英雄様は愛されたい

結人

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俺が陛下の護衛についてから数ヶ月が経った。

最近のライスドリューは大きな事件が起こるわけでもなく俺は護衛騎士兼秘書の生活を続けている。
急を要する書類も無く他国から戦争を仕掛けられることもない。
皇帝陛下の執務室は平和な日々が続いていた。

時間ができた皇帝陛下は俺を引き連れ、馬に乗ると城の外に出た。

今まで行動制限の魔道具があり城の外に出ることは叶わなかった俺は魔道具の腕輪が外され、自由にどこにでも行けるようになった。でも特に行きたいところがあるわけではなかったので城から出ることはなく今回の遠乗りがはじめての城の外だった。

陛下のあとに付き、向かった先は…俺が落ちた崖。
見覚えのある風景。あの戦場の瞬間が目の前にフラッシュバックする。そして耳鳴りのようにあの時の仲間たちの声が聞こえて頭に響く。


「…陛下。ここにはどういった用件で?俺の傷を抉るためにここへ来たのなら大成功ですよ」

馬に乗ったまま陛下を見る。絞り出した自分の声が震えている。手綱を握る手も小さく震える。
あの時、仲間たちとこの場所にいた。作戦の違和感を感じながらもその何かわからない違和感を無視し状況の再確認をしなかった。俺が仲間たちの命を奪った。疲れがピークに達し早く戦争を終わらせたいと思う焦りもあった。

「…あの時のお前たちは強かった。手を抜けば我々が負けていた。あれ以外の方法は思い浮かばなかったんだ。ジーク達を本陣から隔離し一瞬で叩きつぶす。中途半端な攻撃では駄目だと判断した」

俺が乗っている馬と並ぶように寄せてきた皇帝は強く手綱を握りこんだ俺の手を取る。強く握りすぎて爪で傷付き血が滲んだ手を持ち上げると傷口に唇を寄せる。

陛下は掌に滲んだ俺の血を舐め取った。

「ジークの仲間たちの命の責任は私が背負う。私の立てた作戦で失った命だ。お前が…背負わなくてもいい。いつか必ず人が争わなくていい世界にする。国民たちが…兵士たちが笑って過ごせる国にしてやる。無意味に命を奪い合うこんな事が起こらない世界を作る」

真っ直ぐに俺を見つめてくる赤い瞳。燃えるような赤に映った自分の顔が今にも泣きそうで顔を下に向けた。…あの日から俺の後悔はずっと続いている。何があってもこの重荷が軽くなることは無いだろう。

「ジークフリード。ずっと私と一緒にいればいい。私はお前を死なせない。そして私もお前を一人残して死にはしない」

うつむいた顔を陛下の手によって持ち上げられ、また彼と視線をあわせる。熱のこもった視線に俺の顔が熱くなる。捕虜としてではなく、部下としてこの人に付いていく事は少しでも彼らへの償いになるのだろうか?

もうあんな風に仲間たちとの別れを経験したくない。

陛下の肩に頭を軽く抱き寄せられる。ドラゴンと一緒に寝てるときと同じ匂いが俺の鼻を掠めた。草原のような自然の匂い。

この人に付いていく。

それ以外の選択肢が今は見当たらない。目の前にいる皇帝が作る平和な…みんなが笑顔になれる国…俺も見てみたい。

「…微力ながら陛下のお役に立てるよう日々精進いたします」

俺の頭を優しく撫でた手。
彼に頭を撫でられるなど初めてのはずなのにいつもされているかのような安心感に包まれた。







陛下と遠乗りに出た日から俺の気持ちは少し変わった。
朝早く起きるとライスドリューの騎士達に混ざり汗をかき、その後は陛下の横で仕事をする日々。していることはあまり変わらないが彼らのために、この国のために、陛下のために…俺の人生をかける。
一生をこの国に捧げる。俺の気持ちが固まった。

「ジーク!もう上がれ!昼から陛下に付いて外に出るんだろ?!」

「はい!これ片付けたら失礼します!」

訓練で使った道具を片付けていると騎士団長のクロノスに声をかけられた。手に持っていた道具を取り上げられ早く行け!と目でせかされる。


実は…陛下のところへ行くのは少し気が重い。
あの日、2人で馬に乗り出かけた日。自身の弱い姿を曝し涙をこらえ震える身体を陛下に抱きしめられた。一人にはしないと言ってくれた陛下の言葉に安心してしまった。

そして…もうひとつの理由。

執務室の扉を開けると陛下は外出準備の最中だった。

「陛下。お手伝いいたします」

慌てて着替えの手伝いをしていると頭上から熱い視線を感じる。正面に立ち上着のボタンを留めていると陛下の手が俺の腰に回る。

どう考えたってこの状況はおかしい。

あの日から陛下が俺に恐ろしく甘い空気を出してくる。ただの上司と部下の空気とは言えない。

熱い視線の意味を考えないように、準備の手を動かしていく。そして外出の準備が終わるとすぐさま陛下から離れた。

「お…お待たせしました。馬車の用意はできています」

体を離した俺をじっと見つめる陛下は「分かった」と一言返事をし部屋を出ていく。陛下の後を追い歩く俺は激しく鳴る心臓の音が頭の方まで鳴り響き落ち着かない。

「陛下は…お疲れで距離感がおかしくなっておられるんだな」

俺はそう考えることで自分を納得させた。
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