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Ex1 少女から見た友1
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私は、抱えられて空を飛んでいる。
見上げる。
緑髪の美女だった。
ルフィーと呼ばれていた。
細い身体に似合わず、ルフィーはもう一人抱えていた。
茶色の長髪の女の子だ。
サクラ、という名前らしい。
心配そうに少年へと視線を向けていた。
「だいじょうぶかな……」
「暴走精霊相手なんだし、ユウなら大丈夫でしょ」
サクラの呟きに、ルフィーが軽い調子で答える。
その言葉に、心配の色は何もない。
「さて、こんなもんで良いでしょ」
ルフィーが降り立ったのは、ユウという少年がいる場所から、少し離れた地点。
二人に様子は見えるが、先ほどのように追いかけられても余裕で逃げられるほどの距離だった
「あ、あの……、いったい……?」
静かに地面に下ろされた私は、思わず訊ねた。
これから、何が始まるのか。
あの少年一人を残し、どうするのか。
そもそも、サクラはユウを案じているようだったが、ルフィーは気楽な様子だった。
何故こうも危機感がないのか、理解が追いつかない。
私の声に反応したルフィーは、驚いたように眉毛を動かした。
「日本語、わかるんだ」
ルフィーの目は丸くなった後、細くなる。
笑みの形となった瞳の中に、何かを定めるような視線で見下ろされた。
思わず、私は視線を逸らす。
「始まった!」
サクラが大声を上げた。
視線を向ける。
暴走精霊が、ユウに向けて飛びかかった。
だけど、ユウは気付いたときには精霊の後ろにいる。
「はやっ!?」
「そりゃあ、あたしの『風の加護』を受けてるんだから、速いわよ」
サクラとルフィーの会話に耳を傾ける。
「え、じゃあ、わたしもあんなに速く動けるの?」
「どうかしらね、可能だと思うけど。今は大人しくしてなさい」
「はあい」
サクラの声を聞きながら、私は口をあんぐりと広げていた。
およそ人間の動ける速度ではない。
ユウはひたすら精霊の背後となるように動き続けている。
精霊が髪や腕を振り、更に噛みつきなどを繰り返すが、全て避けられていた。
常にユウは、剣を構えて精霊の背後にぴたりと位置している。
風の加護と言っていた。
はたして人を超える速度で動けるほど、凄いモノなのか。
「お、全方位攻撃だ」
ルフィーの言葉が示すように、暴走精霊の髪が、前後左右に伸びる。
精霊の背後に立っていたユウに、避ける術は後退するしか道はない、そう思えた。
しかし、ユウは脚を動かさなかった。
逆に踏ん張り、そして持っていた剣を振った。
刃により、精霊の髪が断ち切られる。
だが、それだけでは止まらなかった。
剣を振った範囲よりも、もっと広い範囲の髪が断たれる。
「おー、おにいちゃんの『風の刃』は、すごいね!」
「『風王の剣』を使ってるんだから、あれくらいしてもらわないとー」
「よくわからないんだけど、あれってカマイタチみたいなもの、なの?」
「わからずに使ってたのね……。あれは部分的に空気を高密度にして、刃にして飛ばすって感じね」
そういえば先ほどサクラは、私を捕まえていた精霊の髪を、腕を振るだけで斬っていた。
同じ力なのだろうが、それでもユウの振った剣の斬った範囲は余りに広い。
ユウは伸ばされる精霊の髪を、次々に断ち切る。
髪の殆どを斬ったユウは、振り上げる精霊の腕、そして脚を切りつける。
圧倒的だった。
攻撃手段も断ち、更に移動の術も奪った。
もう暴走精霊に為す術はない。
膝立ちになった精霊は、ユウを見上げていた。
「え、倒しちゃうのはいいの? 暴走したまま倒すとダメだって……?」
「普通なら、ね。でもユウの持っている『風王の剣』は話が別よ」
首を傾げるサクラに向けて、ルフィーは得意そうに胸を張った。
曰く。
ユウの持つ『風王の剣』には、膨大な精霊力が込められているとのことだった。
正の感情で満たされた剣は、負の感情を祓い清める力があるとサクラに教える。
「じゃあ、あの剣で倒せば、暴走精霊さんも落ち着くんだ」
「まあね。肉体ごと祓うから、受肉前に戻っちゃうけど」
「ああ、そうなんだ……。良いことなんだよね?」
「そうよ。あんな風に暴れ回ることに比べたら万倍いいわ」
愉快そうにサクラと話していたルフィーの声が、少し哀しげに聞こえた。
思わず視線をルフィーに向ける。
ルフィーは、私に気付くと目を瞬いた後、悪戯めいた顔で片目を瞑った。
「まー。普段は使えないのよ。あたしが盛大に力使ったからできる手段なのよね」
「はー。知らなかったよ」
「あんたには隠してたからね」
「え、なんで!?」
「さて、ね。ほら、そろそろ終わりそうよ?」
サクラに向けて、そして私にも伝わるように、ルフィーがユウへと視線を戻させた。
見ると、ユウは、剣の切っ先を精霊の胸に向けている。
直後、ユウの持っている剣が緑色に輝き始めた。
剣の周りを、緑色の何かが渦を巻き始める。
先ほどまでのルフィーとサクラの会話からすると、風なのだろうか。
光の渦に包まれた剣を向けたまま、ユウは何事かを呟いた。
何を言ったのかは、わからなかった。
でも、遠目でわからなかったけど、ユウの顔は優しく笑ったように見えた。
そして、ユウは剣を精霊の胸に突き立てた。
根元まで刺さった剣は、輝きを増す。
ユウを中心に風が吹き始めた。
私の頬を風が撫でる。
驚きつつ、ユウに視線を向けると、再び精霊に向けてユウが何かを喋った。
同じく聞こえない。
でも、今度は風に乗って聞こえた気がした。
――今度は、普通の状態で会おうな。
そう言った気がした。
直後、竜巻が剣の周りに発生する。
それは精霊の身体ごと一気に広がった。
強烈な突風が吹き荒れる。
思わず目を瞑ろうとした。
瞼を閉ざす寸前に見たものは、精霊の身体が吹き飛ぶところだった。
一瞬の暴風。
すぐに収まった。
私が恐る恐る目を開けると、
きらきらと青く輝く光の粒が降る中、剣を下ろすユウの姿があった。
吹き飛んだ精霊なのだろうか、青い綺麗な光がユウに降り注いでいる。
もし、仮に光が精霊の意思なのだとしたら、倒したユウを恨んでいるように見えない。
逆に感謝をしている――、不思議とそう感じた。
ユウは降り注ぐ光を見ながら、呟いた。
「――汝に平穏あらんことを」
振り下ろした刃からは、輝きが消えていった。
同時に、剣の先が風化するように崩れていく。
剣身が全て消えたときには、何も残っていなかった。
全てが終わったように、ただ風が吹いていた。
見上げる。
緑髪の美女だった。
ルフィーと呼ばれていた。
細い身体に似合わず、ルフィーはもう一人抱えていた。
茶色の長髪の女の子だ。
サクラ、という名前らしい。
心配そうに少年へと視線を向けていた。
「だいじょうぶかな……」
「暴走精霊相手なんだし、ユウなら大丈夫でしょ」
サクラの呟きに、ルフィーが軽い調子で答える。
その言葉に、心配の色は何もない。
「さて、こんなもんで良いでしょ」
ルフィーが降り立ったのは、ユウという少年がいる場所から、少し離れた地点。
二人に様子は見えるが、先ほどのように追いかけられても余裕で逃げられるほどの距離だった
「あ、あの……、いったい……?」
静かに地面に下ろされた私は、思わず訊ねた。
これから、何が始まるのか。
あの少年一人を残し、どうするのか。
そもそも、サクラはユウを案じているようだったが、ルフィーは気楽な様子だった。
何故こうも危機感がないのか、理解が追いつかない。
私の声に反応したルフィーは、驚いたように眉毛を動かした。
「日本語、わかるんだ」
ルフィーの目は丸くなった後、細くなる。
笑みの形となった瞳の中に、何かを定めるような視線で見下ろされた。
思わず、私は視線を逸らす。
「始まった!」
サクラが大声を上げた。
視線を向ける。
暴走精霊が、ユウに向けて飛びかかった。
だけど、ユウは気付いたときには精霊の後ろにいる。
「はやっ!?」
「そりゃあ、あたしの『風の加護』を受けてるんだから、速いわよ」
サクラとルフィーの会話に耳を傾ける。
「え、じゃあ、わたしもあんなに速く動けるの?」
「どうかしらね、可能だと思うけど。今は大人しくしてなさい」
「はあい」
サクラの声を聞きながら、私は口をあんぐりと広げていた。
およそ人間の動ける速度ではない。
ユウはひたすら精霊の背後となるように動き続けている。
精霊が髪や腕を振り、更に噛みつきなどを繰り返すが、全て避けられていた。
常にユウは、剣を構えて精霊の背後にぴたりと位置している。
風の加護と言っていた。
はたして人を超える速度で動けるほど、凄いモノなのか。
「お、全方位攻撃だ」
ルフィーの言葉が示すように、暴走精霊の髪が、前後左右に伸びる。
精霊の背後に立っていたユウに、避ける術は後退するしか道はない、そう思えた。
しかし、ユウは脚を動かさなかった。
逆に踏ん張り、そして持っていた剣を振った。
刃により、精霊の髪が断ち切られる。
だが、それだけでは止まらなかった。
剣を振った範囲よりも、もっと広い範囲の髪が断たれる。
「おー、おにいちゃんの『風の刃』は、すごいね!」
「『風王の剣』を使ってるんだから、あれくらいしてもらわないとー」
「よくわからないんだけど、あれってカマイタチみたいなもの、なの?」
「わからずに使ってたのね……。あれは部分的に空気を高密度にして、刃にして飛ばすって感じね」
そういえば先ほどサクラは、私を捕まえていた精霊の髪を、腕を振るだけで斬っていた。
同じ力なのだろうが、それでもユウの振った剣の斬った範囲は余りに広い。
ユウは伸ばされる精霊の髪を、次々に断ち切る。
髪の殆どを斬ったユウは、振り上げる精霊の腕、そして脚を切りつける。
圧倒的だった。
攻撃手段も断ち、更に移動の術も奪った。
もう暴走精霊に為す術はない。
膝立ちになった精霊は、ユウを見上げていた。
「え、倒しちゃうのはいいの? 暴走したまま倒すとダメだって……?」
「普通なら、ね。でもユウの持っている『風王の剣』は話が別よ」
首を傾げるサクラに向けて、ルフィーは得意そうに胸を張った。
曰く。
ユウの持つ『風王の剣』には、膨大な精霊力が込められているとのことだった。
正の感情で満たされた剣は、負の感情を祓い清める力があるとサクラに教える。
「じゃあ、あの剣で倒せば、暴走精霊さんも落ち着くんだ」
「まあね。肉体ごと祓うから、受肉前に戻っちゃうけど」
「ああ、そうなんだ……。良いことなんだよね?」
「そうよ。あんな風に暴れ回ることに比べたら万倍いいわ」
愉快そうにサクラと話していたルフィーの声が、少し哀しげに聞こえた。
思わず視線をルフィーに向ける。
ルフィーは、私に気付くと目を瞬いた後、悪戯めいた顔で片目を瞑った。
「まー。普段は使えないのよ。あたしが盛大に力使ったからできる手段なのよね」
「はー。知らなかったよ」
「あんたには隠してたからね」
「え、なんで!?」
「さて、ね。ほら、そろそろ終わりそうよ?」
サクラに向けて、そして私にも伝わるように、ルフィーがユウへと視線を戻させた。
見ると、ユウは、剣の切っ先を精霊の胸に向けている。
直後、ユウの持っている剣が緑色に輝き始めた。
剣の周りを、緑色の何かが渦を巻き始める。
先ほどまでのルフィーとサクラの会話からすると、風なのだろうか。
光の渦に包まれた剣を向けたまま、ユウは何事かを呟いた。
何を言ったのかは、わからなかった。
でも、遠目でわからなかったけど、ユウの顔は優しく笑ったように見えた。
そして、ユウは剣を精霊の胸に突き立てた。
根元まで刺さった剣は、輝きを増す。
ユウを中心に風が吹き始めた。
私の頬を風が撫でる。
驚きつつ、ユウに視線を向けると、再び精霊に向けてユウが何かを喋った。
同じく聞こえない。
でも、今度は風に乗って聞こえた気がした。
――今度は、普通の状態で会おうな。
そう言った気がした。
直後、竜巻が剣の周りに発生する。
それは精霊の身体ごと一気に広がった。
強烈な突風が吹き荒れる。
思わず目を瞑ろうとした。
瞼を閉ざす寸前に見たものは、精霊の身体が吹き飛ぶところだった。
一瞬の暴風。
すぐに収まった。
私が恐る恐る目を開けると、
きらきらと青く輝く光の粒が降る中、剣を下ろすユウの姿があった。
吹き飛んだ精霊なのだろうか、青い綺麗な光がユウに降り注いでいる。
もし、仮に光が精霊の意思なのだとしたら、倒したユウを恨んでいるように見えない。
逆に感謝をしている――、不思議とそう感じた。
ユウは降り注ぐ光を見ながら、呟いた。
「――汝に平穏あらんことを」
振り下ろした刃からは、輝きが消えていった。
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