公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり

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公爵家・現在編

64.奇跡の愛の告白と何処ぞの王女

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 今や我が家のように平然とグラント公爵家へと来訪する王太子フェリクス。躊躇いもなく正面玄関を突破。

 以前に、グラント公爵夫人キャロラインからは自由な出入りを許されているおかげ。例えそうでなくとも王太子フェリクスに越えられない壁……もとい、侵入出来ない屋敷はない。

 それって不法侵入だよね?……などと、もはや瑣末な事は気にしないで欲しい。


 ◇


 事のあらましを知る意味でも少々時間を巻き戻す。


 王太子フェリクスが「何処ぞの王女」と戯れていた現場を偶然にも目撃したアンジェラ。

 驚愕するアンジェラは一瞬で青褪め、一瞬で綺麗さっぱり茶会のことさえ頭から吹っ飛ぶ。脱兎の如く逃げ去るアンジェラは、溢れる涙を堪えることさえできない。

 まるで恋愛ドラマのワンシーンのよう。

 一方、めざとくアンジェラを視界に捉える王太子フェリクス。こちらはこちらでアンジェラが〈王宮〉にいることに驚き桃の木なんとやら。傍らに立つ「何処ぞの王女」には構わず、アンジェラを追いかける。

「待ってくれ! アンジェラーーー!!」

 振り向きざまに叫ぶアンジェラ。

「王太子殿下の馬鹿……! 私のことを愛しているとか言っておきながら浮気者の殿下なんか大っ嫌い! わぁーん……!」

 捨て台詞を叫び、泣きながら逃げ去るアンジェラ。

 色恋に疎いアンジェラだが、実は芽生え始めた想いのせいで、「王太子殿下はいつも自分だけを想ってくれている」と当たり前のように感じていたところがある。

 なんだかとっても腹立たしい。

 これ以上、他の令嬢とイチャコク王太子フェリクスを見るのは忍びない。いや、我慢ならないアンジェラ。

 だから逃げる。しかも予想以上に足が速い。

「待てー……アンジェラーーー!」

 意外と足が速いな……と唸る王太子フェリクスの猛追もなんのその。

 元は田舎育ちのアンジェラ。豊かな大自然が彼女を鍛えている。おかげで一目散に逃げ去る彼女は、待機しているグラント公爵家の馬車へと素早く乗り込む。

「早く……出してー……!」

 御者も戦々恐々なアンジェラの大声。大急ぎで馬車は帰途へ。

 帰宅早々、母キャロラインの胸へと飛び付くアンジェラは人目も憚らず大泣き。


 ◇


 この様子を見れば、純朴で色恋に疎いアンジェラが、ようやく恋心を完全に自覚したのだと分かる。

 迷うことなく愛馬を走馬させ、颯爽とアンジェラの後を追って来た王太子フェリクス。

 初めて嫉妬心を見せたアンジェラに、不謹慎だが心が躍る王太子フェリクス。やきもちを焼くアンジェラが可愛く仕方がない。

 痘痕あばたえくぼは健在。

「とうとう私のアンジェラが……私を好きになってくれたようだ。まさに人生最良の日だ!」

 胸が熱くなる王太子フェリクスは感無量。

 だが、事情を知らないアンジェラは母キャロラインへと泣いて縋る始末。

「ママ、ママ……王太子殿下が知らない御令嬢と仲良くしていたの。私だけだと思っていたのに……私がだけが特別ではなかったの……哀しいよぉ」

 さすがに聞き捨てならないと憤る王太子フェリクス。今、言わなければ男が廃る。

「違うぞ、アンジェラ! 愛するアンジェラこそが特別だ! アンジェラだけが私を欲情させる!」

「王太子殿下、不埒な言動は謹んでください」

 何を言っているんだ、この馬鹿は……グラント公爵ダリウスが冷めた視線を向ける。

「騒がしいですよ、王太子殿下。懐妊中のキャロラインにもお腹の子にも触ります。我が子を驚かさないで下さい。誤解があるのならアンジェラにはきちんと弁名を……私達は下がりますので2人だけでお話し下さい」

 意外かな。物分かりの良いグラント公爵ダリウスがいる。それだけ告げれば愛妻キャロラインを抱き上げ、客間を後にする。

 どうやら……彼も愛娘アンジェラの至福を考えるようになったらしい。


 ◇


 この後、アンジェラを必死に宥める王太子フェリクスがいる。

 誤解が解けた2人の関係には変化が。

 遂には、王太子フェリクスへと愛を告白するアンジェラの姿がある。これを奇跡と言わずして何と呼ぶ?

「私は王太子殿下のことが好きです。どうか……お側にいさせて下さい」

「私もアンジェラが大好きだ。心から愛している。あの時からずっとだ。ずっと私の天使だけを想っていた」

「……王太子殿下っ?!」

 アンジェラの翡翠の瞳が潤む。胸が熱くなる。改めて「この御方が好き……」そう自覚するアンジェラ。

「どうかフェリクスと呼んで欲しい……愛しいアンジェラ」

「それは……まだ恥ずかしいです……」

 一瞬で頬を薔薇色に染めては、恥ずかしそうに俯くアンジェラ。

「なんて愛らしいんだ! 私のアンジェラが可愛い……愛しい……食べてしまいたい」

 恍惚と宣う王太子フェリクス。

 愛の告白を捧げ合った2人。どさくさ紛れにアンジェラを抱き締める王太子フェリクスだが、そっと寄り添うアンジェラもいる。

「これぞまさしく感無量……」

 涙さえ流す王太子フェリクスがいる。

 何処ぞの王女の登場で結果オーライ。


 アンジェラの貴重な光景に、内心では悶絶する侍女マイリーがいる。実は同じ部屋に空気のように控えていた彼女は、邪魔にならないように2人を見守っていた。どのちみち、2人だけの世界に浸るアンジェラ達の視界には入らない。


「……まるで恋人同士のようだった」

 グラント公爵家の面々に、後日報告する侍女マイリーがいる。


 ◇


 ちなみに何処ぞの王女だが。

「ちょっと……何処ぞの王女ではなくてよ!」

 可愛く頬を膨らませては抗議する何処ぞの王女だが、彼女の正体はイーデン国王フレデリックの姪。王太子フェリクスには従妹にあたる。

 彼女の母后フラヴィアは、元はイーデン王国の王女。若い時に和睦の為、隣国シエンナ王家へと輿入れをし、夫君シエンナ国王との間に一男一女をもうけている。

 それが王太子スティーヴンと王女セレニア。


 シエンナ王国王女セレニアは、今回プチ留学の為に来訪。おおかた物見遊山と思いきや、実はそうでもない。

 濡羽色の髪が美しい王女セレニアには、イーデン王国に目当ての貴公子がいる。

 彼に逢いに来たのが1番の理由。

 お見合いから逃げて来たのが最大の理由。


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