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聖女ですわ!! 1-1

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 私はジャクリーヌ、由緒正しき公爵家の長女であり、このたび王太子との婚約のためにこちらの国にやってまいりましたの!
 そしたら王太子の横には男爵家の庶子である女がべったりと張り付き、お姫様扱いされていましたのよ!
 隣国からわざ、わざ、やってきた私の出迎えもなく、初めて出会ったのは王宮の通路、初対面の際にほざいた言葉が「マリーを苛めるような女とは結婚できぬ、婚約を破棄し、貴様を国外追放する!!」、殺意がわきましたわね。
 初めて会う相手をどうやって苛めろと!!

 教科書を破った?
 ドレスを破損させた!?
 このわたくしがそんな小さなことをするわけがないでしょう!
 ぶっ殺しますわよ!
 そこの国の王族はいったい何を考えているのかしら!?

 そもそも!!

 婚約のためにやってきたのに、破棄とはいかに!
 まだ婚約なんぞしていませんわぁぁ!!
 即刻国に帰って陛下に報告、国ごと潰して差し上げましょう!

「そう思って帰ろうと思ったら!」
「おう」
「近衛兵に命じて私を拘束させ、城門前に捨てましたのよ!許せます!?」
「いいえ」
「教会が光の速さで保護してくださったから良いものの、高貴な私を地面に放り出した罪は重いですわ!」

 火を噴く勢いでまくしたてる私の言葉を聞いてくださっているのは、ギルドに併設された酒場にいた冒険者の方たちですわ!
 教会調べでは荷物は横領や破棄され、国から付いてきた侍女たちは教会がすでに保護して王都から出してあるそうです、私が次にやるべき行動は身分を隠して王都から脱出、侍女たちと合流して無事に国に帰ることだそうです。
 驚くほど動きが速いのですわね。

「お代わり!」
「はい」

 このエールという飲み物、高級ワインには劣りますけれど悪くないですわね。
 国でも手に入るのかしら。

「それで、姉さんはこれからどうするんだい?」
「私を教会が保護したことは王家に伝わっているので、彼らに見つからないようにここでおとなしく待っていろと言われていますわね。お忍び用の装備を揃えたら迎えに来るそうです」
「お忍び?」
「おとなしく?」

 どこが。という目で見ても無駄ですわよ。
 この高貴な私が目立ってしまうのは世の真理なのですから!

「人目を避けて隠れているのも大変ですわ!」
「どこが?」
「避けるどころか集めてるけど?」
「……まあ、腹は減っているんだろ、こっちの串焼きも美味いぞ」
「あら紳士なお方」

 差し出されたお皿に乗った串焼きなるものを一本手に取り、がぶっとすれば口の中に広がる香ばしい香り。
 見た目に反してふんだんに調味料が使われていますわね!

「生粋のお嬢様なのに食い方は豪快」
「そこは「こんな下品なもの食べれませんわ!」とかじゃねぇのか」
「美味しい物に罪はありません! あと私、これでも野営には慣れておりますのよ!おーほほほほ!」
「高笑いまで始めたよ……」
「育ちが良い割に庶民派だなぁ」
「縦ロールな見た目なのに野営したことあんのか」

 私が普通の貴族の令嬢の一人だったらありえないかもしれませんが、私、高貴で希少な聖女ですから!
 貴族の令嬢なんて馬車で移動したり、優雅にお茶会をしているイメージしか無いでしょう?
 でも私は違いましてよ!
 魔物を討伐したり捌いたり、その場で調理して食べることも出来ますのよ!
 さすが私、ただの令嬢で終わりませんわぁ!
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