1 / 3
プロローグ
しおりを挟む
月光が窓から注ぐ、狭い小屋の屋内。
《お前は、この世界を憎んでいるか?》
「ん?なんででしょうか?」
言葉を交わすのは、声音が優しい、表情のない目と鼻と口付近に穴の空いた仮面をつけた男と、小学生ぐらいの肌が月白色の少年。
一見すると、ただの祖父と孫の関係に見えるかもしれない。
だが、その会話が為される空間に流れている雰囲気は、あまりにも異質だった。
《お前は小学生にも成らない年齢で売られた。それも信じていた肉親に、だ。その上、体をあちこち弄られる終い。普通のガキだったら気が狂ったっておかしくは無い。》
話しながら男はポケットから葉巻と銀色のライターを取りだし、葉巻に火をつける。
1度、取り入れた煙を吐き出しながら、続きを話した。
《だが、お前は一度も家族の事を口にしない。お前と、1週間一緒にいたが、普通の会話は未だしも、親に対する復讐心とか、会ってみたいとかの願望さえない。お前ぐらいのガキがだぞ?不思議に思うのは俺だけじゃねぇはずだ。お前は何の為に生きているんだ?》
純粋な疑問を少年に問う男は、真実を確かめる眼をぶつけた。
子供は手を顎に当てて考えると、その月光を閉じ込めたような銀の瞳を男に向けると、やがて言葉をつむぎ出した。
「何の為、ですか。僕は、約6歳の時に家族に売られたんです。中東のどっかです。単なる労働奴隷か、臓器目的なのか、それは分かんなかったんですが、絶望していたある日に、親父に助けられたんです。その後、親父に拾われ、僕はその人に家族の代わりの拠り所として、そこを居場所にしたんです。今は親父が僕の今の家族です。勉強も、愛情も、全て教えてもらいましたし。そして、今の体もある意味便利ではあるので、家族には恨みはないです。ただそれだけです。家族のおかげであの人に会えたので、今は逆に感謝しているまでありますね。」
外見に似合わない大人びた口調でそう言った。
男は喉を鳴らしながら笑う。
《いやいや…、あの男が本当にガキに愛を込めて育ててるとはねぇ…。未だに信じらんねぇな。お前は魅惑の魔眼でも持ってるのか?って、ヴァンパイアに魔眼の類は効かないはずか》
「あの男?親父はそんなに極悪人だったのですか?」
《なんだ?知らないのか?あいつは、元は裏社会でそれなりに名の知れた、ヴァンパイアルーラー。その時代のあいつはまさに冷徹を体現にしたような男だった。なんせヴァンパイアに厳しい御時世だ。ヴァンパイアが最強であるからと言って、死なない訳では無い。そういう訳で、自分に危機が迫らないよう、仕事後の痕跡などは一切残さない。痕跡を残さないために、仕事相手だろうが、仲間だろうが、簡単に切るようなやつだ。そんな男が5年前、突如消えたくせして、1週間前、急に俺の前に現れたと思ったら、『仕事の依頼がしたい』とか言い出して。更には満更でもない顔して俺の子供だとか言って、お前を渡された時は、正直、夢を見ている気分だったよ》
男は、気味が悪いと言わんばかりに自分の肩を抱いてわざとらしく震える。
少年は子供らしい屈託のない笑顔で笑うと、そうですか、とだけ返事をした。
《驚かないのか?》
「えぇ。少しですが、親父の過去の話も聞いたこともありますしね。想像はしてました。だけど、悪人だろうが、僕にとっては大切な人なんですよ。僕に希望を与えてくれた人なんです。…さて、そろそろお仕事に掛かりましょうか」
少年は立ち上がると、白いフード付きのパーカーを羽織る。そのパーカーの色と少年の病的にまで白い肌の色は寸分違わない。
少年は静かに目を閉じる。
男はああ、と応えると工場できる作業着のような服の上に、黒いコートを着る。
《じゃあ、生きて帰ろうぜ、なりそこないの吸血鬼》
男がそう言い残し、小屋から出ていく。
「えぇ、親父との約束があるので、こんな所では斃れませんよ、人擬」
ゆっくりと目を開け、蘭々と輝く銀朱の瞳を妖しく光らせながら、独り言を呟いた。
《お前は、この世界を憎んでいるか?》
「ん?なんででしょうか?」
言葉を交わすのは、声音が優しい、表情のない目と鼻と口付近に穴の空いた仮面をつけた男と、小学生ぐらいの肌が月白色の少年。
一見すると、ただの祖父と孫の関係に見えるかもしれない。
だが、その会話が為される空間に流れている雰囲気は、あまりにも異質だった。
《お前は小学生にも成らない年齢で売られた。それも信じていた肉親に、だ。その上、体をあちこち弄られる終い。普通のガキだったら気が狂ったっておかしくは無い。》
話しながら男はポケットから葉巻と銀色のライターを取りだし、葉巻に火をつける。
1度、取り入れた煙を吐き出しながら、続きを話した。
《だが、お前は一度も家族の事を口にしない。お前と、1週間一緒にいたが、普通の会話は未だしも、親に対する復讐心とか、会ってみたいとかの願望さえない。お前ぐらいのガキがだぞ?不思議に思うのは俺だけじゃねぇはずだ。お前は何の為に生きているんだ?》
純粋な疑問を少年に問う男は、真実を確かめる眼をぶつけた。
子供は手を顎に当てて考えると、その月光を閉じ込めたような銀の瞳を男に向けると、やがて言葉をつむぎ出した。
「何の為、ですか。僕は、約6歳の時に家族に売られたんです。中東のどっかです。単なる労働奴隷か、臓器目的なのか、それは分かんなかったんですが、絶望していたある日に、親父に助けられたんです。その後、親父に拾われ、僕はその人に家族の代わりの拠り所として、そこを居場所にしたんです。今は親父が僕の今の家族です。勉強も、愛情も、全て教えてもらいましたし。そして、今の体もある意味便利ではあるので、家族には恨みはないです。ただそれだけです。家族のおかげであの人に会えたので、今は逆に感謝しているまでありますね。」
外見に似合わない大人びた口調でそう言った。
男は喉を鳴らしながら笑う。
《いやいや…、あの男が本当にガキに愛を込めて育ててるとはねぇ…。未だに信じらんねぇな。お前は魅惑の魔眼でも持ってるのか?って、ヴァンパイアに魔眼の類は効かないはずか》
「あの男?親父はそんなに極悪人だったのですか?」
《なんだ?知らないのか?あいつは、元は裏社会でそれなりに名の知れた、ヴァンパイアルーラー。その時代のあいつはまさに冷徹を体現にしたような男だった。なんせヴァンパイアに厳しい御時世だ。ヴァンパイアが最強であるからと言って、死なない訳では無い。そういう訳で、自分に危機が迫らないよう、仕事後の痕跡などは一切残さない。痕跡を残さないために、仕事相手だろうが、仲間だろうが、簡単に切るようなやつだ。そんな男が5年前、突如消えたくせして、1週間前、急に俺の前に現れたと思ったら、『仕事の依頼がしたい』とか言い出して。更には満更でもない顔して俺の子供だとか言って、お前を渡された時は、正直、夢を見ている気分だったよ》
男は、気味が悪いと言わんばかりに自分の肩を抱いてわざとらしく震える。
少年は子供らしい屈託のない笑顔で笑うと、そうですか、とだけ返事をした。
《驚かないのか?》
「えぇ。少しですが、親父の過去の話も聞いたこともありますしね。想像はしてました。だけど、悪人だろうが、僕にとっては大切な人なんですよ。僕に希望を与えてくれた人なんです。…さて、そろそろお仕事に掛かりましょうか」
少年は立ち上がると、白いフード付きのパーカーを羽織る。そのパーカーの色と少年の病的にまで白い肌の色は寸分違わない。
少年は静かに目を閉じる。
男はああ、と応えると工場できる作業着のような服の上に、黒いコートを着る。
《じゃあ、生きて帰ろうぜ、なりそこないの吸血鬼》
男がそう言い残し、小屋から出ていく。
「えぇ、親父との約束があるので、こんな所では斃れませんよ、人擬」
ゆっくりと目を開け、蘭々と輝く銀朱の瞳を妖しく光らせながら、独り言を呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる