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Merle

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カルナヴァル・ア・ロアンネル ~肉欲都市の謝肉祭 8/9

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「いやいや、あのときはマフィンがボス戦開始までに戻ってこられないんじゃないかと焦ったぜ」
「焦るくらいなら、おっぱい揉んだりしなければ良かったのだ」

 ボス出現の予告演出である大量の蝙蝠が、洞窟内から溢れ出てくる。この蝙蝠は幻みたいなもので、攻撃しても無意味だし、ぶつかってもダメージを受けることはない。だからこうして、スリュージとマフィンは最後のお喋りに興じることができていた。

「いやいやいや! あれは、おまえがいきなり感度急上昇させたからだろ。俺はいつも通りに愛撫したんだ」
「……いつもより、いやらしかった」
「それはない。AIがいつも通りと言ったら、それは間違いなくいつも通りなんだ」

 しかつめらしく言われると、マフィンも一瞬、信じかけてしまう。

「なるほどな……って、いやいや。それは電脳の話だろうに」

 電脳と幻脳、何が違うかと言えばほぼ全て違うのだけど、ざっくり言うと前者が「正しいこと」の組み合わせで動くのに対して、後者は「正しいこと以外のこと」の組み合わせで動く、みたいな感じだ。「カラスは黒い」なのか「黒以外の鳥はカラスではない」か、だ。このをどう認知するかが、電脳と幻脳の違いなのだ。たぶん。

「おまえの奴隷になって分かったことがある。NPCおまえたちはわりと自由ファジーだ」
「……」

 マフィンの断言に、スリュージは肩を竦めただけだった。
 見せかけだけの蝙蝠が、洞窟正面に陣取った面々を擦り抜けて飛んでいき、燕のように急上昇する。振り向いた面々が見上げる中、空中に蟠った蝙蝠たちはみずから押し潰されようとするかのように集まっていって黒い球体となり――その球体が内側から弾けて、は現れた。
 そいつは一人の男性淫魔だった。ただし、普通の淫魔には発生しない黄金の髪をしている。身に纏っているものも他の淫魔と違って、薄布シースルーのひらひらした衣装と装飾品だ。扇情的で露出過多なのは他の淫魔と変わらないけれど、もっと華美で豪奢な装いだった。
 そして身体から溢れる雰囲気オーラも、他の淫魔より華やかで強そうだ。どちらかといえば華奢に見える、すらりとした体格なのに、なんだか強そうだ。売れっ子ホストというより、物語に出てくる竜でも悪魔でも倒しちゃう系の王子様だ。

「……男のほうか」

 スリュージが少し眉を顰めた。
 【淫魔公子デサンドル】というのが、現れたボス淫魔の名前だ。普段は淫魔窟最深部に座しているボスだが、謝肉祭のイベントが発生すると、軍団推奨のレイドボスとして強化されて登場するのだった。ちなみに、ノーマル版でも強化版でも、二分の一の確率で女性淫魔型のボス【淫魔公主マンディ】が出てくる。
 強さやエロさはどちらも同じくらいなのだけど、どちらも異性のほうが対処しやすいので、出現したのが男性淫魔デサンドルだったことにスリュージは眉を顰めたのだった。

「つまり、私の独壇場だな!」

 大斧をぶぅんと振りかぶったマフィンが大見得を切る。

「いや、独壇場は無理だろう。だっておまえ、そんなに強く――」
「あーっ、あーっ! 聞こえんな、聞こえんぞぉ!」
「……いや、いいけどな。おまえは死なないんだし」
「はっはっ、その言い方は、私が猪突して返り討ちに遭うことを確信しているように聞こえちゃうぞ」
「……」
「えっ、何か言ってよぉ」
「死んだら我慢訓練、凄いやつな」
「うぇッ!?」
「楽しみだな、マフィンの独壇場」
「いーやーッ!!」

 少々わざとらしい掛け合いは、強がらないと萎縮してしまいそうだったマフィンを落ち着かせるためだった。その甲斐あって、大斧に縋りつくようだったマフィンの身体から余計な力が抜けていた。

「さて、そろそろ来るぞ。気合いを入れろ」
「言われなくとも!」

 登場時の口上を言い終えた淫魔公子デサンドルが、ただの淫魔よりずっと大きな背中の皮翼をばさりと羽ばたかせた。それが戦闘開始の合図であり、イベントボス用の絶対防御圏が解除される。この瞬間を待ちに待っていた面々が、うおおぉと鯨波を上げて突っ込んでいく。

「あっ……う、うぅりゃあぁッ!!」

 マフィンも一歩遅れて、デサンドルに斬りかかっていった。

 ●

 淫魔公子デサンドル。倒錯的なビザール衣装に身を包んだ王子様系の金髪イケメン男性淫魔。
 その戦闘様式スタイルは魔術と体術を組み合わせたもので、中距離戦を得意としている。対集団ボスとして強化されていてもその様式は変わらず、幻影の魔術と足捌きで戦場を変幻自在に駆けまわり、戦士系プレイヤーには魔術で、魔術師系プレイヤーには体術での攻撃を仕掛けてくる。
 蝶のように舞い、蜂のように刺す、だ。ジャブとフットワークで戦う、お手本通りのボクサーだ。弱点と言えば、大砲ストレートがないことくらいだ。

「あと三割切った! 、来るぞ!」

 戦闘参加者の誰かが叫ぶ。敵の耐久度HPを見るスキルと、戦場でも声を響かせられるスキルを取っているようだから、指揮官構成ビルドの誰かだろう。
 ほとんどのボスが、耐久度が一定割合になると解禁になる能力を具えている。例えば攻撃力の強化だったり、攻撃パターンの変化だったり、追加スキルを使うようになったり――だ。
 デサンドルはそのうちの三番目、追加スキルを使ってくるタイプだった。

「いきり立て、善がり啼け!」

 無敵状態で両手を広げて高笑いする動作から、戦場干渉スキル【淫魔の休日ディマンシュデラモー】が発動する。このスキルはイベント属性で、発動阻止はまず不可能だ。
 デサンドルを中心にして広がった黒いオーラが戦場全体を夜にして、そこにいる者全員に状態異常を付与する。男性には【激昂】を、女性には【発情】を、だ。
 そして同時に、デサンドル自身には「男性からのダメージを半減、女性からのダメージを倍増」の効果が付与される。

「うがぁ、身体が勝手に攻撃しやがる……!」

 【激昂】になったスリュージは、無意味に錫杖ワンドをしゃんしゃん振りまわし始めた。
 【激昂】の状態異常になると、とにかくひたすら攻撃動作を取り続けてしまうのだ。状態異常になるのを防ぐことが難しい以上、取れる対策は、近接武器を持って敵に突っ込め、だけだ。

「俺みたいな後衛とは相性最悪だな……くそっ!」
「私のような前衛アタッカーとは相性抜群だ! いくぞぉ! うわははーっ!」

 無意味に錫杖を鳴らしながら顔を顰めるスリュージとは正反対に、マフィンは哄笑しながら駆け出していく。大斧を振りかぶってデサンドルに突貫していく後ろ姿に、スリュージは無駄な動きをしながら呆れ顔をする。

「いや、おまえは【激昂】じゃなくて【発情】だろ……ん? 女には【発情】の効果が出ているはずなのに、あいつ、なんで平気なんだ……あれか? 身体は敏感でも、身体を通さずに神経を直接刺激されるのは平気なのか? 身体は敏感、神経は鈍感、ってか?」

 スリュージに理屈はよく分からなかったけれど、多くの女性が【発情】の効果を受けて身をくねらせているなか、マフィンは元気に斧を振りまわしていた。
 男性キャラの与ダメが半減しているなか、マフィンは快調にデサンドルの耐久値を削っていく。
 レイドボスの撃破報酬は、戦闘参加者全員に配布される「参戦報酬ベーシック」の他に、与えたダメージ量などから算出される戦闘貢献度の順位に応じて配布される「貢献報酬ヴァリュアブル」がある。男性陣は前衛しか役に立たず、それもダメージ半減。女性陣は発情のせいで動きに精彩を欠いている。そんななかで、男性陣に比して正味四倍のペースでデサンドルを攻め続けているマフィンは、このままいけば高めの貢献報酬を貰えてもおかしくない活躍ぶりだった。

「はっはっ! 身体が熱い、滾るようだ! ふはははっ!」

 全身を板金で覆われ、頭にも庇と面頬付きの兜を被っているマフィンの姿は、まるで金属製の昆虫戦士だ。ドワーフなので上背は人間よりも低くなるけれど、その分、両手に構えたミノタウロス産の斧がいっそう大きく見えている。
 哄笑しながら大斧を振りまわす鈍色の人間カブトムシは、大振りな攻撃を疲れ知らずに敢行している。貢献度競争でもトップに迫る勢いだったが、終盤にきて一気の追い上げを見せているのはマフィンだけではなかた。

「ここが勝負の懸けどころね――変ッ・身ッライド!」

 【聖女】ナナカセが、いま脱いだ下着パンツを顔に被って、高らかに吠えた。
 なお、ボス戦にあたって着直していた法衣とブラは、【発情】を食らった時点で脱ぎ捨てている。パンツはいま脱いで被った。
 丸出しの股間から滴る蜜は、いま被ったパンツの中心部にも黒々とした染みとなって付着している。
 その染みつきパンツが、変身の掛け声に応えて、光った。
 光はナナカセを包み込んですぐ、スイッチを切ったように消えた。そこに立っていたのは、鈍い七色の光沢を帯びた純白のライダースーツに身を包んだナナカセだ。即ち、光と化した脱ぎたて染みつきパンツがナナカセに全身に張りつき、純白の全身スーツになったのだった。
 なお、頭部にも同質の白い覆面を被っている。両目のところだけ刳り貫かれて大きなサングラスみたいになっているのが、どことなく女性用下着の形をしていた。

天使合体形態アドベントモード、変身完了! いくわよ!」

 純白のパンツ仮面ライダーが地を蹴ると、背中からまるで白鳥が翼を広げるかのような輝きが放たれる。光の翼をはためかせたパンツライダーは弾丸の如く、デサンドルに襲いかかった。
 フィールド型スキル【淫魔の休日】発動によって一時的に持ち直したデサンドルだったが、発情をものともしない鈍感女や、発情に気を取られてもなお強い悪魔特効の天使パワーで攻めたてられると、形成は再び逆転。後はいいところなしで押し切られてしまった。

「ぬうぅ……人間ども、俺を倒すか」

 耐久値の尽きたデサンドルが最後のイベントモードに入る。何が起きるのかを知っている女性陣は、約半数がこの隙に全力で退避する。残りの半数は、わくわく顔で待っている。そして、何が起きるか分かっていないマフィンや、合体モードの効果時間が終了した反動で連続絶頂ダンスびくんびくんしているナナカセだとかは、すっかり油断して佇んでいる。

「良かろう――祝福のろいあれ!」

 淫魔公子デサンドルは黒い皮翼と両腕を大きく広げて、爆発四散した。

「きゃあッ!?」
「んっほおぉッ♥♥」

 爆発自体にダメージはなかった。しかし、爆発したデサンドルの身体は銀色の灰となって撒き散らされ、彼を取り囲んで武器を叩きつけていた連中を灰被りサンドリヨンにした。

「うへっ……ぺっ、ぺっ!」

 勝利の余韻に浸って兜から顔を出していたマフィンは、灰を正面から浴びてしまっていた。口に入った灰を、頻りにぺっぺっと吐き出している。

「ふっ、ふひ……ひ、ひひふ……ふふっ……♥」

 ほぼ全裸なところに灰を浴びたナナカセは、仰向けで腰だけカクカク上下させながら駄目な感じに笑っているけれど、それは灰を浴びる前からだ。
 銀色の灰はしばらくすると四月の雪よりも静かに消えていった。そうするともう、爆発の痕跡はどこにもなくなる。何も知らなければ、いまの爆発はただの演出だった思ったことだろう。
 だけど、このボス戦に参加する者で、この灰がどんな効果を持っているのか下調べしてきていない者はいなかった――ごく一部の考えなしを除いて。

 ●

「はっふうぅ、うっ、っ……うぅ、辛いぃっよおぉ……ッ」

 肉欲都市には掃いて捨てるほどある宿の一室にて、のマフィンはベッドの上でのたうっていた。

「そんなに辛いんなら、なんで逃げずに灰を被ったんだよ。わざわざ兜を面を外してまでよぉ」
「だって知らなかったんだもっ……んっ、んんぁ、あっ……!」

 スリュージの呆れ声に、マフィンが言い返した途中で苦しげに言葉を切って、仰向けで大の字になっている身体をシーツにぐったりと沈めた。
 その両手両足には手錠足錠が嵌められている。その錠からは鎖が伸びていて、それぞれベッドの四隅に突き出ている支柱に括りつけられていた。
 マフィンはベッドに仰向けで拘束されていた。だけど、そのままじっとはしていなかった。
 時々不規則に、びくっびくっと電気仕掛けのように腰が跳ねて、ショートパンツを愛蜜でぐっしょり張りつかせた股間を突き上げたり、巨乳を隠すタンクトップが捲れてしまいそうなほど急角度のブリッジを決めたりする。
 まるで牝穴に振動する玩具ががっちり刺さっているかのようだけど、そうではなかった。まんこはぽっかりと穴を開かせていて、ショートパンツの内側でバケツをひっくり返したような大量の愛汁をぶちまけていた。
 むしろ、この中身を溢れさせ続けている肉壺バケツに太いもので栓をしてやれば、マフィンもベッドの上で背骨の限界に挑むようなことをせずに済んでいたはずだ。
 だけど、それは問題の先送りにしかならないことを、苦悶する彼女をベッドの横に跪いて見守っているスリュージは理解していた。

「もう少し予習しておけば、こんなことにならなかったんだぞ」

 ……理解していたし、今更何を言っても愚痴にしかならないと分かっているけれど、言わずにはいられなかった。

「だっ、だって、だって……っ、こんな状態異常、あるなんてっ、っ、うぅ、ううぅ!!」

 マフィンには言い訳する余裕もない。臍の奥から滾々と沸き上がってくる欲求で身体も思考あたまも冒されてしまって、悶えて唸る以外には、ただひとつのことしか意識できなくなっていた。

「せー、え、きぃ……飲ませてぇ……!」
「駄目だ、マフィン。我慢しろ」
「やあぁ! だって飲んだらこれ、勝手に感じて辛いの治まるんでっひゅおおぉッ♥ おっ、お、おおぉんんッ♥♥」
「おっ、おい、大丈夫か!?」
「だいじょっ、ぶに見えっ、かっはああぁッ♥ んんんにゅぅああッ♥ ちゅうぅらぁいいぃッ♥」

 辛い、と言うことさえ上手くできないほど呂律が死んでいる。
 臍の内から溢れ出る快感はマフィンの顎を開きっぱなしにさせ、舌をRの発音を練習するときみたいに突っ張ったままにさせる。そんな口では呂律が回ろうはずもない。

「マフィン、落ち着け。無理に喋ろうとするな」
「せーえぇッ! ……っきいいぃッ!!」

 残念ながらスリュージの声は、マフィンの耳に入っていない。自分の奇声が大きすぎるようだ。

「……どうして【発情】はほとんど効かなかったのに、【精液中毒】はこうも効き過ぎるほど効いているんだ?」

 スリュージはベッドで悶えるマフィンを見下ろし、首を捻った。
 マフィンがいま苦しんでいるのは、淫魔公子デサンドルが撃破されたのと同時に撒き散らした銀色の灰を浴びたせいだ。あれは【飢餓の灰】というスキルで、灰を浴びてしまった者が男性だった場合は効果なしだけど、女性だった場合には【精液中毒】の淫紋が強制刻印されてしまうのだった。魔術への抵抗力が強ければ強制刻印を防げるのかもしれないけれど、真っ白な全身スーツ姿になって無双していた【聖女】も刻印を食らっていたから、まず防げるものではないのだろう。
 いや、あのときの【聖女】は全身スーツが解除されたほぼ全裸姿で仰け反り絶頂していたから、最低レベルの弱化デバフ魔術でも食らっていたかもしれないが……。
 まあとにかく、マフィンはせっかく甲冑で全身防御していたというのに、不用意に晒してしまった顔面にたっぷりと【飢餓の灰】を浴びて、この様になってしまったのだった。

「ふぅむ、そうか……精神しんけいは鈍感だから、そっちに作用する【発情】はあまり効果がなかったけれど、淫紋はアバターに作用するんだな。いや、淫紋はというか、【精液中毒】の中毒症がアバターに作用しているのか」

 スリュージが見るところ、マフィンが苦しんでいるのは精液に対する禁断症状が、アバターの感覚器を刺激するという形で発現しているせいだ。

「厄介だな、まったく……こいつの身体はどうしてこうして、無駄敏感なんだかなぁまったくよぅ」
「ひゅうああぁッ♥♥」

 スリュージの嘆息はマフィンの嬌声に呑まれてしまう。

「んぅあ、あっ……っ……これっ、せーえき飲んだらにゃおんにゃあぁッ♥ 飲ましぇえへえぇッ♥ せーぇっきいいぃッ!!」
「ああ、確かに飲めば禁断症状の発作は治まるよ。けどな、それは一時的に、だ。精液を飲めば飲んだ分だけ中毒のレベルが上がって、発作の頻度も強さも今よりずっと酷いことになるんだ。だから、我慢しろ」
「むうぅりいいぃッ!! 我慢無ぅ理いいぃッ!!」

 マフィンが身体ごと頭を振ると、四肢の手錠足錠からベッドの支柱へと伸びる鎖がじゃらじゃらと耳障りな音を立てる。それがまたスリュージの回路しこうにノイズを走らせて、無意味な処理に意識メモリを割かせるのだ。

「――ああ、これか。これが、ってことか」

 結論を導くためではない、ただ思考するためだけの思考。本来なら無視スキップされて然るべき雑念ノイズメモリの一部を使用している。その理由を自問したスリュージが得た回答は、何度思考しても同じ結論しか出ない問題に対して、それでも違う結論を導こうとして思考を続けているから――だった。
 新しい判断材料が加われば結論が変わるかもしれないと考えるからこそ、明らかなノイズまで拾ってしまうのだ。そして結果、処理速度は鈍り、挙げ句に目詰まりオーバーフローまで起こして、要するに思考停止してしまう――。
 思考を深めようとすればするほど、かえって思考は停滞していくという矛盾は、焦燥感という形になってスリュージの表層意識インターフェースに現れる――つまりそれが、だった。

「きっひいいぃ! 苦しっ、るっしいぃ! 身体熱いよぉ! 痒いよぉ! せーえきっいいぃ! 治してえぇ、飲ましぇれえぇッ!!」

 断末魔のような叫び声を掻き消すように、じゃらじゃらと鎖が鳴り響く。

「ああっ、煩いな! マフィン、我慢しろ。我慢するしかないんだ!」
「無うぅううぅッ! 理ぃいいぃッ!!」

 ガシャン、ガシャンガシャン!

「あ――」

 と言う間もなかった。スリュージが口を開いたときには、マフィンの両手両足を拘束していた鎖は物々しい音を立てて引き千切られていた。
 宿屋のベッドはその簡素な見た目に反して不壊属性の構造物だけど、手錠と足錠のほうはその厳つい見た目に反して破壊可能なのだった。
 鎖が千切れてすぐに錠本体もまとめて消滅する。

「ふぅ……っふうぅ……ッ……」

 四肢の自由を取り戻したマフィンは荒い呼吸に肩を怒らせながら起き上がると、ぐりんっと機械仕掛けのように首を真横へ曲げてスリュージを見た。

「あっ!」

 今度は、あ、と言えた。だけど、それがやっとだった。

「せえぇーッ! っきいいぃッ!!」
「うおぉッ!?」

 猿のような奇声を上げて、マフィンはスリュージに跳びかかった。
 瞬発力アジリティより最大出力ストレングス特化のマフィンとはいえ、至近距離からのぶちかましだ。後衛のスリュージは椅子から腰を浮かせる間もなく、マフィンごと派手に吹っ飛んで床に押し倒された。性的な意味ではなく、プロレス的アメフト的な意味でだ。

「ぐぅえ――おい、マフィン!」

 PCであったならば、背中を床に叩きつけられた衝撃で息が止まったになっていたことだろう。だけどNPCのスリュージは生身の癖に引き摺られたりすることなく、すぐさまマフィンに食ってかかった。
 ただし、何の意味もなかった。

「……マフィン?」
「せー……えっ! きいぃッ!!」
「うっおぉ!?」

 それは淫魔などという蠱惑的なものではなかった。スリュージの腰に跨がっていたのは、一匹の搾精モンスターだった。
 スリュージはNPCの自分にも恐怖と呼べる感覚があるのだと、状態異常にかかったわけでもないのに硬直した身体で考えていた。いや、NPCには執着あいを感じる機能があるのだから恐怖くらい覚えて当然か、と考え直しもした。

「……あぁ」

 これが現実逃避か、と納得しながら、スリュージはマフィンの手でズボンと下着を破り取られていった。
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