88 / 150
3章
47-1. 愛の玉子 ロイド
しおりを挟む
ゴブリンたちが山賊(ではなく、闇商人だったかもしれない)を討った駄賃で拾ってきた、全身が緑色の少女。有瓜によってユタカと命名された彼女は、とくに軋轢を起こすことなく、俺たちとの暮らしに馴染んでいた。なぜなら、ユタカの行動は植物とほとんど変わらないものだったからだ。
ユタカの一日は朝、洞窟前の広場西寄りの隅で体育座りしながら寝ているところに朝日を浴びて、ぱちりと目を覚ますところから始まる。東側ではなく西側なのは、広場の東側は高い木々が茂っているため、西側にいたほうが朝日をいち早く浴びられるからだ。
朝早くから目覚めたからといって、ユタカは何をするわけでもない。ただ、幸せそうな顔でぼぉっとしているだけだ。
やがて俺たちが起き出して、夜警当番だった者以外が勢揃いした朝食が始まると、ユタカもおもむろに立ち上がって食事を始める。ユタカの食事は、そこいらに生えている樹木の落ち葉や、根っこ付きの草、それに土だ。
最初の晩は有瓜が俺たちと一緒のご飯を食べさせようとしたのだけど、眉根を微妙に寄せた以外は無表情という嫌がり方で、頑として食事を食べようとしなかった。何度も勧められると諦めて口に入れるのだけど、噛まずにすぐペッと吐き出すのだ。
この時点で、こいつは素直な少女だ、という第一印象はどこかへ吹き飛んだ。ユタカはただひたすらに唯我独尊なのだ。
落ち葉や土を食べるところや、気候や時間帯に応じて座る場所を変えるところなどを鑑みるに、たぶん植物寄りの魔物なのだろう。もっとも、確かに第一印象からして植物っぽいなと思っていたけれど、一日観察しただけで、もっと的を射た例えが思い浮かんだ。
ユタカは、物静かで甘えないタイプの猫だ。こちらから近づいたり触ったりしても怒らないけれど、自分から擦り寄ってくることはなく、気がつけばお気に入りの場所で昼寝して過ごしている――そういう猫と同じ生態だった。
この話題を猫と比べて語るのは失礼なことかもしれないけれど、排泄については猫よりもずっと手がかからなかった。
まだ観察が足りていないし、本気で観察しようとすると女性陣の目が冷え切って居たたまれなくなるので、過分に想像の入った推測しかできないけれど……ユタカのうんこはたぶん、腐葉土とかバーク堆肥とかいうやつだ。口から取り込まれた土と植物が良い感じに混ざり合って、たぶん発酵とかもしている。そう思った根拠は、臭いがなく、手触りがさらさらしているからだ。
……見た目だけはアンよりも幼い少女の排泄物を観察して、枝で突いたり、鼻先を寄せたりしている姿を女性陣に見られてしまって、ただいま非常に居心地の悪い思いをしている。後で誤解は解いておこう……解けるといいな。
ところで、庭弄りの趣味もないくせにバーク堆肥なんて言葉をなぜ知っているのかといえば、「異世界召喚されたときのために」とネットで調べていたからだ。日本の中高生の一部が、なぜかノーフォーク農法に異様な拘りを見せるのと同じ理由だ。
中二病という言葉が生まれた初期では、「自分が人より優れた能力を持っていて、現実でヒーローになれたら」と妄想するのが主流だったようだけど、俺の頃になると「自分でも人より優れた知識を持っていることになれる異世界でならヒーローになれる」が中二病の主流だった。
中高生を対象にした「異世界召喚されたときのための参考書シリーズ」があったら、小学生のうんこドリル並みに売れていたと思うのだが、どうだろうか?
さて、何の話だったか――ああ、そうだった。
ユタカはどうやら見た目通り、植物的な要素の強い生き物らしい、ということだ。植物のような動物ではなく、動物のような植物なのだと思う。
暑すぎると日陰に引っ込むけれど、基本的に日向で体育座りしているのが好きなのは、おそらく光合成をしているからだ。若布みたいな髪だと思っていたけれど、あれは葉緑素が詰まった葉っぱなのだろう。
また、気になる点だった、自分が排泄した腐葉土を食べることはあるのか、については、食べないことがすぐに分かった。腐葉土を手で掬ってユタカの口元に持っていったら、唇をぎゅっと引き結んだ無表情とはとても呼べない顔で睨まれたからだ。なお、そのときの光景も女性陣に見られていて、これもう本当に誤解は解けるのだろうか……。
俺が女性陣から微妙に避けられるようになったのと反比例するように、ユタカは女性陣に受け容れられていた。俺がユタカに悪戯しないよう目を光らせているうちに、ユタカの周りのゆったりまったりした空気に絆されていったようだった。
雰囲気の話だけでなく、ユタカはたぶん本当に空気を良くしているのだろう。光合成で酸素を吐き出す、的な意味で。
「ユタカちゃんの傍にいると癒されるんですよね」
有瓜は最初から警戒することなく、ユタカの傍で一緒にお昼寝するようになっていた。ダイチとミソラの赤ん坊二人も、ユタカの近くは日差しや風が絶妙な具合に心地好いのか、すぐにお昼寝を始めてしまう。そんなわけで、ユタカは赤ん坊の即落ちお昼寝スポットとして重宝されていた。
ゴブリンたちは未知数の存在であるユタカの傍で有瓜が無防備に寝こけることに気が気ではない様子だったけれど、俺とは違った観点での観察もとい監視を続けていることで、段々とユタカへの警戒を解きつつある――というところだった。
ユタカを拾ってきてから二日目の朝。
早くも馴染み始めていたユタカは、朝食前でまだ寝惚け眼の有瓜に対してお願いごとを持ちかけた。
はっきりした言葉を口にするわけではないのでジェスチャーゲームのような意思疎通だったけれど、状況的に間違いようのないお願いだった。
ユタカは、ゴブリンたちの肉棒を寝惚け眼で処理している有瓜に擦り寄っていって、自分も混ぜて、と強請ったのだった。
ユタカの一日は朝、洞窟前の広場西寄りの隅で体育座りしながら寝ているところに朝日を浴びて、ぱちりと目を覚ますところから始まる。東側ではなく西側なのは、広場の東側は高い木々が茂っているため、西側にいたほうが朝日をいち早く浴びられるからだ。
朝早くから目覚めたからといって、ユタカは何をするわけでもない。ただ、幸せそうな顔でぼぉっとしているだけだ。
やがて俺たちが起き出して、夜警当番だった者以外が勢揃いした朝食が始まると、ユタカもおもむろに立ち上がって食事を始める。ユタカの食事は、そこいらに生えている樹木の落ち葉や、根っこ付きの草、それに土だ。
最初の晩は有瓜が俺たちと一緒のご飯を食べさせようとしたのだけど、眉根を微妙に寄せた以外は無表情という嫌がり方で、頑として食事を食べようとしなかった。何度も勧められると諦めて口に入れるのだけど、噛まずにすぐペッと吐き出すのだ。
この時点で、こいつは素直な少女だ、という第一印象はどこかへ吹き飛んだ。ユタカはただひたすらに唯我独尊なのだ。
落ち葉や土を食べるところや、気候や時間帯に応じて座る場所を変えるところなどを鑑みるに、たぶん植物寄りの魔物なのだろう。もっとも、確かに第一印象からして植物っぽいなと思っていたけれど、一日観察しただけで、もっと的を射た例えが思い浮かんだ。
ユタカは、物静かで甘えないタイプの猫だ。こちらから近づいたり触ったりしても怒らないけれど、自分から擦り寄ってくることはなく、気がつけばお気に入りの場所で昼寝して過ごしている――そういう猫と同じ生態だった。
この話題を猫と比べて語るのは失礼なことかもしれないけれど、排泄については猫よりもずっと手がかからなかった。
まだ観察が足りていないし、本気で観察しようとすると女性陣の目が冷え切って居たたまれなくなるので、過分に想像の入った推測しかできないけれど……ユタカのうんこはたぶん、腐葉土とかバーク堆肥とかいうやつだ。口から取り込まれた土と植物が良い感じに混ざり合って、たぶん発酵とかもしている。そう思った根拠は、臭いがなく、手触りがさらさらしているからだ。
……見た目だけはアンよりも幼い少女の排泄物を観察して、枝で突いたり、鼻先を寄せたりしている姿を女性陣に見られてしまって、ただいま非常に居心地の悪い思いをしている。後で誤解は解いておこう……解けるといいな。
ところで、庭弄りの趣味もないくせにバーク堆肥なんて言葉をなぜ知っているのかといえば、「異世界召喚されたときのために」とネットで調べていたからだ。日本の中高生の一部が、なぜかノーフォーク農法に異様な拘りを見せるのと同じ理由だ。
中二病という言葉が生まれた初期では、「自分が人より優れた能力を持っていて、現実でヒーローになれたら」と妄想するのが主流だったようだけど、俺の頃になると「自分でも人より優れた知識を持っていることになれる異世界でならヒーローになれる」が中二病の主流だった。
中高生を対象にした「異世界召喚されたときのための参考書シリーズ」があったら、小学生のうんこドリル並みに売れていたと思うのだが、どうだろうか?
さて、何の話だったか――ああ、そうだった。
ユタカはどうやら見た目通り、植物的な要素の強い生き物らしい、ということだ。植物のような動物ではなく、動物のような植物なのだと思う。
暑すぎると日陰に引っ込むけれど、基本的に日向で体育座りしているのが好きなのは、おそらく光合成をしているからだ。若布みたいな髪だと思っていたけれど、あれは葉緑素が詰まった葉っぱなのだろう。
また、気になる点だった、自分が排泄した腐葉土を食べることはあるのか、については、食べないことがすぐに分かった。腐葉土を手で掬ってユタカの口元に持っていったら、唇をぎゅっと引き結んだ無表情とはとても呼べない顔で睨まれたからだ。なお、そのときの光景も女性陣に見られていて、これもう本当に誤解は解けるのだろうか……。
俺が女性陣から微妙に避けられるようになったのと反比例するように、ユタカは女性陣に受け容れられていた。俺がユタカに悪戯しないよう目を光らせているうちに、ユタカの周りのゆったりまったりした空気に絆されていったようだった。
雰囲気の話だけでなく、ユタカはたぶん本当に空気を良くしているのだろう。光合成で酸素を吐き出す、的な意味で。
「ユタカちゃんの傍にいると癒されるんですよね」
有瓜は最初から警戒することなく、ユタカの傍で一緒にお昼寝するようになっていた。ダイチとミソラの赤ん坊二人も、ユタカの近くは日差しや風が絶妙な具合に心地好いのか、すぐにお昼寝を始めてしまう。そんなわけで、ユタカは赤ん坊の即落ちお昼寝スポットとして重宝されていた。
ゴブリンたちは未知数の存在であるユタカの傍で有瓜が無防備に寝こけることに気が気ではない様子だったけれど、俺とは違った観点での観察もとい監視を続けていることで、段々とユタカへの警戒を解きつつある――というところだった。
ユタカを拾ってきてから二日目の朝。
早くも馴染み始めていたユタカは、朝食前でまだ寝惚け眼の有瓜に対してお願いごとを持ちかけた。
はっきりした言葉を口にするわけではないのでジェスチャーゲームのような意思疎通だったけれど、状況的に間違いようのないお願いだった。
ユタカは、ゴブリンたちの肉棒を寝惚け眼で処理している有瓜に擦り寄っていって、自分も混ぜて、と強請ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる