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~番外編~ 夏の花は優しい日差しに包まれる
第16話
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「「警察特殊部隊専門学校?」」
昼休みの屋上で芽衣と真奈美の声が重なる。透がそこを受けるという事、受かったら二年間家を出ることなどを伝える。
「まぁ、趣味でしていることが実践で活かせることができるなら、それに越したことはないわね」
芽衣が言う。
「……私はどちらかというと少し意外な気がするわ」
真奈美がそう漏らす。
芹香が遠くを見るように言葉を綴る。
「まさか、遠くに行っちゃうなんて考えたことなかったから、なんか気持ちの整理がつかないんだ。でも、そうだよね。いつまでも子供じゃないんだから、ずっと近くにいるのが当たり前なんてあるわけないよね……」
どことなく悲しそうな表情で言う芹香に二人は何と言葉をかけたらいいかが分からない。ありきたりな気休めの言葉では余計に傷をえぐるような気がして無下に言葉をかけれない。おそらく、今回の透が遠くに行くことに関しては、芹香が少し成長して受け入れなければならない。芽衣も真奈美もどこかでそれに気付いている。
今、芹香を突き放さないと成長できない………。
放課後になり、芽衣が文芸部に顔を出すと透がパソコンとにらめっこをしていた。文芸部はそんなに部員がいないというか、いても幽霊部員なので顔を出しているのは透と芽衣くらいしかいない。二人しかいない部室で芽衣が透に話しかける。
「聞いたよ。警察特殊部隊専門学校のこと……。試験、いつなの?」
「来週の金曜日だよ」
質問の言葉に透が躊躇うことなく答える。
「真奈美が意外だって言っていたよ?」
「まぁ、そうだろうな」
「透くんも分かってるのね。今しかないってことに………」
「………あぁ」
全部を言わなくても芽衣が何を言っているのかが分かるから、深く言わない。
「試験勉強があるから、今日はもう帰るよ」
透がそう言って部室を出る。芽衣が「またね」と言って手を振る。
透が出ていくのを見届けると、パソコンを開いて物語の続きを書き始める。そして、ふと感じたことで手が止まり宙を見上げながら、ポツリと呟く。
「みんな、過保護なのよね………。私もだけど………」
そう小さく言って、視線をパソコンに戻す。物語を書いている時の芽衣は何処か真剣な眼差しでもあると同時に感覚が高揚してくるような気持ちも出てくる。
(やっぱり、お話を作り出すって楽しいな……)
そう心で呟き、物語を綴っていく。
なぜなら、芽衣にとって本だけが友達だったからだ。
幼い頃から親の仕事の都合で転勤ばかりしていて、仲の良い友達がなかなかできないという状況で育った芽衣は、本を読むことが自然と増えていった。芽衣自身、別れが寂しくなるから親しい友達を作るということをしなかったというのも理由である。
出会いがあれば別れがある………。
幼稚園の時、芹香と遊んだりしたことが楽しかった分、別れる時が辛くて寂しくて一晩中泣いていた記憶がある。だから、幼いながら芽衣は同じ思いをするのが嫌で、それからは仲の良い友達を作らずに過ごしてきた。そして、本を読んでいる時に「これがこんな話だったらいいのに」とか「ここの終わりがこんな風ならもっと素敵なのに」と、思うようになり、それなら自分でお話を書いてしまおうというのがきっかけで「物語を書く」という考えが生まれる。
そして、元々調べたりするのも好きな方だったので、その物語で必要な知識や人の感情面とかを勉強するようになった。その関係で、心理学に興味を持ち独学で初めたのだが、もっと心理学を学びたいという気持ちからその学部に行くことを決意したところ、推薦で行ける所が祖父母の家から通える範囲だったので、その家で生活しながらその大学に行くことになったのだった。
パソコンを打っている手を止めて、ふと幼稚園のころを振り返る。
(芹香はあの頃から天真爛漫って言葉がピッタリはまる子だったな………)
懐かしさを嚙み締めながらパソコンに文章を打ち込んでいく。
その頃、真奈美は図書室で受験勉強をしていた。試験まではもう時間もそんなに残されていない。「教師になりたい」という目標がある。
きっかけは、祖父母の家で育っているので、幼い時は周りの子供たちによくからかわれたことだった。子供ながら「親から捨てられた」というような言葉を言われてすごく傷ついた覚えがある。そして、調べていくとそう言われた子供が心に傷を負って精神を病んでしまうことがある事を知り、そんな子供を減らしたい気持ちから、教師の道を志すようになっていく。更に、自分が病まずに済んだのは、芹香の存在が大きいだろうという事もある。
幼い頃、私が悪口を言われていると芹香がよく周りの子供たちに怒るように言っていた。
「悪口を言うあんたたちは人間として最低だよ!!」
芹香のその一言で周りの子供たちの顔が青くなった。子供なりにその言葉が効いたのだろう………。
今考えると、その言葉はとんでもない言葉だが、その言葉があったからこそ、真奈美に悪口を言う人はいなくなっていき、自分を助けてくれた芹香に感謝した。だから、そんな芹香とずっと一緒にいようと決めていたのだった。
でも、その結果………、
「芹香の近くに居過ぎたのかしらね………」
真奈美が小さく呟く。傍にいたかった気持ちと距離が近すぎたことで芹香の成長を阻害してしまったのだとしたら、今が芹香のためにも突き放す最後のチャンスかもしれない。近すぎず、遠すぎず、適度な距離感を取らなくてはいけない。大学に言ったら距離は確実に今より離れる。少し悲しくもあるが、芹香のためでもあり、自分のためでもある。
「………透くんも同じような気持ちかもしれないわね」
そう小声で言うと、再度勉強に取り掛かった。
学校が終わり、芹香は真っ直ぐに家に帰った。部屋に戻り、ベッドに身体を投げ出す。そして、頭の中でぐるぐると考えが巡る。
透が遠くに行ってしまうこと………。
真奈美とも大学が離れてしまうこと………。
ずっと一緒だった人たちがバラバラになっていく………。
受け入れなきゃいけない………。
分かっている………。
けど、その現実を受け入れたくない自分がいる………。
「ずーっと一緒ってわけにいかないことは分かってるけどさ………」
不意に涙が溢れてくる……。
これが現実なんだという事を受け入れなきゃいけない。
いつまでも、「今」が続くわけじゃない………。
分かってる………。
分かってる………。
「いい加減、成長しなきゃ………」
そう、自分に言い聞かせる。
そして、勢いよくお布団から起き上がった。
「よし!!」
そう言ってパソコンを開き大学の試験に必要な知識を勉強していく。
その瞳には「覚悟」が宿っていた………。
(そういえば透の試験、今度の金曜日だったよね?)
そのことを思い出して芹香があるものを久々に引き出してくる。
そして、急ピッチで作っていった………。
昼休みの屋上で芽衣と真奈美の声が重なる。透がそこを受けるという事、受かったら二年間家を出ることなどを伝える。
「まぁ、趣味でしていることが実践で活かせることができるなら、それに越したことはないわね」
芽衣が言う。
「……私はどちらかというと少し意外な気がするわ」
真奈美がそう漏らす。
芹香が遠くを見るように言葉を綴る。
「まさか、遠くに行っちゃうなんて考えたことなかったから、なんか気持ちの整理がつかないんだ。でも、そうだよね。いつまでも子供じゃないんだから、ずっと近くにいるのが当たり前なんてあるわけないよね……」
どことなく悲しそうな表情で言う芹香に二人は何と言葉をかけたらいいかが分からない。ありきたりな気休めの言葉では余計に傷をえぐるような気がして無下に言葉をかけれない。おそらく、今回の透が遠くに行くことに関しては、芹香が少し成長して受け入れなければならない。芽衣も真奈美もどこかでそれに気付いている。
今、芹香を突き放さないと成長できない………。
放課後になり、芽衣が文芸部に顔を出すと透がパソコンとにらめっこをしていた。文芸部はそんなに部員がいないというか、いても幽霊部員なので顔を出しているのは透と芽衣くらいしかいない。二人しかいない部室で芽衣が透に話しかける。
「聞いたよ。警察特殊部隊専門学校のこと……。試験、いつなの?」
「来週の金曜日だよ」
質問の言葉に透が躊躇うことなく答える。
「真奈美が意外だって言っていたよ?」
「まぁ、そうだろうな」
「透くんも分かってるのね。今しかないってことに………」
「………あぁ」
全部を言わなくても芽衣が何を言っているのかが分かるから、深く言わない。
「試験勉強があるから、今日はもう帰るよ」
透がそう言って部室を出る。芽衣が「またね」と言って手を振る。
透が出ていくのを見届けると、パソコンを開いて物語の続きを書き始める。そして、ふと感じたことで手が止まり宙を見上げながら、ポツリと呟く。
「みんな、過保護なのよね………。私もだけど………」
そう小さく言って、視線をパソコンに戻す。物語を書いている時の芽衣は何処か真剣な眼差しでもあると同時に感覚が高揚してくるような気持ちも出てくる。
(やっぱり、お話を作り出すって楽しいな……)
そう心で呟き、物語を綴っていく。
なぜなら、芽衣にとって本だけが友達だったからだ。
幼い頃から親の仕事の都合で転勤ばかりしていて、仲の良い友達がなかなかできないという状況で育った芽衣は、本を読むことが自然と増えていった。芽衣自身、別れが寂しくなるから親しい友達を作るということをしなかったというのも理由である。
出会いがあれば別れがある………。
幼稚園の時、芹香と遊んだりしたことが楽しかった分、別れる時が辛くて寂しくて一晩中泣いていた記憶がある。だから、幼いながら芽衣は同じ思いをするのが嫌で、それからは仲の良い友達を作らずに過ごしてきた。そして、本を読んでいる時に「これがこんな話だったらいいのに」とか「ここの終わりがこんな風ならもっと素敵なのに」と、思うようになり、それなら自分でお話を書いてしまおうというのがきっかけで「物語を書く」という考えが生まれる。
そして、元々調べたりするのも好きな方だったので、その物語で必要な知識や人の感情面とかを勉強するようになった。その関係で、心理学に興味を持ち独学で初めたのだが、もっと心理学を学びたいという気持ちからその学部に行くことを決意したところ、推薦で行ける所が祖父母の家から通える範囲だったので、その家で生活しながらその大学に行くことになったのだった。
パソコンを打っている手を止めて、ふと幼稚園のころを振り返る。
(芹香はあの頃から天真爛漫って言葉がピッタリはまる子だったな………)
懐かしさを嚙み締めながらパソコンに文章を打ち込んでいく。
その頃、真奈美は図書室で受験勉強をしていた。試験まではもう時間もそんなに残されていない。「教師になりたい」という目標がある。
きっかけは、祖父母の家で育っているので、幼い時は周りの子供たちによくからかわれたことだった。子供ながら「親から捨てられた」というような言葉を言われてすごく傷ついた覚えがある。そして、調べていくとそう言われた子供が心に傷を負って精神を病んでしまうことがある事を知り、そんな子供を減らしたい気持ちから、教師の道を志すようになっていく。更に、自分が病まずに済んだのは、芹香の存在が大きいだろうという事もある。
幼い頃、私が悪口を言われていると芹香がよく周りの子供たちに怒るように言っていた。
「悪口を言うあんたたちは人間として最低だよ!!」
芹香のその一言で周りの子供たちの顔が青くなった。子供なりにその言葉が効いたのだろう………。
今考えると、その言葉はとんでもない言葉だが、その言葉があったからこそ、真奈美に悪口を言う人はいなくなっていき、自分を助けてくれた芹香に感謝した。だから、そんな芹香とずっと一緒にいようと決めていたのだった。
でも、その結果………、
「芹香の近くに居過ぎたのかしらね………」
真奈美が小さく呟く。傍にいたかった気持ちと距離が近すぎたことで芹香の成長を阻害してしまったのだとしたら、今が芹香のためにも突き放す最後のチャンスかもしれない。近すぎず、遠すぎず、適度な距離感を取らなくてはいけない。大学に言ったら距離は確実に今より離れる。少し悲しくもあるが、芹香のためでもあり、自分のためでもある。
「………透くんも同じような気持ちかもしれないわね」
そう小声で言うと、再度勉強に取り掛かった。
学校が終わり、芹香は真っ直ぐに家に帰った。部屋に戻り、ベッドに身体を投げ出す。そして、頭の中でぐるぐると考えが巡る。
透が遠くに行ってしまうこと………。
真奈美とも大学が離れてしまうこと………。
ずっと一緒だった人たちがバラバラになっていく………。
受け入れなきゃいけない………。
分かっている………。
けど、その現実を受け入れたくない自分がいる………。
「ずーっと一緒ってわけにいかないことは分かってるけどさ………」
不意に涙が溢れてくる……。
これが現実なんだという事を受け入れなきゃいけない。
いつまでも、「今」が続くわけじゃない………。
分かってる………。
分かってる………。
「いい加減、成長しなきゃ………」
そう、自分に言い聞かせる。
そして、勢いよくお布団から起き上がった。
「よし!!」
そう言ってパソコンを開き大学の試験に必要な知識を勉強していく。
その瞳には「覚悟」が宿っていた………。
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