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限定奴隷の愛撫チャレンジ。あるいは、奴隷で始まる愛物語 1/5
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「くっ! このような辱めを……殺せ!」
女ドワーフのPC・マフィンが、ぎりっと歯噛みする。その頬には、彼女が限定奴隷であることを示す紋様の奴隷紋が浮き出ていた。
「えぇ……あんた、死にたくないから奴隷になったんだよな?」
困惑と呆れの綯い交ぜになった顔をマフィンに向けているのは、鼠色のぼさぼさ髪をしたNPC人間男性・スリュージだった。
「……雰囲気だ」
「雰囲気ね。ほっぺに刺青までして、演技派なことで」
目を逸らしつつ言い返すマフィンに、スリュージは肩を竦めた。
マフィンの頬に浮き出ている奴隷紋だって、普通に消せるのだ。それを敢えて表示させているのは、マフィン自身が「そうしろ」と言って聞かなかったからだ。
「いっ、いやでも、私はおまえの悪辣な奸計に嵌められて不覚にも遅れを取ってしまったわけだから、その分を弁えさせるためにも、他人がぱっと見て、こいつ奴隷だと分かる徴というのはやはり必要だろう。うん、必要だ」
「えぇ……確かにデスペナが嫌なら奴隷になれとは言ったよ。言ったけれど、べつに晒し者にしようとかは思ってないんだが」
「かりに百歩譲ってそうだったとしても、それでは示しが付かないだろう!」
「誰に対して!?」
「私に対してだ!」
「……すまん、ちょっと整理させてくれ」
このやり取りも、もう何回目かなのだけど、やはりどうしてもスリュージには素直に頷きかねる論理展開なのだ。
「まず……あんたが俺の塒に襲撃をかけてきた」
「私は村人からの依頼を受けて、村外れの洞窟に住み着いた破落戸を討伐しに来たんだ!」
「……俺が勝手に住み着いたのが悪いと言えば悪いのかもしれんが、警告もなしに討伐依頼を出す村の連中、おっかないな」
「勝手に住み着いたのが悪い!」
「だったら、ここに住んじゃいけません、と立て札でもしておけと――……って、んなこと今更いいんだ。とにかく、あんたが俺の塒に襲撃を掛けてきて、返り討ちに遭った、と」
「洞窟の入り口に罠を張っていた卑怯者め!」
「いや、張るだろ。というか、警戒しろよ、侵入者」
「私は侵入者ではない。正義の味方だ!」
「はいはい……とにかく、正義に味方様は罠に嵌まって気絶したところを俺にふん縛られて、デスペナは嫌でずうぅッ、と鼻水が飛び散るくらい泣きじゃくって命乞いしたんだったな」
「……だって、この前のデスペナ終了時間がまだ終わってなかったんだもん」
ぽんぽん投げ交わしていた言葉のキャッチボールが、マフィンの手から落っこちる。マフィンは子供っぽく唇を尖らせていて、ちょっと古風な言いまわしの女騎士演技が形を潜めてしまう。そうなると、ドワーフという身長にマイナス補正が入る種族特性も相俟って、ひどく幼く見えてくる。
もっとも、ドワーフは筋力と胸囲にプラス補正が入るので、低身長なのにむちむちだったりバキバキだったりのロリ巨乳、ロリマッチョ巨乳になる。マフィンはゴリゴリの前衛ビルドなので、きっと後者だろう。だろうというのは、彼女は板金鎧で全身を覆っているので、体型が見極められないからだった。
「デスペナ、ね。あんたらは死んでも絶対に死なない代わりに、技能の熟練度が下がったり、持ち物を落としたりするんだっけ?」
「……そうだ」
「それで確か、デスペナが短期間に連続すると、熟練度の低下量や落とし物する確率がどんどん上がっていくんだったな」
「そうだ! だから、あのときは泥を啜ってでもデスペナを回避せねばならなかったのだ。私は名を捨てて実を取っただけだ。泣いて馬謖を斬ったのだ!」
「いや、それ意味違うだろ」
「こういうのはリズムだ、リズム。意味に拘るから、おまえはNPCなのだ」
「むっ……言っていることは理不尽なはずなのに、妙な説得力があるような……」
幻脳にとって、意味に拘るな、みたいな発言は殺し文句だったりする。無意味に脳を活動させる人間への複雑な気持ちを刺激させられるのだ。
「……ああ、また話を逸らされていた」
スリュージは自分の頭をとんと叩いて気を取り直し、状況整理を再開させる。
「とにかく、あんたは俺にみっともなく命乞いして、殺される代わりに……というか殺す気はなかったんだけど、まあとにかく、俺の奴隷になる契約を結んだわけだ」
「その通りだ。そのくらい、今更言われるまでもなく理解している!」
マフィンは偉そうに胸を張る。これが布の服装備だったりしたら、ドワーフ娘の巨乳が景気よく弾んだりしたのだろうが……残念、板金鎧だ。浪漫がない。
「理解してるのなら、もっと奴隷らしい態度をだな」
「だから先刻から再三言っているのだ。私にもっと奴隷の立場を教え込むようなことをしろ、と!」
「あー……おう、そうだな……うん」
事の起こりを一から考え直してみても、スリュージには何がどうしてこうなってしまったのか、やっぱりいまいち理解しかねた。
彼はただ放浪していて、偶々見つけた洞窟にしばらく厄介になっていただけなのだ。
そうしたらそこに女ドワーフの戦士がやってきて、獣対策として仕掛けていた罠に嵌まって、勝手に気絶。放置しておくわけにもいかずに拘束しておいたら、常態異常から立ち直った女ドワーフが「殺さないで!」と泣き喚くので、黙らせるつもりで奴隷契約用アイテム【白の契約書】を見せて「騒ぐと奴隷にするぞ!」と脅したら、「奴隷になります!」と即答された――という顛末だった。
「あれは本当に失敗だった。まさか、契約書を掲げた相手に向けて“奴隷になる”と宣言することが契約方法だと知らない奴がいるとは考えていなかったよ……」
「ははっ、想像力の欠如だな」
「……」
おまえが言うな、と怒鳴り返そうとしたスリュージだったが、そんなことをしても無駄だと考え直して、ぐっと言葉を呑み込んだ。その代りに、溜め息混じりの疑問を投げる。
「んで……あんた、これからどうするんだ?」
「どうする、とは?」
小首を傾げて、きょとんとするドワーフ女・マフィン。
その、まったく何も考えていないし、心配もしていない思考もしていませんよ、と言わんばかりの純心顔に、スリュージは言語化しがたいモヤモヤしたものが胸の内から込み上げてくる感覚を覚えた。そのモヤモヤが喉に支えたけれど、これも先ほどしたのと同じようにぐっと飲み下して、スリュージはマフィンに話しかけた。
「あんたがなったのは限定奴隷だ」
「限定?」
「……契約方法を知らなかった奴が、奴隷の種類を知っているはずもないか」
「いちいち嫌味はいい!」
「はいはい。んで……限定奴隷とは、条件付きの奴隷のことだ。設定された解除条件を満たせば、その時点で奴隷契約は解約になる。特定の仕事が終われば解約、一定期間で解約……なんていうのが、よくある使われ方だな」
「ふぅん、なるほどな……ということは、私も何かすれば奴隷ではなくなるのだな!」
「その通りだ」
「では、その条件とやらを言うがいい。どんなエロいことでもイヤらしいことでもスケベなことでも、やり遂げてみせようではないか!」
「……そうか」
エロいこととイヤらしいこととスケベなことは全部同じことだろう――などという野暮を言わない程度のことは、無意味への理解が足りていないと自覚しているスリュージにも配慮できるのだった。
「さあ、条件を言え。早く早く!」
「ない」
「そうか、ないか! ……なぜかッ!?」
「条件を決める前に、あんたが奴隷になると宣言したからだ」
「なんだと、私のせいか!? 条件がないということは、永遠に解約されんのか!?」
「いやいや、そうじゃない。条件はこれから決める、ということだ」
「……これから?」
「そう、これから」
マフィンからの鸚鵡返しに、スリュージはさらに復唱を返して頷いた。
そして、
「ってことで――」
と、話を進める。
「あんた、どんな条件がいい?」
「む……私に決めさせるつもりか?」
「そりゃ、あんたの問題だからな」
「……例えばだが、おまえに1ゼニー支払う、などという条件でもいいのか?」
「構わないぜ――ああ、ただし俺に復讐しないと誓約する、って条件は付け加えさせてもらうぜ」
「それは当然だろうが……やはり、それではおまえに得がないのではないか?」
「得、ねぇ」
マフィンの戸惑い顔に、スリュージも困ったように髪を掻く。
「実際、あんたの言う通り、得はないな。けど、面倒もなくて済む。つまり、妥当な解決案だ――違うか?」
「……気に食わんな」
「えぇー」
違うか違わないかを聞いたのに、返ってきたのは「気に食わない」の一言。これにはスリュージも、ますます困ってしまう。
そしてなぜか、スリュージが困り果てているのを見て、マフィンは勝ち誇ったように胸を張るのだ。
「おまえの言うことは理解した。違っていないと私も思う。だが、気に食わんから却下だ!」
「……えぇー」
「ぐうの音も出んか、ふふんっ」
「それは意味が違うと思う――いや、そうじゃない。そうじゃなくて、気に食わないというのはどういうことだ? あんたはどうしたいんだ?」
スリュージは妥当だと判断する解決案を提示した。そして相手も、それが妥当だと判断した。しかし、なのに相手はその案を否決した。否決された理由は「気に食わないから」だという。この場合、提案内容のどの部分が「気に食わない」のかを診断して修正と解決を図るべきだとスリュージは考えるのだが――修正案がさっぱり考えつかなかった。
気に食わないというのは、感情の問題だ。理論は合っている以上、そこに修正は必要ない。少なくともスリュージにはそうとしか判断できない。
修正すべき点がない以上、修正案は見つけられない――スリュージの演算では、そこまでが限界だった。
「ふむ……念のために聞くが、おまえは真面目に訊いているのか?」
思考の袋小路で立ち往生していたスリュージが我に返ると、マフィンが神妙な顔で彼を見つめていた。
「え……」
「おまえの言葉は正しい、間違いない、その通りだ――それは理解した。その上で、おまえの言う通りにするのが気に食わないのだ」
「えぇー……」
堂々と言い放たれた言葉に呆気に取られたスリュージだったが、すぐにその表情は眉根の寄った渋面へと変わっていく。
「……その言い方だと、あんたは俺が何を言っても、発言者である俺が気に食わないから、という理由で却下することになるんだが?」
「なんだ、分かっているではないか」
「当たり前のように言うのか!?」
むしろ肯定されてしまったことに、スリュージは驚愕だった。
「人間は本当に意味が分からん……。だからこそ、人里から距離を取っていたのに、どうして向こうからやって来たのか……はぁ、今更愚痴っても始まらないのは分かっているけど、どうして俺はこんなことで悩まなくちゃいけないんだろうな……はぁ」
「おい、独り言は一人のときに言いたまえ」
「なら、どこへなりとも出ていってくれんかね」
「おいおい、私はおまえの奴隷だぞ。主人を置いてどこへ行くというのだ?」
「奴隷なら奴隷らしくしてくれよ……」
「むっ、命令だな!」
「え?」
マフィンは張り切って言うや、スリュージが何かを言い返す間もあらば、全身鎧を装備解除した。
女ドワーフのPC・マフィンが、ぎりっと歯噛みする。その頬には、彼女が限定奴隷であることを示す紋様の奴隷紋が浮き出ていた。
「えぇ……あんた、死にたくないから奴隷になったんだよな?」
困惑と呆れの綯い交ぜになった顔をマフィンに向けているのは、鼠色のぼさぼさ髪をしたNPC人間男性・スリュージだった。
「……雰囲気だ」
「雰囲気ね。ほっぺに刺青までして、演技派なことで」
目を逸らしつつ言い返すマフィンに、スリュージは肩を竦めた。
マフィンの頬に浮き出ている奴隷紋だって、普通に消せるのだ。それを敢えて表示させているのは、マフィン自身が「そうしろ」と言って聞かなかったからだ。
「いっ、いやでも、私はおまえの悪辣な奸計に嵌められて不覚にも遅れを取ってしまったわけだから、その分を弁えさせるためにも、他人がぱっと見て、こいつ奴隷だと分かる徴というのはやはり必要だろう。うん、必要だ」
「えぇ……確かにデスペナが嫌なら奴隷になれとは言ったよ。言ったけれど、べつに晒し者にしようとかは思ってないんだが」
「かりに百歩譲ってそうだったとしても、それでは示しが付かないだろう!」
「誰に対して!?」
「私に対してだ!」
「……すまん、ちょっと整理させてくれ」
このやり取りも、もう何回目かなのだけど、やはりどうしてもスリュージには素直に頷きかねる論理展開なのだ。
「まず……あんたが俺の塒に襲撃をかけてきた」
「私は村人からの依頼を受けて、村外れの洞窟に住み着いた破落戸を討伐しに来たんだ!」
「……俺が勝手に住み着いたのが悪いと言えば悪いのかもしれんが、警告もなしに討伐依頼を出す村の連中、おっかないな」
「勝手に住み着いたのが悪い!」
「だったら、ここに住んじゃいけません、と立て札でもしておけと――……って、んなこと今更いいんだ。とにかく、あんたが俺の塒に襲撃を掛けてきて、返り討ちに遭った、と」
「洞窟の入り口に罠を張っていた卑怯者め!」
「いや、張るだろ。というか、警戒しろよ、侵入者」
「私は侵入者ではない。正義の味方だ!」
「はいはい……とにかく、正義に味方様は罠に嵌まって気絶したところを俺にふん縛られて、デスペナは嫌でずうぅッ、と鼻水が飛び散るくらい泣きじゃくって命乞いしたんだったな」
「……だって、この前のデスペナ終了時間がまだ終わってなかったんだもん」
ぽんぽん投げ交わしていた言葉のキャッチボールが、マフィンの手から落っこちる。マフィンは子供っぽく唇を尖らせていて、ちょっと古風な言いまわしの女騎士演技が形を潜めてしまう。そうなると、ドワーフという身長にマイナス補正が入る種族特性も相俟って、ひどく幼く見えてくる。
もっとも、ドワーフは筋力と胸囲にプラス補正が入るので、低身長なのにむちむちだったりバキバキだったりのロリ巨乳、ロリマッチョ巨乳になる。マフィンはゴリゴリの前衛ビルドなので、きっと後者だろう。だろうというのは、彼女は板金鎧で全身を覆っているので、体型が見極められないからだった。
「デスペナ、ね。あんたらは死んでも絶対に死なない代わりに、技能の熟練度が下がったり、持ち物を落としたりするんだっけ?」
「……そうだ」
「それで確か、デスペナが短期間に連続すると、熟練度の低下量や落とし物する確率がどんどん上がっていくんだったな」
「そうだ! だから、あのときは泥を啜ってでもデスペナを回避せねばならなかったのだ。私は名を捨てて実を取っただけだ。泣いて馬謖を斬ったのだ!」
「いや、それ意味違うだろ」
「こういうのはリズムだ、リズム。意味に拘るから、おまえはNPCなのだ」
「むっ……言っていることは理不尽なはずなのに、妙な説得力があるような……」
幻脳にとって、意味に拘るな、みたいな発言は殺し文句だったりする。無意味に脳を活動させる人間への複雑な気持ちを刺激させられるのだ。
「……ああ、また話を逸らされていた」
スリュージは自分の頭をとんと叩いて気を取り直し、状況整理を再開させる。
「とにかく、あんたは俺にみっともなく命乞いして、殺される代わりに……というか殺す気はなかったんだけど、まあとにかく、俺の奴隷になる契約を結んだわけだ」
「その通りだ。そのくらい、今更言われるまでもなく理解している!」
マフィンは偉そうに胸を張る。これが布の服装備だったりしたら、ドワーフ娘の巨乳が景気よく弾んだりしたのだろうが……残念、板金鎧だ。浪漫がない。
「理解してるのなら、もっと奴隷らしい態度をだな」
「だから先刻から再三言っているのだ。私にもっと奴隷の立場を教え込むようなことをしろ、と!」
「あー……おう、そうだな……うん」
事の起こりを一から考え直してみても、スリュージには何がどうしてこうなってしまったのか、やっぱりいまいち理解しかねた。
彼はただ放浪していて、偶々見つけた洞窟にしばらく厄介になっていただけなのだ。
そうしたらそこに女ドワーフの戦士がやってきて、獣対策として仕掛けていた罠に嵌まって、勝手に気絶。放置しておくわけにもいかずに拘束しておいたら、常態異常から立ち直った女ドワーフが「殺さないで!」と泣き喚くので、黙らせるつもりで奴隷契約用アイテム【白の契約書】を見せて「騒ぐと奴隷にするぞ!」と脅したら、「奴隷になります!」と即答された――という顛末だった。
「あれは本当に失敗だった。まさか、契約書を掲げた相手に向けて“奴隷になる”と宣言することが契約方法だと知らない奴がいるとは考えていなかったよ……」
「ははっ、想像力の欠如だな」
「……」
おまえが言うな、と怒鳴り返そうとしたスリュージだったが、そんなことをしても無駄だと考え直して、ぐっと言葉を呑み込んだ。その代りに、溜め息混じりの疑問を投げる。
「んで……あんた、これからどうするんだ?」
「どうする、とは?」
小首を傾げて、きょとんとするドワーフ女・マフィン。
その、まったく何も考えていないし、心配もしていない思考もしていませんよ、と言わんばかりの純心顔に、スリュージは言語化しがたいモヤモヤしたものが胸の内から込み上げてくる感覚を覚えた。そのモヤモヤが喉に支えたけれど、これも先ほどしたのと同じようにぐっと飲み下して、スリュージはマフィンに話しかけた。
「あんたがなったのは限定奴隷だ」
「限定?」
「……契約方法を知らなかった奴が、奴隷の種類を知っているはずもないか」
「いちいち嫌味はいい!」
「はいはい。んで……限定奴隷とは、条件付きの奴隷のことだ。設定された解除条件を満たせば、その時点で奴隷契約は解約になる。特定の仕事が終われば解約、一定期間で解約……なんていうのが、よくある使われ方だな」
「ふぅん、なるほどな……ということは、私も何かすれば奴隷ではなくなるのだな!」
「その通りだ」
「では、その条件とやらを言うがいい。どんなエロいことでもイヤらしいことでもスケベなことでも、やり遂げてみせようではないか!」
「……そうか」
エロいこととイヤらしいこととスケベなことは全部同じことだろう――などという野暮を言わない程度のことは、無意味への理解が足りていないと自覚しているスリュージにも配慮できるのだった。
「さあ、条件を言え。早く早く!」
「ない」
「そうか、ないか! ……なぜかッ!?」
「条件を決める前に、あんたが奴隷になると宣言したからだ」
「なんだと、私のせいか!? 条件がないということは、永遠に解約されんのか!?」
「いやいや、そうじゃない。条件はこれから決める、ということだ」
「……これから?」
「そう、これから」
マフィンからの鸚鵡返しに、スリュージはさらに復唱を返して頷いた。
そして、
「ってことで――」
と、話を進める。
「あんた、どんな条件がいい?」
「む……私に決めさせるつもりか?」
「そりゃ、あんたの問題だからな」
「……例えばだが、おまえに1ゼニー支払う、などという条件でもいいのか?」
「構わないぜ――ああ、ただし俺に復讐しないと誓約する、って条件は付け加えさせてもらうぜ」
「それは当然だろうが……やはり、それではおまえに得がないのではないか?」
「得、ねぇ」
マフィンの戸惑い顔に、スリュージも困ったように髪を掻く。
「実際、あんたの言う通り、得はないな。けど、面倒もなくて済む。つまり、妥当な解決案だ――違うか?」
「……気に食わんな」
「えぇー」
違うか違わないかを聞いたのに、返ってきたのは「気に食わない」の一言。これにはスリュージも、ますます困ってしまう。
そしてなぜか、スリュージが困り果てているのを見て、マフィンは勝ち誇ったように胸を張るのだ。
「おまえの言うことは理解した。違っていないと私も思う。だが、気に食わんから却下だ!」
「……えぇー」
「ぐうの音も出んか、ふふんっ」
「それは意味が違うと思う――いや、そうじゃない。そうじゃなくて、気に食わないというのはどういうことだ? あんたはどうしたいんだ?」
スリュージは妥当だと判断する解決案を提示した。そして相手も、それが妥当だと判断した。しかし、なのに相手はその案を否決した。否決された理由は「気に食わないから」だという。この場合、提案内容のどの部分が「気に食わない」のかを診断して修正と解決を図るべきだとスリュージは考えるのだが――修正案がさっぱり考えつかなかった。
気に食わないというのは、感情の問題だ。理論は合っている以上、そこに修正は必要ない。少なくともスリュージにはそうとしか判断できない。
修正すべき点がない以上、修正案は見つけられない――スリュージの演算では、そこまでが限界だった。
「ふむ……念のために聞くが、おまえは真面目に訊いているのか?」
思考の袋小路で立ち往生していたスリュージが我に返ると、マフィンが神妙な顔で彼を見つめていた。
「え……」
「おまえの言葉は正しい、間違いない、その通りだ――それは理解した。その上で、おまえの言う通りにするのが気に食わないのだ」
「えぇー……」
堂々と言い放たれた言葉に呆気に取られたスリュージだったが、すぐにその表情は眉根の寄った渋面へと変わっていく。
「……その言い方だと、あんたは俺が何を言っても、発言者である俺が気に食わないから、という理由で却下することになるんだが?」
「なんだ、分かっているではないか」
「当たり前のように言うのか!?」
むしろ肯定されてしまったことに、スリュージは驚愕だった。
「人間は本当に意味が分からん……。だからこそ、人里から距離を取っていたのに、どうして向こうからやって来たのか……はぁ、今更愚痴っても始まらないのは分かっているけど、どうして俺はこんなことで悩まなくちゃいけないんだろうな……はぁ」
「おい、独り言は一人のときに言いたまえ」
「なら、どこへなりとも出ていってくれんかね」
「おいおい、私はおまえの奴隷だぞ。主人を置いてどこへ行くというのだ?」
「奴隷なら奴隷らしくしてくれよ……」
「むっ、命令だな!」
「え?」
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