想い、結び、繋ぐ(仮)

本郷むつみ

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感想を言ってみた。聞いてみた。

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 鳳斗が初めて書いていた小説。
 タイトルは【遠距離の果てに】
 ネットで知り合った男性と女性。
 お互いの住んでいる場所が遠く離れている。
 遠く離れた土地でお互いの気持ちを確かめ合う。
 チャットやメールだと感情が伝わらない。
 しかし、現実で会ってもお互いの思いを上手く伝えられない。
 すれ違いや会えない寂しさ。
 傷つけあったり、慰めあったり。
 しかし、ネットを通してでもお互いの真剣な思いが通じ合う。
 そして二人は結ばれた。
 
 遥香は隣で寝息を立てている鳳斗を横目に真剣に小説を読みこんだ。鳳斗の書き方は明らかに素人で誤字脱字も多い。文法なども所々おかしいが、読み易く、読者を引きつける何かを感じる。
 時に笑いの要素が入ってクスクスと笑えたり、2人の喧嘩の寂しさで胸が苦しくなる。鳳斗の素人ながらの書き方でも、しっかりと気持ちは伝わってきた。

「なにこれ。期待以上でしょ!」

 ちょ、ちょっと待って。本当にすごいじゃん。小説っぽい。と言うか、小説じゃん。なんなの、この人。
 もう少し……ううん、かなり修正は必要だけどページ数を増やしたら、恋愛物の小説として本屋に置いてあってもおかしくないと思う。期待していた以上の作品だよ、これ。なんでこれで才能がないってなんで言えるの?

 隣で静かに寝息を立てている鳳斗を覗き込む。

「やっぱり私が思った通りの人だった」

 う~ん、映画化と言うか、実写化には向いてはいないかな。でも素直に面白かったって言える。鳳斗さんが起きたらちゃんと伝えよっと。少し短く携帯小説っぽいけど、こんな短い時間で書いたんだから仕方がないよね。
 鳳斗さんって社会人なんだよね。それなのにこのクオリティー。この作品は私の無茶振りに答えてくれたんだ。
 でも……うん、決めた!

「鳳斗さん、読み終わりましたよ」

 隣で寝息を立てている鳳斗に優しく声をかけると鳳斗が薄目を開けて目覚めた。そして今の状況を思い出したのか、鳳斗は慌てて

「ごめん、寝ちゃってた」

 と、遥香に頭を下げる。
 そんな鳳斗に遥香は慌てて手を振って、逆に鳳斗に頭を下げる。

「いえ。私の方こそ、小説、急がしちゃったみたいでごめんなさい」
「いやいや、大丈夫。最後まで書けた事が嬉しかったから。完成させたことが自分でも信じられないし」

 そう言った鳳斗の顔は充実し、どこか満足げな笑顔だった。
 鳳斗の笑顔を見た遥香は少しだけ胸が苦しくなり、顔が赤くなった。そんな遥香の様子には気付かない鳳斗が口を開く。

「えっとさ、ちょっと聞くのが怖いでけど感想を聞いていいかな?」
「あっ、じゃあ。そうですね。内容なんですけど」
「ちょっと待ったぁぁぁ!」

 感想を言おうと口を開こうとする遥香に鳳斗が待ったをかける。
 そう言ってから深呼吸をする鳳斗。そして両手で頬を叩き、気合入れた鳳斗が準備万端という感じで

「いいよ。社交辞令なしでお願いね」

 と、真剣な表情で遥香を見つめた。

 鳳斗に見つめられた遥香はびっくりしつつも、またもや顔を赤らめる。だが、しっかりと鳳斗に視線を返しつつ答える。
 そして改まって姿勢を正した遥香は鳳斗の意見を尊重し、嘘偽り無く自分の感想を述べていった。

「では、社交辞令なしで本音を言いますね」

 よし、来いや! どんな苦言でも罵詈雑言でも耐えてみせるぜ。でも、俺のメンタルはサランラップ並みの薄さだからちょっと、いや、めちゃめちゃ優しくしてほしいな。
 ……ん? なんか、罵詈雑言どころか高評価じゃねぇ? まあ、小説ではないってダメだしはあるけどね。そこは初めて書いた素人なんで大目に見てくれてるから良かった。

「そっか。初めての小説にしたらそんなに評価が低くなくて良かったよ」

 感想を聞いた鳳斗が安心した顔で遥香にそう言った。息を大きく吐き、心底疲れ果てたかのように椅子の背もたれに身をゆだねた。

「この内容が悪いなんて思っていません。むしろ、初めての作品でここまでの完成度に驚いているぐらいです。やっぱり鳳斗さん、才能ありますよ。だから。だから、もっともっともっ~と色んな題材の小説を書いて欲しいと思っています」

 少し興奮気味の遥香が鳳斗に勢いよく詰め寄る。そんな遥香の顔の近さに鳳斗の顔が一気に赤くなった。詰め寄る遥香から視線を逸らそうと慌てて視線を下に向ける鳳斗。
 が、そこには両腕でナチュラルに寄せた遥香の胸の谷間が服の隙間から見えていた。

 (おいおいおい、待て待て待て!)

 うわぁぁぁ! この子、無防備過ぎだろ! 天然なの? ハニートラップなの? どっかに幸とかヨッシーが隠れてて『鼻の下を伸ばしてんじゃねぇよ~』とか言って出てくるの? それとも久美ちゃんや千絵ちゃんが出てきて、遥香さんが『ごめんなさい、これ罰ゲームなの』って言うパターンじゃないの? 罰ゲームなら罰ゲームでいいから早く出てきてくれ。これはきつすぎるだろ。

 心の中で悲鳴を上げ、今度は視線を上に向ける鳳斗。

「わかった。分かったからありがとう。本気度は伝わったから。でも、顔が近い……」

 そう言って遥香に告げた。遥香も我に返り、鳳斗との顔の近さに顔を赤らめてすぐに離れた。

「ご、ごめんなさい」
「いや、大丈夫だけど」
「さ、さて、そろそろ出ようか」
「そ、そうですね」
 
 奇妙な空気が二人の間に流れたが、2人は奇妙なその空気のままネットカフェを後にした。
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