4 / 9
2 エリム村の暮らし
2-3 マイの兄
しおりを挟む
マイが部屋に入っても、宿屋の女性従業員は皆気づかないほどに話に花を咲かせていた。彼女らはいつもと違う、煌びやかな衣装に身を包み、肌を白くし、唇は売れた果実のように艶やかに色づけられていた。部屋には女性の香りがむんと広がっており、その香りの強さにマイは思わず顔をしかめた。
「お母さん、レンに呼ばれてきたんだけど。」
女性の輪の中心にいる、背が高く、はっきりとした目鼻立ちをしている女性に声をかけた。その女性の衣装は凛とした紺色で、上質であろう布を多く身に纏う姿は、天女のように妖艶にも見えた。
呼びかけられてやっとマイの存在に気付くと、嬉しそうな笑顔でマイのもとに駆け寄ってきた。
「マイ!遅いじゃない!今日はとびっきりに綺麗にしなきゃだめよ、昨日お兄ちゃんから連絡があってね、帝国の方がやってくるって。」
兄からの連絡が心から嬉しいと言わんばかりに、目がキラキラしている。
マイの兄は、帝国首都の文官をしている。エリム村から帝国の役人を輩出するなんて滅多にあることではない。兄エドワードは、幼い頃から努力家であった。皆が寝静まったころも常に勉強を続け、遂に帝国文官の試験に合格したのだった。彼は宿屋の手伝いはしようとはしなかったため、幼い頃は親に叱られていたが、ここまで優秀になると親の誇りになったようだ。兄は個人主義であり、家族を重んじるタイプではない。そのため連絡など滅多によこしはしないが、流石に帝国から実家にお客様がくるとなると、失礼がないように準備をしろということだろう。
「なんだか帝国の周りに、恐ろしい病が流行っているらしいの。それを調査しているのがお兄ちゃん達とのことなんだけど、その呪いを解呪する方法が記されている伝説があったみたいで、その伝説によると、うちの裏にあるシュヴァイツ山を調べないといけないんだって。だから、有名な帝国の戦士の方が来るみたいよ。」
それを聞いて、マイは眉を寄せた。
「シュヴァイツ山に戦士を派遣したってこと?あんな子供の遊び場のような場所だと思うんだけど。帝国の戦士がわざわざ?」
「そうなのよ。私も何故かなとも思ったんだけど、まあ念には念をということなんじゃないかしら。山の案内はマイに頼んでもいいかしら?ないと思うけど、森の動物たちが歓迎しなかったら困ってしまうわ。」
なんと面倒な事になった、と思ったが致したがない。森の動物たちはよそ者を歓迎しない。村の人間でさえ、滅多に森に近づかない人の場合は牙をむかれることがある。動物たちは獰猛だが、紳士的だ。マイのように毎日森に向かい、森を侵さないと信頼を得た人間が共にいれば襲われる心配はない。
「うん、わかった。」
マイがそういうと、母はマイの背中をパシッと叩いて右目でウインクをした。全く憎めない母親である。
「じゃ、あなたも着替えるわよ!とびきりの衣装にしないとね、戦士の方きっと素敵な方だわ!」
今にも踊りだしそうな母親を横目に、マイは心の中でため息をついた。あまり目立つのは好きではない。母は女性たちに声をかけると、女性たちは嬉しそうにマイを迎え入れ、青空をそのまま布にしたような衣装をマイに巻き付けていった。
「お母さん、レンに呼ばれてきたんだけど。」
女性の輪の中心にいる、背が高く、はっきりとした目鼻立ちをしている女性に声をかけた。その女性の衣装は凛とした紺色で、上質であろう布を多く身に纏う姿は、天女のように妖艶にも見えた。
呼びかけられてやっとマイの存在に気付くと、嬉しそうな笑顔でマイのもとに駆け寄ってきた。
「マイ!遅いじゃない!今日はとびっきりに綺麗にしなきゃだめよ、昨日お兄ちゃんから連絡があってね、帝国の方がやってくるって。」
兄からの連絡が心から嬉しいと言わんばかりに、目がキラキラしている。
マイの兄は、帝国首都の文官をしている。エリム村から帝国の役人を輩出するなんて滅多にあることではない。兄エドワードは、幼い頃から努力家であった。皆が寝静まったころも常に勉強を続け、遂に帝国文官の試験に合格したのだった。彼は宿屋の手伝いはしようとはしなかったため、幼い頃は親に叱られていたが、ここまで優秀になると親の誇りになったようだ。兄は個人主義であり、家族を重んじるタイプではない。そのため連絡など滅多によこしはしないが、流石に帝国から実家にお客様がくるとなると、失礼がないように準備をしろということだろう。
「なんだか帝国の周りに、恐ろしい病が流行っているらしいの。それを調査しているのがお兄ちゃん達とのことなんだけど、その呪いを解呪する方法が記されている伝説があったみたいで、その伝説によると、うちの裏にあるシュヴァイツ山を調べないといけないんだって。だから、有名な帝国の戦士の方が来るみたいよ。」
それを聞いて、マイは眉を寄せた。
「シュヴァイツ山に戦士を派遣したってこと?あんな子供の遊び場のような場所だと思うんだけど。帝国の戦士がわざわざ?」
「そうなのよ。私も何故かなとも思ったんだけど、まあ念には念をということなんじゃないかしら。山の案内はマイに頼んでもいいかしら?ないと思うけど、森の動物たちが歓迎しなかったら困ってしまうわ。」
なんと面倒な事になった、と思ったが致したがない。森の動物たちはよそ者を歓迎しない。村の人間でさえ、滅多に森に近づかない人の場合は牙をむかれることがある。動物たちは獰猛だが、紳士的だ。マイのように毎日森に向かい、森を侵さないと信頼を得た人間が共にいれば襲われる心配はない。
「うん、わかった。」
マイがそういうと、母はマイの背中をパシッと叩いて右目でウインクをした。全く憎めない母親である。
「じゃ、あなたも着替えるわよ!とびきりの衣装にしないとね、戦士の方きっと素敵な方だわ!」
今にも踊りだしそうな母親を横目に、マイは心の中でため息をついた。あまり目立つのは好きではない。母は女性たちに声をかけると、女性たちは嬉しそうにマイを迎え入れ、青空をそのまま布にしたような衣装をマイに巻き付けていった。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる