なりそこないの吸血鬼

mukiryokudeth

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白ヶ崎学院。魔学四大高院よりは多少劣っているが、由緒ある名門の高校。創設者であり初代校長である、乾巧いぬいこうは100人いた初期魔法士の1人であり、今では何十万といる魔法士の祖である。現在でも使える者が多くない、空間魔法の使い手として普く知れ渡っている。

「そんな校長が創った高校が、名門じゃないわけないですよね…。」

目の前の聳え立つ校舎を見て思わず感想を漏らす。
近代的な形をした5階建ての校舎、その隣に広がる都会の街に不釣り合いな森林や広大な運動場。


卒業式の際に体育館に行く為に、学院敷地内ので1度見ているはずだが、感嘆の声を挙げざるを得ない。

「あの人何もんなんだよ?」

この学校に入学させた、ある人物を思い浮かべながら校舎へ入り、自分の所属するクラスへと向かう。
教室に入ると、20名程度の生徒がおり、中には新種族も数名居た。
自分の席につきながら周りを観察していると、正面からスーツ姿の男性が入ってきた。

「席に着け。出席を取るぞ」

そう言い、席に座っていない人が居ないことを確認すると、そのまま喋り始めた。

「これから、お前らβクラスの担任をする事になる三上智だ、よろしく頼む。早速だが、自己紹介とか宜しく頼む。順番は適当でいいから、早めに終わらせてくれ。」

終わったら呼んでくれと言い、そのまま書類に目を通し始めた。
堰を切って男子生徒が、手を上げる。

「はいはい!じゃあ俺から!俺は矢島航平、得意魔法は炎魔法で、部活はバスケ部に入ろうと思ってます!よろしく!」

「じゃあ、次私が行きます……」

澪音も卒無く自己紹介を終え、自己紹介タイムは終了した。
すると、三上が終わったことを確認していたのか、注目、と声をかけた。

「ん、終わったか。そうだなぁ、じゃあすることも無いし、ちょっとだけお勉強するか。魔素とは何か。ん……そこのお前、答えてみろ」

「はい。常闇の穴から放出された世の理を捻じ曲げる半零物質が纏め挙げられた物です。」

当てられた淑女を体現したような女生徒がハッキリとした声で答えた。

「そう、正解だ。では次に、獣とは?一般にはビーストって呼ばれてるがこの際どっちでもいいだろう。じゃ、そこのお前」

「お、俺っすか?」

当てられると思ってなかったのか、たじろぐ男子生徒
面倒くさそうに視線で三上が応えると、少し狼狽えながら答える男子生徒。

「穴から這い出た、新種族以外の生物でその殆どが遥かに人智を超えた力で人を襲う。そこに欲は無く、その意義も解明されておらず、人々を根絶やしにすること魂にが本能的な願いとして刻まれている、とされている生物ですか?」

その男子生徒の容姿や、先程の狼狽からは想像できないほどの饒さ舌だった。
おぉと驚嘆し、よく出来ましたと愉快な声で褒めた。満足出来たと言わんばかりに1人で頷いている。

「想像以上に優秀なクラスのようだ。まぁ、ひよっこなのは変わりないがな。俺は実戦特化の魔法士であるから、お前らに教えるのは実戦において何が大切かを、俺の技をお前らの魔法士になるための糧にできるよう教える。よろしく頼む。じゃあ、これから他の先生も来るから、その人が来るまで待機で。それから中嶋澪音、付いてこい」

名指しに思わず硬直する。だが、すぐに思い当たる節があり、はいと気の無い返事を返した。


















「これから、校長室に向かう。粗相の無いように」

「はい。……知ってるんですよね?俺の事」

「あぁ、ある程度は、な」

その言葉を聞き、そうですかと言うと、姿勢を伸ばし態度を改める。

「どこまで知っているのですか?」

今までの丁寧さの中に微かな嫌悪を混ぜて問う。
その様子に三上は思わず苦笑が漏れた。

「本当にある程度だ。若き狩人」

「……そこまで、」

あの人の顔が脳裏に浮かび、頭痛がすると言わんばかりに頭に手を充てがう。
その様子に、三上は頭を搔く。

「なんだか、すまない」

「…いえ、大丈夫です。こちらこそ、取り乱してすみません。それに、僕は正確には狩人ではありませんよ」

それ以上喋ることもないのか、それ以降無言になる。
会話が絶えて10分後。
2つの足音が不意に止まる。

「ここが理事長室だ。入るぞ」

ノックをし、返答を聞かずに失礼しますと一言添えて入室する。
そこはまるで、大英国の伯爵家の主人の部屋だ。有名な大理石の床、厳かな漆黒の木材で作られた机、気品溢れる2つの長椅子。それ以外に何も無いが、質素、気品、豪勢、可憐、様々な要素を兼ね備えた、一目でお偉い様の部屋だと分かる構造をしていた。明らかに自分澪音用に用意された椅子の簡素さが、異常を演出している
黒机の前に堂々と座る無精髭を生やす男。
対を為すソファーに座る3人の男女。
年齢はバラバラで教師のような男女、明らかに10代である制服を着る若い女生徒。
今朝の入学式で見た無精髭の男が口を開く。

「良くいらっしゃった、中嶋澪音君。名は、乾魁と言い、この学院の理事長をやっている。君の欧州での噂はかねがね。それに君の父親には世話になりました。この度は、父親の事は誠に残念に思うよ」

厳かな感じは無くラフに話しかけてくるのに違和感を覚えながら、そういえば入学式の時にいたなと思い出す。
大丈夫ですとお辞儀に静止をかけ、日本に来た時以来の疑問を投げかける。

「昔の話です。それで、今回なぜ私はこの学校に入学させられたのでしょうか?」

「……もしかして、聞いていないのかい?」

「はい。有無を言わさず日本行きの飛行機便に乗せられたので。あの男は何時もそうです」

顔を思い出し、日本に来てから何度目か分からない深い溜息を吐きながら、仕事内容について改めて質問する。

「それで、理由は?」

「私達の学院は表向き、優秀な魔法士の育成と題した教育を行っている」

「裏があると?」

「あぁ、私を含めたこの学校に所属している30名の教職員及び生徒が狩人なんだ」

「は?」

唐突な反教会的な発言に、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
魔法教会は、世界を牛耳っている魔法組織。国連と同等の役割を魔法の分野において持っている。日本の魔法を司るトップ、魔法庁の上司にあたる存在だ。

「狩人?」

狩人。民を守るために戦う人が魔法士なら、民を犠牲にしてでも獣を狩る人が狩人。これが教会の教えであり、社会一般の考え方だ。狩人が犯罪者という訳ではないが、教会からは異端認定されてるし、民から歓迎されるのがどちらかは一目瞭然。
日本は魔法分野において世界一の技術を持っており、その国の屈指の学院の教師団や理事長が狩人だと言う。
理事長は悠然と頷く。

「はい。ですが、本当に狩りをしてるのは生徒たちだけ。そこで、今回の依頼とは君に私達の仲間になってほしい、というものだ」

「…………え?」

更に頭の中が疑念で満たされてゆく。

「まぁ、幾つか理由があります。1つ、魔法教会の上層部をアブノーマライズの人型の獣が牛耳ってること。だから、魔法教会の下で獣は狩りたくない」

最近の魔法教会の噂は聞いてていいものじゃない内容のものが多いが、不確定のものばかりである。だが、日本の魔法士団から疑われている。

「確定的なのですか?その情報は」

「私の情報網を見くびらないでくださいよ。なんせ、君の言うあの男とも連絡が取れるのですから」

「……それもそうですね」

「2つ目の理由としては、日本の狩人の組織は少ない上その殆どが小さい規模のもの。経験豊富の君なら大幅な戦力が得られる」

「そもそも何故今戦力がいるのですか?」

「魔法教会は我々の動きに気付き、ちょっかいをかけ始めている。それの対抗策として。それに最近、日本では獣の動きが活発になっていてね、何やら異常な事ばかり起きている」

「異常?」

「日本の魔法士が次々姿を消している。痕跡を1つ残さずにね。年齢はバラバラで、優秀な者から愚鈍な者まで様々な魔法士が消えてるので特定の者では無いのは確かだ。魔法教会の関与を私は疑ってるけどね」

「…………なるほど、だからあの人はここに寄越したですか」

あの男の考えを読み取り、この任務の意義に漸く納得する。

「何か知っているのかい?」

「いや、そういう訳じゃないですけど。あの男の考えは理解出来たってところです。わかりました。この依頼、受けます」

「おぉ、それは有難い。最近何故か街にいきなり獣が現れることが多発してるんだよ。君が居てくれると相当助かる」

「はい。ですが、正式に契約を結ぶにあたって1つ。俺の正体を知っていますか?どうせ、あの男は教えやしないでしょうし」

「正体?」

そこで初めて質問を返される。
理事長を一瞥し、話を続ける。

「僕の仕事内容が世に出ることはそれこそ、あの男経由以外には殆ど無いので知らないのも当然ですが、僕は普通じゃないんですよ。僕は狩人では無い。なので、僕の正体を見てから決めてください」

彼の銀白色の瞳は見る者全てを魅了するだろう。その瞳に強い意志を滲ませ皆に警告する。
ゆっくりと瞼を閉じる。

「僕は、ヴァンパイアと人間のハーフ。なりそこないの吸血鬼。僕は獣なんです。僕は、"獣狩"なんです」

瞼を開き、目は銀に朱を注いだ煌めく朱を瞳に浮かべながら、不敵な笑みを浮かべた。
    
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