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弓士ユイの緑化クエスト 1/2
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人間女性PCの【弓士】ユイは、森王国の名前の由来にもなっている「精霊の森」にやってきていた。
来訪の目的はただひとつ。ここで受けられるクエスト【緑化】に挑むことだ。
このクエストを受けるには、転移門のない地域を行ったり来たりさせられる面倒なお遣いクエストをこなさないといけない。
そのお遣いクエストを数日かけて完遂させたユイは今日、ついに【緑化】クエストに挑む。
「このクエストを成功させれば、エルフになれる……!」
ユイがひたすらに歩きまわらされる嫌がらせのようなお遣いをやり通したのは、エルフに生まれ変わりたい一心からだった。
このゲームでは、初期作成のPCには種族が人間しか選べない。他の種族になりたければ、ゲーム中の当該クエストをクリアしないといけない。【緑化】クエストは、エルフになるためのクエストなのだった。
「よし……いざ!」
ユイは気合いを入れると、このクエストを受注しないと進入できない「精霊の森」へと向かっていった。
武具は何も身につけていない。このクエスト用に支給された、薄手の白い襦袢をまとっているだけだ。他は、足下も素足である。
人の出入りが滅多にない森を素足で歩くというと、足の裏が血だらけになりそうに思えるが、結界に囲まれた「精霊の森」の唯一の進入口である関所から森の奥へと続いているのは、柔らかな下草しか生えていない道だった。人や獣に踏み分けられて自然とできた道的なものではなく、もっと明白な――森が自ら道を作るという意図のもとに用意した道だった。
……という設定のもとにデザインされているだけの話だが。
とくに何の問題もなく下草の道を進んだユイは、目的の場所に到着する。
そこは、樹齢百年の屋久杉……みたいな太さの枝を四方八方に伸ばす超大樹の真ん前だった。実のところ、この超大樹が大きすぎるせいで、近くからだとただ巨大な壁が建っているようにしか見えない。それが超巨大な樹木だと知っているのは、まとめサイトで遠景画像を見たからだ。
だから当然、ユイはこの後に何が起こるのかも分かっていた。
『ようこそ、新たな同胞となるを許されしひと』
どこからか、男女の声を重ね合わせたような声が語りかけてくる。超大樹からのテレパシーだ。
ユイが返事するのを待たず、テレパシーは語り続ける。
『これより、あなたに緑化の洗礼を授けます。ですが、既に他の色で染められし布を新たな色で染め変えるのは容易ならざること。一度の洗礼で染めきることは、おそらく叶わないでしょう』
つまり、この種族変更クエストは失敗することもあるが、何度も挑戦することで成功確率が上がっていきますよ、と言っているのだ。まとめサイトにそう書いてあった。
『それを了承した上で洗礼に臨まんとするならば、わたしの胎へお入りなさい』
そう言い終わるのに合わせて、ユイの正面に当たる超大樹の幹が、切れ目から裂けるようにして左右に分かれ、ユイが悠々と通れるくらいの洞ができた。そこへ入れ、というのだ。
「……はい」
ユイは緊張気味に頷くと、洞の中に入っていった。
洞の入り口から差し込む光が、その内部を僅かに照らす。洞の内部には、とくにこれといって特筆すべきものは見当たらなかった。ワンルーム程度の空間があるだけの、本当にただの洞だった。
けれども、まとめサイトで情報を仕入れてきていたユイは安堵も落胆もしない。その逆に、昂揚していた。
「丸呑みって初体験だ……どんなんだろ? うぅ、わくわくするぜぃ!」
武者震いしたユイは、歯を見せて笑う。
『これより、あなたに緑化の洗礼を授けます。最後まで心して受け取られますよう……』
テレパシーの声が遠ざかっていく。
静寂が訪れる。
だけどすぐに、遠くでざわざと騒いでいるような音が聞こえてきた。
その物音は加速度的に近づいてくる。そして、それが何の音なのかをユイが察したのと同時に、洞の内壁が剥がれ落ちた。洞内の壁や天井は、無数の注連縄みたいな根だか枝だか分からないものが絡まり合って形作られていたのだが、それらが一斉に解けて、打ち振るわれた鞭のようにユイを襲った。
来訪の目的はただひとつ。ここで受けられるクエスト【緑化】に挑むことだ。
このクエストを受けるには、転移門のない地域を行ったり来たりさせられる面倒なお遣いクエストをこなさないといけない。
そのお遣いクエストを数日かけて完遂させたユイは今日、ついに【緑化】クエストに挑む。
「このクエストを成功させれば、エルフになれる……!」
ユイがひたすらに歩きまわらされる嫌がらせのようなお遣いをやり通したのは、エルフに生まれ変わりたい一心からだった。
このゲームでは、初期作成のPCには種族が人間しか選べない。他の種族になりたければ、ゲーム中の当該クエストをクリアしないといけない。【緑化】クエストは、エルフになるためのクエストなのだった。
「よし……いざ!」
ユイは気合いを入れると、このクエストを受注しないと進入できない「精霊の森」へと向かっていった。
武具は何も身につけていない。このクエスト用に支給された、薄手の白い襦袢をまとっているだけだ。他は、足下も素足である。
人の出入りが滅多にない森を素足で歩くというと、足の裏が血だらけになりそうに思えるが、結界に囲まれた「精霊の森」の唯一の進入口である関所から森の奥へと続いているのは、柔らかな下草しか生えていない道だった。人や獣に踏み分けられて自然とできた道的なものではなく、もっと明白な――森が自ら道を作るという意図のもとに用意した道だった。
……という設定のもとにデザインされているだけの話だが。
とくに何の問題もなく下草の道を進んだユイは、目的の場所に到着する。
そこは、樹齢百年の屋久杉……みたいな太さの枝を四方八方に伸ばす超大樹の真ん前だった。実のところ、この超大樹が大きすぎるせいで、近くからだとただ巨大な壁が建っているようにしか見えない。それが超巨大な樹木だと知っているのは、まとめサイトで遠景画像を見たからだ。
だから当然、ユイはこの後に何が起こるのかも分かっていた。
『ようこそ、新たな同胞となるを許されしひと』
どこからか、男女の声を重ね合わせたような声が語りかけてくる。超大樹からのテレパシーだ。
ユイが返事するのを待たず、テレパシーは語り続ける。
『これより、あなたに緑化の洗礼を授けます。ですが、既に他の色で染められし布を新たな色で染め変えるのは容易ならざること。一度の洗礼で染めきることは、おそらく叶わないでしょう』
つまり、この種族変更クエストは失敗することもあるが、何度も挑戦することで成功確率が上がっていきますよ、と言っているのだ。まとめサイトにそう書いてあった。
『それを了承した上で洗礼に臨まんとするならば、わたしの胎へお入りなさい』
そう言い終わるのに合わせて、ユイの正面に当たる超大樹の幹が、切れ目から裂けるようにして左右に分かれ、ユイが悠々と通れるくらいの洞ができた。そこへ入れ、というのだ。
「……はい」
ユイは緊張気味に頷くと、洞の中に入っていった。
洞の入り口から差し込む光が、その内部を僅かに照らす。洞の内部には、とくにこれといって特筆すべきものは見当たらなかった。ワンルーム程度の空間があるだけの、本当にただの洞だった。
けれども、まとめサイトで情報を仕入れてきていたユイは安堵も落胆もしない。その逆に、昂揚していた。
「丸呑みって初体験だ……どんなんだろ? うぅ、わくわくするぜぃ!」
武者震いしたユイは、歯を見せて笑う。
『これより、あなたに緑化の洗礼を授けます。最後まで心して受け取られますよう……』
テレパシーの声が遠ざかっていく。
静寂が訪れる。
だけどすぐに、遠くでざわざと騒いでいるような音が聞こえてきた。
その物音は加速度的に近づいてくる。そして、それが何の音なのかをユイが察したのと同時に、洞の内壁が剥がれ落ちた。洞内の壁や天井は、無数の注連縄みたいな根だか枝だか分からないものが絡まり合って形作られていたのだが、それらが一斉に解けて、打ち振るわれた鞭のようにユイを襲った。
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