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選出編
2.選出された田舎娘と邂逅
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ある日。
宝玉の住む田舎地帯の貧しい村には、珍しいことに都からの役人が丞相からの〈御触書〉を携えてやって来た。
ここらで見る農耕馬や駄馬とは違い、毛艶の良い立派な芦毛の馬に跨り、精巧な鎧に身を固めた屈強な護衛官が二人。
さらには一台の輿車さえも。だが、そこから人が降りてくるわけでもなく、動いたのは護衛官の一人。
もう一人は輿を守るかのようにピタリと張り付いたまま。あたかも、高貴なお方でも乗っているかのように緊張した面持ちで控えている。
護衛官の一人が村の入り口に設置された垣根へと〈御触書〉を貼り付ければ、滅多にお目にかからない都からの遣いに、わずかな村人たちが一人、また一人と集まりだす。宝玉も。
〈御触書〉を見てはザワザワ。
実は、宝玉には皆の騒ぎが理解できる。彼らは内容がわからないのだ。
そもそも下っ端も下っ端。ど田舎の村人たちは今を生きることに一生懸命。だから、都人のように学ぶ機会も暇もなく、当然、字が読めるはずがないのだ。
おいおい、何だ、何だ……と集まった村人たちは眉間に皺を寄せ、訝しむ。
何が書いてあるのか読めないせいで、どうリアクションして良いのかさえわからない。ただ、互いに首を傾げるだけ。
その様子を見ているだけの護衛官の二人。
口火を切ったのは宝玉。
「あのー……一つ良いですか?」
「なんだ、小童?」
護衛官の一人が言葉を返す。
「見ておわかりの通り、学のない私たちには字が読めません。後宮妃と書かれてはおりますが何のことだか的を射ません。せめて口頭で伝えてもらっても良いです?」
「うん? だが小童……今おまえは『後宮妃と書かれております』と言ったではないか? 逆にこちらが聞きたい。学のない田舎者だというのに何故おまえは読めている?」
護衛官に逆に聞き返される宝玉。
「田舎娘の私に……それを聞きたいのですか?」
「田舎娘だからこそ聞きたいとでも言おうか……」
「……独学です」とあっさり答える宝玉。
半分は違うが、半分は本当。
◇
今でこそ平穏な世の中。
かつては違う。
争いごとが絶えなかった頃に宝玉の村を救ってくれた一人の武人が滞在し、宝玉に生きる術を教えてくれたのだ。
無学な宝玉へと読み書きを教え、色々なことが書かれた一冊の全書と呼ばれる書物さえもくれた。
『おまえは聡い娘だ。学があれば道は開ける。まずは字を覚えろ。知識を持つことは大切だ。そしていつか……おまえを……』
思い出された過去に懐かしさが込み上げる宝玉。
やがて別れの時、最後に「生きろ。生きていれば、また必ず出会える」と言い、武人の彼は去って行った。
寂しさに心が折れそうになる時もある。
ーーでも、武人のお兄さんが『生きろ』と言ってくれたから、私は……宝玉は頑張れるんだよ。
懐かしさに胸が熱くなる。そういう時は、常に身につける首飾りの先端を握り締める。
実は、その先端には“指輪”が通されているのだ。
一見すると何の変哲もない指輪。
だが、その指輪は大きな意味を持っている。宝玉は、のちにその意味を知ることになる。
――これは親切な武人のお兄さんがくれた大事な宝物。私の御守り……。
「護衛官様……私は学のない田舎者ですが、知識がないわけではありません。学問は誰の上にも平等です。それに私は小童ではありません。歴とした女です」
エッヘンと仁王立ちする宝玉。
刹那、輿の中からは「ククッ」と小さな笑い声が漏れる。そして、わずかに上がる御簾の中から差し出された扇子に呼ばれるように護衛官が耳を傍に寄せる。
彼女だ……と。
◇
護衛官が告げる。
何でも、新王朝を立ち上げた今代の皇帝陛下の為に新たな後宮妃を募り、献上する目的だとか。
後宮妃とは皇帝陛下の妃たち。
「……こんな田舎にまでお役人様が⁇ 」
ということは……だ。
「よほどにのっぴきならない事情でもあるのかも⁇」
そうでなければど田舎の娘
今では村人も減った宝玉の村。
ほとんどの者が争いに巻き込まれ命を落としてしまった。わずかに戻った者たちで助け合い、しばらくの間は頑張って生きてきた。
だが、未来が望めない貧しい村なだけに、一人、また一人と村を去って行く。泣く泣く他所へと移る村人。
このままいけば全員が村を捨ててしまう。やがては居なくなってしまい、今ではわずか数人。
――今回、都からの〈御触書〉は天の救いかもしれない。
そう思う宝玉がいる。
宝玉の住む田舎地帯の貧しい村には、珍しいことに都からの役人が丞相からの〈御触書〉を携えてやって来た。
ここらで見る農耕馬や駄馬とは違い、毛艶の良い立派な芦毛の馬に跨り、精巧な鎧に身を固めた屈強な護衛官が二人。
さらには一台の輿車さえも。だが、そこから人が降りてくるわけでもなく、動いたのは護衛官の一人。
もう一人は輿を守るかのようにピタリと張り付いたまま。あたかも、高貴なお方でも乗っているかのように緊張した面持ちで控えている。
護衛官の一人が村の入り口に設置された垣根へと〈御触書〉を貼り付ければ、滅多にお目にかからない都からの遣いに、わずかな村人たちが一人、また一人と集まりだす。宝玉も。
〈御触書〉を見てはザワザワ。
実は、宝玉には皆の騒ぎが理解できる。彼らは内容がわからないのだ。
そもそも下っ端も下っ端。ど田舎の村人たちは今を生きることに一生懸命。だから、都人のように学ぶ機会も暇もなく、当然、字が読めるはずがないのだ。
おいおい、何だ、何だ……と集まった村人たちは眉間に皺を寄せ、訝しむ。
何が書いてあるのか読めないせいで、どうリアクションして良いのかさえわからない。ただ、互いに首を傾げるだけ。
その様子を見ているだけの護衛官の二人。
口火を切ったのは宝玉。
「あのー……一つ良いですか?」
「なんだ、小童?」
護衛官の一人が言葉を返す。
「見ておわかりの通り、学のない私たちには字が読めません。後宮妃と書かれてはおりますが何のことだか的を射ません。せめて口頭で伝えてもらっても良いです?」
「うん? だが小童……今おまえは『後宮妃と書かれております』と言ったではないか? 逆にこちらが聞きたい。学のない田舎者だというのに何故おまえは読めている?」
護衛官に逆に聞き返される宝玉。
「田舎娘の私に……それを聞きたいのですか?」
「田舎娘だからこそ聞きたいとでも言おうか……」
「……独学です」とあっさり答える宝玉。
半分は違うが、半分は本当。
◇
今でこそ平穏な世の中。
かつては違う。
争いごとが絶えなかった頃に宝玉の村を救ってくれた一人の武人が滞在し、宝玉に生きる術を教えてくれたのだ。
無学な宝玉へと読み書きを教え、色々なことが書かれた一冊の全書と呼ばれる書物さえもくれた。
『おまえは聡い娘だ。学があれば道は開ける。まずは字を覚えろ。知識を持つことは大切だ。そしていつか……おまえを……』
思い出された過去に懐かしさが込み上げる宝玉。
やがて別れの時、最後に「生きろ。生きていれば、また必ず出会える」と言い、武人の彼は去って行った。
寂しさに心が折れそうになる時もある。
ーーでも、武人のお兄さんが『生きろ』と言ってくれたから、私は……宝玉は頑張れるんだよ。
懐かしさに胸が熱くなる。そういう時は、常に身につける首飾りの先端を握り締める。
実は、その先端には“指輪”が通されているのだ。
一見すると何の変哲もない指輪。
だが、その指輪は大きな意味を持っている。宝玉は、のちにその意味を知ることになる。
――これは親切な武人のお兄さんがくれた大事な宝物。私の御守り……。
「護衛官様……私は学のない田舎者ですが、知識がないわけではありません。学問は誰の上にも平等です。それに私は小童ではありません。歴とした女です」
エッヘンと仁王立ちする宝玉。
刹那、輿の中からは「ククッ」と小さな笑い声が漏れる。そして、わずかに上がる御簾の中から差し出された扇子に呼ばれるように護衛官が耳を傍に寄せる。
彼女だ……と。
◇
護衛官が告げる。
何でも、新王朝を立ち上げた今代の皇帝陛下の為に新たな後宮妃を募り、献上する目的だとか。
後宮妃とは皇帝陛下の妃たち。
「……こんな田舎にまでお役人様が⁇ 」
ということは……だ。
「よほどにのっぴきならない事情でもあるのかも⁇」
そうでなければど田舎の娘
今では村人も減った宝玉の村。
ほとんどの者が争いに巻き込まれ命を落としてしまった。わずかに戻った者たちで助け合い、しばらくの間は頑張って生きてきた。
だが、未来が望めない貧しい村なだけに、一人、また一人と村を去って行く。泣く泣く他所へと移る村人。
このままいけば全員が村を捨ててしまう。やがては居なくなってしまい、今ではわずか数人。
――今回、都からの〈御触書〉は天の救いかもしれない。
そう思う宝玉がいる。
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