はい!こちら、中学生パトロール隊です!!

華ノ月

文字の大きさ
36 / 128
第三章 小花は大きな葉に包まれる

第7話

しおりを挟む
「えっ……?」

 小春の口から出た言葉に颯希が思わず聞き返す。

「小春ちゃん、どういうこと?」

 颯希の問いに小春はまだぼんやりとしており、自分が何を言ったのか分かっていない感じだった。その様子に静也が口を挟む。

「夢を見ただけじゃないのか?」

 その言葉に颯希が小春に問いかける。

「パパが死んじゃう夢を見たのですか?」

 その時だった。

「買ってきたよ!小春の好きなイチゴミルク!」

 茂明が紙パックのイチゴミルクを小春の目の前に掲げる。

「イチゴミルクだ~!!」

 イチゴミルクを見て、ぼんやりしていた頭が晴れてきたのだろうか……。キラキラとした目でイチゴミルクの紙パックに釘付けになる。ストローを差してもらい、嬉しそうにイチゴミルクを飲む。

 イチゴミルクを飲み終わり、颯希が眠気から完全に冷めた小春にもう一度聞く。

「小春ちゃん、パパが死んじゃう夢を見たのですか?」

「えっ!!」

 颯希の言葉に茂明が驚きの声を上げる。

「えっと、えっとね、こ……怖い夢を見たの!ゆ……夢でパパが死んじゃう夢を見たの!」

 小春がどこか焦るように言葉を発する。

「……そうなんですね。怖かったね、よしよし……」

 颯希が優しく小春の頭を撫でる。

「今日はもう帰るね!ママが心配しているかもしれないから!」

 小春はそう言うと、「バイバイ!」と言って足早に公園を去っていった。

 引き留める暇もなく、去っていった小春を颯希たちは呆然としながらその場でしばらく立ち尽くしていた。

「……小春ちゃん、絶対に何かを隠していますよね?」

「あぁ。なんかとんでもない理由がありそうだな……」

 颯希と静也がさっきの小春の様子で何かを知っているのではないかと感じる。そして、小春はそれを隠そうとしているのではないか……。

 その時だった。

 颯希が茂明にある事を聞くのを忘れていて、茂明に尋ねる。

「そういえば、なんで別々に暮らしているのですか?」

 颯希の問いに茂明は表情を暗くして、話し始めた。

「実は――――」

 茂明がなぜ別々に暮らしているのかを話す。

 颯希と静也はその理由に驚きを隠せない。

「――――本当にバカなことをしたと思っている。そして、なんであんな言葉を言ったのだと反省もしている……」

 茂明の話が終わり、しばらくの間沈黙が流れる。

「俺はまだ子供だけどさ、その言葉が酷いもんだってことくらいわかるよ……。ていうか、そんな事を言う大人がいることに驚いたぜ」

 同じ男として茂明の行動と言葉が許せないのか、静也がどこか苛立ちを含みながら言葉を綴る。

「そうですね……。確かにその言葉は良くないですね……」

 颯希もその言葉にどこか怒りを感じている。

「あぁ……。分かっている……。俺はなんて酷い事を言ったのだと反省している……。あの後、その言葉が会社でも問題視されて俺はクビになった……。俺は最低の人間だ……。恵美子と小春に謝りたい……。そして、もう一度三人で暮らしたいんだ……」

「自分勝手な言い分だな……」

 茂明の言葉に静也が怒気を含んだ声で言う。

「一つ気がかりなことがあるのですが……」

 颯希の言葉に静也と茂明が颯希の方に顔を向ける。

「ママの方に新しい恋人がいる可能性もあり得るのではないでしょうか?」

「「えっ……!!」」

 颯希の言葉に静也と茂明が同時に声を上げる。

 確かにあり得てもおかしくない話だった。もしかしたら、新しい恋人ができて小春の存在が邪魔になっている可能性もある。

「……確かにそれはあり得る話だな。ああいう事を言う旦那は切り捨てて他の男を選んでいても不思議じゃない」

 静也が神妙な顔をしながらそう言葉を綴る。

「可能性と言うだけで確信はありませんが、もし、新しい恋人ができてその恋人が小春ちゃんのことを受け入れていないということも考えられます」

 颯希がそう言葉を綴る。

「再婚のためには小春が邪魔になっているということか……」

 静也が「何だよそれ……」という感じの表情で怒りを含みながら言葉を綴る。

「それに、小春ちゃんの『パパが死んじゃう』という言葉は、もしかして新しい恋人が小春ちゃんのママと一緒にいるために邪魔な茂明さんを殺そうとしているのではないのでしょうか?」

「は……?」

 颯希の言葉に静也が素っとん狂な声を上げる。

「いや、いくらなんでもそれは無いと思うぞ?」
「でも、ミステリーやサスペンスでは定番なのですよ?」
「それはドラマや小説の話だろ!」
「よくある話じゃないですか!」
「テレビの見過ぎだよ!」
「そうでもないと思いますが?!」
「こんなことで事件が起こってたら世の中事件だらけだわ!」
「憎い人や邪魔者を排除するために殺人が起きるということはよくある展開ですよ?!」
「だからってまだ相手がいるかどうかも分からないのに飛躍しすぎだろ!」
「じゃあ、張り込んで相手を見つけましょう!」


「……へ?」


 颯希と静也のある意味白熱したコントのようなものは、颯希の提案が出て、少し間を置いてから静也の口から間抜けな声が出たところで終了した。その間、茂明は二人のコントのようなものに口を挟めず、あんぐりと口を開けたまま放心している。

「張り……込み?」

 颯希の言葉がうまく理解できないのか、静也が聞き返す。

「はい!アパートの近くで張り込みをして新しい恋人を突き止めましょう!!そして、事件を未然に防ぐのです!!」

 颯希の中では『殺人事件』と言う考えが思い浮かんでいるらしく、その考えに突っ走っている。

「恵美子に男が……」

「「……え?」」

 茂明の存在を忘れていた颯希と静也が茂明の言葉に反応する。

「す……すみません!存在を忘れていました!」

 颯希が慌てて謝罪の言葉を発する。

「いや……、恵美子に限って男がいるなんてことは……」

 茂明が「信じられない」とでも言いたげな顔で言う。

「でもさ、ああいう事を言う旦那を今でも好きでいる可能性は低いんじゃないか?」

 静也が茂明の言葉に淡々と言葉を吐く。

 静也の言葉はもっともだった。一般的に考えてあんな事を言う茂明に恵美子が今でも好きでいる可能性はほぼ無いだろう。もし、それでも恵美子が今でも茂明を好きなのだとしたら、それは恵美子がとても一途な人だということだ。だが、大半の女性はそのセリフに相手に嫌気が差してもおかしくない。


「小春ちゃんを救うためにも明日から張り込みを開始しましょう!!」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

悲報 スライムに転生するつもりがゴブリンに転生しました

ぽこぺん
ファンタジー
転生の間で人間以外の種族も選べることに気付いた主人公 某人気小説のようにスライムに転生して無双しようとするも手違いでゴブリンに転生 さらにスキルボーナスで身に着けた聖魔法は魔物の体には相性が悪くダメージが入ることが判明 これは不遇な生い立ちにめげず強く前向き生きる一匹のゴブリンの物語 (基本的に戦闘はありません、誰かが不幸になることもありません)

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...