公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり

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王家の舞踏会・披露目編

58.王太子の相手と天使と専属護衛の舞踏

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「何故おまえが私の手を掴む……ヘイスティング侯爵令嬢?」

 淑女達の波を掻き分け、王太子フェリクスの手を不敬も顧みずに掴むのはヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。

 序列2位のヘイスティング侯爵令嬢バーバラ。身分が上の彼女がしゃしゃり出て来たとなれば、ぶーぶー言いながらも引き下がるしかない淑女達。

 貴族間では身分の高さが物言う社交界。

 グラント公爵家と友好関係にあるヘイスティング侯爵家をぞんざいには扱えない。


 ◇


 ヘイスティング侯爵との円舞曲ワルツを終わるやいなや、王太子フェリクスの手を掴んだ侯爵令嬢バーバラは拝礼し、挨拶を述べる。

「ヘイスティング侯爵家の嫡女バーバラが、我が国の誉れ高き王太子殿下へと……」

 うん? と間を置くあたり、絶対にそう思ってはいないのが丸わかり。首まで傾げる侯爵令嬢バーバラは再度御挨拶。

「王太子殿下に一応の御挨拶を申し上げます」

「今更だな。それに思ってもいないことを口にしなくても良い。アンジェラに免じて赦す。相変わらずの強引さはむしろ清々しいぐらいだ」

 意外な言葉を返す王太子フェリクス。どうやら彼女の扱いには慣れて来た様子。

「お褒め頂きありがとうございます」

「褒めてはいない」

「淑女は褒めてこそですわ」

 次には、王太子フェリクスへと自らの手を軽く差し出す侯爵令嬢バーバラ。

「何だ、その手は……?」

「あらっ、円舞曲ワルツが聞こえませんか? 次の舞踏が始まっていましてよ? アンジェラお姉様に代わり、次は私がお相手して差し上げます」

「上から目線とは流石だな」

「お褒め頂き、ありがとうございます」

「褒めてはいない」

 やれやれ……とばかりに、侯爵令嬢バーバラの手を掴み、舞踏の輪へと混じる王太子フェリクスだが、数多の淑女達からの攻撃を躱せたことは否めない。

 軍配は侯爵令嬢バーバラへと上がる。


 ◇


 実は、侯爵令嬢バーバラが王太子フェリクスとの舞踏を望んだことには、彼女なりの理由がある。

 同じアンジェラを大好きな者同士、ライバルとはいえ、何をもってしてもアンジェラの存在が「1番」でなければならない。当然、王太子フェリクスにもそれを求める彼女。

「お美しいアンジェラお姉様を差し置いて、その他大勢の化粧オバケと踊るのはもってのほかですわ。アンジェラお姉様への不敬にあたります」

 かなりの好きが高じて、独自の見解論を述べる侯爵令嬢バーバラ。王太子フェリクスとの舞踏へと名乗りを上げたのもそのせい。

 天晴れな程のアンジェラ至上主義を掲げる彼女。想いのままに独自の道をひた走り、全くぶれない。

「アンジェラお姉様に好意を抱いているのでしょう?」

「当然だ」

「それならアンジェラお姉様意外の方と踊るのは浮気心と同じですわ。同じアンジェラお姉様を敬愛する者として、絶対に浮気心を赦すわけには参りません」

「全くどういう了見だ? 言われなくとも私はアンジェラ一筋だ。アンジェラこそ私の運命の相手。まさに至高の存在だ」

「当然ですわね。まさに至高の存在ですわ。さすがは私のアンジェラお姉様です」

「言っておくが……アンジェラだ」

「いいえ……アンジェラお姉様です」

 両者一歩も引かない。

アンジェラお姉様は誰よりも美しく純粋でお優しい。その他大勢の淑女達とは比べものになりませんわ。比べる方がどうかしてますわね」

「無論だ。アンジェラほどの稀有な存在は王都広しといえども存在はしない。まるで気品ある清楚な百合のような美しで私を魅了し、甘やかな声音で私を夢中にさせる」

「ふふっ……当然ですわね」

 水掛け論のごとく言い合う2人。


 互いにアンジェラを褒め称えることに力が入るのか、優雅な円舞曲ワルツも凄まじい舞踏ならぬ武闘にしか見えない。


 そんな2人に周囲は唖然。


 ◇


 さてさて。

 そんな2人の様子をチラチラと気にしているのは、まさに渦中の人物であるアンジェラだ。

「天使様、殿下のことが気になりますか?」

「そっ、そんなことはありません……!」

 即座に否定するアンジェラ。

「天使様……今、この時は私との円舞曲ワルツです。どうか私を見て下さいね?」

 にっこりと柔らかな笑みを浮かべる専属護衛エヴァンは、真っ直ぐにアンジェラを見つめる。生来より人好きのする相貌には好感が持てる。

「王太子殿下といい……どうしてそんな風に私を見つめるのですか? 恥ずかしいのですが……」

「それは貴女様が好む女性だからですよ。美しい花が目の前に咲いていれば、ずっと愛でていたいもの……ましてや愛おしい相手なら尚更です」

 甘い言葉を平然と紡ぐ専属護衛エヴァン。

 どうにも王都の貴公子の流麗さに、引き摺られてしまいっている初心なアンジェラ。恥ずかしさから花のかんばせは真っ赤。

 おかげで不満気な王太子フェリクスは、専属護衛エヴァンと踊るアンジェラを気にしては、あからさまに眉根を寄せる。

「……気に入らない……」

 ぼそりと零す王太子フェリクス。

 人生初の嫉妬ジェラシーを味わう。








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