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最終章 そして、白い鳥たちは大空へ向かう

第10話

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「はぁ~……。これぞ幸せ!って感じですね!!」



 ケーキを一口噛み締めながら颯希が幸せそうに言葉を綴る。



「このミルクティーも最高なのです!コクがしっかりあって美味しいのです!」



 颯希がミルクティーを啜りながら満面の笑みで語る。



「嬉しいわ♪そんなに気に入ってくれて♪」



 颯希と向かい合わせに座っている月子が微笑みながら言う。颯希と月子の二人で楽しそうにしている横で静也と月弥がもくもくとケーキを食べて紅茶を飲んでいる。



「楽しそうだね♪」



 二人が仲良くしゃべっている様子に月弥が嬉しそうに言葉を綴る。



「そうだな」



 静也がその言葉に相槌を打つ。



「来てくれて嬉しいわ。良かったらサービスのお菓子もどうぞ」



 エプロン姿の有子が小さな器に入ったお菓子を一人一人の席に並べる。



「ありがとう。有子さん」



 月子が有子にお礼の言葉を述べる。



「……そういえば、日曜日なのに制服?」



 有子が颯希と静也が制服でいることを不思議に思いそう尋ねる。



「私と静也くんは中学生パトロール隊員ですからね!なので、日曜日はパトロールをしているのです!」



 颯希が元気よく答える。



「じゃあ、そのパトロールに月子ちゃんと月弥くんも参加しているという事なの?」



「いえ、ちょっと別件で颯希ちゃんたちに協力してもらっているのよ♪」



「別件??」



 有子の言葉に月子が答えて、その言葉に有子の頭の上にはてなマークが浮かぶ。



「えぇ♪十二年前の放火事件を調べるのを手伝ってもらっているのよ♪」



「十二年前……」





 ――――ポタっ……ポタっ……ポタっ……。





「有子さん?!」



 月子の言葉に急に有子の目から大粒の涙が溢れた。



「ご……ごめんなさいね。急に涙……が……」



「……何かあったのか?」



 有子が急に泣き出したことにみんなが心配し、静也がそう尋ねる。



「実は……」



 有子はそう言って十二年前のことを語りだした。



 娘である友理奈が五歳の時に庭でバーベキューしていて有子と旦那がその場を離れた時に友理奈が火だるまの状態になっていたこと。命は助かったが体全身に火傷を負い、左目が見えなくなったこと。そして、その事故からしばらくして学校にも行かなくなり、引き籠っていること……。



 有子の話に誰も口を挟めないでいる。まさか、有子の娘にそんなことがあったとは思いもよらず、有子の心境を考えるとなんと声を掛けていいか分からない。



「……忘れもしないわ。十二年前の八月十一日のことは……」



「……え?」



 有子の言葉に颯希が声を漏らす。



「ごめんなさいね。ゆっくりしていってね」



 有子はそれだけを言うと、その場から去っていく。



「……偶然、でしょうか?」



 颯希が先程の有子の話を聞いてそう声を出す。



「……偶然といえば偶然かもしれないけど、引っ掛かるな」



 静也がそう苦言を呈する。



「……ちょっと調べてみない?」



 月子がそう提案する。



「そうだね。意外と何か関連があるかも……」



 月弥が月子の言葉に同意する。



「……調べてみましょう」



 颯希も同意だったらしく、みんなで何か関連がないか調べることにした。







レイ『ユリさん、何かあったのかな?』



ユウ『多分、俺のせいだと思う』



レイ『どうして?』



ユウ『俺が、その施設に行くような事を言ったから』



レイ『でも、それは悪いことではないし。施設に行くことはいいことだと思うけど』



ユウ『ユリの中ではきっと今までの関係のままがいいんだと思う。また、独りぼっちになっちゃうって感じたかもしれない』



レイ『ユウさんは、ユリさんのことが好きなの?』



 玲がそう質問する。



 悠里からすぐに返事はない。



ユウ『そうかもしれない』



 しばらくして、悠里からそう返事が来る。



【ユウが退出しました】



 悠里はそれだけを打つと、チャットルームから出た。玲は「悪いこと聞いたかな?」と感じながら、自分もそのルームを出る。



「……好きな人……か……」



 玲はタブレットを閉じると、ベッドに仰向けになる。



「……元気にしているかな……?」



 玲は過去を思い出しながらポツリと呟いた。







「こっちに近道があるわよ♪」



 颯希たちはカフェを出ると、今日の捜査はここまでという事になり、帰ることにした。その途中で月子がそう言い出し、その道を四人で歩く。前に静也と月弥が歩き、ちょっと後ろを颯希と月子が歩く。





 その時だった。





「わっ!!」

「きゃあ!!」



 後ろを歩いていた颯希と月子が急に声を出したので静也と月弥が振り返る。



 すると、二人の男が颯希と月子を抱えている。颯希と月子は気絶させられたのか、意識がある感じではない。



「颯希!!」

「月子!!」





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