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4 いざ森へ
4-2 選択肢はない
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暖かな森の香りが鼻をくすぐる、マイは温もりから手を放すまいと頬ずりをした。
ズキっと頭に鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめて「うぅ、」と声を漏らした。
「起きましたか?」
頭上から聞こえてきた低い声に、顔を上げて目を開く。あたり一面真っ黒で何も見えない。徐々に動き出した思考が、直前までの記憶が蘇る。確か、森に入って、そこで地震のようなものが起きて、それで、それで、記憶を脳で整理しているうちに徐々に暗闇に慣れてきたのが、すぐ上に男の顔があるのがわかった。男は相変わらずの無表情で、マイのことを見ている。
マイは慌てて、周りを見渡す。温もりだと思って掴んでいたのは、トリスタンの手のひらで、トリスタンの足を枕にしていたのだ。状況が分かると、マイは顔を真っ赤にして、飛び上がり、彼が帝国の戦士であることを思い出し、次は真っ青に染めた。
恥ずかしい、恥ずかしい。どうしてこうなったのかしら。先ほどまで膝枕をしていたトリスタンは、何も気にしていない様子で片膝を立て、焚火を炊いていた。飛び上がった彼女を見て、困るような顔をした。
「すみません、私の手を掴んだまま気を失われていて、こうする他なかったんです。」
マイは地べたにへにゃりと座り込むと、なんて言ったらいいのかわからず、ただ口をパクパクさせるしかなかった。
「とりあえず、お互い無事です。少し貴方は怪我をしていますが、致命傷ではないはずです。あれから3時間程はたっているはず、無理しない程度でいいのですが、少し話をさせてください。」
座り込んで動かなくなっているマイに、トリスタンは仕事口調で話し続けた。
「私たちが森に入った途端、何かが起きたようです。森と他の領域の間に亀裂が走り、我々の侵入を防いだかのように考えていますが、まあそれは置いておいて、我々は新入を拒む森の中に強引に入りました。申し訳ないが、私は森に用事があるので進むよりほかなかったのです。巻き込んで申し訳ないですが、拒まれている状況では何が起きるかわからない。そのため警戒をお願いします。」
淡々と言ってのけるトリスタンに、マイはついていくことが出来ない。
地面に亀裂が走ったのは見た、それなら村は無事だろうか、何が起きたのか。
「村はどうなったの?みんなは?」
状況が整理できないマイの頭で、気にかかるのはそのことだった。
無表情のトリスタンは、焚き火を焚べながら応える。
「わかりません。森に入ったので。」
淡々と言ってのける彼に、マイはつっかかる。
「どうして?!なんでそんな、」
そこまで言いかけて、言い淀む。
彼は他人だ。他人の家族や村に対して何も思うことはないだろう。
何もわからない、だけど、家族の無事を確認しないといけないことだけはわかっていた。
フラフラする頭を抑えて立ち上がると、マイは歩き出そうとした。
その瞬間、喉元に短剣が突きつけられる。
いつの間に、動いたのだろう。
トリスタンが彼女の背後を取り、喉元に短剣を突きつけていたのだ。冷たい刃が怪しげに光るのを見て、マイは恐怖に震える。
「悪いが、俺と来てもらいます。案内が必要なので。手荒な真似はしたくない。貴方は俺から逃げることも死ぬことも出来ない。
いいですか?」
でも家族が、と言いそうになり、ハッと口を閉じた。トリスタンの目が、戦士の、人の命を奪うことに何の躊躇いもない、幾度の戦を経験してきた恐ろしく冷酷な目をしていたからだ。
彼は本気だ。
私には選択肢はない。
マイは黙って、うなづいた。
トリスタンは彼女を解放すると、焚き火の前に腰掛けた。
「すみません、とりあえず暖を取ってください。凍死しますよ。」
マイは動くことができない。
そんなマイを無表情で見たトリスタンは、彼女の腕を引き、焚き火の前へ座らせた。
マイはトリスタンにされるがまま、自らの無力感、家族への思い、それ以上の不安、止まることのない体の震えが、彼女の心を余計震わしていた。
ズキっと頭に鈍い痛みが走り、思わず顔をしかめて「うぅ、」と声を漏らした。
「起きましたか?」
頭上から聞こえてきた低い声に、顔を上げて目を開く。あたり一面真っ黒で何も見えない。徐々に動き出した思考が、直前までの記憶が蘇る。確か、森に入って、そこで地震のようなものが起きて、それで、それで、記憶を脳で整理しているうちに徐々に暗闇に慣れてきたのが、すぐ上に男の顔があるのがわかった。男は相変わらずの無表情で、マイのことを見ている。
マイは慌てて、周りを見渡す。温もりだと思って掴んでいたのは、トリスタンの手のひらで、トリスタンの足を枕にしていたのだ。状況が分かると、マイは顔を真っ赤にして、飛び上がり、彼が帝国の戦士であることを思い出し、次は真っ青に染めた。
恥ずかしい、恥ずかしい。どうしてこうなったのかしら。先ほどまで膝枕をしていたトリスタンは、何も気にしていない様子で片膝を立て、焚火を炊いていた。飛び上がった彼女を見て、困るような顔をした。
「すみません、私の手を掴んだまま気を失われていて、こうする他なかったんです。」
マイは地べたにへにゃりと座り込むと、なんて言ったらいいのかわからず、ただ口をパクパクさせるしかなかった。
「とりあえず、お互い無事です。少し貴方は怪我をしていますが、致命傷ではないはずです。あれから3時間程はたっているはず、無理しない程度でいいのですが、少し話をさせてください。」
座り込んで動かなくなっているマイに、トリスタンは仕事口調で話し続けた。
「私たちが森に入った途端、何かが起きたようです。森と他の領域の間に亀裂が走り、我々の侵入を防いだかのように考えていますが、まあそれは置いておいて、我々は新入を拒む森の中に強引に入りました。申し訳ないが、私は森に用事があるので進むよりほかなかったのです。巻き込んで申し訳ないですが、拒まれている状況では何が起きるかわからない。そのため警戒をお願いします。」
淡々と言ってのけるトリスタンに、マイはついていくことが出来ない。
地面に亀裂が走ったのは見た、それなら村は無事だろうか、何が起きたのか。
「村はどうなったの?みんなは?」
状況が整理できないマイの頭で、気にかかるのはそのことだった。
無表情のトリスタンは、焚き火を焚べながら応える。
「わかりません。森に入ったので。」
淡々と言ってのける彼に、マイはつっかかる。
「どうして?!なんでそんな、」
そこまで言いかけて、言い淀む。
彼は他人だ。他人の家族や村に対して何も思うことはないだろう。
何もわからない、だけど、家族の無事を確認しないといけないことだけはわかっていた。
フラフラする頭を抑えて立ち上がると、マイは歩き出そうとした。
その瞬間、喉元に短剣が突きつけられる。
いつの間に、動いたのだろう。
トリスタンが彼女の背後を取り、喉元に短剣を突きつけていたのだ。冷たい刃が怪しげに光るのを見て、マイは恐怖に震える。
「悪いが、俺と来てもらいます。案内が必要なので。手荒な真似はしたくない。貴方は俺から逃げることも死ぬことも出来ない。
いいですか?」
でも家族が、と言いそうになり、ハッと口を閉じた。トリスタンの目が、戦士の、人の命を奪うことに何の躊躇いもない、幾度の戦を経験してきた恐ろしく冷酷な目をしていたからだ。
彼は本気だ。
私には選択肢はない。
マイは黙って、うなづいた。
トリスタンは彼女を解放すると、焚き火の前に腰掛けた。
「すみません、とりあえず暖を取ってください。凍死しますよ。」
マイは動くことができない。
そんなマイを無表情で見たトリスタンは、彼女の腕を引き、焚き火の前へ座らせた。
マイはトリスタンにされるがまま、自らの無力感、家族への思い、それ以上の不安、止まることのない体の震えが、彼女の心を余計震わしていた。
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