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華ノ月

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第四章 青い炎は恵みの雨を受ける

第14話

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 ある日の平日、大河が仕事から帰り、玲奈と夕飯を囲んでいると大河がいつもの笑顔で言葉を綴った。

「玲奈さん、今度の土曜日は仕事関係の人と飲みに行くから夕飯はいらないよ。玲奈さんも夕飯はどこかに食べに行ってもいいからね。帰りは少し遅くなるかもしれないから、先に寝てもいいよ」

「分かりました。気を付けて行ってきてくださいね」

 大河の言葉に玲奈が少し寂しそうな表情で微笑みながら言う。しかし、心の中ではチャンスだと思った。

(ふふっ、ラッキー♪後で彰人さんに連絡しよ♪)

 玲奈の表情がどこか嬉しそうな感じに見えて、大河は複雑な気分になる。もしかしたら、あの男が言っていた「声を掛けてきた男」に会うかもしれない。でも、確信がない。それに、あの裏アカウントのことや他にも書き込みされていた内容が目の前にいる愛しい女性が書いたとは思いたくない自分もいる……。もし、今のこの姿が仮の姿だとしたら何のために自分に近付いたのだろう……。

「……さん?大河さん?どうかしましたか?顔色が悪いようですが、お仕事が忙しいのですか?」

 玲奈が大河の表情が暗いことに気付き、声を掛ける。

「あ……あぁ、ごめん。ちょっと仕事が立て込んでいてね。夕飯が終わったら書斎で片づけなきゃいけない仕事をしてくるよ」

 大河がそう言って誤魔化す。

 そして、夕飯が終わり、書斎に行くと言ってリビングを出ていった。

 大河が行ったと同時に玲奈ソファーでくつろぎながらスマートフォンを取り出し、彰人に連絡する。

『彰人さん、今度の土曜日に食事に行きませんか?何も予定がないの……。会って欲しいな♪』

 可愛い女を演じているのか、ちょっと甘えるような感じでメッセージを送る。

 しばらくして、彰人から返事が来た。

『ごめん。土曜日は出勤しなきゃいけないんだ。代わりにと言うわけではないんだけど、日にちはまだ未定なんだけど、玲奈さんに最高のプレゼントを用意してあるからその日を空けておいてくれないかな?きっと、喜ぶと思うよ!』

 彰人からのメッセージを読んで、土曜日が会えないことは寂しくなるものの、『最高のプレゼントを用意してある』という言葉に期待を持ってしまう。

『日にちはまた改めて連絡するよ』

(……もしかして、プロポーズかしら♪なら、これを機にあの真面目堅物男と別れるのもいいわね♪)

 鼻歌を歌いながら上機嫌でオッケーのメッセージを送る。


 その様子を大河はリビングの扉の隙間から見つからないように伺っていた……。



 金曜日。学校が終わり、颯希と静也は大河に会うために役所に足を運んだ。生活安全課に行き、大河を呼んでもらう。しばらくして、大河が出てくると、颯希たちをこの前の談話室に連れて行った。

「お忙しいところすみません……。お聞きしたいことがあって伺いました」

 颯希が丁寧に突然来訪したことを謝る。

「いや、大丈夫だよ。今日はどうしたんだい?」

 大河が微笑みながら颯希たちに問う。しかし、微笑んでいるものの、その表情は少し暗い感じが見て取れた。

「実は、この前の日曜日に青木さんから受け取った封筒のことで話を聞きに来ました」

「!!」

 颯希の言葉に大河が驚きの表情を見せる。

「……あの人は颯希ちゃんたちの知り合いだったのかい?」

「いえ、知り合いと言うわけではありません。その……、ある現場を目撃して青木さんに声を掛けたのです……」

「ある現場?」

 大河が訝しげな顔をする。颯希たちが話していいのかどうか迷う。すると、静也が口を開いた。

「俺たち、工藤さんに教えてもらった本を買いに町の大型書店に行ったんです。その帰りに、玲奈さんが男の人と楽しそうにお茶している現場を目撃しました。そして、それをじっと見ていたのが青木さんです……」

 静也の言葉に大河が更に驚きの顔をする。

「工藤さん……、実は俺、玲奈さんに初めて会った時から玲奈さんが『良い人』には見えませんでした。工藤さんの婚約者の方なのに申し訳ないのですが、俺は玲奈さんが良い人ではなく悪い人のように思えます……」

 静也の言葉に大河は何も言わずに、顔を俯ける。

「……工藤さん、封筒の中身はご覧になりましたか?」

 颯希が大河に問いかける。

 大河が颯希の質問に、辛そうな表情をすると、息を吐き、口を開いた。

「……あぁ、見たよ。正直、今でも信じられないんだ。玲奈さんがそんなことをする人だなんて……。颯希ちゃんも玲奈さんに対してはあまり良いイメージじゃないのかな?」

「……正直、私も静也くんと似たような意見です。どこか偽っているような感じがしました」

「……そうか」

 颯希も同じ意見だという事を聞いて、大河が深くため息を吐く。

「知っているかもしれないけど、この前、颯希ちゃんのお父さんに電話したんだよ。久々に栗本さんと飲みに行きませんかってね……。その時に、その封筒の中身を見せる予定でいるんだ。場合によっては調べてもらおうと思っている……」

 大河の言葉に颯希が「やっぱり……」と呟く。

「仕事柄かな……?書かれていることが事実だとしたら、それを放っておくことはできない……。その青木さんって人の他にも苦しんでいる人がいるのなら僕は救ってあげたい……。僕の仕事は地域の人の暮らしを守る義務がある……」

「工藤さん……」

 颯希が大河の話に「この人は本当にいい人なんだな」と感じる。それは、静也も同様だった。地域の人のために「生活安全課」で仕事をしているだけのことはあり、大河の人望が厚いことも納得できる。それと同時に玲奈に対する怒りが颯希の中で込み上げる。なぜ、あんな人が大河の婚約者なのだろう……。何か裏の意図があって大河に近付いたのかもしれない……。

(許しません……)

 颯希が心の中で怒りの炎を燃やした。



 土曜日になり、居酒屋には賑やかな笑い声があちこちから響いた。

「「「お疲れ様でした!!!」」」

 大河と哲司と誠が一週間の仕事を労い合って乾杯をする。最近の近況を語り合いながら和やかな時間を過ごす。

「そういえば、工藤さん。例の婚約者さんとの結婚式はいつ挙げるんですか?」

 哲司がふと思い出したようにそのことを尋ねる。

「結婚式にはぜひ私も呼んでくれよ!工藤君の晴れ姿を楽しみにしているからな!」

 誠が嬉しそうに話す。

 大河はその言葉に苦笑いを浮かべる。そして、表情を正すと、真剣な顔つきになって言葉を発した。

「結城さん、お願いしたいことがあります」


 大河はそう言うと、鞄から封筒を取り出した……。



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