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〈後日譚〉一の姫は紅一点

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此処は雨の国。

今は潤いの雨がシトシトと降り続いている。

そしてー、

王妃サンは、今まさに産気づいていた。
その傍らには、国王レインが愛して愛して止まない、王妃サンの細い手を握り締めている。

「サンっ、サンっ、もう直ぐ産まれる……しっかり致せ……! 余が付いているぞー!」

国王レインの励ましにも「ううっ!」と唸り声をあげ、所謂ー、それどころではない。

「王妃様ー! 間も無くです! お起きをしっかり……! 王妃様ー!」

誰に何を言われようとも、最早それどころではない王妃サン。
まさにー、それどころではない。

双子のお産ともなれば、もう大変!

励ます国王レインに「五月蝿い!」と苛立つ王妃サン。
まさかの双子星。王妃サンも必死で頑張る。

王妃サンは、いきみながらも思う。

(もう絶対産まない……四人も産めば充分じゃ……!)

心の中では大絶叫。

そして見事に双子星を産み落とす。
いつの間にか雨が止み、美しい虹が差す。

王妃サンの持つ、太陽の如き輝きの黄金の髪に、国王レインの琥珀色の瞳を受け継ぐ双生の美しい赤子。

この国では生まれ落ちるその時まで、性別は知れない。気にもしない。
どちらが生まれようとも、我が子は可愛いものー。
どちらが生まれようとも、我が子を愉しみに待ち慈しむ。

王妃サン、一気に四人の御子の母となる。

王妃サンが最後と宣う赤子は、国王レインが待ち望んだ姫ではなく、双生の二人の王子。
しかも王妃サンの黄金の髪を持ちながらも、その相貌はと云えば、まさしく小さな国王レイン。

もはやそっくり!

一の姫以外は、見事に国王レインに瓜二つ。
国王レインの幼いバージョンで溢れている。

王妃サンは思う。

(妾の夫は流石であろうなぁ……。
欲情の強さが、赤子の遺伝の強さに表れておる。
見事なまでにレインの御子よ。そっくりではないかー)

国王レインの欲情が、そのまま御子の相貌を左右するのではないかと摩訶不思議。

ーただやはり、

「父王のように、情欲の強さだけは受け継ぐではないぞー!」

神へと祈る王妃サン。

父である国王レインは、姫ではなかった双子星に、一瞬あんぐりと口を開けるも、やはり「我が子は可愛いー!」と、己れに瓜二つの赤子である二の王子と三の王子をこよなく愛する。

月日は流れー。早三年。

双生の二の王子と三の王子。

その成長は目覚ましく、幼いながらに才智溢れる双子星。
とても三歳とは思えない、おませで口達者でもある双生の二の王子と三の王子。

おまけに元は同じモノ。
もちろん意識を共有しては、互いに思考も嗜好も同じと来る。

そして、この国には姫が一人。

稀に見る美しい容姿を持つ、愛らしさ満点の幼な姫は、皆の人気者で紅一点。

美貌の一の王子に「愛しい、愛しい私の幼な姫ー」と日々溺愛され、一の姫は兄王子大好きっ子。

一の姫にとっては「兄王子こそ全てー」とばかりに離れない。常に後を追い回す。

いずれ晴れの国の王太子妃となる一の姫。
いつまでも兄王子とは居られない。

この行き過ぎた兄妹愛には、頭が痛い王妃サン。
しかも更なる頭痛の種が、頭を悩ます今日この頃ー。

三歳になる双子星の王子。

国王レインの容姿も性質も瓜二つなだけあり、王妃サンに激似の姉姫である一の姫に首っ丈。

一の王子の後を一の姫が追えば、その姉姫の後を追いかけ回す二の王子と三の王子。

美しい姉姫が大好きな双子星。

「ねえさま、ねえさま、大好き! 好き好き!」

まだ愛らしいその顔で、姉姫に両側からぎゅっと抱き付く双子星。

その弟王子らを蹴散らして、兄王子は溺愛する妹姫を取り返す。

「なんたる負の連鎖……」

唖然とする王妃サンは、この子どもらの行き過ぎた愛情行為に、先行き不安ー。

そして、己れ自らも一の姫を溺愛する国王レインは、さして気に留める様子もなく、あろうことか、

「みんなで仲良く、この国で暮らせば良いー!」

とほざく始末。

愛する王妃サンに激似の一の姫を、この国からは、全く出す気のない父である国王レイン。

「正気かっ……! いずれ一の姫は輿入れするのであるぞ。そなたまで馬鹿な事を申すでないー!」

王妃サンはご立腹。

しかしその上を行くのが国王レイン。

「ーならば余の愛する王妃サンよ、次こそは必ず姫をこさえようぞ!」

意気揚々と宣う国王レイン。

極上の美貌に極上の微笑みを讃え、その琥珀色の瞳は欲情に疼く。

そしてどうなったかと云えばー。

「何故こうなる……」

王妃サンをその腕に抱き、嬉々として寝所へと連れ込み、ありったけの情愛を王妃サンへと注ぎ込むこと、早ひと月ー。

国王レインの蜜月再び。

そしてやはりー、王妃サンは見事に五人目をご懐妊。

恵みの雨が降る雨の国、王妃サンの懐妊の吉報に、晴れては鮮やかなる虹が出る。

稀に見る子沢山の国王レイン、やはり半端のない情欲の持ち主であったと伝えきく。




















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