブラッド家を主体として行われた科学産業が発展して数十年。
一度は滅んだらしい文明が戻ってきて、生活魔法はほとんど廃れた。
元々国民の全員が上手く魔法を使えていたわけでもなかったのだから、楽ができる物があって使わなくていいならわざわざ使わないのが人だ。
「鍵開けなんか、今じゃ憲兵か泥擇くらいしか使わねえよ」
エドワード様は学生時代から多彩な魔法が使えた人だ。
好奇心で覚えたものも記憶に残っていて、それで魔法が大好きなエディス様を喜ばせようとしたんだろう。
(ただの攻撃魔法とかじゃ興味も引けないからな、あの人は)
「窓から様子を見てくる」
「えーっ、泥棒だと思われないっ?」
なにがそんなに気になるんだよとロイに腕を引かれるが、「勘だ」けでしかない。訊かれてもこっちだって困る。
「ドーリーが来て怒られても俺知らないからな」
置いて逃げると言うロイを無視して、塀に上ったレウは跳んで窓の縁を掴む。懸垂の要領で体を持ち上げて中を覗く。
(変な所はないか?)
余すところなく見渡していくレウの目が、訝し気に細められる。
(魔法を使ったのか、入口の前に焦げたような跡があるな)
火か、闇かと考えながら跳び下りたレウは、ドゥルース・フィンティア――ギールとは違う理由でエディスを追いかけ回してくる男の顔を思い浮かべた。
だが、リスティーが「多分アイツとは南で当たるでしょうね」と言っていたので、部下任せにでもしていない限りは来ていないはずだ。
「ロイ、お前エディス様と一緒に行動してたよな。怪しい奴見なかったか?」
領主らしき人物と交戦していた男たちは、脱走していなければ牢屋の中か外に追い出されているかのどちらかだ。ならば可能性があるならギジアくらいだろうが、他にもまだハイデの手先がいるのだろうか。
そう考えての質問だったが、ロイがあ――っと叫んでレウの胸倉を掴んできた。
「お前のせいだぞ!」
「待て、なんの話だ」
急に興奮するなと落ち着くよう求めるが、頭の隅っこではまさかと警鐘が鳴っていた。
「お前にフラれたって、ギジアさんが逆恨みして王子に襲い掛かってきたんだよ!」
「あー……の人は、本っ当に」
そこまでロクでもないことを仕出かすとは。
レウは両手を挙げて無抵抗であることを示す。期待を持たせない方がいいだろうと気持ちを伝えた方が悪い結果になるとは。
「どう言ってフったんだよ」
「どうって、普通に。エディス様が好きだから、アンタと付き合う気はないぞと」
言い方は違うけど大体そんなことを言ったなと聞いたロイは、レウの鼻先に指を突き出した。
「ばっかお前、なんでそんなこと言ったんだよ!」
遊んでそうな顔してるくせにと詰られたレウは眉間に皺を寄せて「もう遊んでねえんだよ」と口の片端を引き攣らせる。
「あの人に対して誠実でいたいんだ」
「それはお前のエゴだろ。好きだって言ってる奴は利用しないと!」
「……本当に神官なのか信じがたい発言だな」
声を絞り出し、手を下ろすとロイは顎を上げた。
「情報聞き出すとか、良いように言ってこっちに引き入れるとか色々できるだろ」
「それを俺がやったら、エディス様はどう思うんだ!」
胸倉を掴み返すとロイは焦った顔をしたが、すぐに手首を掴んできた。
こちらが殴れないとでも思っているのかと、レウは舌を打ちそうになる。
エディスは気に入ったようだが、コイツの開けっ広げな軽々しさは場合によっては人を馬鹿にしていると思われて反感を食らってもおかしくない。
事実、レウはなんでこんな奴をと苛立っているのだ。
それは仲が悪いフェリオネルにすら感じたことがない。エディスが他に誰を選ぶかまだ決まっていないが、想像では尊敬できる人だろう。
(どうせ外交官になりたいんじゃなくて、神官でいたくないだけだろ)
”こんな所”と神殿に対しての不満を言っていたしなと、口端に皮肉をこめる。
「恋人じゃない奴が二股してなんの問題があるんだよ」
「俺の兄はハイデ様側についているんだぞ、それでトリドット公と俺が繋がっていると知れたらどうなる」
「あー、そういう問題もあるのか」
家族ぐるみで裏切ってると思われるな! と明るく言い切ったロイから手を離す。
コイツにはなにを言っても無駄だという気持ちが肩に圧し掛かってきて、レウは口元だけで嗤う。
だが、周りに自分がそう見えることがないようにしなければいけないという気持ちが、より一層強まった。
「俺は領主の家に行く。お前はもう好きにしろ」
「だ~から行くって! 交渉は俺に任せろ~」
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