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とある生徒の、普通とは少し違った日常。 1-20

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 あれから2年近く経った。
 すっかりこちらに馴染み、友人も増えたし、就職先も決まった。
 今は卒業式を控え、故郷の司祭様に感謝の手紙を書いている。
 最初は戸惑った。この国の文化に。宗教に。神が日常にいる風景に。
 けれど受け入れてしまえば後は早かった。慣れるものだ。
 
 この国に来て良かったと思っている。
 僕は幸せ者だ。

「卒業おめでとう!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」

 式を終え教室に戻ると各々が席につき先生の話が始まる。
 それはいつも通りの光景で、これが最後なんだと今更ながら実感がわいてくる。
 話を聞きつつ感傷に浸り、いつの間にか話は終わっていた。

 そして先生が最後の連絡事項を伝え始める。

「このクラスで卒業しねぇのは二人かー、多いなぁ。お前ら十年以内には卒業しろよ、本当に」
「いやぁ」
「だって蔵書を読み切れなかったから……」

 驚くことに単位が足りない以外の理由でも卒業しない人がいるらしく、うちのクラスでも二人卒業せずに学園に残る。
 理由は一人は食堂のメニュー制覇していないから、もう一人は図書館の蔵書を全て読みたいから、そんな理由でいいのかと思ったら、年に数人はいるみたい。
 最長で十数年居座っていた人もいたらしい、理事長が説得して卒業させ、図書館の司書として再雇用という形で落ち着いたとか何とか。

 ……うん、すごい。

「じゃぁ俺の話をするか」

 先生は教壇の上に本を置くと真剣な表情を浮かべた。

「俺は教師になって五年目だがこの学園は短い方でな。本日をもってお前らとともに教師を引退する」

 そう言って一呼吸おくと、先生は言葉を続けた。

「ここを卒業したら俺は冒険者として生きていく。ここ数年で面白いダンジョンが増えたからな、挑戦したいんだ。幸いお前たちの授業に付き合って体を動かしていたから体は鈍っていない、まぁあれだ、次に会った時、俺が一文無しになって飯に困っていたら奢ってくれ」

 先生がそう言うと皆が笑う。
 先生なりの最後の冗談だろう、笑いに包まれる室内で先生は満足げだ。

「それじゃあまたどこかで会おう! 解散!」
「はい、先生今までありがとうございました」

 皆が立ち上がって一斉に頭を下げる。
 こうして僕たちは無事学校を卒業した。


END
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