ヒーローには日向が似合う

とこね紡

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宝箱の中の綺麗な思い出5

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「はい」
公園のベンチに座ると、蒼は肉まんを半分に割って片方をひなたに渡した。
「あ、ありがと」
ひなたが大事そうに受け取った後、蒼は自分の分をすぐにパクッと口にした。
「冷めちゃったな…」
少し残念がって蒼が言う一方で、ひなたはまだ食べないままでいる。
「食べないの?」
「あ、ううん、食べる。いただきます」
小さく一口食べた途端、ひなたの目が輝いた。
「おいしい」
「そう? 冷めてるからいまいちだけど…」
「おいしいよ、すっごく! ぼく初めて食べた」
興奮気味のひなたの言葉に嘘はないようだった。
「これ、なんて言うの?」
「肉まん」
「どこで食べれるの?」
「今の季節なら、コンビニで買えるよ」
「そっかぁ…コンビニ、かぁ…」
勢いよく矢継ぎ早に質問してきたひなたが、ここで少し口籠った。
「ーーあ、そうだ。あおちゃん」
不意に何かを思い出したのか、ひなたがブレザーのポケットに手を入れごそごそと探り始める。
「はい」
やがて差し出されたひなたの手の平には、二つのキャンディーがあった。

宝石みたい…

すぐに、自分らしくない感想だったと蒼は思った。
しかし透明な包み紙にくるまれたピンクとグリーンのキャンディーは、きらきらして見える。
「あげる。肉まんのお礼」
そう言われてもしばらく蒼は受け取れずにいた。段々ひなたの顔が不安そうになる。
慌てて蒼はグリーンのキャンディーを手にした。

「ありがと。…そっちはひなが食べな。おれも肉まん、半分こだったんだし」

キャンディーを口に含む。甘いフルーツの味がした。
何の変哲もないキャンディーなはずなのに、特別おいしく感じられる。
蒼は自然と頬を緩めていた。
少し遅れてキャンディーを舐め始めたひなたも嬉しそうな顔をした。
それはきっと、蒼が初めてひなたのことを『ひな』と呼んだからでもあるんだろうーー

            ※ 

「また会える? あおちゃん」
別れ際、ひなたが言った。
時刻は夕方の五時。この季節、辺りはもう暗い。
「来週、今日と同じ水曜日に。ぼくここに来るから」
「ん…」
「絶対来るから」
ひなたはどうしてこんなに必死なんだろう。
たわいもない会話をしただけ。それなのにーー
「…分かった」
蒼は言った。
ひなたはどうかは知らない。けれど、蒼はここで過ごした時間が、悪くはなかった。
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