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第四章 青い炎は恵みの雨を受ける
第17話&エピローグ
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「あぁ………。お前の質の悪い遊びで逮捕された青木友成だ!!」
友成が鋭い眼差しで玲奈を指さしながら叫ぶように言う。
「……あの日、いつものように仕事に行くために俺は電車に乗った。その日も電車は満員で俺は身動きが取れずにいた。その近くにお前がいて、俺の手を掴むと大声で叫んだ。『痴漢よ!』ってな。そして、俺は近くにいた人に取り押さえられて鉄道警備隊に連れてかれた。警備隊の人に事情を聞かれて説明したが、警備隊はお前の言葉を信じ、俺を逮捕した。しかし、その後で確たる証拠が見つからなくて俺は釈放された。だが、そのせいで俺は仕事を失い、近所でも後ろ指をさされるようになった。地獄の日々だったさ……。何もしていないのに、なんで俺がこんな目に遭うんだってね……。そして、俺は確たる証拠を見つけるために今回の計画を立てた」
友成の言葉に玲奈は焦るものの、開き直るように言葉を吐いた。
「それで?その確たる証拠とやらは見つかったの?……なんて、そんなことあるはずないわよねぇ……。だって、証拠も何も元からそんな事件ないんだから……」
玲奈が不敵の笑みを浮かべながら勝ち誇ったように言葉を綴る。
「……高嶺の勝ち組女子……」
「!!」
友成から出てきた言葉に玲奈が驚愕の表情をする。
「お前の携帯番号からあるサイトを見つけた。これ……、お前の書き込みだよな……?」
友成がそう言って、玲奈が書いたつぶやきのコピーを玲奈の足元にばらまく。
「な……なんで……?!」
玲奈がそのコピーを見て、驚きの声を上げる。
「なんであんたが私の番号を知っているのよ!!」
そこまで言って、玲奈がある事に気付く。
「ま……まさか……」
そう言って、彰人の方を振り返る。
「あ……あんたたち……グルだったの……?」
玲奈の言葉に彰人が冷笑を浮かべる。
彰人と友成がグルだったことを確信し、唇を噛み締める。
「木原、お前は昔から何も変わっていないんだな……」
友成の言葉に玲奈が訝しげな顔をする。
「今回の計画で、なぜ、彰人を仕向けられたと思う?お前の好みを把握していないとそんなことできないよな?」
友成の言葉が良く分からなくて玲奈が言葉を放つ。
「……知り合いにあんたみたいな男はいないんだけど?」
「名前を名乗ってもまだ分からないか?俺はお前の中学の同級生で、お前から嫌がらせを受けていたあの「青バカ」だ!!」
「……?!」
友成の言葉で玲奈が思い出したのか、玲奈が憎しみのこもった声で言葉を綴る。
「……そう、あんた、あの「青バカ」だったのね……。勉強ばっかしている根暗の……」
「あぁ、そうだ!お前は昔から人前では「おしとやかな子」を演じていたが、裏では俺のことを虐めてたよな!周りの人間はお前に騙されていたから俺の言葉はなにも聞き入れてもらえなかったが、裏の顔こそがお前の本性だ!!」
友成の言葉に玲奈が更に唇を噛み締める。しかし、不気味な笑顔を作り、言葉を吐く。
「……だから何だって言うのよ!このことだって大河さんに言えば、大河さんはあんたたちより私を信じるわ!だって、大河さんにとって私はおしとやかで素敵な女性なんだから!!」
玲奈が勝ち誇った表情で言葉を吐く。
「このこと、大河さんに言いつけて、あんたたちを破滅させてやるわ……」
「……その必要は無い」
突然、声が聞こえてきて、玲奈がその声に驚いたように振り返る。
「た……大河さん?!」
大河がゆっくりと玲奈に向って歩いてくる。傍には颯希と静也もいる。
「ど……どうして大河さんがここに……?!」
状況が飲み込めずに玲奈が震えながら声を出す。
「……話は全て聞かせてもらったよ。まさか君がそんな人だったとはね……。君の言う「遊び」に関しては警察が事実確認のために調べを進めている。じきに君が起こした事件の数々の真相が分かるはずだ……」
「う……嘘……」
玲奈が愕然としながら呟く。
そこへ、颯希が玲奈に向って言葉を綴る。
「玲奈さん……、あなたがやったことはただの自己満足です。それであなた自身は幸せかもしれませんが、その幸せは「本当の幸せ」ではありません。あなたのその「幸せ」の下で沢山の人が不幸になっています。人を陥れる「幸せ」はあってはなりません。だから……」
颯希はそこまで言うと、深呼吸を一つする。
そして、玲奈を指さすと、力強い声で言い放った。
「あなたのような『悪』は、裁きの鉄槌を受けるべきです!!」
颯希の言葉に玲奈がわなわなと震えだす……。そして、鞄からメイク用のハサミを取り出し、叫んだ。
「この……、クソガキがぁぁぁぁぁぁ!!」
玲奈がハサミを振りかざしながら颯希に突進してくる。
「させるかぁぁぁぁぁぁ!!」
――――バシーーーン!!!
静也が背中に担いでいた竹刀を振り、玲奈の胴をめがけて思い切り振った。
竹刀がお腹に命中して、玲奈がその場に倒れる。
――――ファン、ファン、ファン……。
倉庫の外でパトカーの音が鳴り響く。そして、警察官が数名なだれ込み、玲奈は殺人未遂の現行犯で逮捕された。事情を聞くために、友成や彰人も連れて行く。
そして、颯希たちにも状況を聞くために一緒にパトカーに乗り込んだ……。
「いや~、今回の事件もすごかったな」
学校の帰り道で颯希と並んで歩いている静也が、今回の事件を振り返りながら言葉を綴る。
「でも、無事に解決できてよかったのです!」
あの後、誠から玲奈が起こした事件の裏付けが全て取れた警察は玲奈を傷害罪で正式に起訴した。玲奈が引き起こした事件で何人もの人がその後で、家庭崩壊を起こしていたり、精神を病んで入院している人もいることが分かった。
「……中には玲奈さんが万引き事件を引き起こして罪に問われた人もいるんだってな」
「はい……。その事件も玲奈さんが引き起こしたという事が例のサイトから分かり、犯人だと思われていた人は釈放されたそうです」
いくつかの事件を引き起こした玲奈は「世紀の大悪党女」として、しばらく世間を騒がせた。テレビにも取り上げられ、玲奈の顔写真も出回ったという。
大河の職場である役所にも報道陣が来たらしく、大河はその報道に真摯に対応した。
「今回、役所で生活安全課として働いている自分の元婚約者が皆様に多大なご迷惑をおかけしてしまい、心からお詫びと謝罪を申し上げます。これからは、生活安全課の人間として、この件に関しまして、心に傷を負った方々に真摯に対応し、心のケアをして参ります。本当に申し訳ありませんでした」
大河の言葉に報道陣は拍手を送り、更にこの事件をどう思うかという内容を質問した。
「私は『悪』は決して許してはならないと思っています。『悪』に屈しる事もしてはなりません。今後もその信念を崩さずに仕事を行っていきたいと思っています」
テレビのニュースで流れる報道を颯希も見ていた。そして、大河の言葉に賛同するように心の中である言葉を呟く。
(私もいつか、地域の人のために工藤さんみたいな立派な大人になるのです!)
「なんか、事件を引き起こされた人たち、可哀想だな……。元の生活に戻れるといいんだけど……」
静也が辛そうな表情で言葉を綴る。
「……玲奈さんにとってはただの悪戯程度のことだったかもしれません。でも、時にはその悪戯が悲劇を引き起こし、取り返しのつかないことになる状況になってしまうケースもあるという事です。悪戯でも、いじめでも、それはやってはいけないことです。そして、そんなことをしている人はいつかその報いを受けます。私は『悪』を許しません。絶対に……」
颯希が強い瞳でそう語る。
『悪』は許してはいけない……。
『悪』を許せば、沢山の人が苦しむ……。
そして、『悪』を行なえばいつかは裁きの鉄槌が下される……。
こうして、玲奈の引き起こした悪戯がきっかけで起こった事件は幕を閉じた……。
~エピローグ~
「颯希ー!手を怪我しないように軍手しとけよー!」
ある日の日曜日、颯希と静也は海岸の清掃活動を行っていた。
「いやぁ~、二人とも精が出るのぉ~」
幸雄が釣りに来ると、二人が海岸のごみ拾いを行っていたので感心したように声を上げる。
「颯希お姉ちゃん!静也お兄ちゃん!」
そこへ、小春が駆け寄ってくる。
「小春ちゃん!」
「よぉ、小春」
颯希たちが小春に返事をする。
「今日ね、パパとママの三人で海にピクニックに来たの!」
小春が笑顔でそう言葉を綴る。離れたところで恵美子と茂明がシートを広げてお弁当の準備をしていた。
「そういえば、颯希お姉ちゃん。お姉ちゃんはしず……」
小春がそこまで言いかけて、慌てて口を押える。
「私がどうかしましたか?」
小春の言葉に颯希は頭にはてなマークを浮かべる。隣では静也が慌てるように「しーっ!!」というジェスチャーを小春に送っている。
「小春ちゃん??どうかしましたか??」
颯希が不思議そうな顔をする。
「えっと……えっと……、さ……颯希お姉ちゃんは……、シズッターへっぽこぴーマンって好きですかー?!」
小春が叫ぶように言うその「シズッターへっっぽこぴーマン」という言葉に颯希ははてなマークを浮かべ、静也はずっこけている。
「えっと……、なんですか?それは??」
颯希が不思議そうに尋ねると、小春が焦りながら答える。
「えっとね……えっと……、シズッターへっぽこぴーマンって言って、へっぽこな顔をしたヒーローがいるの!」
そう言って、小春がへっぽこな顔をしながらポーズをとる。勿論、そんなヒーローはいない。小春の咄嗟の誤魔化しで言った言葉だ。
「あははっ!そんなヒーローがいるのですね!初めて知りました!!……って、あれ?静也くん、ずっこけていますが、どうかしましたか?」
「いや……、なんでもない……」
(……小春から見たら、俺ってそんなにへっぽこなんかな……)
何気にその言葉にショックを受けながら、静也が「とりあえず、ゴミ拾いしようぜ……」と、力なく答える。
そして、いつもの日常風景が繰り広げられる……。
そんな、穏やかな日々の中である事件が静かに幕を開けようとしていた……。
(第五章に続く)
友成が鋭い眼差しで玲奈を指さしながら叫ぶように言う。
「……あの日、いつものように仕事に行くために俺は電車に乗った。その日も電車は満員で俺は身動きが取れずにいた。その近くにお前がいて、俺の手を掴むと大声で叫んだ。『痴漢よ!』ってな。そして、俺は近くにいた人に取り押さえられて鉄道警備隊に連れてかれた。警備隊の人に事情を聞かれて説明したが、警備隊はお前の言葉を信じ、俺を逮捕した。しかし、その後で確たる証拠が見つからなくて俺は釈放された。だが、そのせいで俺は仕事を失い、近所でも後ろ指をさされるようになった。地獄の日々だったさ……。何もしていないのに、なんで俺がこんな目に遭うんだってね……。そして、俺は確たる証拠を見つけるために今回の計画を立てた」
友成の言葉に玲奈は焦るものの、開き直るように言葉を吐いた。
「それで?その確たる証拠とやらは見つかったの?……なんて、そんなことあるはずないわよねぇ……。だって、証拠も何も元からそんな事件ないんだから……」
玲奈が不敵の笑みを浮かべながら勝ち誇ったように言葉を綴る。
「……高嶺の勝ち組女子……」
「!!」
友成から出てきた言葉に玲奈が驚愕の表情をする。
「お前の携帯番号からあるサイトを見つけた。これ……、お前の書き込みだよな……?」
友成がそう言って、玲奈が書いたつぶやきのコピーを玲奈の足元にばらまく。
「な……なんで……?!」
玲奈がそのコピーを見て、驚きの声を上げる。
「なんであんたが私の番号を知っているのよ!!」
そこまで言って、玲奈がある事に気付く。
「ま……まさか……」
そう言って、彰人の方を振り返る。
「あ……あんたたち……グルだったの……?」
玲奈の言葉に彰人が冷笑を浮かべる。
彰人と友成がグルだったことを確信し、唇を噛み締める。
「木原、お前は昔から何も変わっていないんだな……」
友成の言葉に玲奈が訝しげな顔をする。
「今回の計画で、なぜ、彰人を仕向けられたと思う?お前の好みを把握していないとそんなことできないよな?」
友成の言葉が良く分からなくて玲奈が言葉を放つ。
「……知り合いにあんたみたいな男はいないんだけど?」
「名前を名乗ってもまだ分からないか?俺はお前の中学の同級生で、お前から嫌がらせを受けていたあの「青バカ」だ!!」
「……?!」
友成の言葉で玲奈が思い出したのか、玲奈が憎しみのこもった声で言葉を綴る。
「……そう、あんた、あの「青バカ」だったのね……。勉強ばっかしている根暗の……」
「あぁ、そうだ!お前は昔から人前では「おしとやかな子」を演じていたが、裏では俺のことを虐めてたよな!周りの人間はお前に騙されていたから俺の言葉はなにも聞き入れてもらえなかったが、裏の顔こそがお前の本性だ!!」
友成の言葉に玲奈が更に唇を噛み締める。しかし、不気味な笑顔を作り、言葉を吐く。
「……だから何だって言うのよ!このことだって大河さんに言えば、大河さんはあんたたちより私を信じるわ!だって、大河さんにとって私はおしとやかで素敵な女性なんだから!!」
玲奈が勝ち誇った表情で言葉を吐く。
「このこと、大河さんに言いつけて、あんたたちを破滅させてやるわ……」
「……その必要は無い」
突然、声が聞こえてきて、玲奈がその声に驚いたように振り返る。
「た……大河さん?!」
大河がゆっくりと玲奈に向って歩いてくる。傍には颯希と静也もいる。
「ど……どうして大河さんがここに……?!」
状況が飲み込めずに玲奈が震えながら声を出す。
「……話は全て聞かせてもらったよ。まさか君がそんな人だったとはね……。君の言う「遊び」に関しては警察が事実確認のために調べを進めている。じきに君が起こした事件の数々の真相が分かるはずだ……」
「う……嘘……」
玲奈が愕然としながら呟く。
そこへ、颯希が玲奈に向って言葉を綴る。
「玲奈さん……、あなたがやったことはただの自己満足です。それであなた自身は幸せかもしれませんが、その幸せは「本当の幸せ」ではありません。あなたのその「幸せ」の下で沢山の人が不幸になっています。人を陥れる「幸せ」はあってはなりません。だから……」
颯希はそこまで言うと、深呼吸を一つする。
そして、玲奈を指さすと、力強い声で言い放った。
「あなたのような『悪』は、裁きの鉄槌を受けるべきです!!」
颯希の言葉に玲奈がわなわなと震えだす……。そして、鞄からメイク用のハサミを取り出し、叫んだ。
「この……、クソガキがぁぁぁぁぁぁ!!」
玲奈がハサミを振りかざしながら颯希に突進してくる。
「させるかぁぁぁぁぁぁ!!」
――――バシーーーン!!!
静也が背中に担いでいた竹刀を振り、玲奈の胴をめがけて思い切り振った。
竹刀がお腹に命中して、玲奈がその場に倒れる。
――――ファン、ファン、ファン……。
倉庫の外でパトカーの音が鳴り響く。そして、警察官が数名なだれ込み、玲奈は殺人未遂の現行犯で逮捕された。事情を聞くために、友成や彰人も連れて行く。
そして、颯希たちにも状況を聞くために一緒にパトカーに乗り込んだ……。
「いや~、今回の事件もすごかったな」
学校の帰り道で颯希と並んで歩いている静也が、今回の事件を振り返りながら言葉を綴る。
「でも、無事に解決できてよかったのです!」
あの後、誠から玲奈が起こした事件の裏付けが全て取れた警察は玲奈を傷害罪で正式に起訴した。玲奈が引き起こした事件で何人もの人がその後で、家庭崩壊を起こしていたり、精神を病んで入院している人もいることが分かった。
「……中には玲奈さんが万引き事件を引き起こして罪に問われた人もいるんだってな」
「はい……。その事件も玲奈さんが引き起こしたという事が例のサイトから分かり、犯人だと思われていた人は釈放されたそうです」
いくつかの事件を引き起こした玲奈は「世紀の大悪党女」として、しばらく世間を騒がせた。テレビにも取り上げられ、玲奈の顔写真も出回ったという。
大河の職場である役所にも報道陣が来たらしく、大河はその報道に真摯に対応した。
「今回、役所で生活安全課として働いている自分の元婚約者が皆様に多大なご迷惑をおかけしてしまい、心からお詫びと謝罪を申し上げます。これからは、生活安全課の人間として、この件に関しまして、心に傷を負った方々に真摯に対応し、心のケアをして参ります。本当に申し訳ありませんでした」
大河の言葉に報道陣は拍手を送り、更にこの事件をどう思うかという内容を質問した。
「私は『悪』は決して許してはならないと思っています。『悪』に屈しる事もしてはなりません。今後もその信念を崩さずに仕事を行っていきたいと思っています」
テレビのニュースで流れる報道を颯希も見ていた。そして、大河の言葉に賛同するように心の中である言葉を呟く。
(私もいつか、地域の人のために工藤さんみたいな立派な大人になるのです!)
「なんか、事件を引き起こされた人たち、可哀想だな……。元の生活に戻れるといいんだけど……」
静也が辛そうな表情で言葉を綴る。
「……玲奈さんにとってはただの悪戯程度のことだったかもしれません。でも、時にはその悪戯が悲劇を引き起こし、取り返しのつかないことになる状況になってしまうケースもあるという事です。悪戯でも、いじめでも、それはやってはいけないことです。そして、そんなことをしている人はいつかその報いを受けます。私は『悪』を許しません。絶対に……」
颯希が強い瞳でそう語る。
『悪』は許してはいけない……。
『悪』を許せば、沢山の人が苦しむ……。
そして、『悪』を行なえばいつかは裁きの鉄槌が下される……。
こうして、玲奈の引き起こした悪戯がきっかけで起こった事件は幕を閉じた……。
~エピローグ~
「颯希ー!手を怪我しないように軍手しとけよー!」
ある日の日曜日、颯希と静也は海岸の清掃活動を行っていた。
「いやぁ~、二人とも精が出るのぉ~」
幸雄が釣りに来ると、二人が海岸のごみ拾いを行っていたので感心したように声を上げる。
「颯希お姉ちゃん!静也お兄ちゃん!」
そこへ、小春が駆け寄ってくる。
「小春ちゃん!」
「よぉ、小春」
颯希たちが小春に返事をする。
「今日ね、パパとママの三人で海にピクニックに来たの!」
小春が笑顔でそう言葉を綴る。離れたところで恵美子と茂明がシートを広げてお弁当の準備をしていた。
「そういえば、颯希お姉ちゃん。お姉ちゃんはしず……」
小春がそこまで言いかけて、慌てて口を押える。
「私がどうかしましたか?」
小春の言葉に颯希は頭にはてなマークを浮かべる。隣では静也が慌てるように「しーっ!!」というジェスチャーを小春に送っている。
「小春ちゃん??どうかしましたか??」
颯希が不思議そうな顔をする。
「えっと……えっと……、さ……颯希お姉ちゃんは……、シズッターへっぽこぴーマンって好きですかー?!」
小春が叫ぶように言うその「シズッターへっっぽこぴーマン」という言葉に颯希ははてなマークを浮かべ、静也はずっこけている。
「えっと……、なんですか?それは??」
颯希が不思議そうに尋ねると、小春が焦りながら答える。
「えっとね……えっと……、シズッターへっぽこぴーマンって言って、へっぽこな顔をしたヒーローがいるの!」
そう言って、小春がへっぽこな顔をしながらポーズをとる。勿論、そんなヒーローはいない。小春の咄嗟の誤魔化しで言った言葉だ。
「あははっ!そんなヒーローがいるのですね!初めて知りました!!……って、あれ?静也くん、ずっこけていますが、どうかしましたか?」
「いや……、なんでもない……」
(……小春から見たら、俺ってそんなにへっぽこなんかな……)
何気にその言葉にショックを受けながら、静也が「とりあえず、ゴミ拾いしようぜ……」と、力なく答える。
そして、いつもの日常風景が繰り広げられる……。
そんな、穏やかな日々の中である事件が静かに幕を開けようとしていた……。
(第五章に続く)
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