なりそこないの吸血鬼

mukiryokudeth

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プロローグ

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月光が窓から注ぐ、狭い小屋の屋内。

《お前は、この世界を憎んでいるか?》

「ん?なんででしょうか?」

言葉を交わすのは、声音が優しい、表情のない目と鼻と口付近に穴の空いた仮面をつけた男と、小学生ぐらいの肌が月白色の少年。
一見すると、ただの祖父と孫の関係に見えるかもしれない。

だが、その会話が為される空間に流れている雰囲気は、あまりにも異質だった。

《お前は小学生にも成らない年齢で売られた。それも信じていた肉親に、だ。その上、体をあちこち弄られる終い。普通のガキだったら気が狂ったっておかしくは無い。》

話しながら男はポケットから葉巻と銀色のライターを取りだし、葉巻に火をつける。
1度、取り入れた煙を吐き出しながら、続きを話した。

《だが、お前は一度も家族の事を口にしない。お前と、1週間一緒にいたが、普通の会話は未だしも、親に対する復讐心とか、会ってみたいとかの願望さえない。お前ぐらいのガキがだぞ?不思議に思うのは俺だけじゃねぇはずだ。お前は何の為に生きているんだ?》

純粋な疑問を少年に問う男は、真実を確かめる眼をぶつけた。
子供は手を顎に当てて考えると、その月光を閉じ込めたような銀の瞳を男に向けると、やがて言葉をつむぎ出した。

「何の為、ですか。僕は、約6歳の時に家族に売られたんです。中東のどっかです。単なる労働奴隷か、臓器目的なのか、それは分かんなかったんですが、絶望していたある日に、親父に助けられたんです。その後、親父に拾われ、僕はその人に家族の代わりの拠り所として、そこを居場所にしたんです。今は親父が僕の今の家族です。勉強も、愛情も、全て教えてもらいましたし。そして、今の体もある意味便利ではあるので、家族には恨みはないです。ただそれだけです。家族のおかげであの人に会えたので、今は逆に感謝しているまでありますね。」

外見に似合わない大人びた口調でそう言った。
男は喉を鳴らしながら笑う。

《いやいや…、あの男が本当にガキに愛を込めて育ててるとはねぇ…。未だに信じらんねぇな。お前は魅惑の魔眼でも持ってるのか?って、ヴァンパイアに魔眼の類は効かないはずか》

「あの男?親父はそんなに極悪人だったのですか?」

《なんだ?知らないのか?あいつは、元は裏社会でそれなりに名の知れた、ヴァンパイアルーラー。その時代のあいつはまさに冷徹を体現にしたような男だった。なんせヴァンパイアに厳しい御時世だ。ヴァンパイアが最強であるからと言って、死なない訳では無い。そういう訳で、自分に危機が迫らないよう、仕事後の痕跡などは一切残さない。痕跡を残さないために、仕事相手だろうが、仲間だろうが、簡単に切るようなやつだ。そんな男が5年前、突如消えたくせして、1週間前、急に俺の前に現れたと思ったら、『仕事の依頼がしたい』とか言い出して。更には満更でもない顔して俺の子供だとか言って、お前を渡された時は、正直、夢を見ている気分だったよ》

男は、気味が悪いと言わんばかりに自分の肩を抱いてわざとらしく震える。
少年は子供らしい屈託のない笑顔で笑うと、そうですか、とだけ返事をした。

《驚かないのか?》

「えぇ。少しですが、親父の過去の話も聞いたこともありますしね。想像はしてました。だけど、悪人だろうが、僕にとっては大切な人なんですよ。僕に希望を与えてくれた人なんです。…さて、そろそろお仕事に掛かりましょうか」

少年は立ち上がると、白いフード付きのパーカーを羽織る。そのパーカーの色と少年の病的にまで白い肌の色は寸分違わない。
少年は静かに目を閉じる。
男はああ、と応えると工場できる作業着のような服の上に、黒いコートを着る。

《じゃあ、生きて帰ろうぜ、なりそこないの吸血鬼ヴァンパイアフェイル

男がそう言い残し、小屋から出ていく。

「えぇ、親父との約束があるので、こんな所ではくたばれませんよ、人擬ヒューマンフェイク

ゆっくりと目を開け、蘭々と輝く銀朱の瞳を妖しく光らせながら、独り言を呟いた。
    
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