ファクト ~真実~

華ノ月

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第二章 沼に足を取られた鳥は愛を知る

第8話

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 槙が何かを確認するために一つのビール缶に鼻を近付ける。

「……麻薬の匂いだ」

「「「え?!」」」

 槙の言葉に奏たちが驚きの声を上げる。更にカーペットについ最近できたと思われるシミを発見する。槙はそのシミにも鼻を近付けると、匂いを確認する。

「……これは推測だが、もしかしたら麻薬を大量に摂取して泡を吹いた可能性があるな。この染みから麻薬の匂いがする。ここで倒れて泡を吹いたんだろう……」

 槙がそう言葉を綴る。

「……ということは、その担いでいった男と飲んでいて、死亡した可能性があるというわけか……。しかし、妙だな……」

「妙……とは?」

 透の言葉に奏が頭にはてなマークを浮かべる。

「もしそうだとしたら、証拠隠滅のためにビール缶を処分するはずだ。なのに、ビール缶はそのまま残っている……」

「確かにそうだな……」

 透の言葉に紅蓮が頷く。

「そういえば、男がその部屋の女を運ぶ前に女の叫び声が聞こえたよ。そして、えらい勢いでドアが開かれたのか、走り去る音も聞こえたな……」

 大家の男がその時のことを思い出し、そう言葉を綴る。

「……ということは、リナさんと一緒に飲んでいたのはその女性でしょうか?」

 奏がそう推測する。

「麻薬という点から、もしかしたらホテルで逃げた絵梨佳っていう女性の可能性もあるな……」

 透がそう言葉を綴る。

「あ……あの……、どういうことですか……?リコも麻薬絡みだという事ですか……?」

 透の言葉にシオンが怯えたようにそう言葉を綴る。

「いえ!そういうわけじゃないので大丈夫ですよ!案内してくれてありがとうございます。後は我々警察の仕事です」

「は……はい……」

 紅蓮の言葉にシオンが返事をする。しかし、その顔は納得している様子ではない。かといって、話してくれるわけでもないという事も分かっているので聞くことをやめる。

「じゃあ……、私はこれで失礼します……」

 シオンがそう言って部屋を出て行こうとする。

「あ、その前に一つ聞いていいですか?戸籍が無いという事は携帯電話の契約が出来ませんよね?ということは、携帯電話の類は持っていないという事ですか?」

 透が出て行こうとするシオンを呼び止めてそう声を掛ける。

「その……、スマホは中古で買ってネット回線が無料で使える所で使用しているんです。だから、ネット回線がないところでは基本使えません……」

「……そうですか。ありがとうございます」

 シオンの言葉に透がお礼の言葉を述べる。そして、シオンは部屋を出て行った。奏たちがリナのスマートフォンがある可能性を考えて部屋を捜索すると鞄が置いてあるのを発見し、女性のものだからという事で奏が鞄の中身を確認する。

「……ありました」

 奏が、鞄からスマートフォンを取り出す。電源を入れて中を確認しようとしたがこの部屋にネット回線が通ってないので確認ができない。なので、紅蓮が冴子から渡されている仕事用のスマートフォンを使い、テザリングを使ってリナのスマートフォンを開き、ネットに繋げる。そして、一つのSNSを開き、写真やメッセージの確認をしていく。

「あれ?この人……」

 奏が一つの写真に目を止める。その写真にはリナと絵梨佳と絵梨佳に抱き付きながら男が笑っている。

「絵梨佳と……この男は客か何かか?」

 紅蓮がそう言葉を漏らす。

「いや……、それなら客を取られないためにリナって奴と一緒には居ないはずだ。この男はその絵梨佳と親しい関係の間柄じゃないか?」

 槙がそう言葉を綴る。

「……ちょっくら確認してもらうか……」

 紅蓮がそう言って部屋の外で待機してもらっている大家に写真を見せる。

「この女、またはこの男に見覚えはありませんか?」

 紅蓮がスマートフォンに映っている写真を大家に見せて尋ねる。

「女の方は昨日の夜にこの部屋の子と一緒に来た子だよ。男の方はこの部屋の子を担いで出て行った男だ」

「「「!!!」」」

 大家の言葉に奏たちが驚きの表情を見せる。そして、紅蓮が大家にお礼を言って部屋に戻り、その写真のコピーを撮るために槙が鞄から小型のノートパソコンを取り出す。


 ――――カタカタカタカタ……カタカタカタカタ……。


 リズムよくキーボードを操作してその写真を読み取っていく。しばらくして、その操作が完了し、槙が「出来た」と告げた。

「……とりあえず、一度戻ろう。冴子さんにも報告しなきゃいけないしな」

 透がそう言ったので一度みんなで捜査室に戻ることにした。



「……ここがあんたの部屋?」

「そうだが?」

 こじんまりとした部屋を見て絵梨佳が声を上げる。テーブルの上にはビール缶やおつまみの袋が散らばっている。いかにも男の一人暮らしのような光景が目の前に広がっていた。洗濯物も洗ってはいるらしいが部屋の中のカーテンレールのところにぶら下がっているだけで、畳んだりしてタンスに片づけるという習慣が無いのが見て分かる。

「なんか、『ザ・男の一人暮らし』ていう感じがめっちゃ出てるね……」

「一応これでも生活は回っている。嫌なら出てってもいいんだぞ?」

「ぐっ……」

 絵梨佳は悩んだ末、徳二に付いて行くことにした。どのみちお金も何も持っていないし、頼れる場所もない。政明と暮らしている部屋には帰りづらい気持ちがあるのも確かだった。もしかしたら、政明の所に帰ったら自分も殺されるかもしれない。他に行く場所も無ければ、頼れる人もいない。

「とりあえず、適当に座れ」

 徳二に言われて絵梨佳が床の上に座る。

「お茶でいいか?」

 徳二が冷蔵庫を空けながら絵梨佳に聞く。

「アルコールじゃないの?」

「ビールならあるが?」

「じゃあ、それがいい」

 絵梨佳の言葉に徳二が少し迷う。

「……俺を襲うなよ?」

「襲うかよ!!」

 徳二の言葉に絵梨佳がすぐに反論する。そして、ビール缶を二本冷蔵庫から出し、テーブルに置く。


 ――――プシュ!!


 ビール缶を空けて、噴き出している泡を舐めながら二人でビール缶を飲む。すると絵梨佳が「つまみは無いの?」と言い出したので、買ってあったピスタチオの袋を開ける。そして、二人でピスタチオを食べながらビールを飲み、他愛無い話をする。といっても、絵梨佳が一方的に喋っており、徳二がそれを聞いているという感じだった。

「……ていう感じで、その客、最悪だったよ」

 絵梨佳が延々と今までのいろんな客とのことを話す。

「……ていうかさ、なんでそんなことしたがるのかが分からなくてさ」

 絵梨佳が話す話を徳二はひたすら聞いていた。時々相槌を打ったり、「それは辛かったな」と声を掛けたりして絵梨佳の愚痴をひたすら聞いていた。

「なんか不思議だよね……。なんであんたなんかにこんな話してるんだろ……」

 絵梨佳がビールを飲みながらポツリとそう言葉を漏らす。いつの間にか二人でビール缶を六本も空けていた。

「そういやさ、あんたっていくつなの?見ようによっては若く見えるよね?」

 絵梨佳が突然徳二に話を振る。

「四十一だが?」

 徳二が特に気にする様子もなく答える。

「へぇ~。ならバリバリの年齢だね!」

 絵梨佳の言葉に徳二が「何がだ?」というような顔をする。

「ちなみに仕事は何をしてんの?」

 絵梨佳の言葉に徳二が言うべきかどうか悩む。しかし、別に隠さなくてもいいだろうと思い、答えた。

「俺はヤクザだ」

「えっ?!」

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