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本編・宰相の隠謀編
4.進言する高慢な宰相と有能な公爵
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臣下たちが居並ぶ謁見の間。
公然と「皇帝陛下……新たな皇后様をお迎えしてはいかがでしょう」と進言したのは、サイラス大帝国の若き宰相ベンジャミン。
普段は無表情の皇帝シリルだが、余程に不快に感じたのだろう。珍しく、その眉間には皺が寄ったのを何気なく見てしまった臣下たち。
ーーまさか、皇帝陛下の眉間にあるのは?!
だが、次の瞬間「ヒィッ!」と慌てて視線を逸らし、即座に頭を垂れる臣下たち。何も見なかった振りを決め込む。
どうやら、皇帝シリルからの殺気のこもる一睨みが効いたようだ。
「宰相、それについては以前から告げていたはずだが?」
「そうは申されましても我が国は強大国でございます。偉大なる皇帝陛下の跡目となるお世継ぎ様は必要でございましょう。ひいては、皇后様……もしくは皇妃様をお迎えいただき、お世継ぎ様をもうけるのも皇帝陛下の義務ではございませんか?」
恐れ知らずの宰相ベンジャミンはさらりと告げる。
「その必要はない。俺は皇后も世継ぎも必要としていない」
「皇帝陛下ご自身は必要がないと思われても……サイラス大帝国の揺るぎない未来を思えば……私どもには偉大な皇帝陛下の血統を受け継ぐお世継ぎ様は必要でございます。皆様もそう思われるでしょう?」
そして控えるほかの臣下たちへと視線を滑らせる宰相ベンジャミン。
言ってない、言ってない……とでも言いたいのか、他の臣下たちは手をブンブンと横に振り、賛同はしない。
チッ、意気地のない……。
うん? 今、舌打ちが聞こえたような?
臣下たちは宰相ベンジャミンをチラリと見るも、何事もなかったかのように涼しい顔を決め込む彼は、反対に周囲を一瞥し、威圧する。
宰相ベンジャミンの独壇場と化している感が否めない。
◇
ーーどうにも、この宰相を好きにもなれない。
ーーこの若者は高慢すぎる。
臣下たちはため息をつく。
実は、多くの臣下たちがそう思っている。それでも宰相職を務めているのは、ブラント公爵である彼の父親が人格者だからだ。
かねてから、この若き宰相ベンジャミンは場の空気も読まず、皇帝シリルをも恐れず、悪くいえば無鉄砲で厚顔無恥。
一方、宰相ベンジャミンの父であるブラント公爵は、宰相職にあった時も皇帝シリルからの信頼も厚く、多くの者たちにも慕われていた。
ブラント公爵は才知に長け、おまけに武闘派。
自らの身は自分で守るようなオールマイティーな宰相だった。
そう、良すぎたのだ。
ゆえに、前任の宰相の辞退が惜しまれるのだ。
ただ、皆は知らないだけで、実はブラント公爵が前任の宰相職を辞したことには理由がある。それも皇帝シリル直々の命によるものだ。
◇
ブラント公爵は人柄もよく、かなりの優れ者だったが、親がそうだからと言って子どももそうなるとは限らない。
そこが難しいところ。
代々続く名家であっても、貴族の中には甘やかされた令息令嬢がわんさかいる。そのせいで、ギャンブルや遊興などに耽り、一代で親の財産を食いつぶしてしまう場合も。
まさに、親の心子知らず。
宰相ベンジャミンも然り。
裕福なブラント公爵家の嫡子に生まれ、その恵まれ過ぎた豊かな環境が、彼という人物を高慢な気質へと形作る。
それでも親なら子どもを信じたい気持ちもある。
ブラント公爵は、嫡子ベンジャミンの根性を叩き直す意味もあったのだろう。そして息子を信頼する意味でも後任を任せた。
だが、やはり貴族にはありがちなワガママな令息ベンジャミンには、宰相の地位はあまりにも高すぎた。
よからぬ考えを持たせるほどに……。
一人息子可愛さに甘やかした母である公爵夫人も問題だ。
おかげで、他の臣下たちは宰相ベンジャミンに対して残念な気持ちを持つ。
ーー頭が良くてもあれでは……。
最近では特に、宰相ベンジャミンの傍若無人さが目に余るのだ。
皆は「若さゆえの先走り」を憂う。
それに忘れているようだが、サイラス帝国には捨て置かれた皇女がいる。皇帝シリルと皇后エヴァリーナの血統を受け継ぐ嫡女だ。
不運なのは、皇女が国の母たる皇后エヴァリーナの命を奪ってまでも生まれてきたことだ。おかげで、父である皇帝シリルの怒りを買い、赤子のうちから〈離宮〉へと幽閉されている。
不遇な皇女エブリン。
皇帝シリルは我が子である皇女エブリンのことはいっさい話さない。おかげで皇女エブリンの身をどうするのか、
このまま生かすのか、それとも……。
皇帝シリルの本意が読めない。
それはそれで臣下たちは憂うのだった。
公然と「皇帝陛下……新たな皇后様をお迎えしてはいかがでしょう」と進言したのは、サイラス大帝国の若き宰相ベンジャミン。
普段は無表情の皇帝シリルだが、余程に不快に感じたのだろう。珍しく、その眉間には皺が寄ったのを何気なく見てしまった臣下たち。
ーーまさか、皇帝陛下の眉間にあるのは?!
だが、次の瞬間「ヒィッ!」と慌てて視線を逸らし、即座に頭を垂れる臣下たち。何も見なかった振りを決め込む。
どうやら、皇帝シリルからの殺気のこもる一睨みが効いたようだ。
「宰相、それについては以前から告げていたはずだが?」
「そうは申されましても我が国は強大国でございます。偉大なる皇帝陛下の跡目となるお世継ぎ様は必要でございましょう。ひいては、皇后様……もしくは皇妃様をお迎えいただき、お世継ぎ様をもうけるのも皇帝陛下の義務ではございませんか?」
恐れ知らずの宰相ベンジャミンはさらりと告げる。
「その必要はない。俺は皇后も世継ぎも必要としていない」
「皇帝陛下ご自身は必要がないと思われても……サイラス大帝国の揺るぎない未来を思えば……私どもには偉大な皇帝陛下の血統を受け継ぐお世継ぎ様は必要でございます。皆様もそう思われるでしょう?」
そして控えるほかの臣下たちへと視線を滑らせる宰相ベンジャミン。
言ってない、言ってない……とでも言いたいのか、他の臣下たちは手をブンブンと横に振り、賛同はしない。
チッ、意気地のない……。
うん? 今、舌打ちが聞こえたような?
臣下たちは宰相ベンジャミンをチラリと見るも、何事もなかったかのように涼しい顔を決め込む彼は、反対に周囲を一瞥し、威圧する。
宰相ベンジャミンの独壇場と化している感が否めない。
◇
ーーどうにも、この宰相を好きにもなれない。
ーーこの若者は高慢すぎる。
臣下たちはため息をつく。
実は、多くの臣下たちがそう思っている。それでも宰相職を務めているのは、ブラント公爵である彼の父親が人格者だからだ。
かねてから、この若き宰相ベンジャミンは場の空気も読まず、皇帝シリルをも恐れず、悪くいえば無鉄砲で厚顔無恥。
一方、宰相ベンジャミンの父であるブラント公爵は、宰相職にあった時も皇帝シリルからの信頼も厚く、多くの者たちにも慕われていた。
ブラント公爵は才知に長け、おまけに武闘派。
自らの身は自分で守るようなオールマイティーな宰相だった。
そう、良すぎたのだ。
ゆえに、前任の宰相の辞退が惜しまれるのだ。
ただ、皆は知らないだけで、実はブラント公爵が前任の宰相職を辞したことには理由がある。それも皇帝シリル直々の命によるものだ。
◇
ブラント公爵は人柄もよく、かなりの優れ者だったが、親がそうだからと言って子どももそうなるとは限らない。
そこが難しいところ。
代々続く名家であっても、貴族の中には甘やかされた令息令嬢がわんさかいる。そのせいで、ギャンブルや遊興などに耽り、一代で親の財産を食いつぶしてしまう場合も。
まさに、親の心子知らず。
宰相ベンジャミンも然り。
裕福なブラント公爵家の嫡子に生まれ、その恵まれ過ぎた豊かな環境が、彼という人物を高慢な気質へと形作る。
それでも親なら子どもを信じたい気持ちもある。
ブラント公爵は、嫡子ベンジャミンの根性を叩き直す意味もあったのだろう。そして息子を信頼する意味でも後任を任せた。
だが、やはり貴族にはありがちなワガママな令息ベンジャミンには、宰相の地位はあまりにも高すぎた。
よからぬ考えを持たせるほどに……。
一人息子可愛さに甘やかした母である公爵夫人も問題だ。
おかげで、他の臣下たちは宰相ベンジャミンに対して残念な気持ちを持つ。
ーー頭が良くてもあれでは……。
最近では特に、宰相ベンジャミンの傍若無人さが目に余るのだ。
皆は「若さゆえの先走り」を憂う。
それに忘れているようだが、サイラス帝国には捨て置かれた皇女がいる。皇帝シリルと皇后エヴァリーナの血統を受け継ぐ嫡女だ。
不運なのは、皇女が国の母たる皇后エヴァリーナの命を奪ってまでも生まれてきたことだ。おかげで、父である皇帝シリルの怒りを買い、赤子のうちから〈離宮〉へと幽閉されている。
不遇な皇女エブリン。
皇帝シリルは我が子である皇女エブリンのことはいっさい話さない。おかげで皇女エブリンの身をどうするのか、
このまま生かすのか、それとも……。
皇帝シリルの本意が読めない。
それはそれで臣下たちは憂うのだった。
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