皇帝の最愛の娘

ゆきむらさり

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本編・宰相の隠謀編

5.不遜な皇帝と屈辱の子息

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 結局、皇帝シリルには相手にされなかった宰相ベンジャミン。

 実は、これが初めてではない。

 以前から皇帝シリルには相手にされていないのが実情だ。

 所詮、「お飾りの宰相」と、陰では揶揄されている宰相ベンジャミン。それが周囲の彼への評価だ。


 ◇

 
 思い起こせば、過去に遡る。

 実は他の臣下たちは知らないことだが、父であるブラント公爵から“宰相職”を引き継ぐ時に言われていたのだ。

 皇帝シリルからハッキリと。

「俺はブラント公爵には借りがある。そのブラント公爵の頼みだから貴公を宰相に据えたが、俺は宰相を必要としていない。優秀な人材ならいる。間違ってもおまえではない。だから、お前には何も期待していない。見るからに自尊心の塊のようなおまえに、我が大帝国を預けるほど俺も愚かではない」

 淡々と言い放ち、不遜な笑みさえ浮かべてみせる皇帝シリル。

 さらに。

「その贅を尽くした煌びやかな衣装も……いかにも私利私欲に走りそうなタイプに見える。堅実なブラント公爵とは。ああっ、そうか。おまえはであったのだった。ブラント公爵も人が良すぎる」

 含みのある言い方をする皇帝シリル。

 だが、自分の出自を知らないベンジャミン卿には、皇帝シリルの嫌味は届かない。

 知らないということは、ある意味厄介。

 侮辱されたベンジャミン卿の顔が歪む。
 
 他の臣下たちがいないにしても、である自分は嘲笑され、面子を潰されたのだ。

 握りしめた拳を震わせ、憤るベンジャミン卿。

「どうした? 反論があるなら聞こう。そうやって怒りに拳を震わせるあたり、どうやら図星のようだ。ブラント公爵は今でも頼れる存在だが、公爵とはおまえはそうではないらしい」

「皇帝陛下っ! それはあまりにも言い過ぎではございませんか! これ以上の誹謗中傷は我が父への……ひいてはブラント公爵家への侮辱行為と言わざるを得ません」

「ほぉ、それがどうした?」

「……なっ!」

「俺はブラント公爵からおまえのことは一任されている。その甘ったれた根性を叩き直して欲しいようだが……その価値をおまえに見いだせない。は与えるが、俺に命令する権利がおまえにあると思うな……これ以上は不愉快だ」

 それだけ言い放てば、サッサとこの場から立ち去ろうとする皇帝シリル。

「お待ちくださいー!」

 ベンジャミン卿が皇帝シリルの皇位マントを掴もうとする直前で、その首元には剣先が光る。皇帝シリルの専属護衛騎士ルースだ。

 颯爽と道を塞いだのだ。

 常に皇帝シリルの側に控えながらも、存在を消すのが上手い専属護衛騎士ルース。足音も立てずにベンジャミン卿の目の前へと立ちふさがる。

 うわぁっ! 

 瞬時に立ち止まるベンジャミン卿。

「これ以上は不敬に当たります。どうかお引きください、ご子息殿。引かなければ……貴方を皇帝陛下への不敬罪で捕らえさせていただきます」

「なっ?! 私はブラント公爵家の嫡子だぞ! 私を捕えることは我が父が許さない!」

『貴方様のことは好きにしても良い』と仰せなのです」

「馬鹿なっ……!」

 その刹那、ベンジャミン卿の首には剣先がプツリッと刺さる。

 ヒュッ! と息を呑むベンジャミン卿。

 専属護衛騎士ルースの本気を見て取る。


 ◇


 やむなく、あの時はあの場を引いたベンジャミン卿だが、それ以来ずっと皇帝シリルには粗雑に扱われている。

 何より、お飾りで添えた宰相には、初めから何も期待していない皇帝シリル。

 そしてベンジャミン卿は知らない。

 父と思っているブラント公爵が息子可愛さどころか、むしろ想いは反対であることを知らないのだ。

 実は、ブラント公爵にも思うところがあるのだ。実直で堅実な彼は自分を裏切った者を許さない。

 それを知るのは皇帝シリルだけ。







 

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