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可愛い子には旅をさせよ

第265話

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 神薙さんが読んでいたのは術や魔法に関する論文だった。
 アー君があれこれ工夫して力を行使するのが羨ましく、何とか自分もある程度自由に使えるようになってシャムスとアー君に自慢したくて研究を始めたと教えてくれた。

「公務もあるからなかなか進まないんだけどね」
「うーん、研究するなら最新の情報集めるより、古代の情報集めた方がいいんじゃないかな?」
「え?」
「この世界の魔力の流れは適当だから、それでもキチンとした結果が欲しいなら昔の情報を集めた方が手掛かりになるんじゃないかなって」

 女神様の設定好きと、騎士様のふわっとした感じが混在しているから、全てを解明するには異世界の書物も必要になってくると思う。

 あと分厚い攻略本各種。
 女神様がネットゲームにも手を出していた場合は、その攻略サイトの情報も必要かもしれない。

 真面目な視点だけの研究はこの世界では無理だ。
 何と言っても呪文間違えてもイメージが合っていれば発動する世界だからね。

「そっか、視点変えてみる。ありがとう母様、じゃあ改めてこっち」
「おいでませー」

 魚人が絶妙に気持ち悪い。
 春日さん何を思ってこれを作っちゃったんだろう、シャムスに披露しないで良かった。

 そして案内されたのは家の裏手。
 さらさらと流れる川、春日さんは聖水の湧く森で暮らしてるって……もしやこの川の水って全部聖水なのだろうか。

「シレーヌ、ただいま」

 とろける様な甘い声に応えるように水がぱしゃりと音を立てた。

「きら」

 水面からそっと顔を出したのは蒼白い肌の美少年。

 川の水はとても澄んでいて、泳ぐ魚が見えるぐらい綺麗だ。
 流れも緩やかではしゃいだシャムスが飛び込んでも溺れる心配はないぐらい浅くて、とうてい人が潜れる深さはない。
 うん、水深がこの家の前だけ操作されてるね。

「王子お帰り」
「飯の時間か!」

 甘やかな空気を粉砕したのは、アクアマリンの双眸を持つ爽やかなイタリア系美形と、腹筋が割れていそうな野獣っぽいおじさま。
 待て、これ人魚?
 二人ともこれを食べようと検討したの!?
 勇気あるね!

「おや、後ろの二人はお客さんかい?」

 どうも双子のママです。

「可愛らしい、どうだい俺の筋肉を一晩独占してみないか?」

 ウィンクしながら口説かれた。
 間に合ってまーす、我が家にはシックスパックな刀雲と、岩石のようなタイガがいますので。

 人魚に対する夢が壊れる~。
 心の中で苦情を言っていたら、神薙さんに肩を叩かれた。

「大丈夫、僕なんでも食べれるから」

 人魚三人を見て神薙さんが問題ないと発言した。
 食べれるのは知っています、蟲毒だろうが赤子だろうが何でも食べる邪神様ですから。

「シレーヌはダメ!」
「いや私達も庇って」
「可愛い子を口説くのはマナーだろ?」

 刺身にしようかな。

 心の声が漏れたのか、筋肉人魚が素早く謝罪した。
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