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3 帝国のお客様
3-1 美しい戦士
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遂に帝国からのお客様が到着する時間となった。宿屋には花が飾られ、村人たちも帝国の戦士を一目見ようとぞろぞろと集まってきている。
マイは目立たぬように、華やかな女性達の一番端にいった。
「ねえ、マイ、もっと真ん中に行けばいいじゃない。そんなに綺麗にしたのにもったいないわ。」
女性たちの中から、声がかかる。幼い頃から一緒に過ごしてきたルピシアだ。
「だって、あんまり目立つのは得意じゃないの。」
困ったように笑って見せると、ルピシアはわかってるわと言うようにぎゅっと頭を抱き寄せた。
その時、扉が大きく叩かれたかと思えば、レンが飛び込むように入ってきた。
「来たよ!でも一人だ!!」
その言葉に全員がざわめく。帝国からのお客様が一人でくるなんて、聞いたことがない。戦士であってもお供の者が付き添うはずだ。状況が飲み込めないまま、遂に控えめな音で扉が叩かれた。
「こんにちは。しばらくお世話になるトリスタン・フォールドです。こちらが宿屋であってますでしょうか?」
入ってきた男は、誰もが目を見張るような美丈夫だった。吸い込まれそうな鳶色の瞳、帝国戦士の紺色の制服に身をつつんだ男はまるで彫刻のようだった。少し日焼けしたよう浅黒い肌が戦士としての漢を唯一感じさせるが、柔らかな表情と甘いマスクは、まるで女神のようだった。
しんと静まりかえった一瞬の後、ミラがすっと戦士の前に立ち、恭しく礼をした。
「お待ちしておりました、フォールド様。我が家の長兄から伺っております。長旅お疲れさまでした。お連れの方はどちらにいらっしゃいますか?」
動揺を悟れないよう凛とした女主人として振る舞うミラは流石である。
そう尋ねられると帝国の戦士は、またも甘いマスクのまま困ったように眉を下げて答えた。
「連れはおりません。今回の任務は戦いもありませんので、私だけで来たのです。今帝都は人不足でして、ご準備いただいていたのであれば申し訳ない。」
返答を聞くとミラはすぐに笑顔で、手を差し出した。客人を迎え入れを決めた時の約束事だ。
「そうでしたか。大丈夫ですわよ。では、小さな宿ですがごゆっくりされてください。」
そして、フォールドはミラの手を握り返した。
ミラは周りを見渡し、マイを見つけるとこういった。
「では、私の娘マイがお部屋まで案内いたします。マイ、頼むわよ。」
予想はしていたが、男性客の案内に女性一人をつけるなんて流石にないと思っていた。しかし、目の前で指名されては何も言えまい。
マイはすっと前に出ると、恭しく礼をした。そして、フォールドの方へ手をだすと、接客用の笑顔を作る。
「娘のマイです。ご案内いたします。」
男の目を見た。帝国の戦士は燃えるような野心と熱情を持つという。
しかし、男のそれは全く違うものだった。
美しい瞳の奥には、ぞっとするような、静けさが広がっている。
無の美しさ、彼の瞳には灯がともっていない。
絶望の深淵を覗き、帰ってこれなくなったような、この世への諦念。
マイは全身に美しい水銀を流し込まれたような、冷たさを全身で感じた。
体を毒する、だけれど、何故か目を逸らすことができない。
マイは体を震わせると、瞳から目を離した。
いつも通りでいい。
心臓が大きく鳴っている、血流が、全身を震わしている。
深呼吸をして、笑顔を作ると、”いつも通り”お客様をお通しした。
マイは目立たぬように、華やかな女性達の一番端にいった。
「ねえ、マイ、もっと真ん中に行けばいいじゃない。そんなに綺麗にしたのにもったいないわ。」
女性たちの中から、声がかかる。幼い頃から一緒に過ごしてきたルピシアだ。
「だって、あんまり目立つのは得意じゃないの。」
困ったように笑って見せると、ルピシアはわかってるわと言うようにぎゅっと頭を抱き寄せた。
その時、扉が大きく叩かれたかと思えば、レンが飛び込むように入ってきた。
「来たよ!でも一人だ!!」
その言葉に全員がざわめく。帝国からのお客様が一人でくるなんて、聞いたことがない。戦士であってもお供の者が付き添うはずだ。状況が飲み込めないまま、遂に控えめな音で扉が叩かれた。
「こんにちは。しばらくお世話になるトリスタン・フォールドです。こちらが宿屋であってますでしょうか?」
入ってきた男は、誰もが目を見張るような美丈夫だった。吸い込まれそうな鳶色の瞳、帝国戦士の紺色の制服に身をつつんだ男はまるで彫刻のようだった。少し日焼けしたよう浅黒い肌が戦士としての漢を唯一感じさせるが、柔らかな表情と甘いマスクは、まるで女神のようだった。
しんと静まりかえった一瞬の後、ミラがすっと戦士の前に立ち、恭しく礼をした。
「お待ちしておりました、フォールド様。我が家の長兄から伺っております。長旅お疲れさまでした。お連れの方はどちらにいらっしゃいますか?」
動揺を悟れないよう凛とした女主人として振る舞うミラは流石である。
そう尋ねられると帝国の戦士は、またも甘いマスクのまま困ったように眉を下げて答えた。
「連れはおりません。今回の任務は戦いもありませんので、私だけで来たのです。今帝都は人不足でして、ご準備いただいていたのであれば申し訳ない。」
返答を聞くとミラはすぐに笑顔で、手を差し出した。客人を迎え入れを決めた時の約束事だ。
「そうでしたか。大丈夫ですわよ。では、小さな宿ですがごゆっくりされてください。」
そして、フォールドはミラの手を握り返した。
ミラは周りを見渡し、マイを見つけるとこういった。
「では、私の娘マイがお部屋まで案内いたします。マイ、頼むわよ。」
予想はしていたが、男性客の案内に女性一人をつけるなんて流石にないと思っていた。しかし、目の前で指名されては何も言えまい。
マイはすっと前に出ると、恭しく礼をした。そして、フォールドの方へ手をだすと、接客用の笑顔を作る。
「娘のマイです。ご案内いたします。」
男の目を見た。帝国の戦士は燃えるような野心と熱情を持つという。
しかし、男のそれは全く違うものだった。
美しい瞳の奥には、ぞっとするような、静けさが広がっている。
無の美しさ、彼の瞳には灯がともっていない。
絶望の深淵を覗き、帰ってこれなくなったような、この世への諦念。
マイは全身に美しい水銀を流し込まれたような、冷たさを全身で感じた。
体を毒する、だけれど、何故か目を逸らすことができない。
マイは体を震わせると、瞳から目を離した。
いつも通りでいい。
心臓が大きく鳴っている、血流が、全身を震わしている。
深呼吸をして、笑顔を作ると、”いつも通り”お客様をお通しした。
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