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とある生徒の、普通とは少し違った日常。 1-12

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 僕の村は森に囲まれた山間の村だ。
 周囲をぐるりと囲まれた場所だけど、村の周囲でだけ採取できるものがあるらしく、よく冒険者が狩りついでにやって来る。
 そんな彼らの目当てはもちろん魔物たちだ。
 この世界には人間の他に亜人種、動物系モンスターなど多種多様な種族が生息している。中でも魔族と呼ばれる種族の力は圧倒的だ。
 人間は彼らに比べると弱い部類になる。

 植物系の魔物は毒を持っている事が多く、村人に被害が出ることもしばしば。
 それを治してくれていたのが僕に読み書きを教え、学園へ推薦してくれた司祭様だった。

 魔法で大人を治療している所を何度か見た事がある。
 魔法を使って毒を取り除き、それから傷口に聖水を振りかけていた。
 司祭様はあれを聖水ではなくポーションと言っていたけれど、村人は聖水だと信じていた。

(あの時に司祭様が使っていた魔法だこれ)

 魔力の流し方が分からなかった僕にも使える、本当に便利そうな魔法だ。

「……やってみようかな?」

 先生の言葉を聞きながら自分の手から魔力を流していく。
 ゆっくり、ゆっくりと。心の中にいる司祭様が微笑みながら「焦らずゆっくりですよ」と微笑んでいる。
 魔力操作は難しくて、少し集中しないとうまく流れてくれず、逆に流し過ぎて体がふらつく。

「魔力が強すぎますね。もう少し魔力を抑えてみて下さい」

 魔力が強すぎると言われた、難しい、けど、頑張るしかない。
 何度も何度も魔力の流れを意識して抑える。
 最初はすぐに消えてしまう炎のように頼りなく揺れていたのに、だんだん大きくなって、ついには安定した火のような状態になった。

「ク、クリーン」

 僕の言葉と同時に手のひらから出た光は空中で拡散し、霧となってあたり一面に広がっていく。
 これが、魔法。

「おや範囲魔法ですか、初めてにしては見込みがありますねぇ。教え甲斐がありそうです」
「じゃあ次の段階行くぞー、お前ら用意はできたか?」
「出来ましたけど」
「普通こういう準備って授業前とかにやりません?」

 文句を言いつつ先生の横に積み上げられたのは、黒いもやがかかった魔石の数々。
 
「これを壊したらクリーン取得完了となりますせ」
「はい?えっと、この魔石は一体」
「ラグが今しがた瘴気を植え込んだ石ころ」
「俺ら頑張った」
「瘴気が強すぎると呪いになるからな」
「微妙な調整が大変なんだよなぁこれ」
「イグ兄、お腹空いた」
「力使ったからなぁ、と言っても今は聖なる焼き芋ぐらいしか持ってないぞ」
「それでもいい」

 え、なにその会話怖いんだけど。
 ていうか邪神が焼き芋食べるってどういうこと?
 聖なる焼き芋ってなに!?

 僕の混乱をよそにいつの間にか手のひらに握らされた魔石、ではなく石ころ。
 僅かな瘴気がぞわぞわと嫌な感じを与えてくる。これにクリーンをかけるのか。

「大丈夫、イメージすれば簡単にできる」

 先生たちに指示された仕事を終えた同級生が指導に回り、僕には孤児院のエースが教えてくれるようだ。
 彼曰く「なんか、こう、綺麗にするイメージをして魔力を込めれば良いだけ」らしい、凄いふわっとした説明だけど、その言葉を信じて僕は言われた通りにイメージして魔力を流す。

「もうちょっと出力抑えて、そんなに力まなくていいよ」
「ん」
「あれだよあれ、ほら、良くラグの口を拭いてやってるだろ、あれをイメージして」
「……っ!」

 ラグ君って食べ方が豪快だからたまに口が汚れているんだよね、皆はゴシゴシ拭いているけど、僕は綺麗な顔を傷付けるのが怖くてそっと拭いているんだ。
 こんな風に。

 ふわりと魔力が通ったのが分かった。

「できた」
「一丁あがりってな」

 目の前の黒い石だったはずのそれは透明になってキラキラ輝きながら弾け飛んで消えた。
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