ファクト ~真実~

華ノ月

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序章

第3話

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「もう一度言う!大人しく投降しなさい!!」

 杉原が拡声器を使って、大声で叫ぶ。

 現場に到着した本山と杉原は、すでに現場に到着していた突入隊と合流し、その小屋の近くで待機しながら犯人に呼び掛けていた。


「くそっ!警察か!!」

 男が苦々しく叫ぶ。

「大人しく投降しませんか?私も警察の方に何故今回の事件が起きたのかをきちんと伝えます。そして、その女性を探し出してもらい、罪を償ってもらうように頼みます……」

 奏が真剣な表情でそう言葉を綴る。

 その瞳には涙の痕を残しながら女性がしたことを決して許さないという強い意志が感じられる。

「私も必ず警察の方に説明します……。ですから、投降しましょう……」

 奏の瞳からそれが嘘だという事は微塵も感じさせない強さが宿っている。

「だが……、俺は事件を起こした……。どう足掻いたって俺は罪に問われることには変わりない……」

 男が項垂れるように言葉を綴る。

「ですが、この事件の発端はその女性がやったことがきっかけです……。もし、警察が取り合ってくれないなら私はこの事をどこかのマスコミに告げて、その女性を突き止めてもらいます……。今の世の中はそういった事を取り上げてくれるところは多々ありますからね……」
 
 奏が強い瞳を湛えたまま、そう言葉を綴る。その瞳からは「許さない」と言う強い意志が感じ取れる。

 男がその瞳を見て、僅かな希望を持つ。

「ははっ……。あんたなら……、本当にやりそうだな……」

 そして、男が表情を正し、決意の言葉を綴った。


「分かった……。投降しよう……」



「突入しますか?」

 犯人が何も言ってこないので杉原が小声で隣にいる本山にそう言葉を掛ける。

「……だが、人質がいる。下手に突入して人質を殺されたら元も子もない……」

 本山が悔し紛れの表情でそう言葉を綴る。

 犯人は一刻も早く捕まえたいが、人質のことを考えると、突入していいかどうかを躊躇う。もし、突入して犯人を刺激し、人質が殺されてしまえば世間は警察に何を言うか分からない。かといって、このままの状況が続くのも良くはない。

 どうするべきか、本山の中で考えがグルグルと渦巻く。


 その時だった。

 小屋の扉が開き、男が奏を盾に小屋から姿を現した……。

「……どうしますか?」

 杉原が小声で本山に耳打ちする。

「ここでまた逃がすわけのもいかないしな……」

 本山が頭の中で犯人を捕まえる方法が何かないかを考える。

 すると、奏が急に大声を出した。


「警察の方にお願いがあります!この方の話をちゃんと聞いてください!!」


「「え?」」

 奏の言葉に本山と杉原が驚きの声を上げる。

「この事件の発端は、この方のお金を持ち逃げして姿をくらました女性が起こした出来事が発端です!お願いします!その女性を見つけて、必ず罰を下してください!!」

 奏が更に声を上げてそう言葉を綴る。

「……どうなっているんだ?」

 本山が展開についていけなくてそう言葉を漏らす。杉原も何が起こっているのかが分からない様子だ。同時に突入隊も今の状況を飲み込めていない。

「この方は投降するそうです!ですが、必ずその女性を捕まえてください!お願いします!!」

 奏が声を張り上げてそう言うと、警察に向って深々と頭を下げる。

「わ……分かった!では投降するんだな?!」

 杉原が拡声器を使ってそう伝える。

「では、ゆっくりとこちらに来てください!」

 杉原の言葉に奏と男がゆっくりと近付く。

 そして、近くまで来た時に本山が声を上げる。

「犯人を確保しろ!!」

 その言葉で突入隊が男に飛び掛かろうとした時だった。

「待ってください!!」

 奏が大声でその場を制する。

「この方は投降するんです。そんな荒いやり方は止めてください。後、私がさっき言ったこと、きちんと調べてください。もし、それが約束できないのであれば私はこの事をどこかのマスコミの方に取り上げてもらいます……」

 奏の言葉に男を捉えようとした突入隊の手が止まる。

「……分かった。署で詳しい話を聞こう……。君も別のパトカーで署まで同行してもらっていいかな?」

「はい……」

 本山の言葉に奏が返事をして、パトカーに乗り込む。男も別のパトカーに乗せられてその場を離れた……。



「……全く、一歩間違えたら殺されていたんだよ?なのに、犯人を庇うような事を言うなんて……」

 奏が通されたのは警察署にある一室だった。そこへ、コーヒーを持ってきた杉原が半分呆れたような声でそう言葉を綴る。

「調べてくれるんですよね……?」

 奏がそう杉原に問う。

「あぁ。マスコミにこの事を君が言ったら世間は警察に何を言うか分からないからね。でも、確かにそれが事実だとしたら、そのことが無ければこの事件は起きなかったのかもしれないね……」

 事件の裏には何か真実が隠されている時がある。事件はただ起こるのではない。何かがあって事件は起こる。しかし、なぜその事件が起きたのかまではあまり調べられないことも事実。本当の真実は大半が闇の中だ……。



「その騙したという女性のことを調べる。だが、だからといってお前の罪がなくなるわけではない……。お前には殺人未遂の罪を償ってもらう……」

 取調室で男と向かい合わせに座っている本山がそう言葉を綴る。

「……分かりました」

 本山の言葉に男が素直に返事をする。

「それにしても、あの水無月って人はなんでああも他人のために熱くなれるんだかね……」

 本山が奏のことを不思議そうに言いながらため息を吐く。

「あの人は水無月さんって言うのですね……。でも、彼女のお陰で俺はある意味救われました……。本当の人殺しにならずに済んだんです……。彼女には感謝しています……」

 男が穏やかな表情でそう言葉を綴る。

「……行こうか」

「はい……」

 男が本山に連れられて取調室を後にした……。



「……そろそろ迎えが来ると思うからね。話を聞かせてくれてありがとう」

 杉原が奏にそう礼を言う。


 ――――バターンっ!!!


「奏?!」

 奏のいる一室のドアが音を立てて思い切り開いた。そこには息を切らした少し年配の女性と男性がいる。

「お父さん!お母さん!」

 両親の登場に奏が声を上げる。

「全く!警察から電話を貰った時は何事だと思ったわよ!もう……もう……無茶なことして!!心配したんだからね!!」

 奏での母親であるしずくが奏の身体を揺さぶりながら少し怒りモードで言葉を綴る。

「ご……ごめんなしゃい……。お……お母しゃん……」

 揺さぶられながらなので言葉が上手く紡げない。

「まぁまぁ、母さん。それくらいにしときなさい。無事で良かったよ、奏」

 父親である俊彦としひこが娘が無事だったことが分かり、安心したように言葉を綴る。

「今日のところはもう帰って頂いて大丈夫です。後日、改めてまた事情を話してもらうかもしれませんが、その時はまたよろしくお願いいたします」

 杉原が頭を下げながら優しい声でそう言葉を綴る。

 こうして、奏は両親と共に警察署を後にした。



 しかし、後日、あんな展開が奏に待ち受けているとはその時は知る由もなかった……。


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