210 / 1,127
権力とは使う為にある
第209話
しおりを挟む
鳥居をくぐって出た先は桜通り。
『桜のおやつ食べたいね、キーちゃん』
「きゅるる」
返事をしながらも進行方向を確認。
クロコダイルが目の前を通過、頭に乗っていた黒猫が目くばせでサインを送ってきた。
『さーくらーのお餅はーもっちもちー』
ご機嫌で歌うシャムスにこうちゃんがフラフラと接近、雪ちゃんに回収された。
『初めてのお遣い楽しいね』
「くるるるる」
喉を鳴らして返事をしながらも視線は前方、意識は常にシャムスから外さない、周囲の警戒は鞄の中にいるナーガが担っている。
五匹の犬が前を通過。
統率が取れているので騎士団所属だろう。
……良く見たら首輪が邪神の御子・白だった。
(黒、後方)
ナーガが念話を飛ばす、シャムスの後方から一見普通の男が近づいていた。
(奴隷商人――ひゃっほー!)
イツキ一家の長男、銀狼のエムが黒を乗せて素早く背後を通過、一人の男が音もなくこの世から消えた。
『ん?』
後ろを向いたシャムスだったがそこには当然何も不穏な空気はない、ふわりとした暖かな空気があるだけだ。
キーちゃんは『風の悪戯』だろうと説明した。
(前方から来る貴族、密猟者かもしれない)
(おーけー、猫組に尾行させるー)
兄弟とやりとりしながら怪しい人物に呪印を片っ端から付けて行く、こうしておけば見失っても後で探しやすい。
他国の人間が増えると犯罪者も増える、暫くはおやつに困る事はないだろう。
『くろちゃ!』
「っよ!」
真っ直ぐにまずは噴水を目指し黒龍と接触、陽気に返事を返して来た黒龍の背にはマシューを筆頭に涙目のブランやアカーシャがいた。
ここは子供達の遊び場、誰と出会っても不自然ではないポイントだ。
『みんな』
「シャムス!」
いかにもシャムスがここにいるのを驚いた風を装い、黒龍の背を滑り降りて来たのは子供達の中で最もしっかりとしているアカーシャだった。
ブランも降りようとしているが怖くて降りれないようだ。
『お水冷たくないの?』
「温水ってやつだ、ぬっくい水だな、あと特殊結界が張ってあるから噴水の外に出ると自然と乾く、便利だろ」
『すっごいねー』
「シャムス兄様どうしたの? 母様は?」
『あのね、お遣いに来たの。ネリちゃんの絵本買うのよ』
「ああ今日の新刊だな、すぐそこで売っているぜ」
黒龍の視線を辿ると噴水のすぐそばに露店があり、地面に引いた敷布の上でたくさんの本が売られていた。
『お水飛ばない?』
「そういう魔法使ってるからな」
ふふんと得意そうにする黒龍のおかげで、露店が不自然な位置にある事は疑問に思われなかった。
『絵本ください』
「あいよ」
本はたくさんあった。
だが店主は迷わず絵本を差し出したのだが、目的を達成できたシャムスがその不自然さに気付いた様子はない。
ちなみにこの店主は魔王に仕える魔物の一人、人間に近い容貌をしているので今回の役割が与えられた。
「兄様、絵本を買ったら一緒に帰ろうか」
『えーどうしよっかな?』
「じゃあこうしましょう」
『?』
降りて来たマシューがにこりと笑顔を浮かべた。
「俺達お昼がまだなんです、お昼に招待してもらえませんか?」
『ご招待? 僕が?』
「駄目ですか?」
『いいの! 招待するの! あのね、先に帰ってお出迎えしてもいい?』
「慌てなくてもいいですよ」
『キーちゃん帰ろ、お空飛んで!』
「兄様?」
「シャムス様?」
予備動作なしで飛び上がったキーちゃんにアカーシャ達が焦りの声を上げる。
『おかえりなさいするのよー!』
「……帰っちゃった」
「俺らも帰ろう」
「まぁ待て」
「春日さん」
追いかけようとしたアカーシャを止めたのは人ごみに紛れていた春日だった。
「お呼ばれしたんだ、土産は必須だろ」
そう言って良い香りのする屋台を示す。
「神薙が目的達成して本気で食べ始めて、子供達も慌てて買い物してるところだ、早くしないと土産無くなるぞ」
春日のその一言にアカーシャ達は慌て屋台に走って行った。
「旦那は買わなくていいのか?」
「俺は帰って映像編集だ。今夜はこれを肴に宴会予定なんだよ、あとどうせ言われるから先に複製も大量に用意する予定」
「……俺にも一本」
「あいよ」
こうしてシャムスの初めてのお遣いは無事完遂されたのだった。
『桜のおやつ食べたいね、キーちゃん』
「きゅるる」
返事をしながらも進行方向を確認。
クロコダイルが目の前を通過、頭に乗っていた黒猫が目くばせでサインを送ってきた。
『さーくらーのお餅はーもっちもちー』
ご機嫌で歌うシャムスにこうちゃんがフラフラと接近、雪ちゃんに回収された。
『初めてのお遣い楽しいね』
「くるるるる」
喉を鳴らして返事をしながらも視線は前方、意識は常にシャムスから外さない、周囲の警戒は鞄の中にいるナーガが担っている。
五匹の犬が前を通過。
統率が取れているので騎士団所属だろう。
……良く見たら首輪が邪神の御子・白だった。
(黒、後方)
ナーガが念話を飛ばす、シャムスの後方から一見普通の男が近づいていた。
(奴隷商人――ひゃっほー!)
イツキ一家の長男、銀狼のエムが黒を乗せて素早く背後を通過、一人の男が音もなくこの世から消えた。
『ん?』
後ろを向いたシャムスだったがそこには当然何も不穏な空気はない、ふわりとした暖かな空気があるだけだ。
キーちゃんは『風の悪戯』だろうと説明した。
(前方から来る貴族、密猟者かもしれない)
(おーけー、猫組に尾行させるー)
兄弟とやりとりしながら怪しい人物に呪印を片っ端から付けて行く、こうしておけば見失っても後で探しやすい。
他国の人間が増えると犯罪者も増える、暫くはおやつに困る事はないだろう。
『くろちゃ!』
「っよ!」
真っ直ぐにまずは噴水を目指し黒龍と接触、陽気に返事を返して来た黒龍の背にはマシューを筆頭に涙目のブランやアカーシャがいた。
ここは子供達の遊び場、誰と出会っても不自然ではないポイントだ。
『みんな』
「シャムス!」
いかにもシャムスがここにいるのを驚いた風を装い、黒龍の背を滑り降りて来たのは子供達の中で最もしっかりとしているアカーシャだった。
ブランも降りようとしているが怖くて降りれないようだ。
『お水冷たくないの?』
「温水ってやつだ、ぬっくい水だな、あと特殊結界が張ってあるから噴水の外に出ると自然と乾く、便利だろ」
『すっごいねー』
「シャムス兄様どうしたの? 母様は?」
『あのね、お遣いに来たの。ネリちゃんの絵本買うのよ』
「ああ今日の新刊だな、すぐそこで売っているぜ」
黒龍の視線を辿ると噴水のすぐそばに露店があり、地面に引いた敷布の上でたくさんの本が売られていた。
『お水飛ばない?』
「そういう魔法使ってるからな」
ふふんと得意そうにする黒龍のおかげで、露店が不自然な位置にある事は疑問に思われなかった。
『絵本ください』
「あいよ」
本はたくさんあった。
だが店主は迷わず絵本を差し出したのだが、目的を達成できたシャムスがその不自然さに気付いた様子はない。
ちなみにこの店主は魔王に仕える魔物の一人、人間に近い容貌をしているので今回の役割が与えられた。
「兄様、絵本を買ったら一緒に帰ろうか」
『えーどうしよっかな?』
「じゃあこうしましょう」
『?』
降りて来たマシューがにこりと笑顔を浮かべた。
「俺達お昼がまだなんです、お昼に招待してもらえませんか?」
『ご招待? 僕が?』
「駄目ですか?」
『いいの! 招待するの! あのね、先に帰ってお出迎えしてもいい?』
「慌てなくてもいいですよ」
『キーちゃん帰ろ、お空飛んで!』
「兄様?」
「シャムス様?」
予備動作なしで飛び上がったキーちゃんにアカーシャ達が焦りの声を上げる。
『おかえりなさいするのよー!』
「……帰っちゃった」
「俺らも帰ろう」
「まぁ待て」
「春日さん」
追いかけようとしたアカーシャを止めたのは人ごみに紛れていた春日だった。
「お呼ばれしたんだ、土産は必須だろ」
そう言って良い香りのする屋台を示す。
「神薙が目的達成して本気で食べ始めて、子供達も慌てて買い物してるところだ、早くしないと土産無くなるぞ」
春日のその一言にアカーシャ達は慌て屋台に走って行った。
「旦那は買わなくていいのか?」
「俺は帰って映像編集だ。今夜はこれを肴に宴会予定なんだよ、あとどうせ言われるから先に複製も大量に用意する予定」
「……俺にも一本」
「あいよ」
こうしてシャムスの初めてのお遣いは無事完遂されたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
329
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる