はい!こちら、中学生パトロール隊です!!

華ノ月

文字の大きさ
10 / 128
第一章 赤い炎は優しい雨に打たれる

第10話

しおりを挟む
 昼休みに入り、颯希は一組の教室に向かった。すると、前方に二人を見つける。

「雄太くん!来斗くん!」

 颯希は二人を見つけると駆け足で向かった。

「結城さん、どうしたの?」

「何かあったのか?」

 颯希に呼び止められた二人が振り向き、言葉を発する。

「その、昨日のアルバムのことが気になってもう一度拓哉さんの家に伺おうと思うのです。良かったら、一緒に来てもらいたいのですが駄目でしょうか?」

「僕はいいよ。来斗くんはどうする?試合が近いって言ってたからやめとく?」

 雄太の言葉に来斗がしばらく思案する。

「……いや、俺も行くよ。俺も静也には前みたいに戻って欲しいからな」

「決まりだね。結城さん、放課後に下駄箱のところで待ち合わせしよう」

 こうして、三人でまた静也の家に行くことが決まった。



 一方、静也は今日も浜辺に来て幸雄と釣りをしていた。今の静也の中では、幸雄と釣りをしている時間が一番気持ち的に落ち着いている。タバコは颯希に投げつけて以来、吸わなくなった。吸いたくて吸ったわけじゃなかったし、お小遣いの大半を髪にメッシュを入れるために使ってしまったのでほとんど残っていない。その残りでタバコを買っただけだったので、静也の財布にはほとんどお金が残っていなかった。

「なぁ、幸じぃ……」

 静也がゆっくりと口を開く。幸雄と仲良くなって静也は幸雄のことを「幸じぃ」と呼ぶようになった。幸雄もその呼び方を気に入っている。

 静也は釣りをしながら顔を空に向けてゆっくりと言葉を綴った。

「もし、信じたくないことを知ってしまった時、幸じぃならどうする?俺、これからどうしたらいいか分かんないんだ……。知らないままなら良かったのにって思ってる……。知らないままなら父さんとも今までのように暮らせてた……。でも、知ってしまった以上、どうやって顔を合わせて過ごしていったらいいか分からないんだ……」

 静也の話を幸雄は黙って聞いていた。

「その信じたくないことはそれが本当に真実なのか?」

「えっ……?」

「人は思い込みというものがある。その信じたくないことが何かは分からんが、まずはそれが本当に真実かどうか確かめるべきじゃないかのぉ。もしかしたら、意外と真実は違ったりするかもしれんよ?」

 幸雄の言葉に静也は無言になった。

 真実ではないかもしれない……。

 もしかしたら、事実は違うのかもしれない……。

 でも、もしやはり自分の思っていることが真実だとしたら、これからどうやって過ごしていけばいいか分からない……。

 この考えが間違いであってほしい……。

 ぐるぐると頭の中で考えが蠢く……。

 拓哉に真相を聞くべきか……。



 静也に中では答えが出ない。聞くことが怖くてできない。でも、このままでは何も進まないのも分かっている。


 でも、もし……もし……。


 静也の頭の中で悪いことだけしか思い浮かばない。その表情を見て幸雄は明るく言葉を発した。

「まぁ、今は釣りを楽しむぞ!」

 そう言って、静也の肩を叩く。

 幸雄のその心遣いがありがたいと感じる。静也はとりあえず考えるのをやめて釣りを楽しむことに専念した。




 颯希たちは再度静也の家にお邪魔した。そして、アルバムを見せて欲しいというと拓哉は快く了承してくれた。そして、みんなでそのアルバムを確認していく。

「おっ!懐かしいな!これ、静也と俺が戦隊もののごっこ遊びをしている写真じゃん!」

 来斗が写真を見て楽しそうに言う。

「懐かしいね。来斗くんが敵のボス役で静也くんが正義のヒーロー役だったよね」

「あぁ、静也は正義感強いところがあるからな。絶対ヒーロー役は譲らなかったよな」

 昔話で盛り上がる。すると颯希が写真の中にある剣道姿の静也を見つけた。

「静也くんは剣道を習っているのですか?」

 颯希の問いに拓哉が答える。

「あぁ。この頃、静也は将来警察官になりたいと言ってね。それで、剣道を習わして欲しいと言ってきたんだ。警察官になる人は柔道や剣道を習っているから自分も将来のために習いたいと言ってきてね。勿論、反対する理由がなかったから許可したよ」

「じゃあ、静也くんも警察官を目指しているということなのですか?」

「も?ってことは、颯希ちゃんも警察官を目指しているのかい?」

「はい!なので、私は将来のために休みの日はパトロールをしているのです!」

 そう言って颯希が敬礼のポーズをする。

「へぇ、だから静也と話があったんだね。知らなかったよ、静也にこんな可愛らしいお友達がいたとはね」

 拓哉が顔をほころばせる。

「いえ、その……えっと……」

 静也とのことを完全に勘違いしている拓哉に颯希は真実を話すべきかどうか迷う。そこへ、雄太が口を開いた。

「拓哉さん、落ち着いて聞いてください。静也くんと颯希さんは友達同士ではありません。颯希さんがパトロール中に違反を見つけて声をかけたそうなんです」

「違反……?」

 雄太の言葉に拓哉が疑問の声をあげる。そこに颯希が意を決して静也がタバコを吸っていたことを話した。

「静也が……タバコを……?」

 拓哉が驚きの表情をする。「信じられない」とでも言いたそうな顔だった。

「それが、誰かへのあてつけかも知れなくて……。それで、静也くんが心配になって何とかしてあげられないかと思ったのです……」

 拓哉は静也がタバコを吸っていたことが余程ショックなのか、言葉を発しない。

「……とりあえず、写真にヒントがあるかもしれません」

 颯希の言葉でみんなが真剣に写真を眺めていく。しかし、ヒントになりそうな写真が見つからない。

 その時、来斗がある写真に目が止まる。

「なぁ、この写真だけテープが剥がれてるけど……」

 そう言って、みんなで写真を覗き込む。その写真は若い頃の拓哉さんと、隣には男女が仲良さそうに腕を組んで映っていた。

「この二人は静也の本当の両親だよ……」

 拓哉がそこまで言ってあることに気付く。

「……まさか!!」

 拓哉がその写真を剥がす。しかし、そこには何もなかった。



「静也、あの手紙を!!」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...