ブサイク・アラフォー・猛犬注意! ~三重苦賢者と、降ってきた弟子~

Merle

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11. ゴブリン

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 暗緑色の肌をした醜貌なる小鬼、ゴブリン。
 人型魔物の中では戦闘力において最弱と名高いが、その反面、適応力と繁殖力では虫型にも鼠型にも引けを取らない。ただし、多くの人型魔物がそうであるように、ゴブリンも原則的に単一の性別、雄のみしか生まれてこない。そのために、繁殖するには多種族の雌が必要になる。そして、人型で雌――女性のいる種族で最も人口が多い種族は人間であるため、ゴブリンはよく人を襲うのだ。

 正面切っての戦いとなると、ゴブリンは人間の子供に負けることもあるくらい弱いので、多くの場合は策を弄する。
 例えば――山村の近くでじっと潜み、襲えそうな家を見極めてから数名で徒党を組んで夜襲する。村外れの茂みに隠れて猫の鳴き真似、子供の泣き真似などをして誘き寄せた女性を拐かすこともある。また、討伐しにきた戦士をわざと塒に誘い込んで罠に掛け、返り討ちにすることも少なくない。

 また、自業自得という意味の「ゴブリンを助けて娘を盗られる」という諺もあるように、ゴブリンは人の情に訴えて騙すことも間々ある。
 ついでに言うと、不細工が身の丈に合わない女性に対して言い寄る様を「ゴブリンが鳴き真似している」と揶揄したりもする。これはクダンがよく陰で言われていた言いまわしである。

 そうした卑劣な魔物と思われがちなゴブリンだが、一度ひとたび繁殖に成功すれば、大挙して村ひとつを陥落させることもある。そうなった場合、村が滅んでから討伐隊を興したとしても、ゴブリンたちは奪うだけ奪ってさっさと逃散しているのがおちで、討伐のしようがなくなっていることがほとんどだ。
 ゆえに、ゴブリンは見つけ次第殺すべし。一匹見つけたら、すぐに塒を見つけて根刮ぎにするすべし。増える前に潰すべし――と、言い習わされているのだった。

 さて、ゴブリンの性格や繁殖力については、都市部から山村まで広く知られているが、もうひとつの特徴である適応力についてはあまり知られていない。いや、ゴブリンを専門的に狩っている戦士団などにはよく知られているのだが、市井に流布していないのだ。

「少し違っていようがいまいが、ゴブリンはゴブリンだろ」

 というのが一般的な町人、村人の意見だ。しかし、ゴブリンとの付き合いが長い戦士たちからすれば、

「その少しの違いが生死に関わる」

 となるのだ。

 ゴブリンは環境や状況に応じて、他の魔物とは比べものにならないほど多様な変化を見せる。その代表的な例が【魔術師】のゴブリンだ。
 人型の魔物は人間での言い方に当て嵌めるなら、須く【魔人】である。魔臓を具えている生物を【魔物】と呼ぶのだから、人型の魔物は【魔人】である――ある意味で当然だ。もっとも、この解釈をもう少し踏み込んで捉えると、魔臓を具えた人間、すなわち【魔人】と【魔術師】は【魔物】である、という論も成り立ってしまう。この論は人間を魔臓持ちと、そうでない者とに分裂させてしまう危険性を孕んでいるため、多くの国でこの方面への研究は禁忌とされている。

 話を戻そう。
 人型の魔物は須く【魔人】であるが、【魔術師】の素養を持った個体の発生率は人間のそれと同じか、若干低いくらいだ。豚頭鬼オーク大鬼オーガの【魔術師】は、群れに二人もいれば多いほうだ。
 しかし例外的に、ゴブリンの【魔術師】発生率は人間のそれよりも多い。大抵の場合は練度が低くて対処も容易いために問題とされていないが、発生率の高さそれ自体は非常に興味深いものである。

 ゴブリンは【魔術師】が生まれやすいだけでなく、先に述べたように環境に即した変化も見せる。
 例えば、岩場で生まれ育ったゴブリンは肌の色が暗緑色ではなく灰褐色になる。森で育てば、よく知られている暗緑色になるのだが、土地柄によっては緑色に濃淡が付いた斑模様になることもある。岩場で暮らしていたゴブリンが何らかの理由で森へと移住したら、肌の色が灰褐色から緑色に変わっていった、という記録もある。

 適応と変化の話は肌の色に限ったものではなく、体格や体型にも現れる。
 雪原に棲息するゴブリンは豊かな毛皮と分厚い脂肪を持つ。地上を強力な魔物が闊歩する森では、長い手足と長い指を使って枝から枝へと飛び移る樹上生活に最適化された身体になる。

 また、環境ではなく状況に即した適応――というより、窮状を打開するための突然変異個体も生まれやすい。
 かつて国家主導で大々的にゴブリン狩りを行った国があったが、滅亡寸前に追い込まれたゴブリンたちの中にある日突然、非常に強力な個体が現れて群れを統率し、国の騎士団を逆に壊滅させたという事例もあった。
 ゴブリンは根刮ぎにすべし、と言われながらも、その討伐方針が「探して殺す」ではなく「見つけたら殺す」という対症的なものに留まっているのは、本当に滅亡させようとすると強力な突然変異体を誕生させかねないからだった――まあ、その建前を盾にして予算をけちっているだけ、とも言うが。

 さて、長々と蘊蓄を垂れたわけだが――言いたいことはつまり、こうだ。
 ゴブリンはあらゆる要因に対して適宜に適応、変質、進化する魔物である。そして、他所から【混沌の森】に流れてきたゴブリンたちもそのを遺憾なく発揮させていた――と。
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