はい!こちら、中学生パトロール隊です!!

華ノ月

文字の大きさ
11 / 128
第一章 赤い炎は優しい雨に打たれる

第11話

しおりを挟む
 拓哉は写真の裏に手紙がないことに気付き、驚きの声をあげた。

「手紙?」

 颯希がその言葉に声を出す。

「あぁ……。兄のお嫁さんである三和子みわこさんが私に送った手紙だ。その手紙を読んで……」

 拓哉の声は震えていた。その様子からいい内容の手紙ではないことが伺われる。

「どんな内容の手紙だったのですか?」

 颯希の問いに拓哉は話すべきかどうか悩んだ。でも、その手紙が原因だとしたら、静也のことを心配して何とかしようとしている颯希たちに話さないわけにもいかない。拓哉はゆっくりと話し始めた。



「――――と、いうことなんだ……」

 話し終えて息を深く吐く。その表情は苦悶に満ちていた。

「てことは静也くん、その内容を誤解しているかもしれないね。その相手が拓哉さんだと勘違いしているかもしれない……」

「確かにそんだけしか書かれていないならその可能性はあるわな……」

「明日、静也くんと話をしましょう!」

 颯希の言葉で明日、静也を捕まえて話をしようということになった。拓哉は静也が帰って来た時に話すと言ったのだが、聞く耳を持たない可能性があるからみんなが集まってから話そうということになる。拓哉もそれを了承する。明日はちょうど学校が創立記念日でお休みということがあり、朝の十時にまた来る約束をしてそれぞれ家に帰っていった。



 その頃、静也は浜辺で幸雄と並んで座っていた。

「俺……すげぇ怖いんだ。自分の思っていることが本当だったら父さんとこれからどうやって過ごしていけばいいんだろうって……。もし、それが本当だった場合、俺はきっと今までのようには暮らせなくなる。家を出ていくと思う。でも、どこにも行けないから場合によっては施設とかになるのかなぁとか考えてしまうんだ……。でも、それ以前の問題でさ……。今まで父さんが優しかったのって、そのことの後ろめたさがあったからなのかな?とか考えてしまうんだ……。あの優しさは本物ではなくて偽りだったのかなって……」

 静也は目に大粒の涙を溜めながら話す。悲しい瞳で涙が流れるのを必死で堪える。

「静也はお父さんのことが大好きなんだな……」

 幸雄がそう言って頭を軽く叩く。

「俺……父さんの作るハンバーグとエビフライが好きなんだ……。めっちゃ美味いんだよ……。でも……家を出たらそれも食べれなくなるし……。出来る事なら俺も前みたいに父さんと仲良く過ごしたいよ……。でも……だけど……」

 嗚咽を漏らしながら言葉を綴る。

 静也の中で楽しかったことが次々と溢れ出す……。

 それと同時に悲しみも込み上げてくる……。

「まずは話してみることだな。きっと大丈夫さ……」

 幸雄は静也の頭を優しく撫でながら言葉を綴った。



 あの後、静也は夜になってから家に帰ってきた。

「静也……」

 拓哉が玄関に顔を出す。

「静也……、明日は家にいて欲しい。話をしたいんだ……。来斗くんたちも来る。頼む……、一度ちゃんと話をしよう……」

 静也はその問いに何も言わずに拓哉の横を通り過ぎて部屋に入っていった。

 部屋に入り、ベッドに潜り込む。まさかあの説教女まで来るのかと思うと気が気じゃない。唇をかみしめて、暗闇を睨みつけるように視線を鋭くする。

「……あいつらに俺の何が分かるっていうんだよ……」

 そう小さく呟くと、何もかもから逃れるように目を瞑った。



 次の日になり、颯希は制服に身を包み、髪を綺麗にまとめてポニーテールを作ると、首から笛を下げて、胸にパトロール隊員のバッジをし、腰にピコピコハンマーをセットした。

 完成した自分の姿を姿見で確認する。

「……よし!」

 颯希の目には強い光が宿っていた。何が何でも静也を救うんだという強い意志がみなぎっている。

「……絶対に救うのです」

 姿見に映る自分に問いかけるように言葉を発する。


「中学生パトロール隊員、結城颯希!いざ出動なのです!!」



 家を飛び出し、静也の家に向かう。

 家の前まで着くと来斗と雄太がすでに到着していた。

 そして、三人で手を合わせて気合を入れる。

「絶対に静也くんを救いましょう!!」

「うん!前の静也くんに戻ってもらおう!!」

「静也!俺たちがお前の苦しみから解放してやるからな!!」


「「「えいっ!えいっ!おー!!!」」」


 三人で一緒に掛け声をあげる。

 そして、代表して来斗がインターフォンを鳴らした。

 ――――ピンポーン!

 しばらく待つが返事がない。

 ――――ピンポーン!

 もう一度インターフォンを鳴らす。

 その時だった。



「……おーい!!」



 遠くから声が聞こえた。三人が声のした方に顔を向けると、拓哉がこちらに向って走ってくる姿が見える。

「拓哉さん!!」

 三人が拓哉に駆け寄り、颯希が声をあげた。拓哉は走ったからか息が荒い。

「す……すまない……。実は静也が朝早くに家を出たみたいなんだ……」

「「「家を出た?!!」」」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...