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「殿下、そんなへっぴり腰では何度剣を振り下ろしても訓練にはなりません。しっかり腰に力を入れて…重心がズレてしまっては剣がブレます」
「お前たちが言う腰に力を入れて…とはどんな風に入れるんだ!重心とはどの角度の…どの位置の話をしているんだ」
「…そんなの感覚ですよ。角度とか…考えたこともないです」
俺は今ヴィーザル皇太子殿下に楽しい剣術教室を開催している。いや、しかしコレは酷い。町の子どもたちに教えている方がまだ飲み込みが良い…。あの日の仕事終わり、ヴィーザル殿下に声をかけられ何事かと身構えたが、話は剣術指南の依頼だった。
「殿下…軍に関わるのは諦めたほうが良いのでは?」
「私は陛下の後を継ぐ後継者なのだ。陛下ができることを私が出来ないではこの国を治めることはできない」
少ししか剣を振っていないのに薄い手のひらが真っ赤に腫れている。頑張りたいという気概は感じるが…いかんせん、センスがなさすぎる。
「しかし、向き不向きがあると思います。言いにくいのですが…殿下は向いてません」
「しかし…このままではいつまで経っても軍事に関して任せてもらえない。私は、完璧な後継者になって陛下に認めてもらいたい!」
19歳の青年がそんな全ての重荷を背負わないといけないのだろうか?苦手なことまで完璧にこなさなくてもいいと思うのだが……ここまで必死だと何とかしてあげたい気持ちになってしまう。
「……そうだ!殿下はチェスは得意ですか?」
「チェスは子供の時からよくしていた。最近はしていないが学生時代は結構強かったぞ」
陛下が頭がいいと褒めるほどだから考える事は得意なのだろう。
「チェスは小さな戦争なんです。いかにして相手を攻め落とすか。そして相手との駆け引き。一手二手先を読み、その時の最善を選択します。戦争も同じです。相手の動きにどんな意味があるのか、どう攻めるのが正解かを考える。そして相手に罠をしかけたりもします。気づかれないように誘導し逃げられない状態に追い詰めて…チェックメイトです」
ヴィーザル殿下にはヴィーザル殿下のいいところがある。そこを伸ばしてあげればいいのだ。彼は天才である陛下に褒められるほどの頭脳を持っている。それならその頭脳で勝負すればいいだけだ。
「必ずしも戦場に出て敵を倒す事が戦争ではありません。自ら戦場に出ずとも兵を動かし勝利するのも戦争です。無理して陛下と同じようになる必要はありません。あなたは貴方らしい統治者になればいいのです」
「私らしい統治者…」
「はい。まずは軍師を目指されるのはどうですか?」
軍師…作戦や戦略を考え勝利に導く者。
「それで騎士団の皆に認めてもらえるのだろうか?戦いの場にいないのに指示だけ出すのだろう?」
「私たち騎士は命をかけて戦っています。信用できない人に命を預けたくありません。信用される軍師になればいいのです。どんな戦況でも必ず勝ちを掴んでくれると信じられる。命を預けてもいいと思える軍師になるのです」
努力家の殿下ならきっと良い軍師になれるはずだ。
執務室の机に向かい書類処理をしていた陛下が眉をひそめて呟く。
「ヴィーザル。お前はここで何をしている?」
陛下の執務室のソファで軍事記録を広げるヴィーザル殿下は気になることや分からないことが見つかると私に質問してくる。あの日からヴィーザル殿下は城にある軍事学や戦略論の本を読み漁り、最近は過去の軍事記録を見返しては「どうしてこういう判断をしたのか?」と疑問に思ったことを聞いてくるようになった。
「ジークに軍事記録の読み方を習っているのです。陛下の邪魔はしませんので仕事をしてください」
部屋の主の許可もなく勉強会が広げられているので自分のせいではないが、俺自身も少し肩身が狭い…。
「ジークフリードは私の護衛騎士だ。お前の教師ではない」
「陛下に護衛は必要ないでしょう?秘書扱いしかしてないのですからジークを私にください」
「……。殿下よろしければ勤務の後に教えるのでは駄目でしょうか?ここでは陛下の邪魔になるでしょうし」
お互い引かずに戦いが続きそうだったので自ら争いに口を挟んでしまった。せっかくやる気になってくれたヴィーザル殿下の力になってあげたい気持ちもあり、つい提案してしまった。時間外の仕事になるが平和な解決になるはずだ。
「な!?それではお前の夜の時間が無くなるではないか?!そのような時間外労働をさせるわけにはいかない!」
「特に用事もありませんし…。1、2時間でよければお教えしますよ。」
「…楽しみにしていることはないのか?誰かに会うとか」
何故か焦った様子で話す陛下の意外な一面に少し面食らってしまう。思ったより部下思いの良い上司かもしれない。会いたい人ではないがあのドラゴンは最近またあの場所にいつも居てくれている。殿下の授業が終わったあとでも間に合う。少しくらい遅れても朝まで一緒にいられるのだから大丈夫だろう。
「……。はい。大丈夫です。夜は長いですから」
「お前たちが言う腰に力を入れて…とはどんな風に入れるんだ!重心とはどの角度の…どの位置の話をしているんだ」
「…そんなの感覚ですよ。角度とか…考えたこともないです」
俺は今ヴィーザル皇太子殿下に楽しい剣術教室を開催している。いや、しかしコレは酷い。町の子どもたちに教えている方がまだ飲み込みが良い…。あの日の仕事終わり、ヴィーザル殿下に声をかけられ何事かと身構えたが、話は剣術指南の依頼だった。
「殿下…軍に関わるのは諦めたほうが良いのでは?」
「私は陛下の後を継ぐ後継者なのだ。陛下ができることを私が出来ないではこの国を治めることはできない」
少ししか剣を振っていないのに薄い手のひらが真っ赤に腫れている。頑張りたいという気概は感じるが…いかんせん、センスがなさすぎる。
「しかし、向き不向きがあると思います。言いにくいのですが…殿下は向いてません」
「しかし…このままではいつまで経っても軍事に関して任せてもらえない。私は、完璧な後継者になって陛下に認めてもらいたい!」
19歳の青年がそんな全ての重荷を背負わないといけないのだろうか?苦手なことまで完璧にこなさなくてもいいと思うのだが……ここまで必死だと何とかしてあげたい気持ちになってしまう。
「……そうだ!殿下はチェスは得意ですか?」
「チェスは子供の時からよくしていた。最近はしていないが学生時代は結構強かったぞ」
陛下が頭がいいと褒めるほどだから考える事は得意なのだろう。
「チェスは小さな戦争なんです。いかにして相手を攻め落とすか。そして相手との駆け引き。一手二手先を読み、その時の最善を選択します。戦争も同じです。相手の動きにどんな意味があるのか、どう攻めるのが正解かを考える。そして相手に罠をしかけたりもします。気づかれないように誘導し逃げられない状態に追い詰めて…チェックメイトです」
ヴィーザル殿下にはヴィーザル殿下のいいところがある。そこを伸ばしてあげればいいのだ。彼は天才である陛下に褒められるほどの頭脳を持っている。それならその頭脳で勝負すればいいだけだ。
「必ずしも戦場に出て敵を倒す事が戦争ではありません。自ら戦場に出ずとも兵を動かし勝利するのも戦争です。無理して陛下と同じようになる必要はありません。あなたは貴方らしい統治者になればいいのです」
「私らしい統治者…」
「はい。まずは軍師を目指されるのはどうですか?」
軍師…作戦や戦略を考え勝利に導く者。
「それで騎士団の皆に認めてもらえるのだろうか?戦いの場にいないのに指示だけ出すのだろう?」
「私たち騎士は命をかけて戦っています。信用できない人に命を預けたくありません。信用される軍師になればいいのです。どんな戦況でも必ず勝ちを掴んでくれると信じられる。命を預けてもいいと思える軍師になるのです」
努力家の殿下ならきっと良い軍師になれるはずだ。
執務室の机に向かい書類処理をしていた陛下が眉をひそめて呟く。
「ヴィーザル。お前はここで何をしている?」
陛下の執務室のソファで軍事記録を広げるヴィーザル殿下は気になることや分からないことが見つかると私に質問してくる。あの日からヴィーザル殿下は城にある軍事学や戦略論の本を読み漁り、最近は過去の軍事記録を見返しては「どうしてこういう判断をしたのか?」と疑問に思ったことを聞いてくるようになった。
「ジークに軍事記録の読み方を習っているのです。陛下の邪魔はしませんので仕事をしてください」
部屋の主の許可もなく勉強会が広げられているので自分のせいではないが、俺自身も少し肩身が狭い…。
「ジークフリードは私の護衛騎士だ。お前の教師ではない」
「陛下に護衛は必要ないでしょう?秘書扱いしかしてないのですからジークを私にください」
「……。殿下よろしければ勤務の後に教えるのでは駄目でしょうか?ここでは陛下の邪魔になるでしょうし」
お互い引かずに戦いが続きそうだったので自ら争いに口を挟んでしまった。せっかくやる気になってくれたヴィーザル殿下の力になってあげたい気持ちもあり、つい提案してしまった。時間外の仕事になるが平和な解決になるはずだ。
「な!?それではお前の夜の時間が無くなるではないか?!そのような時間外労働をさせるわけにはいかない!」
「特に用事もありませんし…。1、2時間でよければお教えしますよ。」
「…楽しみにしていることはないのか?誰かに会うとか」
何故か焦った様子で話す陛下の意外な一面に少し面食らってしまう。思ったより部下思いの良い上司かもしれない。会いたい人ではないがあのドラゴンは最近またあの場所にいつも居てくれている。殿下の授業が終わったあとでも間に合う。少しくらい遅れても朝まで一緒にいられるのだから大丈夫だろう。
「……。はい。大丈夫です。夜は長いですから」
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