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8. ところてん
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蔓鬼灯の蔓を発現させたことで、カガチの訓練は次の段階に進んだ。
これまでは身体を動かしながら魔力操作して、動かしている部位を強化するという訓練だった。今度は逆に座禅を組んだまま身体を動かさずに魔力を操り、蔓を出して動かすという訓練になった。
「ん……っ……」
カガチは庵の前庭の、下草が丁度良く絨毯のようになっているところで座禅を組んで、目を閉じ、うんうん唸っている。今日の服装は訓練の都合上、肩を出したほとんど下着なチョッキ(タンクトップ)という姿なのだが、気温は春を先取りしたように暖かくて、とくに寒いとは感じなかった。
「んっ……っ、っ……」
瞑想しているカガチの眉はひくひくと上下していて、その顔つきは険しい。では、身体から蔓を出すのが上手くいっていないのかというと、そんなことはなかった。
燻り子豚を狩ったときの感覚が身体に残っていたおかげで、蔓を出すのも操るのも、最初に手足を強化したときよりずっと楽に成功させていた。これまで瞑想で感知してきた、体内を循環する魔力の網をそのまま操るようにすればいいだけだったので、魔力を活性化させるという手順が省ける分、慣れれば身体強化よりも気楽に蔓を操ることができた。
では何故、カガチは険しい顔をしているのか?
「……や、やっぱ、し……む、ずむず……すっ、する……」
うなじから後頭部にかけての頭皮から伸ばした緑色の蔓をうねうね揺らすたび、痒さが込み上げてくる。それを我慢するのが辛くて、険しい顔になっているのだった。
事故などで腕を切断した者は、無いはずの腕の痒みに襲われることがあるというが、それと似たような現象なのだろう。魔力操作と同じ要領で蔓を生やして操ることはできても、蔓という本来なら無いはずの器官を感覚のほうが定義しきれていなくて、そのために蔓から返ってくる情報を触覚が痒みとして処理してしまっているのだろう――。
――という説明をクダンがすると、カガチはわりと納得していた。
「おまえ、相当進んだ教育を受けていたんだな。理解させるつもりの言いまわしじゃなかったんだが……」
混乱させてからかうつもりだったクダンは、逆に混乱させられて少し憮然としていた。
「どっ、ど……すれば、かゆっ……痒いの、な、なくなる?」
カガチは切実な表情だ。
「慣れるまで我慢するしかねぇな」
クダンの答えは無情だった。
「そっ、んなぁ……」
「情けない顔されても、実際慣れる以外にどうする方法もねぇんだよ」
「じゃっ……なっ、慣れるっ、にはっ……ど、すれば、いいっ?」
「どうすればって、いまやってるだろ。蔓を操作する訓練を続けることだ。必死にやりゃあ、そのうち慣れる。むしろ、慣れるまでやれ」
「うぅ……!」
カガチはクダンに恨めしげな視線をぶつけるも、付け毛のように生やした蔓を動かす訓練は止めない。
蔓をうねうねと揺らしてから、先をくるっと丸めて輪にしたり、束ねて捻って三つ編みにしたり、頭にくるっと巻きつけて冠のようにしたり……思いつくままに動かす。それから一旦蔓を引っ込めて、今度は首の付け根の柔らかいところから蔓を出そうと試みる。
「ん……んっ……!」
頭皮から蔓を生やすのは、さして苦労せずにできた。でも、肩口から蔓を生やそうというのは、いまのところ上手くいっていなかった。
頭皮から蔓を生やすのは、髪が生えてくることを思えば理解できた。手首から生やすのも、手をもっと先に伸ばすつもりで魔力を使えば、できた。でも、肩から蔓を生やすのは理解も想像も難しいのだ。
「蔓鬼灯はおまえの全身に同化しているんだから、出そうと思えばどっからでも出せる」
クダンがそう言うから、カガチは信じて挑戦している。クダンが言うのだから、いまは無理でも頑張れば、肩口からだけとは言わず、背中からでもお尻からでも蔓が出せるようになるはずだと信じていた。
「だっ……出せ、るっ……だ、だ、出せっ、る……!」
座禅を組んで両手を臍の前で合わせ、呪文のように小声で繰り返しながら魔力を操る。身体の内側から出てこようとしない魔力の流れを、無理やり押し出そうと試みる。
「ん……ん、んんっ……!」
眉間に皺を刻んで、額には脂汗。肩はぷるぷると震え、食い縛った歯の隙間からは気合いの声が漏れ出している。
そんな全力で気張っているカガチを、クダンは少し離れたところで別の作業をしながら片手間に眺めていたのだが……つい、ぼそりと言ってしまった。
「……うんこ気張ってるみてぇだな」
「ぴゃあぁ!?」
カガチが裏返った悲鳴を上げる。
その瞬間、タンクトップ姿の両腋から蔓の束がぼわっと生えた。
それはもう盛大に、豪快に、ぼわっと生えた。
「ふあっ、あ、あ……あぁ……」
カガチの動きが止まる。
腋から生えた蔓だけが、うねうねと科を作るように揺らめいている。
「や、やっ……やあぁ!!」
カガチが真っ赤な顔で再び叫ぶと、その途端、腋の蔓はしゅるるっと啜り上げられるように腋の奥へ引っ込んだ。そして、そのだけ押し出されるようにして、首の付け根から蔓がばしゅっと飛び出した!
カガチはこうして、身体のどこからでも蔓を自在に出し入れさせるこつを掴んだのだった。
これまでは身体を動かしながら魔力操作して、動かしている部位を強化するという訓練だった。今度は逆に座禅を組んだまま身体を動かさずに魔力を操り、蔓を出して動かすという訓練になった。
「ん……っ……」
カガチは庵の前庭の、下草が丁度良く絨毯のようになっているところで座禅を組んで、目を閉じ、うんうん唸っている。今日の服装は訓練の都合上、肩を出したほとんど下着なチョッキ(タンクトップ)という姿なのだが、気温は春を先取りしたように暖かくて、とくに寒いとは感じなかった。
「んっ……っ、っ……」
瞑想しているカガチの眉はひくひくと上下していて、その顔つきは険しい。では、身体から蔓を出すのが上手くいっていないのかというと、そんなことはなかった。
燻り子豚を狩ったときの感覚が身体に残っていたおかげで、蔓を出すのも操るのも、最初に手足を強化したときよりずっと楽に成功させていた。これまで瞑想で感知してきた、体内を循環する魔力の網をそのまま操るようにすればいいだけだったので、魔力を活性化させるという手順が省ける分、慣れれば身体強化よりも気楽に蔓を操ることができた。
では何故、カガチは険しい顔をしているのか?
「……や、やっぱ、し……む、ずむず……すっ、する……」
うなじから後頭部にかけての頭皮から伸ばした緑色の蔓をうねうね揺らすたび、痒さが込み上げてくる。それを我慢するのが辛くて、険しい顔になっているのだった。
事故などで腕を切断した者は、無いはずの腕の痒みに襲われることがあるというが、それと似たような現象なのだろう。魔力操作と同じ要領で蔓を生やして操ることはできても、蔓という本来なら無いはずの器官を感覚のほうが定義しきれていなくて、そのために蔓から返ってくる情報を触覚が痒みとして処理してしまっているのだろう――。
――という説明をクダンがすると、カガチはわりと納得していた。
「おまえ、相当進んだ教育を受けていたんだな。理解させるつもりの言いまわしじゃなかったんだが……」
混乱させてからかうつもりだったクダンは、逆に混乱させられて少し憮然としていた。
「どっ、ど……すれば、かゆっ……痒いの、な、なくなる?」
カガチは切実な表情だ。
「慣れるまで我慢するしかねぇな」
クダンの答えは無情だった。
「そっ、んなぁ……」
「情けない顔されても、実際慣れる以外にどうする方法もねぇんだよ」
「じゃっ……なっ、慣れるっ、にはっ……ど、すれば、いいっ?」
「どうすればって、いまやってるだろ。蔓を操作する訓練を続けることだ。必死にやりゃあ、そのうち慣れる。むしろ、慣れるまでやれ」
「うぅ……!」
カガチはクダンに恨めしげな視線をぶつけるも、付け毛のように生やした蔓を動かす訓練は止めない。
蔓をうねうねと揺らしてから、先をくるっと丸めて輪にしたり、束ねて捻って三つ編みにしたり、頭にくるっと巻きつけて冠のようにしたり……思いつくままに動かす。それから一旦蔓を引っ込めて、今度は首の付け根の柔らかいところから蔓を出そうと試みる。
「ん……んっ……!」
頭皮から蔓を生やすのは、さして苦労せずにできた。でも、肩口から蔓を生やそうというのは、いまのところ上手くいっていなかった。
頭皮から蔓を生やすのは、髪が生えてくることを思えば理解できた。手首から生やすのも、手をもっと先に伸ばすつもりで魔力を使えば、できた。でも、肩から蔓を生やすのは理解も想像も難しいのだ。
「蔓鬼灯はおまえの全身に同化しているんだから、出そうと思えばどっからでも出せる」
クダンがそう言うから、カガチは信じて挑戦している。クダンが言うのだから、いまは無理でも頑張れば、肩口からだけとは言わず、背中からでもお尻からでも蔓が出せるようになるはずだと信じていた。
「だっ……出せ、るっ……だ、だ、出せっ、る……!」
座禅を組んで両手を臍の前で合わせ、呪文のように小声で繰り返しながら魔力を操る。身体の内側から出てこようとしない魔力の流れを、無理やり押し出そうと試みる。
「ん……ん、んんっ……!」
眉間に皺を刻んで、額には脂汗。肩はぷるぷると震え、食い縛った歯の隙間からは気合いの声が漏れ出している。
そんな全力で気張っているカガチを、クダンは少し離れたところで別の作業をしながら片手間に眺めていたのだが……つい、ぼそりと言ってしまった。
「……うんこ気張ってるみてぇだな」
「ぴゃあぁ!?」
カガチが裏返った悲鳴を上げる。
その瞬間、タンクトップ姿の両腋から蔓の束がぼわっと生えた。
それはもう盛大に、豪快に、ぼわっと生えた。
「ふあっ、あ、あ……あぁ……」
カガチの動きが止まる。
腋から生えた蔓だけが、うねうねと科を作るように揺らめいている。
「や、やっ……やあぁ!!」
カガチが真っ赤な顔で再び叫ぶと、その途端、腋の蔓はしゅるるっと啜り上げられるように腋の奥へ引っ込んだ。そして、そのだけ押し出されるようにして、首の付け根から蔓がばしゅっと飛び出した!
カガチはこうして、身体のどこからでも蔓を自在に出し入れさせるこつを掴んだのだった。
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