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最終章・それぞれの至福編
74.勇ましい侍女と王太子の攻防
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「……侵入者ね!」
静かな〈王宮庭園〉に愛らしい声音が響く。
うたた寝をする王太子スティーヴンが見たのは、自分へと振り下ろされる扇子。それがスローモーションのように見えるのは、彼が並外れた動体視力の持ち主だから。
「危ないだろう?」
容易く扇子を受け止める王太子スティーヴンは起き上がるなり、そのまま侍女の腕を掴み引き寄せる。おかげで抱きすくめられる侍女。
「無念だわ」
残念そうに呟く。
刹那、雲間の隠れる月が顔を出し、煌々しい月明かりが東屋へも差し込む。2人の顔が照らし出される。
(美しい娘だ……)
不本意にも、そう思ってしまう王太子スティーヴン。月明かりに透けて見える侍女の豊かな亜麻色の髪が美しい。
「あらっ? 怪しい人影は何処ぞの王太子殿下でしたか……それと放していただけませんか? 殿方との触れ合いには慣れてはおりませんの」
言葉とは裏腹に平然としているのは、生来からの物怖じしない気質のせいだろう。王太子フェリクスでさえあしらう彼女だ。
「私を知っているなら話しは早い。それに何故このような重い扇子を持っている? まるで武器にもなりかねない扇子を振り下ろすとは不敬ではないのか? 最近の侍女は礼儀も知らないらしい」
「不敬なのは貴方よ。ここは王太子妃アンジェラ様の〈妃宮庭園〉よ。他国の王太子殿下が入っていい場所ではないわ」
「それは知らなかった。ここもてっきりフェリクスの宮なのかと……」
「それはあちらよ。〈皇太子宮〉の庭園とは続きになっているから間違えて侵入したのね。案外トロイのね」
「どうやら……そのようだ。この私にトロイとは……」
笑いが込み上げる王太子スティーヴン。
「笑い事ではありませんわ。今すぐ立ち退くなら今回は大目にみて差し上げます。お送り致しますので放していただけませんか?」
(動じない侍女だ……)
さらに笑いが込み上げる王太子スティーヴン。
(しかも鉄製の扇子だと? あり得ないだろう! イーデン王家には面白い侍女がいるようだ)
王太子スティーヴンの心が浮き立つ。
このような令嬢には会ったことがない。
(このまま手放すのは惜しい……)
だから、王太子スティーヴンは侍女を放すどころか一層抱き寄せる。互いの顔が至近距離なせいで侍女の瞳の色さえわかる。
(榛色の瞳か……勝気そうな眼差しだ)
逸らすどころか、真っ直ぐに王太子スティーヴンを見つめる侍女。
「放して欲しいとお願いしましたのに……余計に抱き締めるとは阿呆ですか?」
(……気の強そうなところも好ましい)
「聞こえなかったのかしら? 王太子殿下ともあろう御方が一介の侍女と戯れていたとあっては醜聞が立ちますわよ」
「それより……このような時間に侍女が1人で何をしている? 勇ましいのは良いが……物騒だろう?」
その途端、侍女の顔が輝く。
「……? 何故、喜んでいる?」
「私を放してくださいましたら、その理由を聞かせて差し上げますわ」
「是非、聞かせてもらおうか? それにしても名残り惜しい」
ようやく放す王太子スティーヴン。美しい切れ長の瞳が侍女を見据える。
「この国の王太子殿下といい……貴方も無駄に綺麗な殿方ね」
賛美しながらも淡々と告げる侍女には、媚びた様子は全く伺えない。それが余計に王太子スティーヴンの気を引く。
パッパッと身形を整える侍女は「ヘイスティング侯爵家の嫡女バーバラ」と身分を明かす。
続いて王太子妃アンジェラの専属侍女だと嬉しそうに告げ、「勇ましい」と言われたことが「嬉しかった」のだとも告げる。
敬愛する王太子妃アンジェラの専属侍女になる為に、ありとあらゆる努力をしたヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。
「アンジェラお姉様をお護りする為に武闘も習いましたの。だから、お父様にお願いして武器にもなる鉄製の扇子も作っていただきましたのよ。常に持ち歩いておりますの」
色々と規格外の彼女に、王太子スティーヴンは笑いが止まらない。
「戦う侍女とは素晴らしい。王太子妃殿下は幸せものだな」
「そう思って下さるの? ありがとう! 私ね……大好きなアンジェラお姉様のお役に立つ為なら、どのような努力も惜しまないつもりよ!」
榛色の瞳をキラキラとさせて公言するヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。
儚げな令嬢には全く興味の湧かない王太子スティーヴン。物怖じしない彼女には俄然興味が湧く。
花が綻ぶように笑うヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。勇ましい中にも可憐さを持っている。視線は釘付け。
魅了されたのは王太子スティーヴン。
出逢いは意外なところに転がっている。
これが2人の馴れ初め。
静かな〈王宮庭園〉に愛らしい声音が響く。
うたた寝をする王太子スティーヴンが見たのは、自分へと振り下ろされる扇子。それがスローモーションのように見えるのは、彼が並外れた動体視力の持ち主だから。
「危ないだろう?」
容易く扇子を受け止める王太子スティーヴンは起き上がるなり、そのまま侍女の腕を掴み引き寄せる。おかげで抱きすくめられる侍女。
「無念だわ」
残念そうに呟く。
刹那、雲間の隠れる月が顔を出し、煌々しい月明かりが東屋へも差し込む。2人の顔が照らし出される。
(美しい娘だ……)
不本意にも、そう思ってしまう王太子スティーヴン。月明かりに透けて見える侍女の豊かな亜麻色の髪が美しい。
「あらっ? 怪しい人影は何処ぞの王太子殿下でしたか……それと放していただけませんか? 殿方との触れ合いには慣れてはおりませんの」
言葉とは裏腹に平然としているのは、生来からの物怖じしない気質のせいだろう。王太子フェリクスでさえあしらう彼女だ。
「私を知っているなら話しは早い。それに何故このような重い扇子を持っている? まるで武器にもなりかねない扇子を振り下ろすとは不敬ではないのか? 最近の侍女は礼儀も知らないらしい」
「不敬なのは貴方よ。ここは王太子妃アンジェラ様の〈妃宮庭園〉よ。他国の王太子殿下が入っていい場所ではないわ」
「それは知らなかった。ここもてっきりフェリクスの宮なのかと……」
「それはあちらよ。〈皇太子宮〉の庭園とは続きになっているから間違えて侵入したのね。案外トロイのね」
「どうやら……そのようだ。この私にトロイとは……」
笑いが込み上げる王太子スティーヴン。
「笑い事ではありませんわ。今すぐ立ち退くなら今回は大目にみて差し上げます。お送り致しますので放していただけませんか?」
(動じない侍女だ……)
さらに笑いが込み上げる王太子スティーヴン。
(しかも鉄製の扇子だと? あり得ないだろう! イーデン王家には面白い侍女がいるようだ)
王太子スティーヴンの心が浮き立つ。
このような令嬢には会ったことがない。
(このまま手放すのは惜しい……)
だから、王太子スティーヴンは侍女を放すどころか一層抱き寄せる。互いの顔が至近距離なせいで侍女の瞳の色さえわかる。
(榛色の瞳か……勝気そうな眼差しだ)
逸らすどころか、真っ直ぐに王太子スティーヴンを見つめる侍女。
「放して欲しいとお願いしましたのに……余計に抱き締めるとは阿呆ですか?」
(……気の強そうなところも好ましい)
「聞こえなかったのかしら? 王太子殿下ともあろう御方が一介の侍女と戯れていたとあっては醜聞が立ちますわよ」
「それより……このような時間に侍女が1人で何をしている? 勇ましいのは良いが……物騒だろう?」
その途端、侍女の顔が輝く。
「……? 何故、喜んでいる?」
「私を放してくださいましたら、その理由を聞かせて差し上げますわ」
「是非、聞かせてもらおうか? それにしても名残り惜しい」
ようやく放す王太子スティーヴン。美しい切れ長の瞳が侍女を見据える。
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賛美しながらも淡々と告げる侍女には、媚びた様子は全く伺えない。それが余計に王太子スティーヴンの気を引く。
パッパッと身形を整える侍女は「ヘイスティング侯爵家の嫡女バーバラ」と身分を明かす。
続いて王太子妃アンジェラの専属侍女だと嬉しそうに告げ、「勇ましい」と言われたことが「嬉しかった」のだとも告げる。
敬愛する王太子妃アンジェラの専属侍女になる為に、ありとあらゆる努力をしたヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。
「アンジェラお姉様をお護りする為に武闘も習いましたの。だから、お父様にお願いして武器にもなる鉄製の扇子も作っていただきましたのよ。常に持ち歩いておりますの」
色々と規格外の彼女に、王太子スティーヴンは笑いが止まらない。
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「そう思って下さるの? ありがとう! 私ね……大好きなアンジェラお姉様のお役に立つ為なら、どのような努力も惜しまないつもりよ!」
榛色の瞳をキラキラとさせて公言するヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。
儚げな令嬢には全く興味の湧かない王太子スティーヴン。物怖じしない彼女には俄然興味が湧く。
花が綻ぶように笑うヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。勇ましい中にも可憐さを持っている。視線は釘付け。
魅了されたのは王太子スティーヴン。
出逢いは意外なところに転がっている。
これが2人の馴れ初め。
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