英雄様は愛されたい

結人

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体の痛みが脳を刺激し意識を浮上させる。
目を開けると白い天井。
手も足も動かすことができず、もちろん全身の痛みで起き上がることもできない。鼻につく消毒液の臭いでここが病院であることを知る。

「…ぁ…」

声を出そうとすると喉が張り付く。
しばらくすると横から声をかけられた。

「気が付きましたか?まだ動かないほうがいいですよ」

覗き込んできた顔の方へ目線を動かすと、少年と目が合った。

「あの高さから落ちて生きてるってすごいですね。生存者の確認を…って言われましたが現場に行った誰もが生存者がいるとは思っていませんでした」

彼に言われて思い出す。
そうだ、崖から落ちたんだ…。
他の団員達はどうなったのだろうか…

俺の疑問に気づいたのか、少年は話を続ける。

「あなた以外の生存者は見つかりませんでした。もちろんあなたも生きてるのか死んでるのか分からないくらい虫の息でした。全身の骨はボキボキに折れてるし、内臓も損傷してます。現場にいた魔法師に回復魔法をかけてもらいなんとか命をつないだって感じです」

下が見えない崖の上から…落ちたんだ。
団員達の顔が浮かぶ。もう少し早く判断できていれば皆を死なせずに済んだのに…

天井を見つめ仲間たちに思いをはせる。


「体が動かせるようになるまではここで療養してください。その後あなたの処遇は上の判断次第です。動けるまで数カ月はかかると思うのでそれまではゆっくりしててください…って言ってもその状態では動けないですね」

俺の腕に繋がれている点滴を調整し去っていく少年を目で追うが、顔を動かすことができず視界から消えていく。俺の目の前にはまた天井だけが広がった。






第五部隊が全滅したあの日から半年が経ち、俺は毎日の手厚い治療と回復魔法で体を動かせるようになるまで回復した。

「ジークさん!動き回るのはやめてください!骨がくっついたと言ってもまだ脆い状態なんです。無理に動いたら折れちゃいますよ!」

「大丈夫。室内を歩くだけだよ」

窓際にある椅子に腰を掛ける。北向きの部屋の窓からは母国の山々が見えた。万年雪が残るヒュペリオンの山たちはいつも冷たい風を街に吹き下ろしていた。

ヒュペリオンはどうなったのだろうか?
第五部隊の大敗の後ライスドリューは本陣にも攻撃を仕掛けただろう。第一部隊の親友ランスロットは王宮の守りだからよほどでない限り危険はないと思うが母国がどうなったのか情報が入ってこないと不安で落ち着かない。
俺は戦況を教えてもらえずモヤモヤした気持ちのまま半年間ずっとこの部屋の中にいた。


「失礼します。魔法部です。本日よりあなたの体に魔導具を装着します。これは身体拘束と魔法の使用を禁止する魔導具です。身体拘束は許可なくライスドリュー帝国の王宮外へ出ようとした場合に意識を失うよう設定された電流が流れるようになっています。魔法に関しても魔力の放出を感知すると電流が流れますのでお気をつけください」

「分かった」

両腕に魔導具を装着される。
動けるようになったので脱走防止の処置なのだろう。

「3日後に皇帝陛下への謁見が許されました。係りの者が迎えに来ます。何か希望があればその時に直接陛下へお伝え下さい」

「希望…とは?」

「何かやりたいことや知りたいことがあれば思いを直接陛下へお伝えしお聞きください。我々は許可がないと勝手なことはできませんが皇帝陛下に直接伝えていただければよほどでない限り許可していただけると思います」

「私は敵国の捕虜ではないのか?」

「そうですね…。しかし説明するにも勝手なことは話せないので、やはり皇帝陛下へ直接お話いただければと…」

困ったように返事をする魔法部の男にこれ以上聞いても、はっきりした返事はもらえそうになかった。
やりたいこと知りたいことを伝えれば…許可がもらえれば…叶うのか?
だったら俺が知りたいことは…今知りたいことはただ一つ。ヒュペリオンのこと。

3日後、皇帝から直接この半年間を教えてもらわなければならない。

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