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カルナヴァル・ア・ロアンネル ~肉欲都市の謝肉祭 6/9
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「いやいや、あのときはマフィンがボス戦開始までに戻ってこられないんじゃないかと焦ったぜ」
「焦るくらいなら、おっぱい揉んだりしなければ良かったのだ」
ボス出現の予告演出である大量の蝙蝠が、洞窟内から溢れ出てくる。この蝙蝠は幻みたいなもので、攻撃しても無意味だし、ぶつかってもダメージを受けることはない。だからこうして、スリュージとマフィンは最後のお喋りに興じることができた。
「いやいやいや! あれは、おまえがいきなり感度急上昇させたからだろ。俺はいつも通りに愛撫したんだ」
「……いつもより、いやらしかった」
「それはない。AIがいつも通りと言ったら、それは間違いなくいつも通りなんだ」
しかつめらしく言われると、マフィンも一瞬、信じかけてしまう。
「なるほどな……って、いやいや。それは電脳の話だろうに」
電脳と幻脳、何が違うかと言えばほぼ全て違うのだけど、ざっくり言うと前者が「正しいこと」の組み合わせで動くのに対して、後者は「正しいこと以外のこと」の組み合わせで動く、みたいな感じだ。「カラスは黒い」なのか「黒以外の鳥はカラスではないらしい」か、だ。このらしいをどう認知するかが、電脳と幻脳の違いなのだ。たぶん。
「おまえの奴隷になって分かったことがある。NPCはわりと自由だ」
「……」
マフィンの断言に、スリュージは肩を竦めただけだった。
見せかけだけの蝙蝠が、洞窟正面に陣取った面々を擦り抜けて飛んでいき、燕のように急上昇する。振り向いた面々が見上げる中、空中に蟠った蝙蝠たちはみずから押し潰されようとするかのように集まっていって黒い球体となり――その球体が内側から弾けて、そいつは現れた。
そいつは一人の男性淫魔だった。ただし、普通の淫魔には発生しない黄金の髪をしている。身に纏っているものも他の淫魔と違って、薄布のひらひらした衣装と装飾品だ。扇情的で露出過多なのは他の淫魔と変わらないけれど、もっと華美で豪奢な装いだった。
そして身体から溢れる雰囲気も、他の淫魔より華やかで強そうだ。どちらかといえば華奢に見える、すらりとした体格なのに、なんだか強そうだ。売れっ子ホストというより、物語に出てくる王子様だ。
「……男のほうか」
スリュージが少し眉を顰めた。
【淫魔公子デサンドル】というのが、現れたボス淫魔の名前だ。普段は淫魔窟最深部に座しているボスだが、謝肉祭のイベントが発生すると、軍団推奨のレイドボスとして強化されて登場するのだった。ちなみに、ノーマル版でも強化版でも、二分の一の確率で女性淫魔型のボス【淫魔公主マウンディ】が出てくる。
強さやエロさはどちらも同じくらいなのだけど、どちらも異性のほうが対処しやすいので、出現したのが男性淫魔デサンドルだったことにスリュージは眉を顰めたのだった。
「つまり、私の独壇場だな!」
大斧をぶぅんと振りかぶったマフィンが大見得を切る。
「いや、独壇場は無理だろう。だっておまえ、そんなに強く――」
「あーっ、あーっ! 聞こえんな、聞こえんぞぉ!」
「……いや、いいけどな。おまえは死なないんだし」
「はっはっ、その言い方は、私が猪突して返り討ちに遭うことを確信しているように聞こえちゃうぞ」
「……」
「えっ、何か言ってよぉ」
「死んだら我慢訓練、凄いやつな」
「うぇッ!?」
「楽しみだな、マフィンの独壇場」
「いーやーッ!!」
少々わざとらしい掛け合いは、強がらないと萎縮してしまいそうだったマフィンを落ち着かせるためだった。その甲斐あって、大斧に縋りつくようだったマフィンの身体から余計な力が抜けていた。
「さて、そろそろ来るぞ。気合いを入れろ」
「言われなくとも!」
登場時の口上を言い終えた淫魔公子デサンドルが、ただの淫魔よりずっと大きな背中の皮翼をばさりと羽ばたかせた。それが戦闘開始の合図であり、イベントボス用の絶対防御圏が解除される。この瞬間を待ちに待っていた面々が、うおおぉと鯨波を上げて突っ込んでいく。
「あっ……う、うぅりゃあぁッ!!」
マフィンも一歩遅れて、デサンドルに斬りかかっていった。
●
淫魔公子デサンドル。倒錯的な衣装に身を包んだ王子様系の金髪イケメン男性淫魔。
その戦闘様式は魔術と体術を組み合わせたもので、中距離戦を得意としている。対集団ボスとして強化されていてもその様式は変わらず、幻影の魔術と足捌きで戦場を変幻自在に駆けまわり、戦士系プレイヤーには魔術で、魔術師系プレイヤーには体術での攻撃を仕掛けてくる。
蝶のように舞い、蜂のように刺す、だ。ジャブとフットワークで戦う、お手本通りのボクサーだ。弱点と言えば、大砲がないことくらいだ。
「あと三割切った! 休日、来るぞ!」
戦闘参加者の誰かが叫ぶ。敵の耐久度を見るスキルと、戦場でも声を響かせられるスキルを取っているようだから、指揮官構成の誰かだろう。
ほとんどのボスが、耐久度が一定割合になると解禁になる能力を具えている。例えば攻撃力の強化だったり、攻撃パターンの変化だったり、追加スキルを使うようになったり――だ。
デサンドルはそのうちの三番目、追加スキルを使ってくるタイプだった。
「いきり立て、善がり啼け!」
無敵状態で両手を広げて高笑いする動作から、戦場干渉スキル【淫魔の休日】が発動する。このスキルはイベント属性で、発動阻止はまず不可能だ。
デサンドルを中心にして広がった黒いオーラが戦場全体を夜にして、そこにいる者全員に状態異常を付与する。男性には【激昂】を、女性には【発情】を、だ。
そして同時に、デサンドル自身には「男性からのダメージを半減、女性からのダメージを倍増」の効果が付与される。
「うがぁ、身体が勝手に攻撃しやがる……!」
【激昂】になったスリュージは、無意味に錫杖をしゃんしゃん振りまわし始めた。
【激昂】の状態異常になると、とにかくひたすら攻撃動作を取り続けてしまうのだ。状態以上になるのを防ぐことが難しい以上、取れる対策は、近接武器を持って敵に突っ込め、だけだ。
「俺みたいな後衛とは相性最悪だな……くそっ!」
「私のような前衛アタッカーとは相性抜群だ! いくぞぉ! うわははーっ!」
無意味に錫杖を鳴らしながら顔を顰めるスリュージとは正反対に、マフィンは哄笑しながら駆け出していく。大斧を振りかぶってデサンドルに突貫していく後ろ姿に、スリュージは無駄な動きをしながら呆れ顔をする。
「女には【発情】の効果が出ているはずなのに、あいつ、なんで平気なんだ……あれか? 身体は敏感でも、身体を通さずに神経を直接刺激されるのは平気なのか? 身体は敏感、神経は鈍感、ってか?」
スリュージに理屈はよく分からなかったけれど、多くの女性が【発情】の効果を受けて身をくねらせているなか、マフィンは元気に斧を振りまわしていた。
男性キャラの与ダメが半減しているなか、マフィンは快調にデサンドルの耐久値を削っていく。
レイドボスの撃破報酬は、戦闘参加者全員に配布される「参戦報酬」の他に、与えたダメージ量などから算出される戦闘貢献度の順位に応じて配布される「貢献報酬」がある。男性陣は前衛しか役に立たず、それもダメージ半減。女性陣は発情のせいで動きに精彩を欠いている。そんななかで、男性陣に比して正味四倍のペースでデサンドルを攻め続けているマフィンは、このままいけば高めの貢献報酬を貰えてもおかしくない活躍ぶりだった。
「はっはっ! 身体が熱い、滾るようだ! ふはははっ!」
全身を板金で覆われ、頭にも庇と面頬付きの兜を被っているマフィンの姿は、まるで金属製の昆虫戦士だ。ドワーフなので上背は人間よりも低くなるけれど、その分、両手に構えたミノタウロス産の斧がいっそう大きく見えている。
哄笑しながら大斧を振りまわす鈍色の人間カブトムシは、大振りな攻撃を疲れ知らずに敢行している。貢献度競争でもトップに迫る勢いだったが、終盤にきて一気の追い上げを見せているのはマフィンだけではなかた。
「ここが勝負の懸けどころね――変ッ・身ッ!」
【聖女】ナナカセが、いま脱いだ下着を顔に被って、高らかに吠えた。
なお、ボス戦にあたって着直していた法衣とブラは、【発情】を食らった時点で脱ぎ捨てている。パンツはいま脱いで被った。
丸出しの股間から滴る蜜は、いま被ったパンツの中心部にも黒々とした染みとなって付着している。
その染みつきパンツが、変身の掛け声に応えて、光った。
光はナナカセを包み込んですぐ、スイッチを切ったように消えた。そこに立っていたのは、鈍い七色の光沢を帯びた純白のライダースーツに身を包んだナナカセだ。即ち、光と化した脱ぎたて染みつきパンツがナナカセに全身に張りつき、純白の全身スーツになったのだった。
なお、頭部にも同質の白い覆面を被っている。両目のところだけ刳り貫かれて大きなサングラスみたいになっているのが、どことなく女性用下着の形をしていた。
「天使合体形態、変身完了! いくわよ!」
純白のパンツ仮面ライダーが地を蹴ると、背中からまるで白鳥が翼を広げるかのような輝きが放たれる。光の翼をはためかせたパンツライダーは弾丸の如く、デサンドルに襲いかかった。
フィールド型スキル【淫魔の休日】発動によって一時的に持ち直したデサンドルだったが、発情をものともしない鈍感女や、発情に気を取られてもなお強い悪魔特効の天使パワーで攻めたてられると、形成は再び逆転。後はいいところなしで押し切られてしまった。
「ぬうぅ……人間ども、俺を倒すか」
耐久値の尽きたデサンドルが最後のイベントモードに入る。何が起きるのかを知っている女性陣は、約半数がこの隙に全力で退避する。残りの半数は、わくわく顔で待っている。そして、何が起きるか分かっていないマフィンや、合体モードの効果時間が終了した反動で連続絶頂ダンスしているナナカセだとかは、すっかり油断して佇んでいる。
「良かろう――祝福あれ!」
淫魔公子デサンドルは黒い皮翼と両腕を大きく広げて、爆発四散した。
「きゃあッ!?」
「んっほおぉッ♥♥」
爆発自体にダメージはなかった。しかし、爆発したデサンドルの身体は銀色の灰となって撒き散らされ、彼を取り囲んで武器を叩きつけていた連中を灰被りにした。
「うへっ……ぺっ、ぺっ!」
勝利の余韻に浸っていたマフィンは兜の庇を上げ、面頬を上げていたために、灰を顔面にたっぷり浴びてしまっていた。口に入った灰を、頻りにぺっぺっと吐き出している。
「ふっ、ふひ……ひ、ひひふ……ふふっ……♥」
ほぼ全裸なところに灰を浴びたナナカセは、仰向けで腰だけカクカク上下させながら駄目な感じに笑っているけれど、それは灰を浴びる前からだ。
銀色の灰はしばらくすると四月の雪よりも静かに消えていった。そうするともう、爆発の痕跡はどこにもなくなる。何も知らなければ、いまの爆発はただの演出だった思ったことだろう。
だけど、このボス戦に参加する者で、この灰がどんな効果を持っているのか下調べしてきていない者はいなかった――ごく一部の考えなしを除いて。
「焦るくらいなら、おっぱい揉んだりしなければ良かったのだ」
ボス出現の予告演出である大量の蝙蝠が、洞窟内から溢れ出てくる。この蝙蝠は幻みたいなもので、攻撃しても無意味だし、ぶつかってもダメージを受けることはない。だからこうして、スリュージとマフィンは最後のお喋りに興じることができた。
「いやいやいや! あれは、おまえがいきなり感度急上昇させたからだろ。俺はいつも通りに愛撫したんだ」
「……いつもより、いやらしかった」
「それはない。AIがいつも通りと言ったら、それは間違いなくいつも通りなんだ」
しかつめらしく言われると、マフィンも一瞬、信じかけてしまう。
「なるほどな……って、いやいや。それは電脳の話だろうに」
電脳と幻脳、何が違うかと言えばほぼ全て違うのだけど、ざっくり言うと前者が「正しいこと」の組み合わせで動くのに対して、後者は「正しいこと以外のこと」の組み合わせで動く、みたいな感じだ。「カラスは黒い」なのか「黒以外の鳥はカラスではないらしい」か、だ。このらしいをどう認知するかが、電脳と幻脳の違いなのだ。たぶん。
「おまえの奴隷になって分かったことがある。NPCはわりと自由だ」
「……」
マフィンの断言に、スリュージは肩を竦めただけだった。
見せかけだけの蝙蝠が、洞窟正面に陣取った面々を擦り抜けて飛んでいき、燕のように急上昇する。振り向いた面々が見上げる中、空中に蟠った蝙蝠たちはみずから押し潰されようとするかのように集まっていって黒い球体となり――その球体が内側から弾けて、そいつは現れた。
そいつは一人の男性淫魔だった。ただし、普通の淫魔には発生しない黄金の髪をしている。身に纏っているものも他の淫魔と違って、薄布のひらひらした衣装と装飾品だ。扇情的で露出過多なのは他の淫魔と変わらないけれど、もっと華美で豪奢な装いだった。
そして身体から溢れる雰囲気も、他の淫魔より華やかで強そうだ。どちらかといえば華奢に見える、すらりとした体格なのに、なんだか強そうだ。売れっ子ホストというより、物語に出てくる王子様だ。
「……男のほうか」
スリュージが少し眉を顰めた。
【淫魔公子デサンドル】というのが、現れたボス淫魔の名前だ。普段は淫魔窟最深部に座しているボスだが、謝肉祭のイベントが発生すると、軍団推奨のレイドボスとして強化されて登場するのだった。ちなみに、ノーマル版でも強化版でも、二分の一の確率で女性淫魔型のボス【淫魔公主マウンディ】が出てくる。
強さやエロさはどちらも同じくらいなのだけど、どちらも異性のほうが対処しやすいので、出現したのが男性淫魔デサンドルだったことにスリュージは眉を顰めたのだった。
「つまり、私の独壇場だな!」
大斧をぶぅんと振りかぶったマフィンが大見得を切る。
「いや、独壇場は無理だろう。だっておまえ、そんなに強く――」
「あーっ、あーっ! 聞こえんな、聞こえんぞぉ!」
「……いや、いいけどな。おまえは死なないんだし」
「はっはっ、その言い方は、私が猪突して返り討ちに遭うことを確信しているように聞こえちゃうぞ」
「……」
「えっ、何か言ってよぉ」
「死んだら我慢訓練、凄いやつな」
「うぇッ!?」
「楽しみだな、マフィンの独壇場」
「いーやーッ!!」
少々わざとらしい掛け合いは、強がらないと萎縮してしまいそうだったマフィンを落ち着かせるためだった。その甲斐あって、大斧に縋りつくようだったマフィンの身体から余計な力が抜けていた。
「さて、そろそろ来るぞ。気合いを入れろ」
「言われなくとも!」
登場時の口上を言い終えた淫魔公子デサンドルが、ただの淫魔よりずっと大きな背中の皮翼をばさりと羽ばたかせた。それが戦闘開始の合図であり、イベントボス用の絶対防御圏が解除される。この瞬間を待ちに待っていた面々が、うおおぉと鯨波を上げて突っ込んでいく。
「あっ……う、うぅりゃあぁッ!!」
マフィンも一歩遅れて、デサンドルに斬りかかっていった。
●
淫魔公子デサンドル。倒錯的な衣装に身を包んだ王子様系の金髪イケメン男性淫魔。
その戦闘様式は魔術と体術を組み合わせたもので、中距離戦を得意としている。対集団ボスとして強化されていてもその様式は変わらず、幻影の魔術と足捌きで戦場を変幻自在に駆けまわり、戦士系プレイヤーには魔術で、魔術師系プレイヤーには体術での攻撃を仕掛けてくる。
蝶のように舞い、蜂のように刺す、だ。ジャブとフットワークで戦う、お手本通りのボクサーだ。弱点と言えば、大砲がないことくらいだ。
「あと三割切った! 休日、来るぞ!」
戦闘参加者の誰かが叫ぶ。敵の耐久度を見るスキルと、戦場でも声を響かせられるスキルを取っているようだから、指揮官構成の誰かだろう。
ほとんどのボスが、耐久度が一定割合になると解禁になる能力を具えている。例えば攻撃力の強化だったり、攻撃パターンの変化だったり、追加スキルを使うようになったり――だ。
デサンドルはそのうちの三番目、追加スキルを使ってくるタイプだった。
「いきり立て、善がり啼け!」
無敵状態で両手を広げて高笑いする動作から、戦場干渉スキル【淫魔の休日】が発動する。このスキルはイベント属性で、発動阻止はまず不可能だ。
デサンドルを中心にして広がった黒いオーラが戦場全体を夜にして、そこにいる者全員に状態異常を付与する。男性には【激昂】を、女性には【発情】を、だ。
そして同時に、デサンドル自身には「男性からのダメージを半減、女性からのダメージを倍増」の効果が付与される。
「うがぁ、身体が勝手に攻撃しやがる……!」
【激昂】になったスリュージは、無意味に錫杖をしゃんしゃん振りまわし始めた。
【激昂】の状態異常になると、とにかくひたすら攻撃動作を取り続けてしまうのだ。状態以上になるのを防ぐことが難しい以上、取れる対策は、近接武器を持って敵に突っ込め、だけだ。
「俺みたいな後衛とは相性最悪だな……くそっ!」
「私のような前衛アタッカーとは相性抜群だ! いくぞぉ! うわははーっ!」
無意味に錫杖を鳴らしながら顔を顰めるスリュージとは正反対に、マフィンは哄笑しながら駆け出していく。大斧を振りかぶってデサンドルに突貫していく後ろ姿に、スリュージは無駄な動きをしながら呆れ顔をする。
「女には【発情】の効果が出ているはずなのに、あいつ、なんで平気なんだ……あれか? 身体は敏感でも、身体を通さずに神経を直接刺激されるのは平気なのか? 身体は敏感、神経は鈍感、ってか?」
スリュージに理屈はよく分からなかったけれど、多くの女性が【発情】の効果を受けて身をくねらせているなか、マフィンは元気に斧を振りまわしていた。
男性キャラの与ダメが半減しているなか、マフィンは快調にデサンドルの耐久値を削っていく。
レイドボスの撃破報酬は、戦闘参加者全員に配布される「参戦報酬」の他に、与えたダメージ量などから算出される戦闘貢献度の順位に応じて配布される「貢献報酬」がある。男性陣は前衛しか役に立たず、それもダメージ半減。女性陣は発情のせいで動きに精彩を欠いている。そんななかで、男性陣に比して正味四倍のペースでデサンドルを攻め続けているマフィンは、このままいけば高めの貢献報酬を貰えてもおかしくない活躍ぶりだった。
「はっはっ! 身体が熱い、滾るようだ! ふはははっ!」
全身を板金で覆われ、頭にも庇と面頬付きの兜を被っているマフィンの姿は、まるで金属製の昆虫戦士だ。ドワーフなので上背は人間よりも低くなるけれど、その分、両手に構えたミノタウロス産の斧がいっそう大きく見えている。
哄笑しながら大斧を振りまわす鈍色の人間カブトムシは、大振りな攻撃を疲れ知らずに敢行している。貢献度競争でもトップに迫る勢いだったが、終盤にきて一気の追い上げを見せているのはマフィンだけではなかた。
「ここが勝負の懸けどころね――変ッ・身ッ!」
【聖女】ナナカセが、いま脱いだ下着を顔に被って、高らかに吠えた。
なお、ボス戦にあたって着直していた法衣とブラは、【発情】を食らった時点で脱ぎ捨てている。パンツはいま脱いで被った。
丸出しの股間から滴る蜜は、いま被ったパンツの中心部にも黒々とした染みとなって付着している。
その染みつきパンツが、変身の掛け声に応えて、光った。
光はナナカセを包み込んですぐ、スイッチを切ったように消えた。そこに立っていたのは、鈍い七色の光沢を帯びた純白のライダースーツに身を包んだナナカセだ。即ち、光と化した脱ぎたて染みつきパンツがナナカセに全身に張りつき、純白の全身スーツになったのだった。
なお、頭部にも同質の白い覆面を被っている。両目のところだけ刳り貫かれて大きなサングラスみたいになっているのが、どことなく女性用下着の形をしていた。
「天使合体形態、変身完了! いくわよ!」
純白のパンツ仮面ライダーが地を蹴ると、背中からまるで白鳥が翼を広げるかのような輝きが放たれる。光の翼をはためかせたパンツライダーは弾丸の如く、デサンドルに襲いかかった。
フィールド型スキル【淫魔の休日】発動によって一時的に持ち直したデサンドルだったが、発情をものともしない鈍感女や、発情に気を取られてもなお強い悪魔特効の天使パワーで攻めたてられると、形成は再び逆転。後はいいところなしで押し切られてしまった。
「ぬうぅ……人間ども、俺を倒すか」
耐久値の尽きたデサンドルが最後のイベントモードに入る。何が起きるのかを知っている女性陣は、約半数がこの隙に全力で退避する。残りの半数は、わくわく顔で待っている。そして、何が起きるか分かっていないマフィンや、合体モードの効果時間が終了した反動で連続絶頂ダンスしているナナカセだとかは、すっかり油断して佇んでいる。
「良かろう――祝福あれ!」
淫魔公子デサンドルは黒い皮翼と両腕を大きく広げて、爆発四散した。
「きゃあッ!?」
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爆発自体にダメージはなかった。しかし、爆発したデサンドルの身体は銀色の灰となって撒き散らされ、彼を取り囲んで武器を叩きつけていた連中を灰被りにした。
「うへっ……ぺっ、ぺっ!」
勝利の余韻に浸っていたマフィンは兜の庇を上げ、面頬を上げていたために、灰を顔面にたっぷり浴びてしまっていた。口に入った灰を、頻りにぺっぺっと吐き出している。
「ふっ、ふひ……ひ、ひひふ……ふふっ……♥」
ほぼ全裸なところに灰を浴びたナナカセは、仰向けで腰だけカクカク上下させながら駄目な感じに笑っているけれど、それは灰を浴びる前からだ。
銀色の灰はしばらくすると四月の雪よりも静かに消えていった。そうするともう、爆発の痕跡はどこにもなくなる。何も知らなければ、いまの爆発はただの演出だった思ったことだろう。
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