皇帝の最愛の娘

ゆきむらさり

文字の大きさ
5 / 10
本編・宰相の隠謀編

4.進言する高慢な宰相と有能な公爵

しおりを挟む
 臣下たちが居並ぶ謁見の間。

 公然と「皇帝陛下……新たな皇后様をお迎えしてはいかがでしょう」と進言したのは、サイラス大帝国の若き宰相ベンジャミン。

 普段は無表情の皇帝シリルだが、余程に不快に感じたのだろう。珍しく、その眉間には皺が寄ったのを何気なく見てしまった臣下たち。

 ーーまさか、皇帝陛下の眉間にあるのは?!

 だが、次の瞬間「ヒィッ!」と慌てて視線を逸らし、即座にこうべを垂れる臣下たち。何も見なかった振りを決め込む。

 どうやら、皇帝シリルからの殺気のこもる一睨みが効いたようだ。

「宰相、それについては以前から告げていたはずだが?」

「そうは申されましても我が国は強大国でございます。偉大なる皇帝陛下の跡目となるお世継ぎ様は必要でございましょう。ひいては、皇后様……もしくは皇妃様をお迎えいただき、お世継ぎ様をもうけるのも皇帝陛下の義務ではございませんか?」

 恐れ知らずの宰相ベンジャミンはさらりと告げる。

「その必要はない。俺は皇后も世継ぎも必要としていない」

「皇帝陛下ご自身は必要がないと思われても……サイラス大帝国の揺るぎない未来を思えば……私どもには偉大な皇帝陛下の血統を受け継ぐお世継ぎ様は必要でございます。皆様もそう思われるでしょう?」

 そして控えるほかの臣下たちへと視線を滑らせる宰相ベンジャミン。

 言ってない、言ってない……とでも言いたいのか、他の臣下たちは手をブンブンと横に振り、賛同はしない。

 チッ、意気地のない……。

 うん? 今、舌打ちが聞こえたような?

 臣下たちは宰相ベンジャミンをチラリと見るも、何事もなかったかのように涼しい顔を決め込む彼は、反対に周囲を一瞥し、威圧する。

 宰相ベンジャミンの独壇場と化している感が否めない。


 ◇


 ーーどうにも、この宰相を好きにもなれない。

 ーーこの若者ベンジャミンは高慢すぎる。

 臣下たちはため息をつく。

 実は、多くの臣下たちがそう思っている。それでも宰相職を務めているのは、ブラント公爵である彼の父親が人格者だからだ。

 かねてから、この若き宰相ベンジャミンは場の空気も読まず、皇帝シリルをも恐れず、悪くいえば無鉄砲で厚顔無恥。

 一方、宰相ベンジャミンの父であるブラント公爵は、宰相職にあった時も皇帝シリルからの信頼も厚く、多くの者たちにも慕われていた。

 ブラント公爵は才知に長け、おまけに武闘派。

 自らの身は自分で守るようなオールマイティーな宰相だった。

 そう、良すぎたのだ。

 ゆえに、前任の宰相の辞退が惜しまれるのだ。

 ただ、皆は知らないだけで、実はブラント公爵が前任の宰相職を辞したことには理由がある。それも皇帝シリル直々の命によるものだ。


 ◇


 ブラント公爵は人柄もよく、かなりの優れ者だったが、親がそうだからと言って子どももそうなるとは限らない。

 そこが難しいところ。

 代々続く名家であっても、貴族の中には甘やかされた令息令嬢がわんさかいる。そのせいで、ギャンブルや遊興などに耽り、一代で親の財産を食いつぶしてしまう場合も。

 まさに、親の心子知らず。

 宰相ベンジャミンも然り。

 裕福なブラント公爵家の嫡子に生まれ、その恵まれ過ぎた豊かな環境が、彼という人物を高慢な気質へと形作る。

 それでも親なら子どもを信じたい気持ちもある。

 ブラント公爵は、嫡子ベンジャミンの根性を叩き直す意味もあったのだろう。そして息子を信頼する意味でも後任を任せた。

 だが、やはり貴族にはありがちなワガママな令息ベンジャミンには、宰相の地位はあまりにも高すぎた。

 よからぬ考えを持たせるほどに……。

 一人息子可愛さに甘やかした母である公爵夫人も問題だ。

 おかげで、他の臣下たちは宰相ベンジャミンに対して残念な気持ちを持つ。

 ーー頭が良くてもあれでは……。

 最近では特に、宰相ベンジャミンの傍若無人さが目に余るのだ。

 皆は「若さゆえの先走り」を憂う。

 それに忘れているようだが、サイラス帝国には捨て置かれた皇女がいる。皇帝シリルと皇后エヴァリーナの血統を受け継ぐ嫡女だ。

 不運なのは、皇女が国の母たる皇后エヴァリーナの命を奪ってまでも生まれてきたことだ。おかげで、父である皇帝シリルの怒りを買い、赤子のうちから〈離宮〉へと幽閉されている。

 不遇な皇女エブリン。

 皇帝シリルは我が子である皇女エブリンのことはいっさい話さない。おかげで皇女エブリンの身をどうするのか、

 このまま生かすのか、それとも……。

 皇帝シリルの本意が読めない。

 それはそれで臣下たちは憂うのだった。

 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

婚約者が番を見つけました

梨花
恋愛
 婚約者とのピクニックに出かけた主人公。でも、そこで婚約者が番を見つけて…………  2019年07月24日恋愛で38位になりました(*´▽`*)

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

処理中です...