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第二章 籠の中の鳥は優しい光を浴びる
第14話&エピローグ
しおりを挟む次の土曜日の午後、颯希は南警察署に訪れた。パトロールの時の姿で、ある部屋に設置された椅子に座り、目的の人物を待つ。
――――ガチャ。
部屋の扉が開いて、手を拘束された状態の理恵が警察官付き添いのもと、部屋に入ってくる。そして、颯希と対面になるように座ると颯希が静かに声を出した。
「中学生パトロール隊の結城颯希と言います。今日は理恵さんに伝えたいことがあって、ここの署長である父に頼み、面会を許可させていただきました」
颯希が丁寧な言葉で理恵に説明する。理恵は黙ったまま、何も言葉を発しない。睨みつけるように颯希をじっと見つめている。
「理恵さん、理恵さんから見て私はどう見えますか?」
颯希の言葉に理恵が怒りを孕みながら言葉を綴る。
「……あんたたちみたいな子は、いかにも毎日幸せで苦しむこともない、とても幸せですって感じの子たちよ……。あんたみたいな子に私の苦しみが分かるわけないわ……」
その声色には怒りと悲しみが混じっているように見える。
颯希がその言葉に言葉を綴る。
「確かに、私にはあなたの苦しみは分からないです。でも、私も凛花ちゃんも辛い時もあるし、苦しい時もあります。でも、些細な事にも感謝して笑って前向きに生きていけば、周りの人たちはきっと味方してくれるって信じています。自分に辛いことがあってもそのことを乗り越えるために頑張れば、いろんな人が手を差し伸べてくれると信じています。だから、自分のためにも周りのためにも頑張ろうって思えるのです」
颯希はそう言い終わると、深く深呼吸をする。そして、更に言葉を綴る。
「誰かのせいにばかりしていても自分は成長できません。ヒーローになりたかったと言っていたそうですが、それは間違っています。本当に自分のような子のためにヒーローになりたのなら、こんなやり方ではなく、その子たちの心に寄り添ってあげて欲しいです。理恵さんの苦しみは理恵さんにしか分かりませんが、その経験はいつか、本当にそういった子を救うことも出来るんじゃないのでしょうか?だから、理恵さん――――」
颯希がそこまで言うと、真剣な顔つきで言葉を発した。
「ちゃんと罪を償って、苦しんでいる子たちの本当のヒーローになってあげてください」
「じゃあ、囮になった子って颯希ちゃんだったの?!」
ベッドの上で凛花が警察から事件が解決したことを聞いたと同時に、犯人を捕まえるためにある子が囮になったという話を聞いて、凛花は驚きを隠せなかった。
颯希は南警察署を出ると、その足で病院に行き、凛花に面会した。そして、颯希が囮になったことを話すと、凛花が驚きの声をあげたのだった。
病室には凛花の母親の他に道明と由美子がいる。
「それにしても……、まさか凛花を襲った犯人が、まさか凛花がいじめから助けた子だったなんて……」
凛花の母親が「信じられない」というような顔でぽつりと言葉を漏らす。
「でも、凛花ちゃんの目が覚めて良かったわ。また、元気になったら遊びに来てね。一緒にお庭のお花を眺めながらおしゃべりしましょうね」
由美子が笑顔で言葉を綴る。
可愛い孫が無事に目を覚まし、道明と由美子はよくお見舞いに来ては凛花とお話ししているようだった。
病室に穏やかな空気が流れる……。
颯希は、またみんなでお見舞いに来ることを伝えると、病院を出た。
帰り道、一人で道路を歩く。いつもなら隣に静也がいるのにいないことが不思議な感じがして思わずため息が漏れる。
「独りってなんか変な感じなのです……」
そう呟きながら道路を歩く。いつもは家までの距離はそんなに長く感じないのだが、それは、隣に静也がいたから時間を気にしていなかっただけなのかもしれない……。
(明日は、静也くんのお見舞いに行きましょう……)
そう言って、颯希は一つの洋菓子店に入っていった……。
「いらっしゃい、颯希ちゃん!」
次の日、颯希が静也の家に行くと、拓哉が玄関で颯希を出迎える。
「この度は、本当に申し訳ありませんでした!!」
リビングに通された颯希は開口一番に、自分の無謀な考えで静也に怪我を負わせてしまったことを深く頭を下げながら拓哉に謝った。そして、昨日買ってきたお菓子を渡す。
そのことに拓哉は笑いながら返事をする。
「なぁに、颯希ちゃんを守るために負った怪我だから、名誉の怪我だよ。そうだろ?静也」
リビングにいる静也に拓哉が声を掛ける。
「た……ただ単に気付いたら体が勝手に動いてただけだよ!」
静也はソファーに足を投げ出しながら、ぶっきらぼうに答える。そして、颯希の服装を見て、静也が声を発した。
「……今日のパトロールは休みにしたのか?」
颯希の今日の服装は私服だった。水色のハーフパンツに白のシャツを合わせている。実は静也は颯希の私服姿を見るのは初めてだった。制服姿ではないのでいつもより緊張が増している。
「ところで颯希ちゃんはこのデザイン、どう思うかな?制服をモチーフにしたタキシードとウエディングドレスなんだけど♪」
どこから取り出したのか、拓哉がデザインしたウエディング用の服のデザイン画を颯希に見せる。
「わぁ~!素敵なのです!!これ、拓哉さんが考えたのですか?」
「僕の仕事は服のデザイナーなんだよ。それで、今回は颯希ちゃんと静――――」
パシッ――――!!
拓哉の頭上をめがけて、静也がそばにあった剣道に使う竹刀で拓哉の頭を叩く。静也の行動に颯希は驚きで言葉が出ない。
「変なこと言い出すんじゃねぇよ!!」
「痛いなぁ~、別にいいじゃないか……。だって、颯希ちゃんは将来静也の――――」
ドスッ――――。
「うぐっ……」
今度はお腹に竹刀を突く。拓哉から変な声が漏れる。
「これ以上、変なこと言うんじゃねぇよ……」
「ハ……イ……」
静也が明らかに怒りモードな事を察した拓哉はお腹を腕で覆いながら大人しく静也の言葉に従うことにした。
颯希はその様子に頭の上ではてなマークが飛び交っている。
拓哉が夕飯を振舞うというので、颯希はその言葉に甘えて夕飯を頂くことになった。
和やかな食卓で楽しく会話をする。
事件が幕を閉じ、どこか久々の楽しいひと時を過ごした。
理恵はあの後、更生施設に送られた。今回のことは、母親の育て方にも問題があったとされ、本人は事件を起こしたものの更生の可能性は十分にあるとされた。なので、更生施設で心の傷を癒しつつ、社会復帰できるようにしていこうということになったのだった。
理恵の母親は娘が事件の犯人だと知り、半狂乱になって精神科に入院しているという。そして、ブツブツと「世間に笑いものにされる」「世間の恥よ」ということを言っているらしい。警察も「あの母親では確かに娘が可哀想だな」という雰囲気になり、理恵を擁護するような声もあるという。
ある晴れた日の午後、理恵は施設の担当者と施設の中にあるベンチに座って空を眺めていた。その瞳は闇が消えて僅かながら光を含んでいるようにも見える。
「本当のヒーロー……か……」
颯希の言葉で、自分のしたことが間違っていたんだということを感じる。そして、颯希の言葉は理恵の背中を少しだけ押してくれたようにも思える……。
優しい日差しを浴びながら、「母親の虚栄心」という籠に閉じ込められていた理恵は間違った形ではあるがその籠から抜け出すことができた。
そして、同じ境遇の子たちから「希望」となるヒーローを夢見る……。
~エピローグ~
次の日曜日、颯希と静也はいつもの公園で待ち合わせた。
「おはよう!静也くん!」
「おはよー、颯希」
久々のパトロールに颯希は嬉しそうな様子だ。
「今日もパトロール頑張りましょう!中学生パトロール隊、出動なのです!!」
颯希が元気よく声をあげて歩きだす。その顔はとても楽しそうに見える。
「なんか、いつも以上に張り切っているな」
静也がいつもより元気な颯希に声を掛ける。
「だって、静也くんとパトロールは嬉しいのです!だって……、静也くんは……」
颯希が少し照れたような感じになる。
「な……なんだよ……」
颯希の態度に静也がドキドキしながら少し顔を赤らめて聞く。
「漫才のつっこみ役なのです!!」
予想してなかった回答が出てきて、静也が口をあんぐりさせる。
そして、叫ぶ。
「なんだそりゃぁぁぁぁーーーー!!」
静也の声が空に響く。
その近くを小さな女の子がフラフラと歩いていた……。
(第三章に続く)
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