公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり

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王家・王女の恋心編

70.専属護衛の気持ちと喜びの王女

「お加減はいかがでしょうか、セレニア王女様?」

「エヴァン様ー……?!」

 寝台に横たわる王女セレニアは大好きな人の来訪に驚き、咄嗟に起きあがろうとする。

「どうか……そのままで……」

 昼間は開け放たれている天蓋の中、横たわる王女セレニアの元へと歩み寄る専属護衛エヴァンの手には見舞いの花束がある。

「これをセレニア王女様に差し上げます」

 専属護衛エヴァンから手渡されたミディアムピンクのバラの花束に感激する王女セレニア。だが、花束というには本数が5本と味気ない。それでも、その意味を理解する王女セレニア。

「エヴァン様……ミディアムピンクのバラが5本の意味をご存知ですの?」

 (……私が好きなミディアムピンクのバラ……)

 幼い頃、王女セレニアが何気に告げた好きなバラを覚えていた専属護衛エヴァン。これには胸が詰まる。

「私は存じ上げておりませんでしたが……王太子殿下がその手の事には詳しいようで教えて頂きました。セレニア王女様……これが今の私の気持ちです」


『あなたに出逢えて心から嬉しい』


 専属護衛エヴァンが初めて見せた王女セレニアへの気持ち。それが愛の告白ではなくても充分に心を打たれる王女セレニア。彼からの贈り物は初めて。見舞いの花束であっても嬉しいのだ。

 じわりと胸が熱くなる。

「ありがとうございます、エヴァン様。エヴァン様のお気持ちがこもった美しいバラは後生大事に致します」

「セレニア王女様……摘み取ったバラは枯れてしまいます」

「なら……ドライフラワーにしてでも大切に致します。エヴァン様からの贈り物は初めてですもの。私には宝物です」

「そうなると……セレニア王女様の居室がドライフラワーだらけになってしまいますね」

「……? あの、それはどういった意味でしょう?」

 専属護衛エヴァンは寝台の傍らに置かれた椅子へと座れば、王女セレニアの指先へと軽く口付けを落とす。

「エっ、エヴァン様……?!」

 途端、王女セレニアの顔が一瞬で熟れた林檎のように真っ赤に染まる。今日の専属護衛エヴァンは、いつもとは様子が違うせいで王女セレニアにはキャパオーバー。

「貴女に逢う日は……必ずミディアムピンクのバラの花を贈ります。セレニア王女様は昔からロマンチックなところがおありだから本数の意味もご存知でしょう? いつか3本になる日が来るかも知れませんよ」

「……っ?!」

 王女セレニアの瞳が潤み出す。

「エヴァン様……もし、その言葉が本当なら……」

 ミディアムピンクのバラの3本の意味は愛の告白。


『貴女を愛しています』


 今すぐではなくても、いつかは「そうなる未来」があるなら、王女セレニアにはこれ以上の喜びはない。

 ゆっくりと育む愛があっても良い。

「私は王太子殿下とは違い……至極真面目です。自分の気持ちに冗談は言いません」

 王女セレニアの瞳から涙がほろりと零れ落ちる。

 (……ずっと、ずっと好きだった人……)

 その彼からの言葉一つ一つが、王女セレニアの心へとゆっくりと浸透していく。

 胸がほっこりと温かい。

「この数日……いつも元気な貴女がいないことが私には味気なく、寂しいとさえ思うように……どうやら、私は貴女が側にいることが当たり前だと感じているようです。他の誰かのものになるのも耐え難い。それが友愛なのか愛情なのか……貴女が私に教えてください、セレニア王女様……」

 そう告げる専属護衛エヴァンは、涙で濡れる王女セレニアの頬へとそっと口付けを落とす。

 どちらからともなく互いの指先が絡まる。

 今の2人にこれ以上の言葉はいらない。


 ◇


 ここらで事の経緯といこう。

 イーデン王家の貴賓室に滞在する王女セレニアだが、連日連夜と専属護衛エヴァンを追いかけ回し、めげない不屈の精神を見せながらも、そこはやはり純情な乙女。

 不意に思ってしまう。

「独りよがりの恋に未来はあるの……」

 1度考え出すと止まらない。悶々とする王女セレニア。そこへ連日〈王宮〉へと上がるアンジェラがアドバイス。

「考え過ぎるのも体に良くないよ。たまにはエヴァン様のことは脇へと置いて……2人でお茶会でもしよう、ね?」

 それはそれで楽しかった王女セレニア。女子トークは気持ちも弾む。ただ、アンジェラには運命の相手と呼べる王太子フェリクスがいる。

 仲睦まじいカップルを目にした途端、自然と報われない恋をする自分が惨めで切ない。

 自然と涙が溢れ、遂には号泣する王女セレニア。

 それでどうなったか?


 王宮医がサラリと告げる。

「王女殿下は知恵熱ですね」

 王女セレニア、不覚にも知恵熱でぶっ倒れる。強がってみえても精神的には堪えていたらしい。

「数日間は心と身体の休養を取るようにしてください」

 そう、王宮医から言い渡される王女セレニア。おかげで寝台の主となり、専属護衛エヴァンへの追っかけは一時中断。

 これが良い方向へとまさかの好転。


 普段から当たり前のように側に居たものが、急に居なくなれば人は気にする生きもの。おかげで「王女セレニア」がに一抹の寂しさを感じる専属護衛エヴァン。

 自分の中に芽生え始めた想いを知った彼は、王太子フェリクスへと相談。

「それは恋だ。エヴァン」

 ハッキリと断言さえしてみせる王太子フェリクス。

 ヒュッと息を呑む専属護衛エヴァン。だが、そこまで言い切れるほど気持ちの整理はついていない。

 そこが王太子フェリクスとは違うところ。

 一気に行きたい王太子フェリクスとは対照的に、ゆっくりと愛情を育てて行きたい専属護衛エヴァンは、まずは王女セレニアとお付き合いをすることに決める。


 ◇


 専属護衛エヴァンが王女セレニアを見舞って以来。

 初々しい2組目のカップルが誕生。

 イーデン王家の名物となった光景の2つ目は、手繋ぎデートをする王女セレニアと専属護衛エヴァン。

 見ていてほっこりする2人。

 付き合い方も清く正しく、時には優しい口付けなんかもあったりと見ていて微笑ましい。

 専属護衛エヴァンが王女セレニアへとミディアムピンクのバラを3本贈る日も、そう遠くはない未来かもしれない。








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