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第二章 聖杯にまつわるお話
第149話 呪われた刀雲
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刀雲が呪われた。
騎士団の演習のために森に赴き、冒険者と組んで魔物と戦っている最中、突然現れた女の仲間に呪いをかけられたのだ。
十中八九探している聖女とその仲間だろう。
「移動手段はそのまま……移動を手伝っている精霊は仕置きの時はいなかったってことか」
「え、何かしたの? そういう情報は共有しようよアー君」
「コフーー」
「夢の世界に移住してきた精霊が、俺の作ったゴブレットを盗んで聖女に与えた。それが今回の騒動の発端だと俺らは推測している。精霊にはすでにきっついお灸を据えたし、シャムスの眷属に押し込めたからあの時いた精霊はもう二度と俺らに逆らえない」
「シャムスまだ赤ちゃんなのに眷属増やし続けてるね!」
「ゴフゥゥ」
荒い息を吐く相手に視線を向ければ、そこには凶悪な顔のミノタウロス。
頭に生えた二本の角は禍々しく捻れ天を突き、背中には爛れた翼、翼の間からは無数のタコの足が生え、ギザギザの牙が生えた口からは毒を含んだ息が吐き出されている。
「刀雲、息苦しい?」
この異形の姿のミノタウロスこそ、呪われた刀雲の姿だった。
「タコ追加もらってきまーす」
重苦しい雰囲気の中、冒険者がやってきて鼻歌を歌いながら刀雲の背中に生えるタコを短剣で採取し、十本程度取ると去って行った。
ゴポゴポと音を立ててすぐに再生する足、本来なら物語のような悲劇が起こってもおかしくない中、周囲の刀雲に対する態度は変わらず、「今ならタコ食べ放題」と大はしゃぎしてタコ料理を満喫中だ。
きっかけは刀雲が変化した直後、背後に回った人間を襲おうと勝手に動くタコの足を冒険者が切り落とし、仲間が炎で焼き払った。そこまでは普通、危機管理と連携が良く出来ていたと思っている。
流れがおかしくなったのは焼き払った仲間が「いい匂い」と呟いた時だろう、周囲にいた人間も警戒をしつつ足をつつき、動かないことを確認してからナイフで削いで一口食べたのだ。
正直アホだと思う。
呪われた人間の一部を食うってどんな発想?
その間にもにょろにょろ増える足、自動追尾ついでに再生能力も自宅の池にいるクラーケン並みだった。
「うまい」その一言が冒険者たちの目の色を変えさせた。
切っても切っても生えてくる今がチャンスとばかりに刀雲に襲い掛かり、好き放題タコの足を回収していったのである。
そして気付いた時には騎士団も交えて宴会が始まっていた。
「呪われた体に生えた一部を食べるってどうなんだろう」
「一応クリーンかけているけどな」
遠い目をする親子の視線の先では、アホな冒険者が巨大タコ焼きを作ろうとして失敗、周りから指さして笑われていた。
とても平和な風景である。
「でもアー君、どうして自宅に戻っちゃいけないの? 樹が怖がるから?」
「パパ忘れたのか、ママは、ママはっ、訳の分からない魔物を一瞬で熊に変えてその腹で寝ていた人間だぞ、怖がるわけないだろ! 俺らが恐れているのは、下手にママに接触させて、ママが刀雲パパのその姿を受け入れて姿が固定されちゃうこと!」
「あ」
否定しきれなかったのだろう、刀雲もそっと視線をそらした。
「あと……神薙様にバレたら延々と背中にたかられるよ」
「そうだね、神薙は生でもいけるだろうね」
アー君と騎士様、そして本人以外、化け物になったことにツッコミを入れない、無限に生えるタコの足に気を取られて外見の変化に意識が向かないのか、理性があるから問題ないと判断されて放置されているのか分からなかった。
「そう言えば穢れでドロドロになった白澤も受け入れる国民性だったっけ」
人間の手に負えないものは神薙様と神様に任せておこう。という丸投げ精神を持つ刀国民、今回の件もすでに神々に丸投げされていた。
「俺の聖属性効かなかったんだよなぁ」
「ママがお兄ちゃんを洗っている間に来てみました」
「イネスサンキュー」
「突然ですが、ぺかぁぁぁ!!」
「っちょ、やる前に一言!」
にゅっと現れて不意打ちのように光を刀雲に浴びせたイネス、刀雲本人とアー君、見守っていた騎士様の目に大ダメージを与えたのは言うまでもない。
「しかも戻ってないし! ダメージ受け損!」
「でもタコの足が聖属性になりましたよ」
咄嗟に目を閉じて光を回避した冒険者が、採取したタコの足を鑑定して教えてくれた。
「え、今採取したの? 君たち逞しすぎない?」
「無料で食べ放題なんて滅多にないですからね、食いだめしないと」
キリッとした表情でそう言い切ると、ザクザクとタコの足を回収して宴会に戻っていった。
「もうだめだ、アー君、樹に頼ろう?」
「う、うーん」
「だって刀雲が呪いを受けても理性を失わずにいられるのってシャムスのスライム効果だよね、アー君の聖属性も効かないし、イネスのもダメ、あと頼れるのは樹だけだと思うんだ」
「シャムスが言ってたんだよ、刀雲パパが呪いを受けて化け物になるって。ママに秘密にする理由も俺みたいに戻れなくなるって断言された」
「シャムスの予言凄いね!」
でも結局、あれこれ試したけど刀雲は元に戻らず、博打だとは分かっていても樹に会わせることにした。
「まぁ……ママだし、怖がることは万が一にもないと思う」
「そうだね、異形の姿にビビるなら、冬のダンジョンで行方不明になってるよね」
大丈夫、大丈夫、と励ましながら刀雲を連れて帰宅。
樹に対面させたその瞬間、絶望の表情で崩れ落ちるとは誰も想像していなかった。
騎士団の演習のために森に赴き、冒険者と組んで魔物と戦っている最中、突然現れた女の仲間に呪いをかけられたのだ。
十中八九探している聖女とその仲間だろう。
「移動手段はそのまま……移動を手伝っている精霊は仕置きの時はいなかったってことか」
「え、何かしたの? そういう情報は共有しようよアー君」
「コフーー」
「夢の世界に移住してきた精霊が、俺の作ったゴブレットを盗んで聖女に与えた。それが今回の騒動の発端だと俺らは推測している。精霊にはすでにきっついお灸を据えたし、シャムスの眷属に押し込めたからあの時いた精霊はもう二度と俺らに逆らえない」
「シャムスまだ赤ちゃんなのに眷属増やし続けてるね!」
「ゴフゥゥ」
荒い息を吐く相手に視線を向ければ、そこには凶悪な顔のミノタウロス。
頭に生えた二本の角は禍々しく捻れ天を突き、背中には爛れた翼、翼の間からは無数のタコの足が生え、ギザギザの牙が生えた口からは毒を含んだ息が吐き出されている。
「刀雲、息苦しい?」
この異形の姿のミノタウロスこそ、呪われた刀雲の姿だった。
「タコ追加もらってきまーす」
重苦しい雰囲気の中、冒険者がやってきて鼻歌を歌いながら刀雲の背中に生えるタコを短剣で採取し、十本程度取ると去って行った。
ゴポゴポと音を立ててすぐに再生する足、本来なら物語のような悲劇が起こってもおかしくない中、周囲の刀雲に対する態度は変わらず、「今ならタコ食べ放題」と大はしゃぎしてタコ料理を満喫中だ。
きっかけは刀雲が変化した直後、背後に回った人間を襲おうと勝手に動くタコの足を冒険者が切り落とし、仲間が炎で焼き払った。そこまでは普通、危機管理と連携が良く出来ていたと思っている。
流れがおかしくなったのは焼き払った仲間が「いい匂い」と呟いた時だろう、周囲にいた人間も警戒をしつつ足をつつき、動かないことを確認してからナイフで削いで一口食べたのだ。
正直アホだと思う。
呪われた人間の一部を食うってどんな発想?
その間にもにょろにょろ増える足、自動追尾ついでに再生能力も自宅の池にいるクラーケン並みだった。
「うまい」その一言が冒険者たちの目の色を変えさせた。
切っても切っても生えてくる今がチャンスとばかりに刀雲に襲い掛かり、好き放題タコの足を回収していったのである。
そして気付いた時には騎士団も交えて宴会が始まっていた。
「呪われた体に生えた一部を食べるってどうなんだろう」
「一応クリーンかけているけどな」
遠い目をする親子の視線の先では、アホな冒険者が巨大タコ焼きを作ろうとして失敗、周りから指さして笑われていた。
とても平和な風景である。
「でもアー君、どうして自宅に戻っちゃいけないの? 樹が怖がるから?」
「パパ忘れたのか、ママは、ママはっ、訳の分からない魔物を一瞬で熊に変えてその腹で寝ていた人間だぞ、怖がるわけないだろ! 俺らが恐れているのは、下手にママに接触させて、ママが刀雲パパのその姿を受け入れて姿が固定されちゃうこと!」
「あ」
否定しきれなかったのだろう、刀雲もそっと視線をそらした。
「あと……神薙様にバレたら延々と背中にたかられるよ」
「そうだね、神薙は生でもいけるだろうね」
アー君と騎士様、そして本人以外、化け物になったことにツッコミを入れない、無限に生えるタコの足に気を取られて外見の変化に意識が向かないのか、理性があるから問題ないと判断されて放置されているのか分からなかった。
「そう言えば穢れでドロドロになった白澤も受け入れる国民性だったっけ」
人間の手に負えないものは神薙様と神様に任せておこう。という丸投げ精神を持つ刀国民、今回の件もすでに神々に丸投げされていた。
「俺の聖属性効かなかったんだよなぁ」
「ママがお兄ちゃんを洗っている間に来てみました」
「イネスサンキュー」
「突然ですが、ぺかぁぁぁ!!」
「っちょ、やる前に一言!」
にゅっと現れて不意打ちのように光を刀雲に浴びせたイネス、刀雲本人とアー君、見守っていた騎士様の目に大ダメージを与えたのは言うまでもない。
「しかも戻ってないし! ダメージ受け損!」
「でもタコの足が聖属性になりましたよ」
咄嗟に目を閉じて光を回避した冒険者が、採取したタコの足を鑑定して教えてくれた。
「え、今採取したの? 君たち逞しすぎない?」
「無料で食べ放題なんて滅多にないですからね、食いだめしないと」
キリッとした表情でそう言い切ると、ザクザクとタコの足を回収して宴会に戻っていった。
「もうだめだ、アー君、樹に頼ろう?」
「う、うーん」
「だって刀雲が呪いを受けても理性を失わずにいられるのってシャムスのスライム効果だよね、アー君の聖属性も効かないし、イネスのもダメ、あと頼れるのは樹だけだと思うんだ」
「シャムスが言ってたんだよ、刀雲パパが呪いを受けて化け物になるって。ママに秘密にする理由も俺みたいに戻れなくなるって断言された」
「シャムスの予言凄いね!」
でも結局、あれこれ試したけど刀雲は元に戻らず、博打だとは分かっていても樹に会わせることにした。
「まぁ……ママだし、怖がることは万が一にもないと思う」
「そうだね、異形の姿にビビるなら、冬のダンジョンで行方不明になってるよね」
大丈夫、大丈夫、と励ましながら刀雲を連れて帰宅。
樹に対面させたその瞬間、絶望の表情で崩れ落ちるとは誰も想像していなかった。
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