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とある生徒の、普通とは少し違った日常。 1-10

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「では授業を続けましょうか、次は誰がいいですかね」
「良い奴がいるぜ。孤児院のエース、頼むぜ」
「孤児院の子ですか、なら多少注文つけてもいいですね。使用魔法は火、的は壊さず、中央に当てること、壊したら減点です」
「俺だけ扱いがひでぇ!」
「普段からポーション作りをしてて魔力操作はお手の物でしょう、はいどうぞ」
「ちくしょう!」

 先生らの横暴に文句を言いながら、エース君が的に向かって魔法を放った。
 僕の耳が確かなら、彼は呪文を唱えていなかったような。

「凄いですねー、理想的ですねー、はい皆さん見てましたかー? 的が見えない人は順番に前に出て見てくださいね、中央の部分だけ焦げているのがわかりますかー?」

 的に火を当てるだけのシンプルな魔法。
 でも的の中央だけに当てることが出来る人ってどのくらいいるんだろうか。
 その後もクラスメイトたちが次々と名前を呼び上げられ、道具を使った場合や、呪文を用いた場合、出力に失敗する例などを見せられた。

「今日はこの辺かなぁ、では皆さん、次回は魔力操作の方法を手探りでやっていきますよぉ」
「え、手探り?」
「はい、魔力操作の方法って人によって向き不向きがありましてねー、そのあたりの理由も含めて行うのがこの授業になります、はいおつかれぇ」

 ええ……。
 これだけ巨大な学園なのに、授業内容と教師が緩い。ふわっとしている!!

 教師が解散すると孤児院のエースと呼ばれた彼をクラスメイトたちが取り囲んだ。

「お前すごいな」
「噂には聞いていたけど孤児院の子がエリート集団ってマジだったんだな」
「孤児院を守護している神様が変態って本当?」
「あの人、顔はいい上に取り繕いが上手くなって本性分かりにくくなったって親から聞いたぜ」
「今もよそから必要以上に子供連れて来てるのか?」
「ポーションの割引予定とかない?」
「ポーションの作り方教えてくれ」
「むしろポーション作る授業やってくれぇ」

 あれはモテているのだろうか、ちょっと分からない。

「相変わらず孤児院関係者はモテモテだな」
「僕、隠してて良かった」
「アイツ目立つからな、隠れ蓑にはちょうどいい」

 どうやら孤児院から通っている子は他にもいたようだ。
 僕の村では孤児の子は厄介者扱いだったけれど、どうやらこの国では扱いが全く違うっぽい、普通に友達をやっている分には問題なさそうだし、自分が気弱で良かったと今日ほど思った日はないかな。
 もし傲慢だったり、孤児を見下す言動してたらもうこの世にはいなかったかもしれない。
 これからも気を付けよう。
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