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第三章 小花は大きな葉に包まれる
第1話
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~プロローグ~
――――ガシャーン!!
母親がガラスコップを壁に投げつけて、叩きつけられた衝撃でガラスコップは大きな音を立てて割れた。女性はアルコールを飲みながら机に置いてある食器などを次々に壁に投げつける。そのたびに大きな音が響き、部屋はその破片で溢れかえっていた。
その様子をまだ小さな娘が怯えながら座り込んでいる。
そして、母親がその小さな娘に振り向くと憎しみを孕んだ声で叫ぶ。
「あんたなんか産まなきゃよかった!あんたさえ産まなければ……!あんたさえ……!」
この光景がこの家での一つの日常だった。母親はお酒を飲むと暴れ、酷い時は娘を「叩く・蹴る」などの暴行を加える時がある。しかし、それは毎日の事ではなく、機嫌が悪い時にアルコールを飲んだ時だけで、飲まないときは娘と仲良くしている時もある。
娘がそっと家を出る。
母親がそんな状態の時はしばらく外で過ごしていた……。
1.
「さぁ!今日も元気に地域のためのパトロール隊、出動なのです!!」
ーーーーピッピ―!ピッピー!ピッピー!
颯希の掛け声で静也と共にパトロールに出かける。今日の颯希はかなりご機嫌なのか、首にぶら下げている笛を規則的なリズムで鳴らしながら歩いている。
「……なんか、嬉しいことでもあったのか?」
いつも以上にご機嫌な颯希に静也が問う。その言葉に、颯希は笛を吹くのをやめてニコニコしながら言葉を綴る。
「はい!とっても嬉しいことがあったのです!実は凛花ちゃんが退院したのですよ!!」
あの事件の後から颯希と凛花は仲良くなり、電話番号の交換をしたのだという。そして、昨日の夜に凛花から電話があり、無事に退院したことを告げられた。その言葉に颯希は安心し、良かったら今度お茶でもしようという流れになったのだという。美優にも凛花から退院したという連絡が来たらしく、美優とはメッセージで嬉しさを分かち合ったということだった。
凛花は入学が決まっていた高校に来週の月曜日から通うことになったらしく、退院したすぐはしばらく自宅療養ということになった。しかし、凛花の高校の先生がわざわざ家に来てくれて、遅れている分の勉強を教えてくれているらしい。凛花も遅れている分を取り戻すのに必死に勉強しているということだった。
そして、あの事件からどうなったかと言うと、誠の話では理恵は精神的にも落ち着いていて、いつか自分と同じ子を救うために勉強を熱心にしているということだった。元々、頭が悪い子ではなかったので呑み込みも早いという。ちなみに事件のことを警察から知らされた父親の方は、愛人に「殺人者の身内がいる人なんて嫌だ」と言われて、愛人の方から一方的に別れを告げられて愛人と一緒に住んでいたマンションも追い出されたらしく、今は別のアパートに一人で暮らしているという話を聞く。母親の方は未だに精神病院に入院中で、離婚をしてなかったこともあり、その入院費は父親が支払っている……ということが誠の話で分かった。
颯希が先頭を歩き、今日も静也と共にパトロールをしていく。外は天気が良くて、心地よい風が吹いている。町の清掃活動もしながら颯希と静也はパトロールしていった。
前回のことがあり、颯希たちは怪しい人がいないかなどの不審人物チェックもパトロールの視野に入れることにする。辺りをきょろきょろしながらパトロールを行うが、傍から見れば、自分たちの方が怪しく見えてしまいそうな気もするが、勿論、颯希たちはそんなことは気にしていない。それに二人とも胸にはちゃんとパトロール隊の証明のようなバッジを付けている。実は遅れながらにも、颯希が誠に頼んでパトロールのバッジを静也の分も作ってくれないかとお願いしてあったので、それが先週出来上がり、学校でそのバッジを静也に渡す。その時の静也はとても嬉しそうな顔をしていた。
「おぉ~……、ついに俺にもバッジが……」
静也も警察官になるのが夢であるせいか、パトロール隊員の証明ともなるバッジが嬉しいのだろう。表立って嬉しさの表情を出さないが、雰囲気でとても喜んでいるのが分かる。家に帰り、拓哉にバッジを見せると、拓哉は嬉しそうな表情で言葉を綴る。
「いやぁ~、本格的にパトロール隊員って感じだね!父さんも嬉しいよ!なんだか、本物の警察官みたいだ!」
と、すごく嬉しそうに話していた。
「好きな女の子と地域のためにパトロールしていく……。いいねぇ~。青春だねぇ~」
「う……うるせぇよ!!」
「結婚したら颯希ちゃん、うちの家で一緒に暮らさないかなぁ~」
「まだ先の話をぶっ飛ばしてんじゃねぇ!!」
「もし、この家で暮らすとしたら家を建て直した方がいいのかな?」
「まだ付き合ってもないのに気が早すぎるって言ってるだろ!!」
「あっ!子供部屋の壁はどんなのが良いかな?」
妄想の暴走が止まらない拓哉に静也が声をあげる。
「い……いい加減にしろぉぉぉぉぉぉ!!!」
今や日常茶飯事となったこの親子漫才は健在だった。そして、今日から二人とも制服姿にバッジを付けて、パトロールをしている。
パトロールとは言っても、どちらかと言うと地域の清掃や年配の方が重い荷物を持っているのを見かけたら手をかしたりと、そういったことがほとんどだ。でも、颯希も静也も元々人助けが好きな方なので、楽しくやっている。時にはお礼として、ちょっとしたお菓子を貰うこともあるくらいだ。
今日もパトロールをしながら清掃活動を行っていく。その時、颯希と静也の近くを小さな女子がフラフラと歩いているのを見つけた。
「……あの子、なんだかふらついていないですか?」
颯希が女の子に気付き、静也に問いかける。
「……確かに、様子がおかしいな」
しばらく、女の子の様子を見ている時だった。
「痛っ!!」
女の子が石か何かに躓いたらしく、その場でこけた。
「大丈夫!!」
颯希たちが慌てて駆け寄る。立ち上がらない女の子を起き上がらせて、服に着いた汚れをはたいていく。足を見ると、少し血がにじんでいた。
「怪我をしているのです!手当てしますね!」
女の子を静也が担ぎ、近くの公園に行くと、そこにある水道で颯希は持っていたハンカチを濡らした。そして、そのハンカチを傷に当てて綺麗にする。それから、持っていた絆創膏で女の子の足に貼ってあげた。
「お家に帰ったら、ママにちゃんと手当てしてもらってくださいね!」
颯希が女の子にそう言葉を綴る。
「……ありがとう」
女の子がか細い声でお礼を言う。でも、その声に力がないように感じる。それに、表情も何処かぼんやりしているような印象が見受けられた。
「大丈夫?お家までお姉ちゃんたちが送っていきましょうか?」
颯希は屈むと、女の子にそう声を掛ける。
「うぅぅん……。大丈夫……」
女の子はそう答えるが、その声にやはり力がない。颯希はポケットに入れてあるキャラメルを取り出すと、女の子に渡した。
「良かったら、どうぞ!」
女の子がキャラメルを見て、目を輝かせる。
「……食べて……いいの……?」
「はい!良かったら食べてください!」
すると、女の子はそのキャラメルを受け取り、慌てるような雰囲気で包み紙を剥がすと、それを口に放り込んだ。そして、キャラメルを噛み締めながら涙をぽろぽろと流す。
「美味しい……。食べ物だぁ……」
女の子の言葉に颯希たちが不思議な表情をした。そして、女の子の言葉からもしやと思い、静也が声を掛ける。
「朝ごはん、食べてないのか?」
静也の問いに女の子が首をこくんと傾げる。そして、女の子の口から信じられない言葉が飛び出してきた。
「昨日から何も食べてないの……」
「「えっ!!」」
女の子の言葉に颯希と静也が同時に声をあげる。もし、女の子の言葉が本当だとすればそれは一種の虐待行為に値する。颯希の脳裏に「育児放棄」の言葉が頭に浮かぶ。これは、しかるべき場所に連れてった方がいいのかもしれない。でも、何か別の理由があって食事がまともにできていないだけかもしれない。いろいろと考えるが、状況も分からないのにすぐに児童相談所に行くわけにもいかずに、その女の子を家まで送り届けることにした。
女の子を静也が担いだ状態で、道を歩く。
「お名前はなんて言うのですか?」
颯希が優しい声で問う。
「小春……。花島 小春。五歳……」
小春がか細い声で答える。
小春の道案内で、颯希たちはあるアパートに到着した。
「ここ……」
女の子がアパートを指さして部屋の場所を伝える。
颯希は備え付けてあるチャイムを鳴らした。
――――ガシャーン!!
母親がガラスコップを壁に投げつけて、叩きつけられた衝撃でガラスコップは大きな音を立てて割れた。女性はアルコールを飲みながら机に置いてある食器などを次々に壁に投げつける。そのたびに大きな音が響き、部屋はその破片で溢れかえっていた。
その様子をまだ小さな娘が怯えながら座り込んでいる。
そして、母親がその小さな娘に振り向くと憎しみを孕んだ声で叫ぶ。
「あんたなんか産まなきゃよかった!あんたさえ産まなければ……!あんたさえ……!」
この光景がこの家での一つの日常だった。母親はお酒を飲むと暴れ、酷い時は娘を「叩く・蹴る」などの暴行を加える時がある。しかし、それは毎日の事ではなく、機嫌が悪い時にアルコールを飲んだ時だけで、飲まないときは娘と仲良くしている時もある。
娘がそっと家を出る。
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1.
「さぁ!今日も元気に地域のためのパトロール隊、出動なのです!!」
ーーーーピッピ―!ピッピー!ピッピー!
颯希の掛け声で静也と共にパトロールに出かける。今日の颯希はかなりご機嫌なのか、首にぶら下げている笛を規則的なリズムで鳴らしながら歩いている。
「……なんか、嬉しいことでもあったのか?」
いつも以上にご機嫌な颯希に静也が問う。その言葉に、颯希は笛を吹くのをやめてニコニコしながら言葉を綴る。
「はい!とっても嬉しいことがあったのです!実は凛花ちゃんが退院したのですよ!!」
あの事件の後から颯希と凛花は仲良くなり、電話番号の交換をしたのだという。そして、昨日の夜に凛花から電話があり、無事に退院したことを告げられた。その言葉に颯希は安心し、良かったら今度お茶でもしようという流れになったのだという。美優にも凛花から退院したという連絡が来たらしく、美優とはメッセージで嬉しさを分かち合ったということだった。
凛花は入学が決まっていた高校に来週の月曜日から通うことになったらしく、退院したすぐはしばらく自宅療養ということになった。しかし、凛花の高校の先生がわざわざ家に来てくれて、遅れている分の勉強を教えてくれているらしい。凛花も遅れている分を取り戻すのに必死に勉強しているということだった。
そして、あの事件からどうなったかと言うと、誠の話では理恵は精神的にも落ち着いていて、いつか自分と同じ子を救うために勉強を熱心にしているということだった。元々、頭が悪い子ではなかったので呑み込みも早いという。ちなみに事件のことを警察から知らされた父親の方は、愛人に「殺人者の身内がいる人なんて嫌だ」と言われて、愛人の方から一方的に別れを告げられて愛人と一緒に住んでいたマンションも追い出されたらしく、今は別のアパートに一人で暮らしているという話を聞く。母親の方は未だに精神病院に入院中で、離婚をしてなかったこともあり、その入院費は父親が支払っている……ということが誠の話で分かった。
颯希が先頭を歩き、今日も静也と共にパトロールをしていく。外は天気が良くて、心地よい風が吹いている。町の清掃活動もしながら颯希と静也はパトロールしていった。
前回のことがあり、颯希たちは怪しい人がいないかなどの不審人物チェックもパトロールの視野に入れることにする。辺りをきょろきょろしながらパトロールを行うが、傍から見れば、自分たちの方が怪しく見えてしまいそうな気もするが、勿論、颯希たちはそんなことは気にしていない。それに二人とも胸にはちゃんとパトロール隊の証明のようなバッジを付けている。実は遅れながらにも、颯希が誠に頼んでパトロールのバッジを静也の分も作ってくれないかとお願いしてあったので、それが先週出来上がり、学校でそのバッジを静也に渡す。その時の静也はとても嬉しそうな顔をしていた。
「おぉ~……、ついに俺にもバッジが……」
静也も警察官になるのが夢であるせいか、パトロール隊員の証明ともなるバッジが嬉しいのだろう。表立って嬉しさの表情を出さないが、雰囲気でとても喜んでいるのが分かる。家に帰り、拓哉にバッジを見せると、拓哉は嬉しそうな表情で言葉を綴る。
「いやぁ~、本格的にパトロール隊員って感じだね!父さんも嬉しいよ!なんだか、本物の警察官みたいだ!」
と、すごく嬉しそうに話していた。
「好きな女の子と地域のためにパトロールしていく……。いいねぇ~。青春だねぇ~」
「う……うるせぇよ!!」
「結婚したら颯希ちゃん、うちの家で一緒に暮らさないかなぁ~」
「まだ先の話をぶっ飛ばしてんじゃねぇ!!」
「もし、この家で暮らすとしたら家を建て直した方がいいのかな?」
「まだ付き合ってもないのに気が早すぎるって言ってるだろ!!」
「あっ!子供部屋の壁はどんなのが良いかな?」
妄想の暴走が止まらない拓哉に静也が声をあげる。
「い……いい加減にしろぉぉぉぉぉぉ!!!」
今や日常茶飯事となったこの親子漫才は健在だった。そして、今日から二人とも制服姿にバッジを付けて、パトロールをしている。
パトロールとは言っても、どちらかと言うと地域の清掃や年配の方が重い荷物を持っているのを見かけたら手をかしたりと、そういったことがほとんどだ。でも、颯希も静也も元々人助けが好きな方なので、楽しくやっている。時にはお礼として、ちょっとしたお菓子を貰うこともあるくらいだ。
今日もパトロールをしながら清掃活動を行っていく。その時、颯希と静也の近くを小さな女子がフラフラと歩いているのを見つけた。
「……あの子、なんだかふらついていないですか?」
颯希が女の子に気付き、静也に問いかける。
「……確かに、様子がおかしいな」
しばらく、女の子の様子を見ている時だった。
「痛っ!!」
女の子が石か何かに躓いたらしく、その場でこけた。
「大丈夫!!」
颯希たちが慌てて駆け寄る。立ち上がらない女の子を起き上がらせて、服に着いた汚れをはたいていく。足を見ると、少し血がにじんでいた。
「怪我をしているのです!手当てしますね!」
女の子を静也が担ぎ、近くの公園に行くと、そこにある水道で颯希は持っていたハンカチを濡らした。そして、そのハンカチを傷に当てて綺麗にする。それから、持っていた絆創膏で女の子の足に貼ってあげた。
「お家に帰ったら、ママにちゃんと手当てしてもらってくださいね!」
颯希が女の子にそう言葉を綴る。
「……ありがとう」
女の子がか細い声でお礼を言う。でも、その声に力がないように感じる。それに、表情も何処かぼんやりしているような印象が見受けられた。
「大丈夫?お家までお姉ちゃんたちが送っていきましょうか?」
颯希は屈むと、女の子にそう声を掛ける。
「うぅぅん……。大丈夫……」
女の子はそう答えるが、その声にやはり力がない。颯希はポケットに入れてあるキャラメルを取り出すと、女の子に渡した。
「良かったら、どうぞ!」
女の子がキャラメルを見て、目を輝かせる。
「……食べて……いいの……?」
「はい!良かったら食べてください!」
すると、女の子はそのキャラメルを受け取り、慌てるような雰囲気で包み紙を剥がすと、それを口に放り込んだ。そして、キャラメルを噛み締めながら涙をぽろぽろと流す。
「美味しい……。食べ物だぁ……」
女の子の言葉に颯希たちが不思議な表情をした。そして、女の子の言葉からもしやと思い、静也が声を掛ける。
「朝ごはん、食べてないのか?」
静也の問いに女の子が首をこくんと傾げる。そして、女の子の口から信じられない言葉が飛び出してきた。
「昨日から何も食べてないの……」
「「えっ!!」」
女の子の言葉に颯希と静也が同時に声をあげる。もし、女の子の言葉が本当だとすればそれは一種の虐待行為に値する。颯希の脳裏に「育児放棄」の言葉が頭に浮かぶ。これは、しかるべき場所に連れてった方がいいのかもしれない。でも、何か別の理由があって食事がまともにできていないだけかもしれない。いろいろと考えるが、状況も分からないのにすぐに児童相談所に行くわけにもいかずに、その女の子を家まで送り届けることにした。
女の子を静也が担いだ状態で、道を歩く。
「お名前はなんて言うのですか?」
颯希が優しい声で問う。
「小春……。花島 小春。五歳……」
小春がか細い声で答える。
小春の道案内で、颯希たちはあるアパートに到着した。
「ここ……」
女の子がアパートを指さして部屋の場所を伝える。
颯希は備え付けてあるチャイムを鳴らした。
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